電影フリークス ~映画のブログ~

電影とは、映画のこと。その映画を一緒に楽しみましょう。

地獄から来た女ドラゴン

2019-04-30 15:39:00 | 七十年代作品【1972】

こんにちは、醒龍です。

こちらのブログ(gooブログ)をいつも利用させていただいていますが、最近システムが変わってしまい(スマホ用?)、記事が勝手に入力前の状態に戻ってしまったり、無駄な改行が挿入されたりといろいろ使い勝手が悪くなってしまいました。安定稼働するまで、また症状が改善されるまでは記事が読みづらかったりする等、ご不便をおかけするかも知れません。唐突にどうもすみません。

それでは今回の記事ですが、予告しました通りジュディ・リー主演「地獄から来た女ドラゴン」(以下、『仇』)です。

題名に”女ドラゴン”と付けられたのは、ジュディさんの映画が最初なんですよね。カッコいいですね。

この映画のオープニングは割と有名なもので、御存知「黒いジャガーのテーマ」より終盤の部分をカットして(つまりいいトコ取り)編集した音楽です。このシャフトを採用したことにより、他の映画でも使っていると思いますが、やっぱりこの映画こそがベスト・マッチング!間違いなく格が上がっていますよね。

片頭の構成は、70年代後半には良くみられるようになった赤バックの演武です。ジュディさんがスローモーションを交えながらクルクルと踊るように回って繰り出すキックと、束ねた髪の毛をまるで歌舞伎役者のようにクルッと回すなど、女性らしいアクションを披露します。この象徴的な赤バック・オープニングは、カンフー映画に無くてはならない要素の1つだと思います。これがどこから始まったか?という事になりますと、この『仇』ではないかと思うのですが。(間違っていたらごめんなさい)

この『仇』は御存知の通り、馬素貞の映画です。馬素貞の映画というと、龍君兒の『上海灘馬素貞』(以下、『上海』)と、ワン・ピンの『山東大姐(72)』(以下、『山東』)、そして、ナンシー・イェンの『馬素貞報兄仇』(邦題「ドラゴン覇王拳2」。以下、『馬』)の4本が同じテーマ、馬素貞(マー・スーチェン)の女ドラゴン映画なのです。(本当はもう1本あるのですが、ここでは割愛します。)こんな感じで72年は、これらの上海の馬素貞系列が群雄割拠していた時期でした。

特徴は、すべて女ドラゴン・馬素貞と共に闘う青年がいてタッグを組んでいます。そしてマフィアのボス・パイこと白癩痢の俳優さん。これも各タイトルとも多彩でして『仇』ではベテラン俳優の李影が演じてます。この人はヤン・チュンが第7回金馬奨で最優秀主演男優賞を受賞した『揚子江風雲』で、気のいいおっちゃん役を演じてたりしてましたので、起用はそのノリなんででしょうね。

『馬』ではジミーさんの映画でおなじみのマー・チーがパイ(趙正白)を演じています。『上海』では、易原扮する日本人と対決する珍しい功夫片『十面威風』(英題が"Shanghai Boxer"となっているため『上海』の別名として挙げられることもありますが、これは誤りでしょう。)に主演した楊洋(ヤンヤン)が若いパイ役。そして、あのチェン・ホンリエが出演しているのですが、少しアレンジしてあってドンデン返しが待っています。

そして最後、『山東』が趙強(チャオ・チャン)。『仇』では下っぱの子分だったのが、『山東』では出世してボスのパイ役に。この人、目がギョロっとしてて三星堆の銅人像みたいな顔(失礼)なのですぐ分かると思います。

