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音盤日誌「一日一枚」#31 レイ・チャールズ「BEST OF RAY CHARLES」(ビクターエンタテインメント)

2021-12-12 04:13:00 | Weblog

2001年4月8日(日)


レイ・チャールズ「BEST OF RAY CHARLES」(ビクターエンタテインメント)

先週、ブルース・ブラザーズを取り上げたときに、レイ・チャールズについても少しふれたが、それもあって89年に出たこのベスト盤をひさしぶりに聴き直してみた。

レイ・チャールズ、いまさらくだくだしく紹介するまでもない、アメリカ音楽界を代表する超ベテラン・シンガー。

1930年生まれ、ローウェル・フルスンのバック・ピアニストとしてプロのキャリアをスタートさせ、それが縁で49年歌手としてデビュー、以来50年以上にわたって活躍し続けてきたひとだ

これまでにリリースしたアルバムは優に70枚以上、ヒットシングルも80曲以上、ソウル・チャートでのNo.1ヒットは10曲、グラミー受賞も10回を超えている。ものスゴいレコード・ホルダーである。

現在の全米音楽業界での「プレジデント」的存在であることは、まちがいないだろう。

しかし、私が思うに、彼の一番スゴいところは「(音楽で)垣根をつくらない」という姿勢だと思う。

黒人ミュージシャンのおおかたは、R&Bの別名、「レイス・ミュージック」という言葉そのままに、自分と同じ黒色人種の人々だけを対象に、その音楽を生み出してきたものである。たとえば、ボビー・ブランドのように。

しかし、レイは決して黒人だけのために自分の音楽を作ろうとはしなかった。

彼はR&B、ゴスペルをベースに、ジャズのフレーバー、そして元来は白人の音楽であるカントリーのセンスも積極的に取り入れて、ジャンルを超えた類例のない世界を作り上げた。

黒人音楽は、黒人が聴くべきもの。そういう固定観念を、彼は見事に打ち破った。そして、白人においても多くのリスナーを獲得し、多くのブルー・アイド・ソウル歌手にも影響を与えたのである。

彼をR&B歌手だのカントリー歌手だのとカテゴライズすることなど、まったく無意味なことであろう。ただただ「歌手(シンガー)」、こう呼ぶのが正しい。

ところで、このアルバムは89年に日本でのみリリースされヒットした「エリー・マイ・ラブ」(サザンの「いとしのエリー」の英語版)がらみで企画された、ABCレコード時代(59年~73年)のベスト盤である。

「ジョージア・オン・マイ・マインド」「愛さずにはいられない」「アンチェイン・マイ・ハート」といった大ヒット16曲に、その「エリー・マイ・ラブ」を加えて収録。

もともと、「エリー・マイ・ラブ」はサントリー・ホワイトのCFのために仕掛けられたタイアップ企画であるが、そのため巨額の日本円が彼に支払われたことは、想像に難くない。

また、レイは、近年和田アキ子ともステージで共演したりしている。

このあたりのレイの動きに対して、批判的な意見も当然存在する。

アメリカのミュージック・シーンの頂点―つまりは世界の頂点でもある―を極めたようなひとが、いくら高額の条件とはいえ、「格下」もいいところの日本のミュージシャンたちにホイホイと協力するなんて、何事だという批判である。

しかし、私の見るところでは、レイはただ金欲しさだけで、そういうことをやっているわけではない。

レイ・チャールズというひとは、音楽で垣根を作らないのと同様、人付き合いでも垣根を作らないひとなのである。

自分のこと、自分の音楽を好きだというミュージシャンがいれば、格が自分より上だろうが下だろうが、その音楽に耳を傾け、気に入れば協力する。

そういう、根っからリベラルな考え方のひとなのである。相手が自分と同じ黒人であろうが、白人であろうが、はたまた東洋人であろうが、関係ない。

彼は盲目であるがゆえに、目に障害を持たない人々よりむしろ、先入観・偏見のたぐいから解放されているのかも知れない。

私たちは目が見えているがゆえに、視覚的情報に翻弄され、かえって多くの偏見を抱え込んでいる。

本来、自由で差別のない世界を目指すべき「音楽」にまで、白いだ黒いだ美形だブスだといった「ものさし」を持ち込んでしまっているのである。

音自体には「白い音」も「黒い音」も実は存在しない。私たちの意識がそういうフィルターを勝手にかけているだけなのである。

このシンプルな文字だけのデザインのCDジャケットには、彼のあの特徴ある顔の写真すら使われていない。

彼が黒人であることなど意識せず、ただただ虚心に、彼の歌声だけを聴くべし。

そう、このジャケットは語りかけているのも知れない。



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