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トレイントーク0418-1 こんばんは2224H特急金沢文庫行き(810編成)

2010年04月18日 22時09分59秒 | 急行特急TH発2007年→2019年5月1日AM11:59
今夜は、80X編成とも呼ばれる809+810編成で運転された2224H特急金沢文庫行き。
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『空』

2010年04月18日 20時34分21秒 | 物語・小説
『空』
 
 噴水と若葉が芽吹いた名も知れない木を取り囲む様に立つ路地にある建物の2階の自室からセーヴァは、つまらない学校から出た宿題のプリントにペンを置いたままぼんやりと目の前にそびえる木の若葉に止まっている鳥を見ていた。
(こんな日に宿題なんてやってらんなぁー)
 どうせやってもXばかりがついて凹む、という結果が目に見えると、こんなんやる意味あるの?と鉛筆を上唇と鼻の間にはさんで、うなってみる。
(これは、たぶんこうだろう)
 問題文を読んで、薄れた記憶の中から答えを書いてみる。どうもしっくり来ないが、今のセーヴァにはその答えが一番最適だろう、と思った。
 全部で10題ある問題のうち、自信をもって答えをつけられたのは3つだけだった。後は、悪い意味での適当とヤマ勘だった。
 やがて音も無くボーっとしたり、鉛筆を弄んだり、ちらっと解法のヒントがあるやも知れぬ教科書のページを読んでうちに机にある時計の針は午後1時45分を指した。それでも宿題は終わらなかった。
(もう限界)
 これ以上机に座っていたらどうにかなりそうな気がしたので、セーヴァはプリントをクリアケースに入れ、鉛筆をペン立てに起き、部屋を出て、外へ飛び出そうすると、
「宿題は済んだの?」
 お決まりの母親の声が台所から聞こえたような気もしたが、もう面倒なのでセーヴァはそれを振り切った。
(風が冷たいな)
 勢いよく家を飛び出すと路地の温度はセーヴァが予測したよりも低く、寒さを感じた。しかし目の前の建物の上から指す薄金色した日差し暖かそうだったので、石畳の道をセーヴァは駆け出した。そのうちにほんの少しだけ暖かい風が建物の間を行く石畳の道を吹き抜けて行くのを感じられた。
(何とかなりそうじゃん)
 セーヴァの胸に小さな希望に似たものが1つ生まれた気がした。
 
 太陽が真上に来た休日の街の市場は人で賑わい、活気に満ちていた。
 アレをくれ、これをちょうだい、と言った声があちらこちらで聞こえ、小さな子供が親に物をねだるシーンを横目にセーヴァは、石畳の道を駆け抜けると、教会の大きな鐘が視界の上に現れた。
(相変わらず大きいな)
 鐘は何も言わずしてそこにあるものの、日の光を反射させ煤けた金色の一部が輝いていた。
 そして、道は十字路にぶち当たる。
(誰か居ないかな)
 この辺りは、セーヴァの友人達がよく集まる場所であったが、今日に限って誰も居なかった。
(皆、どっかに行ってるのかな)
 日差しと風が柔らかく誰も居ない十字路の真中で溜息をつくと、右へ曲がり洋品店と時計屋が続く日陰の小道を走って行くと今度はT字路に出る。そこも右に曲がると、日陰が終わり、緩やかな上り坂となる道を歩く。
 やがてジャコというクラスメイトの家が近づくが、物静かな感じで留守な感じだった。
(やっぱり居ないのか)
 調子狂うなぁ、とセーヴァは思いつつ坂道を登っていくと、ガビーの家があるパン屋があるT字路になる。そこをセーヴァは左に行く。そこは小高い丘になっていて、右手には海が見える。その道を歩いていく中で、ふと左手側を見ると、友人のロイが屋根の上で空を見て寝そべっていた。
「おーい」
 セーヴァが声をかけると、
「やあ」
 と手を上げて起き上がった。
「そんな所で何してるの?」
 大きな声でセーヴァはロイに訊ねる。
「昼寝だよ」
 そう言うとロイは大きく背伸びをした。
「そうだ、ここへおいでよ。結構、いい景色だよ」
 ロイはセーヴァに向けて大きく手招きをした。
「わかったー」
 セーヴァはロイの家に邪魔する事にした。

