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米で特許 再現成功で「常温核融合」、再評価が加速

2016年09月11日 | 資源・エネルギー
米で特許 再現成功で「常温核融合」、再評価が加速
2016/9/9 6:30 日経BPクリーンテック研究所

 仙台市太白区にある三神峯(みかみね)公園は、500本を超えるサクラの名所として知られる。「東北大学電子光理学研究センター」は、同公園に隣接した緑の中にある。2つの加速器を備えるなど、原子核物理の研究センターとして50年の歴史を刻んでいる。
■わずか数百度で核反応が進む

 2015年4月、同センターに「凝縮系核反応共同研究部門」が新設された。「凝縮集系核反応」とは、金属内のように原子や電子が多数、集積した状態で、元素が変換する現象を指す。


凝縮系核反応研究部門の研究室。左からクリーンプラネット・吉野社長、東北大学・伊藤客員准教授、同大・岩村特任教授、クリーンプラネット・服部真尚取締役(撮影:日経BP)



 今の物理学の常識では、元素を持続的に変換させるには、1億℃以上のプラズマ状態の反応場が必要とされる。フランスや日本などは、国際協力の下で「ITER(国際熱核融合実験炉)」の建設を進めている。巨大なコイルによって、「1億℃」を磁場で閉じ込めておく手法だが、当初の目標に比べ、実用化は大幅に遅れている。
 凝縮集系核反応であれば、常温から数百℃という低温で元素が融合し、核種が変換する。東北大学電子光理学研究センターに建った、凝縮集系核反応共同研究部門の真新しい建屋に入ると、断熱材で覆われた実験装置がある。

 核反応が進行するチャンバー(容器)は円筒形。金属製なので中は見えないが、センサーによって温度を計測している。「実験を始めてまだ1年ほどですが、順調に熱が出ています」。同研究部門の岩村康弘特任教授は、温度を記録したノートを見ながらこう話す。

■三菱重工の研究者が東北大に移籍

 かつて、凝縮集系核反応は「常温核融合(コールドフュージョン)」と呼ばれた。1989年3月に米ユタ大学で、二人の研究者がこの現象を発表し、世界的に脚光を浴びた。だが、ユタ大学での報告を受け、各国で一斉に追試が行われた結果、米欧の主要研究機関が1989年末までに否定的な見解を発表、日本でも経済産業省が立ち上げた検証プロジェクトの報告書で、1993年に「過剰熱を実証できない」との見解を示した。

 しかし、その可能性を信じる一部の研究者たちが地道に研究を続け、徐々にこの現象の再現性が高まってきた。2010年頃から、米国やイタリア、イスラエルなどに、エネルギー利用を目的としたベンチャー企業が次々と生まれている。日本では凝縮集系核反応、米国では「低エネルギー核反応」という呼び名で、再評価する動きが出てきた。

 実は、東北大学に新設された凝縮系核反応共同研究部門は、クリーンエネルギー分野のベンチャーや研究室などに投資するクリーンプラネット(東京・港)が研究資金を出し、東北大学が施設や人材を提供するという形で2015年4月に発足した。

 「核融合の際に発生する膨大なエネルギーを安定的に、安全かつ低コストで取り出せる道が見えてきたことで、欧米を中心に開発競争が活発化している。日本の研究者は、これまでこの分野を主導してきた実績がある。実用化に向け、国内に蓄積してきた英知を結集すべき」。クリーンプラネットの吉野英樹社長はこう考え、東北大学に資金を投じた。

 東北大学・凝縮系核反応研究部門の岩村特任教授と伊藤岳彦客員准教授は、ともに三菱重工業で凝縮集系核反応の研究に携わり、今回の部門新設を機に東北大学に移籍した。三菱重工は、放射性廃棄物を無害化する技術として、「新元素変換」という名称で地道に研究に取り組み、選択的な元素変換に成功するなど、世界的な成果を挙げてきた。

