2023年2月25日(土)
#465 吉川晃司「MODERN TIME」(SMS MD32-5022)
シンガー吉川晃司、4枚目のスタジオ・アルバム。86年リリース。木崎賢治、梅鉢康弘のプロデュース。
吉川は65年、広島県生まれ。84年、シングル「モニカ」でデビュー。
筆者は吉川のことを、デビュー当初からしっかりと意識していた。
180cm以上の長身で、しかも逆三角形体型の超カッコいいヤツ(ただし、顔はまあまあ)が映画デビューして、歌でもデビュー。
しかもその曲は、筆者も仕事絡みではあったが激推ししていた、NOBODYによるポップなナンバーだという。
やっかみ半分で聴いたら、これが意外とイケる。
ということで、しっかりヤツにハマってしまい、カラオケでは毎度、吉川のデビューからのシングル3連発を歌うようになった(笑)。
とにかくデビューしてまもない頃の吉川は、ミーハーな女性ファンの多い、ロックミュージシャンもどきの青春スター、そんな感じだった。
しかし、デビュー3年目に入ると、吉川もがむしゃらに働く(というかひとの指示で働かされる)モードからようやく脱して、自分が本当は何をやりたいのか、考えられるようになってきた。
ポップ・アイドルからアーティストへの、脱皮の時期が来たのだ。
そんな意味で、この「MODERN TIME」は吉川の「覚醒モード」の一枚と言えるだろう。
「Mis Fit」は安藤秀樹作詞、原田真二作曲のナンバー。
安藤はシンガーソングライターで、デビュー盤以来の付き合い。原田は言うまでもなく、ロック御三家のひとりとして人気の高いアーティスト。彼もまたデビュー以来曲を提供している。
コンピュータ・サウンドとハード・ロックの完璧な融合。当時最新のスタイリッシュな音がここにある。
「キャンドルの瞳」は先行シングル。オリコン2位。これも安藤と原田による作品だ。
初期の、NOBODY的ライト・ポップ路線から脱却したことを示すナンバー。
エレクトロ・ポップを基調としながらも、陰影を感じさせるマイナー・メロディ、歌詞、サウンドはロックと呼ぶにふさわしい。サックス・ソロもハマっている。
「Modern Time」は作詞・作曲ともに吉川。
吉川は前作「INNOCENT SKY」では作曲の大沢誉志幸と組んで作詞デビューしていたが、ついに作曲にも進出したのだ。名実ともにアーティストとしての条件をクリアしたと言える。
しかもこの曲でシングル・カット。結果はオリコン10位と従来より若干後退してしまったものの、吉川=アーティストというイメージをファンに強く印象づけることに成功した。
そのため初期からの、吉川にアイドル・イメージを追い求めるファンたちは、ほとんど消え去ってしまったと言う。
吉川本人としてはそれは望むところだったようで、以後彼は、自分の新しいイメージを思うがままに追求するようになる。
松武秀樹のプログラミング・サウンドから始まる、文字通りモダンで洒落た音を楽しもう。
「MISS COOL」は安藤と中島文明(現フミアキ)によるナンバー。ニューウェーブ・サウンドながらファンクでもある。
前作以来吉川のバックをつとめている後藤次利の、本気度を感じさせるスラップ・ベースがカッコいい。
そしてアルバム収録曲はすべて、後藤がアレンジしている。すなわち、吉川のであると同時に後藤の世界でもあるのだ、この「MODERN TIME」は。
つまり、ふたりのロック・ワールド。
「Drive 夜の終わりに」は安藤とキーボーディスト、佐藤健のナンバー。ゆったりとしたテンポのバラード・ロック。
かつては若干うわずっていたその歌いぶりにも余裕が出てきて、この曲などはとても説得力が感じられる。シンガー吉川の覚醒でもあるのだ。
「選ばれた夜」は安藤と原田の作品。ミディアム・テンポのロック・ナンバー。ビートに力強さを感じるサウンドだ。
「BODY WALK」は安藤と吉川の作品。ロックンロール、ハード・ロックを基調にした、気分のアガるナンバーだ。
「ナーバス ビーナス」は12インチシングルにカットされたナンバー。オリコン12位。吉川の作詞・作曲。