「こっち、こっち」
 ロイはセーヴァを屋根へと連れ出した。
「今日は風も弱いし、良い感じに暖かいからこうして空と海を眺めるには良い日なんだ」
「本当だね」
 セーヴァは、大きく息を吸い込んだ。その時、足が何かに触れたような気がして、見てみると表紙が古ぼけた本だった。
「何、コレ?」
 セーヴァは本を手に取り、表紙に目を落とす。元の色は青か緑なんであろう感じであったが色あせていて、よく解らなくなっていた。
「ああ、オヤジが持っていた本さ。たまたま、書斎に入ったら、渡されてさ、面白いから読んでみろって言われたんだ」
 へぇー、とセーヴァは言うとページをパラパラとめくる。
「友情物語らしいんだ。空を題材にした」
「そうなんだ」
 一体どこにそんな事が書かれているのか、セーヴァは解らず本をロイに手渡した。
「少し読んでみたけど、よく解らなくてさ。オヤジは良い本だって言うけど、俺にはさっぱりだね」
 読んでみる?とロイに薦められたが、200ページ近い厚い本でとても読みきれそうになかったので首を横に振った。
「海と空は、結構、物語の題材になるけど、こうして改めて見てもどこにそんな物語が生まれる力があるのか解らないんだよね」
「そうだね」
 ロイの言葉にセーヴァは頷く。
 どこにでもあるもの。
 海は違うかも知れないが、空は確かにどこにでもある。
 そんなありふれたものの中で、物語が生まれるなんてやはりセーヴァにも何故そうなるのか、という事は解らなかった。


 その後、セーヴァは学校の図書室に行く事があった。
 クラスの担任からの頼まれ事で、小さな紙に書かれた2つの本を持ってくるようにという事だった。それらは児童書であり、授業で取り上げたいという事だった。
(えーっと)
 アルファベット順に作者の名前が並んでいる中で、探していくと確かに言われた本は見つかった。だがその時だった。
(あれ、この本は?)
 ふっと目に入った作者の名前とタイトル。
 それは、ロイが父親から渡された本だった。
(こんな所にもあったんだ)
 マイナーな書物かと思ったらそうでもなかった様だ。
(けど、やっぱり分厚いな)
 とても借りて読む気にはなれないな、と思いつつ眺めていると、

「この空の色は、希望の象徴って言われる事があるらしいんだ。海の色とはまた違う感じがして、結構好きなんだよね。でも、ただ見たって、何も感じやしないよね。でも、そうらしいんだ。だから、人は上を、空を見る、って読んだ本にはあったんだ」

 という台詞があった。
(希望の象徴?嘘だろ?)
 丁度、目の前に小さな窓があって空を見るが今日は曇り空だった。

「今は特に、希望なんてないけど、いつかそれが見つかった時、そうだね、君ともう1度この場所で会える事を、この空に託したい。今日はこれでお別れだけど、いつかきっと。そうきっと会おう。たとえこの場所に境界線が出来て行き来が出来なくなっても、その線はきっと壊わされる時が来る。寸断なんて事、あっちゃいけない」

 という文章がその後に続き、物語の中で主人公と登場人物の1人はそこで握手と誓いを交わしたとあった。
(希望ねぇ)
 物語の中だからそんな事が言えるんじゃないか?とセーヴァはその時思った。だが、その時から、本当にそんな瞬間があるのか?という事を考え始める様になった。

 希望の象徴の色をした空。
 いつでもそれがある訳ではない。
 誓いを交わしたあの物語の登場人物達はその後どうなったのか、セーヴァは気にはしていたが、忘れてしまった。だが、空を見上げるという習慣は今も息づいている。いつか、「希望」という2文字の意味が解り、想いが叶う時まで。
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コメントレスポンス 寝台あけぼの様、コメント有難うございます

2010年04月18日 12時15分41秒 | 急行特急TH発2007年→2019年5月1日AM11:59
寝台あけぼの様Mind Feeling0417-2 Weekend with AZURE SKYにコメント有難うございます。
なかなか安定しない空模様ですが、4月半ばで雪とは有り得難い話です。
あと少しと言っても長いですが、プライマリーウィークまでカウントダウン状態です。その時までに天候が春めくと良いのですが…。
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桜物語