■わずか1年で「過剰熱」を観測

 岩村特任教授は、東北大学への移籍を機に、研究のターゲットを放射性廃棄物の無害化から、「熱の発生」に切り替えた。凝縮集系核反応の応用分野には、発生した熱をエネルギー源に活用する方向性と、核変換によって放射性廃棄物の無害化や希少元素の生成を目指す方向性がある。現在、クリーンプラネットなど多くの企業、ベンチャーは、実用化した場合の市場規模が桁違いに大きい、エネルギー源の利用を優先して研究を進めている。

 実は「熱の発生」に関しても、日本の研究者が世界的な研究成果を挙げてきた。先駆者は北海道大学の研究者だった水野忠彦博士と大阪大学の荒田吉明名誉教授。現在、国内では、この二人の研究者が見いだした熱発生の手法を軸に実用化研究が活発化している。

 クリーンプラネットは、水野博士が設立した水素技術応用開発(札幌市)にも出資し、グループ企業にしている。東北大学の岩村特任教授らは、まず、水野博士の考案した手法の再現実験に取り組み、順調に「過剰熱」を観測している。

 その手法とは、以下のような仕組みだ。円筒形のチャンバー内にワイヤー状のパラジウム電極を2つ配置し、その周囲をニッケル製メッシュで囲む。この状態で、電極に高電圧をかけて放電処理した後、100~200℃で加熱(ベーキング)処理する。この結果、パラジウムワイヤーの表面は、パラジウムとニッケルによるナノスケールの構造を持った膜で覆われることになる。

 
こうしてパラジウム表面を活性化処理した後、チャンバー内を真空にし、ヒーターで数百度まで加熱した状態で、重水素ガスを高圧(300~170パスカル)で圧入し、パラジウムと重水素を十分に接触させる。すると、ヒーターで入力した以上の「過剰熱」が観測された。活性化処理せずに同じ装置と条件で重水素ガスを圧入した場合、過剰熱は観測されず、その差は70~100℃程度になるという。

 「実験開始から1年足らずで、ここまで安定的に熱が出るとは、予想以上の成果。これまで三菱重工で蓄積してきた、再現性の高い元素変換の知見を熱発生にも応用できる」。岩村特任教授の表情は明るい。

■ナノ構造が核反応を促進

 一方、大阪大学の荒田名誉教授の手法をベースに熱発生の研究を続けているのが、技術系シンクタンクのテクノバ(東京・千代田)だ。同社には、アイシン精機やトヨタ自動車が出資している。テクノバは、大阪大学の高橋亮人名誉教授と神戸大学の北村晃名誉教授をアドバイザーとして迎え、神戸大学と共同で研究を続けている。

 荒田名誉教授は2008年5月、報道機関を前に大阪大学で公開実験を行った。その際の手法は、酸化ジルコニウム・パラジウム合金を格子状のナノ構造にし、その構造内に重水素ガスを吹き込むと、常温で過剰熱とヘリウムが発生する、というものだった。テクノバチームは、荒田方式をベースにニッケルと銅ベースのナノ粒子に軽水素を吹き込み、300℃程度に加熱することで1カ月以上の長期間、過剰熱を発生させることに成功している。

 1989年に米ユタ大学で、常温核融合が耳目を集めた際、その手法は、パラジウムの電極を重水素の溶液中で電解するというものだった。その後の研究で、電解方式のほかに、重水素ガスを圧入する方法が見いだされ、再現性が高まっている。現在では、電解系よりもガス系の方が主流になっている。東北大とクリーンプラネットによる水野方式、テクノバと神戸大の荒田方式も、いずれもガス系の手法を発展させたものだ。

 また、「パラジウムやニッケル、銅などの試料表面のナノ構造が、核反応を促し、熱発生の大きなカギを握ることが分かってきた」(東北大学の岩村教授)。


放電処理などでパラジウムとニッケルによるナノスケールの構図を持った膜で覆われる(出所:東北大学・岩村特任教授)
 定性的には100%の再現性を確立したなか、今後の研究ターゲットは、「発生する熱をいかに増やすか、そして重水素とパラジウムという高価な材料でなく、軽水素とニッケルなどよりコストの安い材料による反応系でいかに熱を発生させるかがポイント」と、クリーンプラネットの吉野英樹社長は話す。