それでは、簡単に映画をそれぞれ紹介しておきますね。

まず『馬』は死んだはずの馬永貞が生きていたとするストーリーです。これはこれで面白い話だと思いますが、やはりジミーさんですのでね^^。監督は、御存知テン・サンシー。このテン監督は36年青島生まれで、台湾ではのちに『英烈千秋』(74)や『八百壮士』などの抗日、愛国映画を監督、量産し、愛国片の巨匠と呼ばれていましたのでその方があちらでは有名ですね。もともとは邵氏で『大醉侠』(66)の脚本、監督補から映画人としてスタートしました。映画が作られた72年当時は一番多忙な時期でこの『馬』と同時に『天王拳』『英雄胆』の計3本の映画を同時進行で撮るほどの多忙ぶりだったそうです。この多忙な時期にはジミー出演作品も多く、見るべきものが多いですね。(愛国片はあまり観ませんが・・・)

そして『上海』。こちらは、星華公司の専属で看板女優だった龍君兒がヒロイン。兄・永貞の友人役で、聞江龍(マン・ゴンロン)が相手の青年・シャオホウ(嘯虎)役。デビューして間もない彼女がなかなかの演技力を発揮していて、シャオホウに会って事の事情を聴いて、兄の復讐を誓う場面が非常に丁寧に描かれており、馬素貞ものとしてはまぁまぁの内容です。シリアスな内容に彼、ゴンちゃんが入ることにより、随分と映画の雰囲気は変わるのですが、ゴンロンのファンなら十分楽しめる内容と思います。

最後は『山東』ですが、この映画は香港未公開のようですので、やはり一番地味な印象ですね。邵氏から台湾へ渡ったワン・ピンを起用して健闘した映画なのですが、相手役にチャールズ・チンを添えていてもどこか垢抜けない暗いイメージの映画になってしまっているのがちょっと残念ですね。冒頭の馬永貞殺害シーンは『仇』のほぼ焼き直し。舞台も"一洞天"の看板も全く同じ。

ちなみに例の分類法で『仇』は紛れもない香港映画、『馬』は実は香港映画で、『上海』は台湾映画となっていました。最後の『山東』だけ香港での記録が無く、国籍不明でした。(72年10月台湾で公開済み)興味深いのは、『山東』以外の3本の撮影時期が非常に近く、ほぼ同時期に公開されている点です。『仇』が5月末より少し前、月末に『上海』、遅れて翌月に『霸王拳』の正式な続編『馬』が公開されました。この様に同じテーマでせめぎ合いが続き、本家よりも先に作って公開という流れはよくあるパターンですね。この様子を見ると、『馬』も途中でシナリオの変更があった可能性も十分考えられますよね。

72年度の香港興収ランキング(外国映画含む全体)では、カンタイの『馬永貞』が11位でトップ、続いてジミーさんの『霸王拳』が25位となっており、『仇』は56位で3番手、馬素貞ものとしては一番でした。90位に『馬素貞報兄仇』が来ているので、これは『仇』の圧勝ですね。『上海灘馬素貞』は230位と落ち込んでおり、香港では全くヒットしなかった事になります。

以上、それぞれを簡単に解説してみました。でもやはり『仇』がマスターピース。ヤン・チュン夫妻の映画作りの巧さに圧倒されますね。同じテーマの映画がいくつかある中で実はウマづらの蔡弘(ツァイ・ホン)がこの系列で最多出場してます。(どの映画のどこに出ているか探してみてください)

それから主演男優の楊群(ヤン・チュン)について。この人はやはり「金瓶梅」での西門慶とか、古くは郭南宏先生の武侠片『劍王之王』(これも凜々しかった!)、そして「燃えよデブゴン」とまぁ要所要所に現れますね。あと、忘れてならないのは「プロテクター」ですね。とてもかわいらしかったムーン・リーの父親役で、もうこの頃は『仇』のような血気盛んな青年ではなくって、素敵なおじさまとしてチラっと出演されていましたね。

まぁとにかく芸歴長いですから出演作はいっぱいありますね。奥さま俞鳳至(フローレンス・ユー)も映画人ですが、詳しいプロフィールはグーグル先生に聞いてみるのもいいかも知れません。このご夫婦で映画会社を新たに設立して映画を作ることになっていったんですね。会社の名前には"鳳"の字が付いています。

