2003年1月19日(日)
ポール・ロジャーズ「シングズ・ジミ・ヘンドリックス・ライヴ」(ビクターエンタテインメント VICP-2092)
(1)PURPLE HAZE (2)STONE FREE (3)LITTLE WING (4)MANIC DEPRESSION (5)FOXY LADY
先日、バドカンのデビュー・アルバムを取上げてみたが、ポール・ロジャーズ、これは比較的最近の作品。
1993年7月4日、マイアミのベイフロント・パークにて行われた野外ライヴを収録したミニ・アルバムだ。
タイトルからわかるように、全曲、ジミヘンのカヴァーというトリビュート・ライヴなんである。
まずは、(1)から。ロック・ファンなら知らぬものはない、ジミヘンの代表曲。彼のデビュー・アルバム「ARE YOU EXPERIENCED?」に収録され、シングルとしてもヒットした。
ジミのライヴでも頻繁に演奏されたこの「十八番」を演奏するのは、ヴォーカルのポール・ロジャーズを筆頭に、ギターの二ール・ショーン(元サンタナ、ジャーニー)、ベースのトッド・ジェンセン、ドラムのディーン・カストロノーヴォの面々。ちなみにリズムのふたりは二ール・ショーンのバンド、ハードラインのメンバー。当然、巧者揃いだ。
おなじみのギターのイントロが始まると、場内はもう、大騒ぎ。ポールの歌にあわせて、自然と客席からコーラスまで始まってしまう。
ギターにおけるジミヘン役の二ールは、ジミほど意外性のあるフレーズを繰り出すわけではないが、さすがのキャリア、エフェクトやアーム等を的確に駆使して、ハードでコシのある音を聴かせてくれる。
続く(2)もおなじみのナンバーだ。前曲同様、「ARE YOU EXPERIENCED?」に収録。
アップ・テンポでグイグイと飛ばす、ドライヴ感あふれるナンバー。
途中にクリ-ムの「アイ・フィール・フリー」を"フリー"つながりで挟み、全速力で疾走する。
ここでの二ールのギター・ソロは、壊れまくりという感じ。かなりキちゃってます。(もちろん、カッコいいって、意味でっせ。)
もちろん、ポールの強靭なノドも、それに負けじと吼えまくりますが。
さて、(3)は、ガラリと趣きを変えてスロー・ナンバー。ジミのセカンド・アルバム「AXIS: BOLD AS LOVE」に収録された、ジミの数あるオリジナル・ナンバーでも屈指の、美しいメロディをもった曲だ。
いろんなアーティストにカヴァーされているが、なんといってもデレク・アンド・ドミノスのヴァージョンが有名だろう。
だが、このポールのヴァージョンも、それに勝るとも劣らぬいい出来だと思う。
ポールはジミの曲を、まるで自分のオリジナル・ナンバーであるかのように、自在に歌いこなす。
これはもちろん、ポールの歌がメチャクチャ上手いということもあるが、ジミヘンの感性がポールのそれとぴったり一致しているということもあるだろう。実に見事なフィット感だ。
一方ではマディ・ウォーターズをトリビュートしながら、ジミのようなラディカルなサウンドも自家薬篭中のものとしているとは、ポールの懐の広さを示すものだと思う。
そして同時に、ジミヘンの音楽は「最も進歩的なブルース」でもあったのだなと感じる。
次の(4)は、再びアップ・テンポのロック。これまた、「ARE YOU EXPERIENCED?」に収められたナンバー。ハードなリフと変拍子ふうのワルツ・リズムが印象的だ。
緊張感あふれるサウンド、そして野性味たっぷりのヴォーカル。これぞロック!ですな。
ラストの(2)はこれもまた代表曲、デビュー・アルバムにおいて(1)と好一対をなしていた、ミディアム・テンポのナンバー。
ジミヘン・サウンドの典型ともいえる、フィードバックやアームを多用したギター。「早熟の天才ギタリスト」とよばれた二ールのプレイも、やはり、ジミの影響なしには生まれえなかったということが、よくわかる。
ヴォ-リストとしてのジミは、いささかクセがあって、その歌はかならずも聴きやすくはないが、ポールはその完璧な歌唱力でオリジナルの弱点もカヴァー、最強のライヴ・サウンドを提供している。
こういう「トリビュート企画もの」のアルバムは、ともするとオリジナルに遥か及ばず、そして演奏者自身のレギュラー・アルバムにも劣る出来になりがちだが、この一作はポールや二ールの「作品」として見ても、一定水準に達した出来となっている。
誰にでもおススメというわけではないが、骨太のロックがお好きなかたには、一度はチェックしていただきたいものだ。
<独断評価>★★★