全10巻をなす『ハンセン病文学全集』の第9巻は大岡信・田口麦彦氏による編集で俳句・川柳の巻となっている。
333頁から473頁まで141頁にわたり、霏霏と川柳が収録されている。掲載句は日本の各地にある療養所内の句会の合同句集や個人句集、記念句集などから引いてある。 病を得て詠んだ句だけではなく、戦争や日常の暮らしを詠んだ句の方がむしろ多いと言える。ここでは筆者がランダムに抄出した句をほんの一部紹介する。
皇軍へ済まぬ銃後の春三日 小山冷月
末席は末席だけの輪ができる 為田北星
夕涼み西瓜へ一家丸くゐる 佐々木歩柳
花の咲く頃の故郷へ遠く病み 米内紫水
菊かほる療舎みんなのほがらかさ 嵯峨悟朗
吾も亦銃後の一人麦を踏む 故 佐々木梅柳
入園をして新しいカレンダー 田根正夫
理髪店明日の希望へ廻る椅子 前山繁一
この島で死ねると冗談では云える 坂田まさる
夫婦舎へ行く幸せな名を呼ばれ 雪原いく代
仮の名で生きるしるしに賀状書く 野上白天外
アリバイのような賀状を書き続け 安倍四郎
一枚の賀状も来ない故郷をほめ 岡 一門
国旗から遠く洗濯物を干し 白露
自尊心薔薇より赤き血を持てり 辻村みつ子
田口麦彦氏はこの本の川柳の収録編集だけではなく、川柳の部の最後に9ページに及ぶ解説を書いている。田口氏は本川柳研究協議会の前身だった熊本県川柳協会の会長を歴任している。改めてその偉業をおもう。
『ハンセン病文学全集9 俳句・川柳』
大岡信・田口麦彦 責任編集
二〇一〇年七月二〇日 初版発行
発行所 株式会社 晧星社
全513頁
この本は、熊本県立図書館、同市立図書館の一般貸出で借りることができる。
追伸
上記掲句の辻村みつ子については、このブログの2024.2.24にUPしている『流花 女性川柳家伝』黒川孤遊に掲載がある。著者が実際に岡山県の長島愛生園に訪問取材して書いた「ハンセン病と戦い詠んだ 辻村みつ子」に詳しい。 (いわさき楊子)
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