2006年2月12日(日)
#306 ロッド・スチュアート「HANDBAGS & GLADRAGS」(MERCURY 528 823-2)
ロッド・スチュアート、マーキュリー時代のベスト・アルバム。95年リリース。
この1月で61才を迎えたロッド。スモール・フェイセズ~フェイセズの看板シンガーをつとめながらも、一方でソロ活動も行っていた69年から74年までの、彼のソロ・レコーディングを集大成した一枚だ。
ロッドといえば元祖スーパースターのひとり。そのキャリアは40年以上にも及ぶ。今でも昔と変わらぬスリムな体型を保ち、トレードマークの嗄れ声を聴かせてくれるのだが、正直言ってここ20年以上、その作品に見るべきものはないように思う。
多数のヒットを出し、スーパースターとしての地位を盤石にしたあたりから、その音楽の成長は止まってしまった。
ソロ・アルバムの出来ばえ(クリエイティブな意味での)としては、ロッドが30代にさしかかったばかりの、75年の「アトランティック・クロッシング」、76年の「ア・ナイト・オン・ザ・タウン」あたりがピークだったという気がする。
やはり、彼が昇り調子だった70年代前半にこそ、傑作アルバムの大半が生み出されていたのである。
たとえばなつかしの「ガソリン・アレイ」、そして「エブリ・ピクチャー・テルズ・ア・ストーリー」。日本でも、ロッドの名前を一躍メジャーなものとした作品群である。
本盤には前者から9曲中の6曲(ただし「イッツ・オール・オーバー」はシングル・バージョン)、後者からは8曲中5曲を収録。
全37曲、「マギー・メイ」をはじめとするおなじみのヒット・チューンもほぼ完全網羅しており、アルバム約4枚分のボリュームは聴きごたえ十分だ。
個人的に好きなのは、アルバム・タイトルにもなった「ハンドバッグス&グラッドラッグス」「ガソリン・アレイ」「マギー・メイ」、そしてその流れを汲んだ「ユー・ウェア・イット・オール」といったアコースティック・サウンドのナンバーかな。優しいアコギやピアノの響き、シンプルなドラミング。ちょっとフォーキーでいなたいサウンドが、ロッドのハスキーな声に意外とマッチしている。
カバーものにも、良曲が多い。たとえばボブ・ディランの「オンリー・ア・ホーボー」、ティム・ハーデンの「リーズン・トゥ・ビリーブ」、エルトン・ジョンの「カントリー・コムフォート(故郷は心の慰め)」、そしてボビー・ウーマックの「イッツ・オール・オーバー」といったところ。心にしみるバラードあり、ノリのいいナンバーあり、実にツボをおさえた心憎い選曲ばかりだ。
もちろん、ロッドお得意のロックン・ロール路線の曲もたっぷり楽しめる。ストーンズの「ストリート・ファイティング・マン」、サム・クックの「ツイスティン・ザ・ナイト・アウェイ」、チャック・ベリーの「スウィート・リトル・ロックン・ローラー」などなど。聴けば思わず、体が踊り出しまっせ。
のちのスーパースター然とした、一流モデルや女優をとっかえひっかえ付き合う、どこかスカしたロッドとは違った、素朴で気取りのない音楽。これが実にいい感じだ。
フォ-ク、トラッド、R&B、ロックン・ロールといった、自身のルーツ・ミュージックを素直に追求しているロッドにこそ、彼本来の魅力がもっともあらわれていると思うのは、筆者だけであろうか。
曲の魅力、歌声の魅力、どれも一級品ぞろい。いなたくも新鮮さにあふれていた時代のロッドを、この一枚で堪能してほしい。
<独断評価>★★★★