#76 イヴァン・リンス「Bandeira Do Divino」(Best Of Ivan Lins/Disky)
ブラジルを代表するシンガーソングライター、イヴァン・リンスの初期ベスト・アルバムより、彼のオリジナルを。
イヴァン・リンスは45年生まれだから、今年64才。ブラジルはリオ・デ・ジャネイロ生まれ。生粋のキャリオカである。
元々は理系出身だったが、ミュージシャンの道に入り、70年にメジャーデビュー。同世代だが既に歌手として著名であったエリス・レジーナに「Madalena」という曲を提供したことで注目される。
70年代はずっと長髪、ヒゲもじゃのルックスで通してきたイヴァンは、80年代後半にはヒゲをきれいにそり落とし、髪も短かめにしてイメチェン。眼鏡をかけ、ちょっとインテリ風のイメージがある。
自作自演をモットーとするシンガーソングライターだが、彼の楽曲にひかれ取り上げるアーティストも多い。カーメン、エラ、サラといったジャズ・ディーバたちがカバーしたほか、パティ・オースティンやマントラ、ジョージ・ベンスンも彼の曲を歌っている。インストでもクインシー・ジョーンズ、デイヴ・グルーシン、リー・リトナーといったトップ・ミュージシャンが演奏している。まさに玄人好みのミュージシャン。
彼のきわだった特徴は、何よりもその「声」にあると思う。
わりとアタックの強い、やや甲高い声だ。この声については地元ブラジルでも評価が分かれているらしく、人により好き嫌いがあるみたいだ。
ブラジルの音楽は基本的に都会的であること、洗練されていることが重要事項なのだが、どうも彼の声は「田舎くさい」と思われているらしい。たとえていうなら、カントリー・ブルース系の声でモダン・ジャズを歌うみたいな、ミスマッチってことやね。
歌声はどこかいなたい。でも、彼の作る曲は非常にモダンである。アメリカのジャズやフュージョンを意識した、テンションコード、転調を多用した曲作りを見ると、音楽的にはかなり高度なことをやっているのがわかる。
この不思議なミスマッチ感こそが、イヴァン・リンスの個性なのだ。
実は筆者も20年ほど前、彼が来日したときに昭和女子大講堂でライブを聴いたのだが、緻密なバックの演奏を上回るほどの、パワーのある歌声に感銘を受けたのを、昨日のことのように覚えている。人間の声ってやっぱり、あらゆる楽器の中でも一番説得力があるものなんだなと。
さて、今日聴いていただく曲「Bandeira Do Divino」(78年録音)も、ヴォーカルにどこかいなたさを感じさせながら、バックのコーラスや演奏はあくまでも洗練され、美しい。
とにかく彼の紡ぎ出すメロディは、絶品だ。ブラジルの豊かな土壌の上に咲いた、大輪の向日葵のような、生命力にあふれた楽曲。
自分もぜひ歌ってみたい、そういう気を起こさせる魅力に満ちたイヴァン・リンスの音楽世界を、とくと味わって欲しい。
ブラジルを代表するシンガーソングライター、イヴァン・リンスの初期ベスト・アルバムより、彼のオリジナルを。
イヴァン・リンスは45年生まれだから、今年64才。ブラジルはリオ・デ・ジャネイロ生まれ。生粋のキャリオカである。
元々は理系出身だったが、ミュージシャンの道に入り、70年にメジャーデビュー。同世代だが既に歌手として著名であったエリス・レジーナに「Madalena」という曲を提供したことで注目される。
70年代はずっと長髪、ヒゲもじゃのルックスで通してきたイヴァンは、80年代後半にはヒゲをきれいにそり落とし、髪も短かめにしてイメチェン。眼鏡をかけ、ちょっとインテリ風のイメージがある。
自作自演をモットーとするシンガーソングライターだが、彼の楽曲にひかれ取り上げるアーティストも多い。カーメン、エラ、サラといったジャズ・ディーバたちがカバーしたほか、パティ・オースティンやマントラ、ジョージ・ベンスンも彼の曲を歌っている。インストでもクインシー・ジョーンズ、デイヴ・グルーシン、リー・リトナーといったトップ・ミュージシャンが演奏している。まさに玄人好みのミュージシャン。
彼のきわだった特徴は、何よりもその「声」にあると思う。
わりとアタックの強い、やや甲高い声だ。この声については地元ブラジルでも評価が分かれているらしく、人により好き嫌いがあるみたいだ。
ブラジルの音楽は基本的に都会的であること、洗練されていることが重要事項なのだが、どうも彼の声は「田舎くさい」と思われているらしい。たとえていうなら、カントリー・ブルース系の声でモダン・ジャズを歌うみたいな、ミスマッチってことやね。
歌声はどこかいなたい。でも、彼の作る曲は非常にモダンである。アメリカのジャズやフュージョンを意識した、テンションコード、転調を多用した曲作りを見ると、音楽的にはかなり高度なことをやっているのがわかる。
この不思議なミスマッチ感こそが、イヴァン・リンスの個性なのだ。
実は筆者も20年ほど前、彼が来日したときに昭和女子大講堂でライブを聴いたのだが、緻密なバックの演奏を上回るほどの、パワーのある歌声に感銘を受けたのを、昨日のことのように覚えている。人間の声ってやっぱり、あらゆる楽器の中でも一番説得力があるものなんだなと。
さて、今日聴いていただく曲「Bandeira Do Divino」(78年録音)も、ヴォーカルにどこかいなたさを感じさせながら、バックのコーラスや演奏はあくまでも洗練され、美しい。
とにかく彼の紡ぎ出すメロディは、絶品だ。ブラジルの豊かな土壌の上に咲いた、大輪の向日葵のような、生命力にあふれた楽曲。
自分もぜひ歌ってみたい、そういう気を起こさせる魅力に満ちたイヴァン・リンスの音楽世界を、とくと味わって欲しい。