■米国で初めて特許が成立

 2016年10月2~7日、「第20回凝縮集系核科学国際会議(ICCF20)」が仙台市で開かれる。ホストは、新設した東北大学の凝縮系核反応研究部門が担う。同会議は、1~2年おきに開かれ、世界から凝縮集系核反応の研究者が200人以上集まり、最新の成果を発表する。ここでも日本の2つのグループによる研究成果が大きな目玉になりそうだ。

 ICCF20の準備は着々と進んでおり、「欧米のほか、中国、ロシアなど、約30か国から研究者が参加する予定で、企業からの参加者も増えそう」(東北大学の岩村特任教授)。ICCFは、2012年に開かれた第17回会議の頃から企業に所属する研究者の参加が増え始め、2013年7月の第18回会議では、4割以上が凝縮集系核反応を利用した「熱出力装置」の開発を進める企業などからの参加者だった。

 クリーンプラネットの吉野社長は、「凝縮集系核反応に取り組む企業は、表に出ているだけでも75社に達し、その中には、電機や自動車の大手が含まれる。こうした企業の動きに押される形で、米国の政策当局は、凝縮集系核反応を産業政策上の重要な技術として、明確に位置づけ始めた」と見ている。

 米国特許庁は2015年11月、凝縮集系核反応に関する米研究者からの特許申請を初めて受理し、特許として成立させた。これまでは、現在の物理学では理論的に説明できない現象に関して、特許は認めていなかった。特許が成立した技術名は、「重水素とナノサイズの金属の加圧による過剰エンタルピー」で、ここでもナノ構造の金属加工が技術上のポイントになっている。

■日本とイタリアがリード

 米国議会は2016年5月、凝縮集系核反応の現状を国家安全保障の観点から評価するよう、国防省に対して要請しており、9月には報告書が出る予定だ。この要請に際し、米議会の委員会は、「仮に凝縮集系核反応が実用に移行した場合、革命的なエネルギー生産と蓄エネルギーの技術になる」とし、「現在、日本とイタリアが主導しており、ロシア、中国、イスラエル、インドが開発資源を投入しつつある」との認識を示している。

 「常温核融合」から「凝縮集系核反応」に名前を変えても、依然としてこれらの研究分野を"似非科学"と見る研究者は多い。そうした見方の根底には、現在の物理学で説明できないという弱みがある。特に低温での核融合反応に際し、陽子間に働く反発力(クーロン斥力)をいかに克服しているのか、粒子や放射線を出さない核反応が可能なのか、という問いに応えられる新理論が構築できていないのが実態だ。

 とはいえ、説明できる理論がまったく見えないわけではない。2つの元素間の反応ではなく、複数の元素が同時に関与して起こる「多体反応」による現象であることは、多くの理論研究者の共通認識になっている。金属内で電子や陽子が密集している中で、何らかの原理でクーロン斥力が遮蔽され、触媒的な効果を生んでいることなどが想像されている。

 東北大学では、熱発生の再現実験と並行して、こうした理論解明も進める方針だ。こうして、理論検討が進み、新しい物理理論が構築されれば、「革命的なエネルギー生産」の実用化はさらに早まりそうだ。

(日経BPクリーンテック研究所 金子憲治)

iPhone7、Suicaが選ばれた理由

2016年09月11日 | 国際ビジネス
iPhone7、Suicaが選ばれた理由 編集委員 関口和一
2016/9/11 3:30 日経新聞


 米アップルが7日、スマートフォンの「iPhone7」と腕時計型端末「アップルウオッチ」の新モデルを発表しました。カメラや防水性などの機能を高めたのが特徴ですが、日本のユーザーにとって最も歓迎すべきことは、電子乗車券の「Suica(スイカ)」などに採用されている非接触型ICチップ「Felica(フェリカ)」を採用したことです。ネットメディアなどでは以前から噂になっていましたが、「世界共通モデル戦略」を掲げるアップルが日本独自の技術を採用したことは衝撃的なニュースといえるでしょう。アップルはなぜフェリカを採用することにしたのでしょうか。