2010年04月18日 00時07分20秒 | 物語・小説
『桜物語』

(この樹に、薄紅色の花がつくんだよな)
 2月の終わりかけのある日、大崎陽績(おおさき たかなり)は葉を全て落とし丸裸になった桜の樹を見てそう思った。
(今年もこの樹は花をつけるんだろうか)
 見上げれば灰色した冬の寒空。そして吹き付ける風は鋭く冷たく、暖かな春がくるとは思えない感じだった。
(この花が咲いて、春が来た時、何かが変われば良いな)
 陽績は、目線を桜の樹から外し、その場を後にした。

 
 時は流れて、3月の終わりかけになったある日に、桜の開花宣言が出された。
 まだ冬色の空気は残りはしても、日差しから独特の鋭いものがなくなり、柔らかく緩やかで暖かいものが肌で感じられる時分になってきた。


「おはようございます。“Morning on”担当の木田麻衣子です。さて、桜の花が咲きましてそろそろ満開を迎える頃になりましたね。リスナー方より番組宛にご近所の桜を画像を送って来て下さいまして、ああ、春なんだな、とより強い実感が沸いてきますね」

 開花を迎えてからやって来た金曜日。毎朝、目覚まし時計代わりに使っているコンポのアラームを止めると、聴いてくるラジオの番組DJがそんな話をし始めた。
(そういえば咲いたんだよな)
 最近、毎日の様に目についていて、当たり前となっていて、気にしなくなっていた時、改めて言われて、ああそう言えばという気に陽績はなった。

 次の日。
 陽績は、2ヶ月前に丸裸になったあの樹を訪れた。
(やっぱり咲いてるか)
 陽績は樹を見上げてただ事実を確認する。
(満開か)
 ふわっと咲いた薄紅色の花達の姿に陽績は吸い込まれる。
(こんなに綺麗なのに1本だけしかないなんてな)
 もっと沢山あれば良いのに、と思った時、陽績はその場を後にしていた。


(桜物語、なんて言う話、書けたら良いよな)
 数日後、同じ場所で陽績は葉桜になりかけた樹を見てそう思った。
(でも、どうするかな)
 タイトルだけが浮かんだだけで、肝心の中身が浮かばない。
(やっぱり、恋愛ものかな)
 樹に問いかけるみたいに陽績は若草色の葉陰に咲いている花を見つめる。


 ――長く暗い闇が続く、ずい道を行く電車の窓に映る自分を見つめてどのくらいの時間が経っただろうか。日差しがなくなった車内はすっかり冷たくなっていた。その時、
「ここ開いていますか?」
 見知らぬ1人の女性が目の前に現れた時、電車はずい道を抜けた――

(なんて言うのを入れてみるのはどうだろうか?)
 まるで有名物語を真似て創り出した文で、面白味に乏しいがそんな文章を陽績は思いついた。

――「ええ、開いてますよ、どうぞ」
 男は声をかけ、その女性を目の前のボックス席に座らせた。その時、車窓に薄紅色の花がふわっと咲きつづける並木道を横切った。
(あれを見に行くか)
 男の旅は何か目的のある旅ではなかった。持て余した時間をつぶす為にこの電車に乗ったのだ。どこで降りても良かった。その時、電車は駅に着いて停車した。
(降りてみるか)
 男は席を立とうとすると、さっき現れた女性も席を立とうとしていた。
「お先にどうぞ」
 男はそう声をかけると、
「どうも」
 と女性は、感謝の微笑を浮かべた――

(ここで、男は恋におちる、うん、そんな感じだな)
 ありきたりだよな、と陽績は呟き、こんなオチの無い話は駄目だな、と嘲笑しながら、ゆっくりと1本の樹を後にした。
 
その夜の事。
 陽績は眠りにつくと、夢を見始めた。

――その駅で降りたのは、男とその女性だけだった。
(何で誰も降りないのだろうか)
 不思議に思い、電車を振り返るのと同時に電車の扉が閉まり、走り出した。
(どうなっているんだ?)
 解らない、そう男が思った時だった。
「どうか致しました?」
 さっきの女性が、男に訊いて来た。
「ええ、何でこの駅で降りるのがわれわれ2人だけなのかなと思いまして」
 すると女性は静かに微笑み、
「夢物語の世界だから、じゃないですか?その方がそれらしくて良いですよね」
「でしょうか?」
 変な事言う人だな、と男が思う――

