トランプ政権でシェールが「メジャー」に
米州総局 稲井創一 2016/11/18 8:00 日経
米大統領選挙でのドナルド・トランプ氏の劇的勝利から1週間余り――。この間、ダウ工業株30種平均は3%上昇し、最高値を更新した。米株式市場は法人減税やインフラ投資への期待から、積極的に運用リスクを取る「リスクオン」ならぬ「トランプオン」の様相を呈した。そんななか「リスク資産」にもかかわらず蚊帳の外にとどまるのが原油価格だ。
選挙後、指標であるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は1バレル45ドル前後で低迷。選挙期間中、トランプ氏はエネルギー産業の一段の振興を掲げた。原油相場下落の底流には米シェールオイルの増産懸念がある。
「石油輸出国機構(OPEC)の決定で価格が1バレル60ドル付近へ上昇すれば、米国のシェールオイル(生産)が大幅に増える可能性がある」。国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長は16日、海外メディアに対して今後のシェールの動向に懸念を示した。
その懸念は既に現実化しつつある。
シェールの生産の先行指標となる米石油掘削リグ数は今月11日時点で452基と、5月の最低値から136基(43%)増加。直近の米原油生産も日量868万バレルと、7月1日の底に比べて約25万バレル(3%)増えている。シェール企業の生産・掘削活動は半年前に底入れし、生産も緩やかだが上向いているのだ。
2016年7~9月期に7四半期ぶりに最終黒字に転換したシェール大手デボン・エナジーのデーブ・ハーガー最高経営責任者(CEO)は「16年の生産・掘削への投資は6月予想の最大13億ドルから16億ドルに増やす」と話す。シェール勢は業績底入れで投資余力が回復してきた。
そんなタイミングでのトランプ氏の当選はシェールの回復基調をさらに後押しそうだ。
「(トランプ氏の当選で)過剰な規制が消える。それこそ我々が意図していたこと」(トランプ氏を支持してきたシェール老舗コンチネンタル・リソーシズのハロルド・ハムCEO)。掘削・生産を巡る環境規制の緩和・撤廃は、シェール企業にとって掘削・生産工程でのコスト削減となり、増産余力も高まる。
コンチネンタル社の株価は大統領選当日の8日から17日まで9%上昇し、ヘス・コーポレーション(6%)やホワイティング・ペトロリアム(9%)なども急騰。原油価格と相関性の強いシェール株だが、大統領選後は独歩高の展開だ。さらにハム氏がエネルギー長官候補に名があがるなど、トランプ政権下でシェールに「わが世の春」が訪れる気配も漂う。
その一方で影が薄いのが、エクソンモービルやシェブロンなどの米石油メジャーだ。大統領選後、株価はシェブロンが0.8%とかろうじて高く保っているが、エクソンは0.1%安と下落した。シェールに出遅れている上、原油生産(液体ガス含む)に占める米国の割合が2~3割で、規制緩和などの恩恵はシェール勢に比べ限定的とみられる。
さらにメジャーはオバマ政権の環境政策に一定の理解を示す行動を続けてきた。何かと環境団体から批判されることもあり、エクソンは炭素税を容認し、シェブロンは再生エネルギーへの傾斜を強めた。両社はヒラリー・クリントン氏の財団などへの寄付も熱心だった。民主党に歩み寄った格好のメジャーの行動は今のトランプ氏の目にどう映るのか。
「最高だ。最高の気分だ」。大統領選の翌日、シェール陣営のハム氏は米経済番組に出演し、トランプ氏勝利に喜びをあらわにした。一方、政界にも隠然たる影響力を持ち米エネルギー業界をリードしてきたメジャーに覇気はない。シェールが米エネルギーの「メジャー」(主要な)勢力に躍り出ようとしている。
(ニューヨーク=稲井創一)
米州総局 稲井創一 2016/11/18 8:00 日経
米大統領選挙でのドナルド・トランプ氏の劇的勝利から1週間余り――。この間、ダウ工業株30種平均は3%上昇し、最高値を更新した。米株式市場は法人減税やインフラ投資への期待から、積極的に運用リスクを取る「リスクオン」ならぬ「トランプオン」の様相を呈した。そんななか「リスク資産」にもかかわらず蚊帳の外にとどまるのが原油価格だ。
選挙後、指標であるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は1バレル45ドル前後で低迷。選挙期間中、トランプ氏はエネルギー産業の一段の振興を掲げた。原油相場下落の底流には米シェールオイルの増産懸念がある。
「石油輸出国機構(OPEC)の決定で価格が1バレル60ドル付近へ上昇すれば、米国のシェールオイル(生産)が大幅に増える可能性がある」。国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長は16日、海外メディアに対して今後のシェールの動向に懸念を示した。
その懸念は既に現実化しつつある。
シェールの生産の先行指標となる米石油掘削リグ数は今月11日時点で452基と、5月の最低値から136基(43%)増加。直近の米原油生産も日量868万バレルと、7月1日の底に比べて約25万バレル(3%)増えている。シェール企業の生産・掘削活動は半年前に底入れし、生産も緩やかだが上向いているのだ。
2016年7~9月期に7四半期ぶりに最終黒字に転換したシェール大手デボン・エナジーのデーブ・ハーガー最高経営責任者(CEO)は「16年の生産・掘削への投資は6月予想の最大13億ドルから16億ドルに増やす」と話す。シェール勢は業績底入れで投資余力が回復してきた。
そんなタイミングでのトランプ氏の当選はシェールの回復基調をさらに後押しそうだ。
「(トランプ氏の当選で)過剰な規制が消える。それこそ我々が意図していたこと」(トランプ氏を支持してきたシェール老舗コンチネンタル・リソーシズのハロルド・ハムCEO)。掘削・生産を巡る環境規制の緩和・撤廃は、シェール企業にとって掘削・生産工程でのコスト削減となり、増産余力も高まる。
コンチネンタル社の株価は大統領選当日の8日から17日まで9%上昇し、ヘス・コーポレーション(6%)やホワイティング・ペトロリアム(9%)なども急騰。原油価格と相関性の強いシェール株だが、大統領選後は独歩高の展開だ。さらにハム氏がエネルギー長官候補に名があがるなど、トランプ政権下でシェールに「わが世の春」が訪れる気配も漂う。
その一方で影が薄いのが、エクソンモービルやシェブロンなどの米石油メジャーだ。大統領選後、株価はシェブロンが0.8%とかろうじて高く保っているが、エクソンは0.1%安と下落した。シェールに出遅れている上、原油生産(液体ガス含む)に占める米国の割合が2~3割で、規制緩和などの恩恵はシェール勢に比べ限定的とみられる。
さらにメジャーはオバマ政権の環境政策に一定の理解を示す行動を続けてきた。何かと環境団体から批判されることもあり、エクソンは炭素税を容認し、シェブロンは再生エネルギーへの傾斜を強めた。両社はヒラリー・クリントン氏の財団などへの寄付も熱心だった。民主党に歩み寄った格好のメジャーの行動は今のトランプ氏の目にどう映るのか。
「最高だ。最高の気分だ」。大統領選の翌日、シェール陣営のハム氏は米経済番組に出演し、トランプ氏勝利に喜びをあらわにした。一方、政界にも隠然たる影響力を持ち米エネルギー業界をリードしてきたメジャーに覇気はない。シェールが米エネルギーの「メジャー」(主要な)勢力に躍り出ようとしている。
(ニューヨーク=稲井創一)