奇蹟的ニュース映像、鳳鳴影業の設立当時の様子はこちら



鳳鳴影業では題名に漢字1文字を使うシリーズを何本か製作します。台湾の資料では71年に設立、『仇』の写真とともに紹介されていました。このあと、日本国内でもビデオ化されたことのある『忍』(これも賞を獲ってます)、そして『浪』と、題名が1文字という映画はあまり多くはありませんでしたので、ここに何かこだわりを感じますね。

日本での反響をネット検索してみると、当時テレビで放送された時のことを覚えていて(しっかりエアチェックも!)それをブログ記事にしている女性の方もいたりして、女ドラゴンとして日本で紹介されたジュディさんはさぞかし魅力あふれる、崇高な存在だったと想像出来ますね。

私、醒龍は幼少期で劇場はもちろん、テレビでもまだ見れる年齢ではありませんでしたので、『仇』を見たのは海外のDVDが最初でした。もちろんジュディさんの事はしっかり書籍で頭に焼き付けていますのでね(笑)。例えばドラゴン大全科や芳賀書店のシネアルバム・ドラゴン大全集など、これらを何度も眺めることによって擦り込んでいきました。

このシネアルバムにはいろいろ思い出がありますね。後ろの方がスチール写真が多くカラーページが少ないというのも、今となってはこれで良かったと思えてきます。「カラテ愚連隊」のページで黒いグローブをした主演のカン・ヤン(原文ママ)という人が印象的で、当時の独特なカナ表記(by日野先生)で名前を擦り込んでいくのですが、実はこの人がフォン・ハクオンであることを随分とあとになって知ることになります(苦笑)。

関係者であれば、そういったスチール写真を沢山持っていて、それを本に載せるのが可能だった時代だったんですね。よくロビーカードの写真も使われていたと思いますが、それらの資料を集めて編纂することにより素晴らしい内容の本が出来上がり、それを憧れの目で見つめていた子供がここに!

そのドラゴン大全集の巻末がドラゴン・レディの章となっていて、その最後を飾るのがジュディ姐さんでした。名前はよく知っていても当時はなかなか出演映画を観る機会なんて、ほぼ無かったんですよね。驚異的な写真が大きく載っていた『神環』という映画は、おそらく幻の映画であって残念ながら現在でも観ることが出来ないままですね。でも、そんな映画があった方が神秘的でいいと思います。

『仇』ですが、実際の映画はこんな展開です。

山東人の馬永貞(マー)は、やくざ者たちの組織が勢力争いする世界、上海へ。
ある日、ボスのパイが取り仕切る町の茶楼"一洞天"に1人でやって来たマー(唐威)。パイの部下たちは一斉にマーを取り囲み手斧を投げつけ、無惨に殺してしまった。

一方、飯屋で働くファン(役名:范篙頭。ヤン・チュン)はこの町に住み、同じ店で働く仲間のシャオ(役名:小楦頭。王若平)も兄貴分のファンを慕っていた。
兄殺しの犯人を探しに列車に乗って遠くから来たばかりの主人公スーチェン(ジュディ・リー)は、その店に入ってゆく。
子分を連れて暴れ者・リャン(役名:梁福。趙強)が店にいやがらせにやって来たが、腕っぷしの強いファンは、彼らをすぐに追っ払い、スーチェンを助ける。