(そうか、これは夢なのか)
 陽績は眠って夢を見ている事にその時、気づいた。
 目の前でこの2人がやり取りしている様子を見ている事に、気づかれないあたりがそれを象徴していた。
(よし、成り行きを見ていこうか)
 そう思った時、場面が行き成り変わった。

――駅からどれくらい歩いたのかは解らないが、さっき電車で見た桜並木の中を男と女性は歩いていた。そこは降りた駅とは比べものにならない位の人で賑わっていた。
(信じられない)
 これだけの人手がありながら、あの駅で降りたのが自分達2人だけというのは考えられなかった。
「驚きましたわよね。でも、そんなものなんですよ。全てはありきたりな物で出来ていますから」
「なるほど」
 そんなものか、と男は納得はするものの何故かこの場所に、言葉で言い表せない違和感があった――

(何か、怪談話みたいになってきたな)
 場面は行き成り変わり、今度は陽績がノートパソコンの画面を見つめているシーンになった。その画面には、文字がべったりと羅列されていたが何と書いてあるのかは見えなかった。暗い部屋の中、ディスプレイの明かりが白くうすら明るく部屋の中を照らしていた。
(さーてどうすっかな)
 日頃、吸わないタバコを陽績は吸い、灰を灰皿に落とすシーンを見たかと思うと、再び場面は、さっきの男女のシーンに戻った。

――やがて、2人は少し人気が薄くなった桜並木の道を歩いていた。
「綺麗ですね。この薄紅色の花は1番な花だと思いますが、あなたはどうですか?」
「確かに。この花より綺麗な花は無いですね」
 男は空を見上げた。
 淡い青と淡い紅色が美しく、ああ、今まさに春の中に自分は居る。冬の寒さを忘れ、大きく息をして背伸びをしたい、そんな気持ちに男はなった。
「けれど、不思議ですよね。こんなに綺麗なのに、花びら1輪ではあまりそうは見えないなんですよね」
 女性は幹に咲いた花を指さしてそう言った。
「こうしてみると、なんて事の無いもの。それを見ても心は動かされないんですよね」
 何でなんでしょう?と女性は幹に咲いた桜の花びらに触れた。
「それはきっと、こうして一杯咲いているからでしょうな」
「・・・・・」
 女性は何も言わず1輪の花を見続けていた。
「1つでも確かに、この花は美しい。しかし、その’’美しい,,の力は1輪だけでは当然の如く小さい。だからこそ、こうして沢山の小さな’’美しい,,が一杯集まってこそ、この場所が美しいと感じられるのではないかと思います」
 そう男が言ったとき、暖かい風が少し吹き、花びらが少し舞った。
「人の力と同じくして、1人1人の力が沢山集まれば大きな力を生み出すと言います。この桜の花もそれと同じでしょう。多く沢山咲いてこそ、より美しい物になる。ゆえに、我々の心を動かしてくれるのでしょう」
 男はさらにそう続けると、女性はようやく目線を男に向けた。
「それはこの樹が1本だけになってもですか?」
 女性が右手をそっと上げると、景色は何故か陽績が見ていたあの桜があるシーンにぱっと変わった。
 男は、何も言わず樹の幹に手を押し当てた。
「美しいですよ。だって1つ1つの花の集合である事に変わりはありません。きっと行き交う人に気づいてもらえますよ。だってここには1本しか無いのだから」
 大切にしなければいけませんね、そう幹をみて男性が言葉を続けた時、女性の姿はなかった。ただ、ゆっくりと花びらが上から1枚舞い降りていた。
(あの女性は、この桜の精だったのか。良い夢の見せてくれてありがとう)
 男が再び、桜の花達を見上げた時、こちらこそ、という声が聞こえたような気がした。

