熊本県川柳研究協議会(熊本川柳研)

県内の川柳団体・個人会員が加入しています

新年のごあいさつ

2020-12-31 23:47:23 | 川柳一般

「熊本地震あれから5年~色紙展」開催へ

                                                                        熊本県川柳研究協議会会長  黒川 孤遊

 新年あけましておめでとうございます、とご挨拶しても、めでたい気分になれぬまま暦が改まったのが実感です。

 昨年2月、新しい試みで開催しようとした大会を中止、いらいコロナウイルスの恐怖の前に全国的に、大会はもちろん句会すら誌上大会に代わった旧年でした。本来なら本協議会の役員改選もあって新会長が新年の決意を述べるはずでしたが、それも延期したまま。協議会の役割はこのブログで細々と命脈をつないでいるのが現状です。一日も早いコロナ禍の収束を祈らずにはいられません。

 さて、ことしで東日本震災から10年、熊本地震から5年が経過します。私たちは「熊本地震の記憶」「同復興編」を出版、教育機関、図書館、全国大会参加者に贈りました。5年を迎えるにあたって、これら熊本地震の句に、北九州の川柳くろがね吟社が開催中の「九州の現代川柳作家色紙展」の協力もいただき「熊本地震あれから5年~全九州現代作家色紙展(仮題)」を4月14日から19日まで鶴屋ふれあいギャラリー(鶴屋東館8階)で開催することにしました。展示する作品数などは実行委員を指名して協議して決めていきたいと思っています。ご協力をお願いしておきます。

 この1年、不透明な年になると思います。集いが制限されるかもわかりません。どうかそれぞれの吟社、仲間で模索しながら川柳を続けていこうではありませんか。コロナに負けずに頑張りましょう。

                   令和3年(2021年)元旦

    

 


「水俣図」渡部可奈子

2020-12-25 22:25:46 | 川柳一般

熊本の水俣を詠んだ川柳人に渡部可奈子がいます。ここに「川柳 くすのき」129号(H31.4.1)に黒川孤遊が発表したものを転載します。なお、同掲載は縦書きで、改行も原稿どおりではありません。わずかな訂正もあります。

川柳から短歌へ

水俣図を残した 渡部可奈子(わたなべかなこ) 1938年(昭和13年)~2004年(平成16年)

                                                                                                       黒川 孤遊

壮絶な跫音たえてからの夏

 苦しい夏の記憶の中から、聞きなれたあの人の跫音が壮絶な音となって蘇る。

いつかこわれる楕円の中で子を増やす

 夫婦の世界は円形ではない。楕円である。いつこわれてもおかしくない中で子への愛に傾斜していく。

小面よ よよと笑えばほどかれん

 小面は若い女を表す能面。うつむきによよと泣く。昔風の女には家がのしかかり解放されることがない。時実新子が「可奈子は妖精である」と述べた代表句の幾つかである。解説は山村祐のを借りた。

 1938年四国松山生まれ。18歳で結核を患い、いったん癒えたが27歳に再発、療養所に入り川柳と出会う。その後「ふあうすと」「川柳ジャーナル」「縄」などを経て新子の「川柳展望」に。『欝金記』(うこんき) 可奈子川柳集を展望叢書から1954年に出版している。後に川柳を離れ短歌に走ってしまう。

 『欝金記』は新子が序文を寄せている以外は約150句、可奈子の句が並ぶ。あとがきもない。〈妖精〉の句は難解。「川柳展望」の仲間だった天根夢草は「新子さんは(句を)買っていたけど、私はわかりません」。友人だった新思潮の岡田俊介は「難解句のベスト3かも」という。暗喩、比喩が至る所にあって理解の前に立ちはだかるが、読んでいくと感じ取るものがあるから不思議である。

リンゴ丸齧り愛のひもじさに

匂いって何だろうおんなの形而上学

冬の蝉 この泣き虫も殻を脱ぐ

 理屈を超えて心で感じ取るべきだろう。心理派と可奈子を呼ぶ人もいるけれど、具体感に欠ける面が気になる。

 忘れてならないのが「水俣図」(十句=鬱金記所収)である。川柳でこれほど深く「水俣」を詠んだ句は稀有である。内五句を挙げておく。1974年には「水俣図」で第三回「春三賞」を受賞。

弱肉のおぼえ魚の目まばたかぬ

抱かれて子は水銀の冷え一塊

夜な夜なうたい汚染の喉の 必ず炎え

覚めて寝て鱗にそだつ流民の紋

やわらかき骨享く いまし苦海の子

 水俣の痛みを自分の痛みとしてこそ詠めた句であろう。おそらくニュースやドキュメンタリーで〈水俣〉を知ったのだろうが、それを文学的手法で蘇らせ記録した。あらためて川柳の凄さを教えてくれた十句である。詩性川柳だ時事川柳だ、という前に味わってほしい句である。

