2024年6月26日(水)
#447 ハービー・ハンコック「Watermelon Man」(Blue Note)
#447 ハービー・ハンコック「Watermelon Man」(Blue Note)
ハービー・ハンコック、1962年リリースのシングル・ヒット曲。ハンコック自身の作品。アルフレッド・ライオンによるプロデュース。
米国のジャズ・ピアニスト、ハービー・ハンコックことハーバート・ジェフリー・ハンコックは、1940年4月イリノイ州シカゴ生まれ。父親は政府の役人だった。7歳からピアノを習い、幼少期よりその才能を認められる。
クラシックをマスターする一方で、ジャズにも興味を持ち、エロール・ガーナー、オスカー・ピータースン、ビル・エヴァンスらを愛聴する。20歳でアイオワ州の大学を卒業して、シカゴでドナルド・バードやコールマン・ホーキンスらの元で演奏活動を始める。
そんな早熟の天才ハンコックが、弱冠22歳で名門ジャズレーベル、ブルーノートで初リーダーアルバムをレコーディング、62年10月にリリースする。それが本日取り上げた一曲「Watermelon Man」を含む「Takin’ Off」である。
レコーディング・メンバーはピアノのハンコックのほか、トランペットのフレディ・ハバード、テナーサックスのデクスター・ゴードン、ベースのブッチ・ウォーレン、ドラムスのビリー・ビギンズというクインテット構成。いずれもハンコックより年上で、中でもゴードンは1923年生まれという大先輩だった。
居並ぶ先輩連中をハンコックはリーダーとして見事に仕切り、一枚のアルバムを完成させた。収録曲はカバー曲なし、全てハンコックの作品であった。当時のジャズ・アルバムとしてはかなり異例の作品だと言える。
そのサウンドは、上記の顔ぶれから予想出来るように、当時全盛を誇っていたハード・バップのスタイルであった。
そして本アルバムより、一枚のシングルがカットされ、全米ポップチャートのトップ100にランクインする。それが「Watermelon Man」である。
60年代はインスト・ジャズの世界でも、曲の流行を狙ってシングルリリースすることが時々あった。例えば、キャノンボール・アダレイの「Mercy, Mercy, Mercy」(66年)、ラムゼイ・ルイスの「The ‘In’ Cloud」(64年)が大ヒットしている。「Watermelon Man」はそれに先立ってヒットした例と言える。
本曲は16小節の変形ブルース進行で、シカゴの裏通りや路地を巡回するスイカ売りの叫び声をモチーフとした曲である。ピアノ・プレイにゴスペルやR&Bの影響も強く、黒人であるハンコックならではのファンキーなセンスが感じられる。
予想以上のヒットとなったこともあって、この曲をカバーしてみたいと考えるミュージシャンが現れた。キューバ出身、ラテンジャズバンドのリーダーにしてパーカッショニスト、モンゴ・サンタマリア(1917年生まれ)である。
ニューヨークのナイトクラブで、ハンコックはチック・コリアが脱退したばかりのサンタマリア・バンドの臨時代役を務めたことがあった。その時、メンバーのドナルド・バードに勧められて、ハンコックは「Watermelon Man」を演奏して、観客やサンタマリアの好評を得たという。そのいかにもダンサブルな曲調が、踊りたい観客の好みにぴったりフィットしたのである。
その後、サンタマリアからハンコックに「あの曲をレコーディングしてもいいか」という打診が来る。そこでハンコックは、アルバム収録のバージョンは7分余りの長尺だったので、改めてシングル向きの3分程度のバージョンを録音してサンタマリアに送ったという。
サンタマリアのバンドがレコーディングした「Watermelon Man」は63年2月にバトルレーベルよりリリースされて、全米10位というオリジナルを上回る大ヒットとなる。
サンタマリア・バージョンは彼のパーカッションを全面的にフィーチャーすると共に「Watermelon Man」というボーカル・コーラスを入れて連呼させることにより、よりキャッチーでダンサブルなナンバーとして仕上がっている。
これでヒットしない方がおかしい、そのぐらい完璧なポップ・チューンだ。
そしてこの重ねてのカバー・ヒットによって、本曲はジャズ・スタンダードとしての地位を不動にした。
その後は、多くのジャズ・ミュージシャン(中にはアルバート・キングのようなブルース系もいた)によりカバーされたのである。
ハンコック自身もこのデビュー・ヒットへの思い入れはひときわ強かったのだろう、オリジナル版のリリースから11年後の1973年10月リリースのアルバム「Headhunters」において、セルフカバーバージョンを披露している。
レコーディング・メンバーは各種キーボードのハンコック、ソプラノサックスのベニー・モービン、パーカッションのビル・サマーズ、ベースのボール・ジャクスン、ドラムスのハーヴェイ・メイスン。
こちらではハード・バップから一転、エレクトリック・ピアノやシンセサイザーを導入して、当時最新のファンク・サウンドを展開している。リズムも大きく異なり、テーマが始まるまでは、まるで別の曲じゃないかと思ってしまうほど。
さすがの天才、同じことは二度やらないのである。
ハービー・ハンコックは84歳となった現在も、精力的に活動を続けている。60年以上にわたるプロミュージシャンとしてのキャリアで彼の生み出した作品数はとてつもない。
とは言え、20歳過ぎのデビュー期に生み出した作品に、すでにしてその卓越した音楽センスは嗅ぎ取れる。
メロディ、リズム、ハーモニー、どれをとっても天賦の才能が横溢した一曲、「Watermelon Man」。
ジャズ・ナンバーで踊りまくるのも、なかなかオツなもんでっせ。