NEST OF BLUESMANIA

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音曲日誌「一日一曲」#254 ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス「Manic Depression」(Are You Experienced?/MCA)

2023-12-31 05:17:00 | Weblog
2013年2月10日(日)

#254 ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス「Manic Depression」(Are You Experienced?/MCA)





ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスのデビュー・アルバムより。ヘンドリックスの作品。チャス・チャンドラーによるプロデュース。

ジミヘンの記念すべきファーストとして余りに有名だが、デビュー盤にして、既に超一級の貫禄さえ漂わせた、完成度の高い一枚である。

ローリング・ストーン誌の選んだアルバム500でも、堂々の15位。黒人のロック・ミュージシャンとしては最高位を獲得している。

オリジナル盤では11曲を収録。その中では「Foxy Lady」に続く2曲目にあたるのが、きょうの一曲である。

ジミ・ヘンドリックスは、アメリカ人ながらイギリスに渡って本格デビューしたという異例の経歴の持ち主だ。母国にいてバンドを率いていた頃はさほど売れなかったが、元アニマルズのチャス・チャンドラーにその卓越した才能を見出され、渡英を要請される。

66年にシングル「Hey Joe」でデビュー、翌年このアルバムが大ヒットして一躍時の人となる。ビートルズの「サージェント~」に阻まれて1位こそ逃したものの、全英2位・全米5位と、そのサウンドで全世界に衝撃を与えたのである。まさに「ジミ・ヘンドリックス体験(エクスペリエンス)」とよぶにふさわしい、未知との遭遇であった。

「Manic Depression」も、ジミ・ヘンドリックスならではの、斬新なサウンドのショーケースだ。

楽曲の進行はブルースをベースにしながらも、一聴、とてもブルースとは思えない新しい音である。

ブルースにはまず使われない変拍子、複雑なリフ、意表をついたフレーズを使い、明らかに別のジャンルの音楽を創造している。それをロックとよんでもいいだろうし、ファンクとよんでもいいだろうが、また違う新たな呼称でよんでもいい。とにかく、ヘンドリックス自身のオリジナルなアイデアが全編に溢れ出しているのだ。

ふたりの白人ミュージシャンをバックに従えた彼は、白人をメインのマーケットにして成功を収めた最初の黒人ロッカーといえる。自らは黒人でありながら、ターゲットはあくまでも白人。当然、そのほうが、同胞の黒人を相手に商売するより、何倍もカネになる。

これが、ハウリン・ウルフのような先輩黒人ブルースマンから見れば、「白人と結託して金稼ぎをしてるヤな野郎」に見えたようで、実際、ウルフに絡まれたこともあるらしい。で、根が真面目で紳士的なヘンドリックスはその罵倒にも黙って耐えていたそうだ。

それでも、ウルフにしたところで、クラプトンをはじめとする白人ロッカーたちが黒人ブルースマンを後押しし、盛り立ててくれていることは意識せざるをえず、数年後には「ロンドン・セッション」でクラプトンらと共演していたりする。既にその時代、黒人ブルースにおいても、白人マーケットを無視することが出来なくなっていたのだ。

その意味でも、ヘンドリックスはまさにパイオニアだった。わざわざ単身大西洋を渡ってイギリスに乗り込み、ブリティッシュ・インベイジョンのお返しをやってのけたのだから。

そして、逆輸入するかたちで、本国アメリカでも大人気となった。究極の英米間のコラボレーション、それが「ジミ・ヘンドリックス体験」ということになるね。

筆者はヘンドリックスの曲を聴くたび、いつも「藍より青し」の言葉を思い出す。そう、中国の諺「青は藍より出でて藍より青し」である。

ヘンドリックスの音楽の出発点はいうまでもなく黒人のブルースだが、彼はそれにとどまることなく、自分自身のアイデアを音楽に盛り込んでいった結果、ブルース以上にリスナーを魅了する音楽を生み出した。まさに「BLUER THAN BLUES」なのである。ギターの腕前ばかり語られがちな彼ではあるが、その作曲や編曲の能力も人並みはずれたものがある。

ブルースを越えてしまったブルースマン、ジミ・ヘンドリックス。アグレッシブなギターと、ワイルドな歌声。これに人生を大きく変えられてしまった若者が、どれだけいたことだろう。

いまだに、聴き直すたびに目からウロコの体験が味わえるのも、ヘンドリックスならではのこと。貴方もぜひ、再体験を!

★今年最後の更新となりました。
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