iPhone7とアップルウオッチの新モデル。Suica(スイカ)などに採用されているFelica(フェリカ)を採用した。写真はアップル提供

 フェリカはもともとソニーの研究所で生まれた技術で、データを読み書きする処理速度が非常に速いことから、東日本旅客鉄道(JR東日本)が電子乗車券「スイカ」に採用し、それをきっかけに利用が広がりました。携帯電話会社の電子決済手段「おサイフケータイ」や「楽天Edy(エディ)」「WAON(ワオン)」「nanaco(ナナコ)」といった電子マネーなどにも採用され、これまでに10億個近いチップが出荷されています。1日あたりの利用件数は1億6000万件を超え、日本の電子決済市場におけるデファクトスタンダードといえる技術です。
 スマートフォンが登場する以前の日本の携帯端末のことをよく「ガラケー」と呼びます。「赤外線通信」「おサイフケータイ」「ワンセグ放送」といった日本特有の技術が搭載されていることから、「ガラパゴスケータイ」と呼ばれたのが始まりです。一方、アップルのiPhoneはNTTドコモの携帯情報サービス「iモード」にヒントを得て生まれた製品ではありますが、日本のガラパゴス技術とは距離を置いてきました。ドコモが最後までiPhoneの発売に二の足を踏んでいたのは、日本国内で定着した日本の技術を守ろうとしていたからだともいえます。



関口和一(せきぐち・わいち) 82年日本経済新聞社入社。ハーバード大学フルブライト客員研究員、ワシントン支局特派員、論説委員などを経て現在、編集局編集委員。主に情報通信分野を担当。東京大学大学院、法政大学大学院、国際大学グローコムの客員教授を兼務。NHK国際放送の解説者も務めた。著書に「パソコン革命の旗手たち」「情報探索術」など。

 一方、アップルは2014年秋のアップルウオッチの発売にあわせ、「NFC(近距離無線通信)」というおサイフケータイに似た無線技術を使った「アップルペイ」と呼ばれる決済手段を投入しました。しかし日本のおサイフケータイとの間には互換性がなく、日本のガラケー機能を求めるユーザーからはiPhoneを敬遠する1つの理由になっていました。アップルはグローバルな商品展開の効率性を上げるため、周波数なども同じ端末で複数の地域に対応するなど世界共通モデル戦略を展開していたので、日本市場だけに特別な端末を開発するという考えは毛頭ありませんでした。
■20年東京五輪が後押し
 アップルにフェリカの採用を促す1つのきっかけとなったのは20年の東京五輪開催です。オリンピックが開かれる日本でアップルペイが使えるようにするには、日本の店舗にもNFCに対応した読み取り装置を配備する必要にアップルは迫られました。NFCの読み取り装置は米国本土では約130万台、英国で32万台に増えましたが、日本ではそれをはるかに上回る190万台のフェリカ用の読み取り装置が普及していました。アップルはNFC用の読み取り装置の配備を日本の事業者に呼びかけたようですが、バスやタクシーなどフェリカが様々な公共交通機関などにも浸透したことで、容易にはNFC用のインフラを普及させることができなかったのです。
 アップルにはもう1つ背中を押される出来事がありました。非接触IC技術の国際標準化団体である「NFCフォーラム」が今年春、フェリカをNFCの新しい規格として認める方針を打ち出したことです。NFCとフェリカは規格上、対抗軸のように語られてきましたが、実際にはNFCは「短い距離で無線データ通信を行う技術」を指しており、広い意味でフェリカもその1つだったのです。NFCの国際規格としては、ロンドンの交通カード「oyster(オイスター)」などで使われている「Type(タイプ) A」と呼ばれる技術と、日本の住民基本台帳カードなどに使われている「Type B」という2つの技術があり、フェリカは当初、国際規格とはみなされていなかったため、別な技術のように語られてきました。