(なんだか、ほーら、思い通りの展開になった、って感じだよな)
 場面は行き成り、ノートパソコンに向かう所に切り替わった。
 画面は相変わらず文字が羅列されているであろう感じであったが、何故か(完)という言葉だけがはっきりと見えた時、携帯の鳴り始めた。
「何だよ、こんな時間に」
 暗がりの部屋の中、陽績は、着信音を必死になって止めようとするが鳴り止まず不信に思い、思い切って携帯のバッテリーそのものを抜いてみたがそれでもなお、それは止まらなかった。
(どうなってんだよ)
 そう思った時、
(そうか、これは夢だったんだ。じゃあ、今、聴こえているのは?)
 陽績は慌てて起き上がると、友人の名前がディスプレイにあって着信を伝えていた。
「はい?」
 あからさまに不機嫌な声で応答すると、
「悪い、寝てたよな」
 友人がすまなそうな声で話を始め、聞いて行くと、合コンの誘いだった。頭数が足らないから来い、という話だった。そんなの面倒だ、と言って陽績は1度は断ったのだが、どうしてもと友人は言うので、陽績は行く事にした。

(気乗りしねー)
 電車に乗り、見慣れた景色が流れ行く中で、やはり桜が目に飛び込んだ。
(結構、人集まってんな)
 碧色してよどんだ川の両脇に咲く並木のシーンが一瞬見えた所で電車が駅着いた。そこは陽績が降りる駅だった。
(花見合コンなんて、安易な企画、よくも通ったよな)
 ありえねーよ、と改札を抜けた所で友人2人とその友人の知り合いらしい3人の女性がそこに居た。
「おう来たな。よし全員そろった所で行きますかっ!」
 友人ははしゃいだ声でそう言うと一行は、さっき陽績が見かけた桜並木がある川べりに出かけた。

(一杯咲いているから綺麗か、うまい事、思いついたもんだよな)
 ハイになった友人を後目に、陽績はさっき見た夢の事を思い浮かべながら、花を見つめる。
 やがて、さくらなかばし、と平仮名で書かれた橋まで行きついた。すると、
「おい、大崎。俺らちょっと買出ししてくるから、その人とここに居て」
 友人にそう言われて、陽績はポツンとあぶれた女性1人と共に残された。
(困ったな)
 どうしろって言うんだよ、と思いつつ、その女性を見た時、妙な感覚を陽績は覚えた。
彼女の名前は、大塚知恵(おおつか はるえ)と言い、当然、今回、陽績は初めて会ったのだが、
「以前、どこかで会った事ありましたっけ?」
 大塚の顔をみて思わず陽績はそう訊いてしまった。
「そう言えば、なんかそんな感じするよね。初めて会った感じがしない」
 理由は解らない。
だが、お互いがお互いを引き付けた何かがあった様に2人は感じていた。
「今年の桜は、何か綺麗。どうしてなんだろう。ここ毎年、実は来てたりするんだけど、何か今日は違う気がする」
 大塚が花を見上げながら言う。
「そうなんだ。じゃあ、良い時の花見になったね」
 俺はそうは思わないけど、という言葉をこらえて、陽績は口にした。
「大崎君は、桜、好き?」
「まぁ、嫌いじゃないよ。正直な所、あんまり考えた事ないけどね」
「実はアタシも。何となく、訊いてみたかったから訊いただけ」
 大塚は何の屈託も無い笑顔を浮かべた。
「何だよそれ。でも、嫌いな人は居ない、そんな花である事は違いないよね」
 この美しさは、あの夢の話ではないが、’’1番の美しさ,,だと陽績は思った。
「かもね。で、あの人達遅くない?」
「言われてみれば」
 突き放されて、どれだけ経ったかは知れないが戻っては来なかった。
「ちょっと、歩いてみる?奴らには、こっちから後で連絡すれば会えるだろうし」
「うん。アタシもそう思ってた」
 嬉しそうな顔を浮かべた大塚に、陽績は好意を覚えた。
 そして2人は、人ごみ溢れる中に混じっていった。
 満開の薄紅色の花咲く川べりの道を、ゆっくりと、ゆっくりと。
 そして2人はいつしか自然に手を繋いでいた。
 この時、「愛しい」という3文字の花が2人の心の中で花開いた。
 
 桜物語。
 それは、陽績と知恵が出会うという所に行き着いた事で1つ花開き、終焉という実を今結んだ。
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