通常サイズのシングルだけでなく、ダンス・ピープルの需要を考えて12インチシングルも出していたあたり、流行に敏感な吉川らしい。
サビのメロディがなかなかキャッチーで、吉川は作曲のセンスもあるなと感じさせる出来ばえだ。
「サイケデリック HIP」は吉川の作詞・作曲。
後藤のスラップ・ベースが暴れまくる一曲。そしてハードなギターを弾くのは布袋寅泰、北島健二のふたり。
布袋はこのアルバムから吉川をバックアップするようになり、以後のアルバムにはすべて参加している。よほど、ウマが合ったのだろう。
つまり、88年に結成されるCOMPLEXというスーパー・グループの芽は、すでにこの時点でめばえていたということか。
布袋はボウイにおいて商業的成功を収めていたが、何かひとつ足りないものを感じていたのだろう。
それを吉川という、稀有な容姿と才能を持つ男の中に発見したということではなかろうか。
ロックとはただの音楽ではない。優れた曲を作り、いい演奏をすれば誰でもいい、そういうものではない。
「誰がそれをやるか」、それが音楽そのものと同じくらい重要なのだ。
他を圧するビジュアルを持つ、そういう人がやってこそ、優れた音楽も100倍、1000倍の威力を持つ。
顔はアジア人だからイマイチなのは仕方ないが、他を圧倒するタッパ、体格を持ちステージ映えのする吉川、そして布袋がタッグを組めば、天下を取れるのは当然だ。
彼らこそは、ハウリン・ウルフとヒューバート・サムリンに匹敵する、強力なタッグなのだと思う。
ラストの「ロスト チャイルド」は安藤の作詞・作曲。
哀感あふれるメロディのバラード・ロック。デジタル・ビートに絡むサックスとギターが味わい深い。
吉川はその後もコンスタントに活動を続け、現在も何年かに一枚のペースでアルバムもリリースしている。
いまや57歳となり、見かけはすっかりシニアとなったが、あえて白髪染めなどしないところがロックだなと思う。
青春アイドルであることをやめ、従来の芸能人的な生き方を捨てたことにより、吉川は今に至る道を発見出来たのだろう。
<独断評価>★★★★
シンガー吉川晃司、4枚目のスタジオ・アルバム。86年リリース。木崎賢治、梅鉢康弘のプロデュース。
吉川は65年、広島県生まれ。84年、シングル「モニカ」でデビュー。
筆者は吉川のことを、デビュー当初からしっかりと意識していた。
180cm以上の長身で、しかも逆三角形体型の超カッコいいヤツ(ただし、顔はまあまあ)が映画デビューして、歌でもデビュー。
しかもその曲は、筆者も仕事絡みではあったが激推ししていた、NOBODYによるポップなナンバーだという。
やっかみ半分で聴いたら、これが意外とイケる。
ということで、しっかりヤツにハマってしまい、カラオケでは毎度、吉川のデビューからのシングル3連発を歌うようになった(笑)。
とにかくデビューしてまもない頃の吉川は、ミーハーな女性ファンの多い、ロックミュージシャンもどきの青春スター、そんな感じだった。
しかし、デビュー3年目に入ると、吉川もがむしゃらに働く(というかひとの指示で働かされる)モードからようやく脱して、自分が本当は何をやりたいのか、考えられるようになってきた。
ポップ・アイドルからアーティストへの、脱皮の時期が来たのだ。
そんな意味で、この「MODERN TIME」は吉川の「覚醒モード」の一枚と言えるだろう。
「Mis Fit」は安藤秀樹作詞、原田真二作曲のナンバー。
安藤はシンガーソングライターで、デビュー盤以来の付き合い。原田は言うまでもなく、ロック御三家のひとりとして人気の高いアーティスト。彼もまたデビュー以来曲を提供している。
コンピュータ・サウンドとハード・ロックの完璧な融合。当時最新のスタイリッシュな音がここにある。
「キャンドルの瞳」は先行シングル。オリコン2位。これも安藤と原田による作品だ。
初期の、NOBODY的ライト・ポップ路線から脱却したことを示すナンバー。
エレクトロ・ポップを基調としながらも、陰影を感じさせるマイナー・メロディ、歌詞、サウンドはロックと呼ぶにふさわしい。サックス・ソロもハマっている。