近くで積み荷を運ぶ仕事の元締めルー(役名:羅昆。祖勃林)が労働者たちをこき使っているのをファンがやっつけると、働く者たちは皆、歓喜した。

ボスのパイ(李影)は、使い手の用心棒(役名:吐血四官。林有傳)を雇っていた。
リャンとルーは早速ボスに騒動の元、ファンの相談へやって来た。何とかしてファンを倒そうと企むパイ。
リャンたちは、たまたま道を通りかかったスーチェンに襲いかかろうとするが、コテンパンに逆にのされてしまった。そのまま手下の者たちの様子を探るスーチェン。
そしてパイは、町人たちを殲滅させようとし、シャオはファンの母と妹を助けられず、カジノ店主ツァオ(役名:曹龍。薛漢)に切られそのまま二人とも死んでしまった。シャオは駆け付けたファンに事情を話すが息を引き取った。そこに現れたのはスーチェンだった。ここで誤解を生み二人は分かれてしまった。

店の前でパイを見つけるや1人乗り込んで勝負に出るスーチェン。
前を通りかかったファンはスーチェンに協力し、パイの一味に共に挑んでいった。
ファンは白人の殺し屋の銃で撃たれ重傷を負う。スーチェンはファンの胸に撃ち込まれた銃弾を取り除く・・。

その後、ファンは倉庫で敵のワナにかかり手斧を打ち込まれ、ついに倒れてしまう。
場面は変わり、倉庫へ向かうスーチェン。しかし一足遅く、絶命していたファンを発見する。そしてスーチェンは泣き崩れ、やがて怒りを爆発させる。
雷が鳴り響く晩、兄・マーとファンの復讐を誓ったスーチェンは1人アジトに乗り込み、憎きボス・パイに勝負を挑んでいった・・・。


"一洞天"という店が最初の舞台となります。"洞天"という名前が付いた中華料理店が日本にもありますね。ここで馬永貞が斧頭党に36本もの手斧を打ち込まれたという設定でした。実際に36本が体に突き刺さっている訳ではないのですが、 ラスト大勢の敵の中に飛び込んでいく姿は圧巻ですね。『仇』はこの場面が実に見事で優れているのです。

この映画は顧問だったウー・ミンシュンの役割が非常に大きいでしょうね。彼の姿はパンフを見ると分かりますが、表紙の裏側にモノクロで大きく写っているのが彼、巫敏雄です。(ジュディさんの左に立っている人です。)

役者としても活躍していましたが、やはり監督業に進出してからの方が、彼の才能が十二分に発揮されていると思います。例えば、後にメガホンを取った「ドラゴンの逆襲」(73)や、「子連れドラゴン女人拳」(73)もそうですね。私が好きなのは武侠片だと『頭條好漢』(71)とか変わってて好きですね。功夫片では「少林寺秘伝拳」(76)でしょうか。これは、ホント名作ですよね。

カンフー・マニアを唸らせる物がこれだけあるんですから、執行導演してる本作『仇』が面白く、ヒットに繋がったというのもある意味当然であったと思いますね。劇中、誤解していたジュディさんとヤン・チュンの二人がやがて協力していくプロットは本当に素晴らしかったです。

私が観たDVDですが、"Queen Boxer"のタイトルで英語版でした。ランニング・タイム84分と短くカットされていました(NTSC)。劇場版は英語版だったようなのでフィルムの再生速度はNTSCと同じでしょう。現在PALで89分のものがあるので、ノーカット版はNTSCに換算すると約93分になります。劇場では88分だったと資料に記載があるため、5分程度カットされていたかも知れませんね。


ということで、今回が平成最後の記事になります。ついに平成も今日で終わってしまいますね。私は昭和生まれで平成、そして新しい元号・令和と3つの元号を通過、実感することになります。来月からはその令和の時代に突入します。昭和の和と同じ令"和"です。どんな時代になるんでしょうか。きっと新しいドラゴン達もまたどこかで現れてくれることでしょう。私はまた継続してこんな記事を書いていきたいと思います。それではまたお会いしましょう。

 


The Avenger(1972)

Florence Yu(D)

Cast: 

Judy Lee

Peter K. Yang

Lee Ying

Tang Wei 

 

  (c)Fong Ming Films(HK)


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