 NHK松山放送局のデイレクターだったころ可奈子と交流のあった詩人で文芸評論家、林浩平は「確か1995年創刊の短歌同人誌「遊子」に参加されていました。独身で親戚の会社にお勤めでした。小柄な美人で妖艶でハイボールを飲んだ記憶があります」川柳から短歌へ。なぜ走らざるを得なかったのか。その答えを可奈子は秘めたまま2004年、65歳で旅立った。岡田は「川柳で自分の青春を書きつくしたからではないでしょうか。いろいろの吟社に所属したのも、根本は淋しかったのでしょう」

さらに可奈子らしい句をあげておく。

生姜煮る 女の深部ちりちり煮る

くらやみへ異形の鈴はかえりたし

目撃者 蟬の破調を握っている

※引用句出典

・『欝金記』 : 可奈子川柳集 展望叢書 1954年

・ブログ 週刊「川柳時評」2012年5月25日 渡部可奈子の「水俣図」

・ブログ    同    2011年5月14日 渡部可奈子の川柳と短歌

・『はじめまして現代川柳』小池正博 書肆侃侃房 二〇二〇年十月十七日発行

 

 


川柳色紙展

2020-12-15 21:15:07 | 川柳一般

本川柳研究協議会では2カ月に1回会報が発行されていましたが現在は休刊中です。第3号(令和元年10月1日発行)から誌上川柳画二人展のページを紹介します。上が江上精二さん、下が柿山紘輝さんです。鶴屋東館9階のふれあいギャラリーで開催された作品展の一部です。川柳に命が吹き込まれたようです。

今年、北九州の川柳くろがね吟社が企画した「九州の現代作家色紙展」も好評で、11月の福岡ひびき信用金庫会場を皮切りに、北九州文学館などで来年春まで各所を巡って開催されるようです。

来年は熊本地震から5年を迎えます。上記に参加の色紙とともに、『川柳句集 熊本地震の記憶』2017年3月発行 と『川柳句集 熊本地震の記憶 復興編』平成三十年六月発行(どちらも熊本県川柳協会編集)に掲載の川柳を色紙にしたものを加え、同ふれあいギャラリーで「熊本地震あれから5年ー全九州現代川柳作家色紙展(仮題)」(本川柳研究協議会主催)を令和3年4月14日から4月19日まで開催予定です。

 


前句附の試み

2020-12-12 00:06:11 | 句会・大会

本川柳研究協議会では毎月1回10日締切の〈十日メール川柳句会〉を行っています。今のところ、県内在住でE-メールができる環境にある方を対象としています。第4回目の12月は前句附(まえくづけ)を試みました。

江戸中期に盛んだった前句附は下記のように一対で成り立っていました。本来は合わせて鑑賞するべきものが、一句だけを鑑賞することが多くなり附句が独立しました。そして今の川柳になりました。
例  古川柳から
前句(まえく) きりたくもあり切りたくもなし (七七) 
附句(つけく) ぬす人をとらへてみれば我子なり(五七五)

参加者みな初めての試みですので、まずは実作を旨としました。いつもは未発表の句会ですが今回は了解を得た上でのブログ発表となりました。今回は選をしないで全投句を公開します。

前句ずるい奴ずるい奴」(本来前句は七七)

附句

1   大根が大きな顔でいるおでん 孤遊
2   グッとくる言葉をくれたろくでなし  静生
3   平凡な昨日を今日にコピペする 和巳
4   イケメンで優しくそして褒め上手  せつ子
5   「サンタさんへ」手紙はママに見せてから 楊子
6   宵越しの金は持たぬと言う夫 呱呱
7   根回しが行き届いてる水面下 ちえこ
8   ウイルスを悪人にして首を切る 千寿
9   竜安寺応えぬ石に稼がせる 孤遊
10   答弁は差し控えますと締めくくり せつ子
11   ごめんなさいマスクの下はアッカンベー 静生
12   動かないワザでとうとう社長秘書 楊子
13   育休をしっかり取ってゴルフ場 かずみち
14   人生をぼ~っと生きて忙しい 和巳
15   欠席し議員報酬貰ってる みずえ
16   昼食代浮かす上司誉めている ちえこ
17   まじで逆切れ 怒ってるのは私 呱呱
18   難題に玉虫色の受け答え かずみち
19   適当に相槌打って逃げている 千寿
20   交付金おれの名義で妻仕分け みずえ