2004年5月5日(水)
#215 レッド・ツェッぺリン「最終楽章<コーダ>」(ワーナーパイオニア P-11319)
レッド・ツェッぺリン解散後、82年にリリースされたラスト・アルバム。アウトテイク、別ヴァージョン等を8曲収録。
レコーディング時期は、69年から78年まで、実に約10年にもわたっているのだが、そのわりに演奏に統一感があるのが興味深い。
年代による多少の変化はあるにせよ、ZEPサウンドの根本は変わらなかったということだろうか。
アナログ盤の本アルバムを、ひさしぶりに引っぱり出して聴いてみて思ったのは、「本作の主役はボンゾだな」ということ。
他のメンバーも、もちろん不世出のミュージシャンであることには間違いないが、ジョン・ボーナムのプレイを聴くと、いまだに新たな感動をおぼえるのだ。
たとえば、ラストの「ウェアリング&ティアリング」。ここでの超高速ドラミングはスゴいの一言。とりわけ、ブレイクにおけるボンゾのタイム感覚の絶妙さたるや、筆舌に尽くしがたい。
トップの「ウィアー・ゴナ・グルーヴ」、これはベン・E・キングの曲なのだが、ボンゾがスティックをとるや、黒人のソウルとはまったく別物の、オリジナルなグルーヴを叩き出してくれる。
黒人ソウル・バンドが「いかに全身で踊れるリズムを叩くか」を目指しているのとは対照的に、ボンゾの場合、「体の一部を集中的にゆさぶるようなビート」で勝負をかけている、そんな印象があるのだ。
あるいは、「プア・トム」。カントリー・ブルースのサウンドと、力強いバス・ドラムの音が見事に融合して、独自の世界を作り上げている。
音楽評論家のピーター・バラカン氏によれば、「(黒人バンドに比べて)リズム感がよくない」という理由で、まったく評価されていないZEPだが、筆者としては、いささかその考え方には異論がある。
ボンゾの叩こうとしていたリズムは、ブラック・ミュージックの典型的なグルーヴとはまったくの別物を目指していたのではなかったのか。自分がよく知っていて、気に入っているタイプのリズムではないからといって、イモと決め付けるのは、いかがなものか。
筆者はドラマーではないので、技術上の細かい差異については述べようがないのだが、ボンゾのドラミングについては、巷間いわれているようなパワーとかスピードのスゴさだけでなく、むしろそのリズムのオリジナリティ、「脱ダンス・バンド」的な方向性にこそ、着目すべきではないかと考えている。
ここでジャズを引き合いに出すのは、必ずしも的を射ていないかもしれないが、スウィングからバップに移行した際、ダンス用音楽という性格を捨て、客席で鑑賞するための音楽へと変容していったプロセスを、筆者はどうしてもZEP以前・以後の音楽に感じとってしまうのである。
筆者自身、踊りたければブラック・ミュージックを聴くし、一方、ZEPを聴くときは踊るというよりは、どうしても聴き入ってしまう。
さて、本編のハイライトはやはり、「モントルーのボンゾ」だろう。タイトルでわかるように、スイスのモントルーでのライヴ録音。ほぼ全編、ボンゾのドラムソロで構成されており、後年、ジミー・ペイジによってサウンド・エフェクト処理が加えられたトラックだ。
パーカッシヴにして、メロディアス。単なるパワー・ドラミングに終わらないボンゾの繊細さを、この豪快な演奏から嗅ぎ取って欲しい。
その他にはオーティス・ラッシュのブルース・ナンバー、「君から離れられない」のリハーサル・テイクが出色の出来。
ファースト・アルバムでの初演も衝撃的だったが、このヴァージョンもそれを上回る素晴らしさだ。
プラントの(まだ喉をつぶさない頃の)超高音シャウト、3人の緊張感あふれるプレイも、聴いていて鳥肌が立ちそう。
あまたのブートレッグの演奏なんか軽く吹っ飛ぶくらいの名演なので、この一曲を聴くために買ったって損はないと思うよ。
全体に短めの曲ばかりなので、欲をいえばもっと長尺の曲とか、メロディアスなバラード系の曲もいれて欲しかったが、これはこれで悪くない。たとえていうなら、「山椒は小粒でピリリと辛い」という感じのアルバム。
ZEPサウンドの秘密を解きあかすためにも、ぜひチェックしてみて欲しい。
<独断評価>★★★