「Type A」のNFC技術を採用した英ロンドンの交通カード「オイスター」

■フェリカが国際規格に
 その流れを変えたのがJR東日本のNFCフォーラムへの参加です。JR東日本の主要駅は世界でも最も乗降客が多く、電子乗車券の導入にあたっては処理速度の速さが求められました。フェリカは1件あたりの処理速度が200ミリ秒以下で、1分間に60人が改札を通れるということから採用が決まりました。しかし、そうした高度な技術は日本のような特殊な国にしか必要がなく、ほかの技術に比べICカード自体のコストも高かったことから、国際規格への採用が見送られてきました。ところがJR東日本がNFCフォーラムに参加し、技術の優位性を訴えたことにより、最終的には「Type F」ということで正式にNFC規格の仲間に採用されたのです。



 携帯電話技術の標準化は英国に本部がある「GSMA」といった国際業界団体などが進めていますが、GSMAもNFCフォーラムの方針を踏襲し、17年4月以降に発売される携帯端末にはフェリカのチップを標準で搭載するという方向を打ち出しました。NFCフォーラムは技術の標準化や相互利用を促すため、フェリカを開発したソニーや「Type A」の技術を開発したオランダのフィリップスなどが04年に設立した組織で、その活動の成果がようやくあらわれたともいえます。アップルとしてもフェリカが国際規格に採用されれば、それをあえて排除することはできなくなったといえます。
 ではアップルは「Type F」の規格に決まったばかりのフェリカをなぜこのタイミングでiPhone7に搭載することにしたのでしょうか。
 規格が正式に決定され公表されたのは今年の夏ですので、アップルはそれ以前から水面下で開発に取り組まなければ9月の製品発売には間に合いません。最大の理由はそれまで好調だったiPhoneの人気に少し陰りが出てきたことが大きな要因だといえるでしょう。世界の携帯端末市場では、韓国のサムスン電子に加え、中国の華為技術(ファーウェイ)などのメーカーが高機能で値段のこなれた製品を次々と投入しており、シェアを食われるようになったからです。その点、日本市場はアップルのシェアが6割近くと非常に高い一方で、おサイフケータイ付きのスマートフォンを使っているユーザーが4割近くいます。アップルとしてはシェアをさらに上げるには、フェリカを採用し、アップル以外のユーザーの取り込みと、既存のiPhoneの買い替えを促すのが得策だと考えたのでしょう。
 ライバルの動きも気になるところです。携帯端末向け基本ソフトの「Android(アンドロイド)」を展開するグーグルも、三菱UFJフィナンシャル・グループと組んで、今年秋から「アンドロイドペイ」という電子決済サービスを日本で展開しようとしています。金融とIT(情報技術)を組み合わせたフィンテックがブームとなるなか、東京五輪は自社の電子決済サービスを宣伝する格好のショーケースになるわけですので、アップルとしても自らの規格を押しつけて普及に時間をかけるよりも、フェリカで築き上げられてきた日本の電子決済インフラを利用した方が早道だと判断したに違いありません。
 それではiPhone7やアップルウオッチにフェリカが搭載されると、今後、どんなサービスが使えるようになるのでしょうか。
 アップルジャパンによると、フェリカに対応したアップルペイのサービスが日本で使えるようになるのは10月末からで、「モバイルSuicaなどのiPhone向けアプリはそれに合わせて順次提供されていく」そうです。アップルペイはスイカ以外にもドコモの「iD」やJCBの「QUICPay(クイックペイ)」といった電子マネーにも対応し、クレジットカードにひも付けられた独自のIDを使うことで各種クレジットカードの代わりに端末をかざして使うこともできるようになります。

アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は「アップルペイの魅力を日本のユーザーに体験してもらえることに非常に興奮している」と表明し、米国や英国、中国などに比べアップルペイの普及が遅れている日本市場に参入できることに強い関心を持っているようです。
 さらにiPhone7に搭載される基本ソフト「iOS10」には、「マップス」と呼ばれるアップルの地図情報サービスに日本の公共交通機関の経路情報や運賃情報などが新たに搭載されることも注目されます。これまで自動車や徒歩の経路は表示できましたが、グーグルマップのように電車やバスなどの経路情報は表示できなかったからです。スイカやパスモといったフェリカ仕様の交通ICカード機能と一緒に使うことで、iPhoneやアップルウオッチの利便性は大きく高まることが予想されます。逆にいえば、おサイフケータイ機能を売り物にしてきた国内メーカーにとっては、新たな脅威にもなるといえるでしょう。
■日本の電子マネー技術、世界に
 またアップルがフェリカに対応することで、これまでガラパゴス技術と揶揄(やゆ)されてきた日本の電子マネー技術が海外に広がる可能性も出てきました。JR東日本がフェリカに目をつけたのは、香港の交通カード「Octopus(オクトパス)」で最初に採用され、実績を上げたことがきっかけでした。アップルはフェリカの搭載端末は当面、日本だけで販売する計画ですが、フェリカの新しい機能が日本で成功すれば、香港や他の地域にも広がる可能性は十分にあるといえるでしょう。その意味ではフェリカの国際規格化に尽力したソニーやJR東日本の努力は高く評価されるべきですし、日本発の技術をあえて採用することにしたアップルの英断にも敬意を表したいと思います。

不動産は「利回り商品」 群がる運用難民

2016年09月11日 | 金融
不動産は「利回り商品」 群がる運用難民
2016/9/11 3:30 日経朝刊

 「こんな高値、ありえないだろ」。不動産業界の関係者らの多くがあっけにとられた。ヒューリックが5月に京浜急行電鉄から取得した東京都港区の大型ホテル「グランドニッコー東京 台場」。価格は600億円を超え、日本企業によるホテル売買の最高記録を更新したとみられる。

■金利低下が背景



 カギは「金利低下」だ。不動産は「利回り商品」の側面を持つ。年間500万円稼げるホテルを1億円で買うと、5%の利回りが得られる。「利回りは1%でいい」と割り切れば、購入価格は一気に5億円までつり上がる余地が生じる。
 「利回りのモノサシ」である長期金利は日銀の金融緩和でマイナス圏に沈む。これに引っ張られる形でグランドニッコーの購入時の利回りは2%台前半と異例の低水準となったもよう。最高値はこの裏返しだ。

 大規模緩和前のホテル物件(東京都心5区)の利回りは今より2%弱高かった。当時の利回りから逆算すると、グランドニッコーの価格は300億円台にとどまっていた計算になる。ヒューリックは宿泊単価や稼働率を改善させ、利回りを引き上げていく。

 「約300億円の当初運用枠はあっという間に埋まってしまいましたよ」。日本生命保険の関係者はこう話す。子会社が8月に運用を始めた私募形式の不動産投資信託(REIT)。「日本生命丸の内ガーデンタワー」(東京・千代田)などの優良物件に投資する。

 想定する利回りは3~4%。これに全国の地銀や年金基金などが飛びついた。運用の主軸だった国債の利回りは、リスクの高い40年物でも0.6%台。超低金利に追い詰められた「運用難民」たち。利回りを求めて不動産投資に群がり、相場をさらに押し上げる。

■新たな開発加速
 その帰結が不動産開発の急拡大だ。住友不動産は2021年度までに30棟のビルを開発する。延べ床面積は東京ドーム44個分にあたる。三菱地所は東京駅前で390メートルの超高層ビル開発に着手した。

 裏腹に市況の雲行きは怪しい。東京都心5区の大規模ビルの賃料は7月まで2カ月連続で低下。オフィス仲介の三幸エステート(東京・中央)は「賃料負担増につながる移転に慎重なテナントが多い」という。

 「低金利=不動産高騰」。こんな図式がもっと鮮明なのが、日本に先駆けてマイナス金利を導入した欧州だ。欧州連合(EU)全域の住宅価格指数は1~3月期に前年同期比で4%伸び、金融危機前のピークだった08年4~6月期以来の水準を回復した。

 ドイツやオーストリアなどだけでなく、不動産バブル崩壊で一時は財政危機に陥ったスペインでも住宅価格は上昇。政策金利をマイナス0.5%まで下げたスウェーデンでは住宅価格の伸び率が2ケタに達する。

 超低金利を背景に投資マネーが押し寄せ、不動産は利回り商品としての性格を強める。その過程で相場と乖離(かいり)して実需が置き去りにされるようなら、不動産市場の先行きは一気に不透明になってしまう。