前回の(60)で書いた様に、鶴の肉を得たことで久女は鶴へのあこがれを持ったのでしょう。久女年譜によると、この年(昭和9)年12月23日に山口県八代(やしろ)村に鶴を見に行っています。八代盆地は鹿児島県の出水と並ぶ鶴の飛来地として知られている所です。
『杉田久女句集』には「鶴の句」として、この時詠んだ61句が載っています。それにしても一つの場所で61句とはすごいですね。その場の色んな情景を細かく観察し、時間をかけ、一つ一つ作句して行くんでしょうね。出来た句をしばらくあたため、その後手を入れたりするかもしれません。
幾つか見てみましょう。
「 鶴舞ふや 日は金色の 雲を得て 」
「 鶴の影 舞い下りる時 大いなる 」
「 ふり仰ぐ 空の青さや 鶴渡る 」
「 歩み寄る われに群鶴 舞ひたてり 」
「 親鶴に 従ふ雛の やさしけれ 」
泊まった宿のことを詠んだこんな句も。
「 山冷えに はや炬燵して 鶴の宿 」
「 投げ入れし 松葉けぶりて 暖炉燃ゆ 」
八代村を詠んだ句も。
「 鶴鳴いて 郵便局も 菊日和 」
「 鶴の里 菊咲かぬ戸は あらざりし 」
鶴の里に鶴を見に行ったこの時のことを、「野鶴飛翔の図」という一文に綴っているのが、『久女文集』に載っています。鶴の飛来を見て久女の心も昂揚しているようで、非常に美しい文章です。 何度も言うようですが、同じ頃(昭和9年)に来たという高浜虚子の書く『国子の手紙』の中での、久女の手紙から受けるイメージとの落差に驚くばかりです。
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