「Modern Time」は作詞・作曲ともに吉川。
吉川は前作「INNOCENT SKY」では作曲の大沢誉志幸と組んで作詞デビューしていたが、ついに作曲にも進出したのだ。名実ともにアーティストとしての条件をクリアしたと言える。
しかもこの曲でシングル・カット。結果はオリコン10位と従来より若干後退してしまったものの、吉川=アーティストというイメージをファンに強く印象づけることに成功した。
そのため初期からの、吉川にアイドル・イメージを追い求めるファンたちは、ほとんど消え去ってしまったと言う。
吉川本人としてはそれは望むところだったようで、以後彼は、自分の新しいイメージを思うがままに追求するようになる。
松武秀樹のプログラミング・サウンドから始まる、文字通りモダンで洒落た音を楽しもう。
「MISS COOL」は安藤と中島文明(現フミアキ)によるナンバー。ニューウェーブ・サウンドながらファンクでもある。
前作以来吉川のバックをつとめている後藤次利の、本気度を感じさせるスラップ・ベースがカッコいい。
そしてアルバム収録曲はすべて、後藤がアレンジしている。すなわち、吉川のであると同時に後藤の世界でもあるのだ、この「MODERN TIME」は。
つまり、ふたりのロック・ワールド。
「Drive 夜の終わりに」は安藤とキーボーディスト、佐藤健のナンバー。ゆったりとしたテンポのバラード・ロック。
かつては若干うわずっていたその歌いぶりにも余裕が出てきて、この曲などはとても説得力が感じられる。シンガー吉川の覚醒でもあるのだ。
「選ばれた夜」は安藤と原田の作品。ミディアム・テンポのロック・ナンバー。ビートに力強さを感じるサウンドだ。
「BODY WALK」は安藤と吉川の作品。ロックンロール、ハード・ロックを基調にした、気分のアガるナンバーだ。
「ナーバス ビーナス」は12インチシングルにカットされたナンバー。オリコン12位。吉川の作詞・作曲。
通常サイズのシングルだけでなく、ダンス・ピープルの需要を考えて12インチシングルも出していたあたり、流行に敏感な吉川らしい。
サビのメロディがなかなかキャッチーで、吉川は作曲のセンスもあるなと感じさせる出来ばえだ。
「サイケデリック HIP」は吉川の作詞・作曲。
後藤のスラップ・ベースが暴れまくる一曲。そしてハードなギターを弾くのは布袋寅泰、北島健二のふたり。
布袋はこのアルバムから吉川をバックアップするようになり、以後のアルバムにはすべて参加している。よほど、ウマが合ったのだろう。
つまり、88年に結成されるCOMPLEXというスーパー・グループの芽は、すでにこの時点でめばえていたということか。
布袋はボウイにおいて商業的成功を収めていたが、何かひとつ足りないものを感じていたのだろう。
それを吉川という、稀有な容姿と才能を持つ男の中に発見したということではなかろうか。
ロックとはただの音楽ではない。優れた曲を作り、いい演奏をすれば誰でもいい、そういうものではない。
「誰がそれをやるか」、それが音楽そのものと同じくらい重要なのだ。
他を圧するビジュアルを持つ、そういう人がやってこそ、優れた音楽も100倍、1000倍の威力を持つ。
顔はアジア人だからイマイチなのは仕方ないが、他を圧倒するタッパ、体格を持ちステージ映えのする吉川、そして布袋がタッグを組めば、天下を取れるのは当然だ。
彼らこそは、ハウリン・ウルフとヒューバート・サムリンに匹敵する、強力なタッグなのだと思う。
ラストの「ロスト チャイルド」は安藤の作詞・作曲。
哀感あふれるメロディのバラード・ロック。デジタル・ビートに絡むサックスとギターが味わい深い。
吉川はその後もコンスタントに活動を続け、現在も何年かに一枚のペースでアルバムもリリースしている。
いまや57歳となり、見かけはすっかりシニアとなったが、あえて白髪染めなどしないところがロックだなと思う。
青春アイドルであることをやめ、従来の芸能人的な生き方を捨てたことにより、吉川は今に至る道を発見出来たのだろう。
<独断評価>★★★★