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音盤日誌「一日一枚」#294 シェリル・リン「グッド・タイム」(abex trax AVCD-11340)

2022-09-04 06:09:00 | Weblog

2005年11月13日(日)



#294 シェリル・リン「グッド・タイム」(abex trax AVCD-11340)

シェリル・リン、95年のアルバム。テディ・ライリー、ロッド・ギャモンズ、ジャジー・B、シェリル自身ほかによるプロデュース。

オレがまだ若くて六本木(ポンギ)をブイブイいわせていたころ― そこのチミ、「エーッ、ウッソー!?」なんて返しはしないよーに(笑)―ポンギ中のディスコでかからぬ日がなかったという超人気曲がある。シェリル・リンの「ガット・トゥ・ビー・リアル」だ。

シェリル・リン、57年ロサンゼルス生まれの現在48才。

大学在学中に、友人が勝手に応募してしまったオーディションで優勝、ジャズ・ピアニスト&アレンジャーのマーティ・ペイチ(トトのメンバー、デイヴィッドのおやっさんね)の目にとまり、彼の肝煎りで華々しく78年メジャーデビュー。バックに息子を含むトトのメンバーや、デイヴィッド・フォスター、レイ・パーカー・JRらそうそうたるメンツが参加したファースト・アルバムとシングル「ガット・トゥ・ビー・リアル」が大ヒット。以来、トップ・ソウル・シンガーとしての評価にゆるぎはない。

まあ、シンデレラ・ストーリーを絵に描いたような人なんだが、もちろん実力があっての話。日本みたいにちょっと可愛くて、そこそこ歌えたらすぐ歌手になれてしまうような国とは訳が違う。

多少の運のよさはあるにせよ、天性の歌のうまさ、抜群のリズム感にして初めて獲得したポジションだといえる。

さて、そんなシェリルにも、さすがに中だるみの時期はある。89年にオリジナル・アルバムを発表したのちは、ぴたりとリリースが止まってしまう。

たしかに彼女も30代に入り、世間的にも彼女より下の世代のシンガーに関心が移っていた。このまま「あのひとは今」的な扱いを受けるだけ、そういうふうに見えた。

どっこい、彼女はそのままでは終わらなかった。彼女の音楽とは一見異質に思えるヒップ・ホップ、DJカルチャーの台頭により、彼女に再びスポットライトが当たることになったのだ。つまり、スクラッチ、サンプリングの素材として、彼女の「ガット・トゥ・ビー・リアル」をはじめとするナンバーが好んで使われたのである。

そして、このアルバムで見事、復活をとげる。実質的にはジャパン・マネーによるプロデュースなわけだが、エイベックスさんも、たまにはいい仕事するじゃないの(笑)。

マイケル・ジャクスンのプロデュースなどで知られる敏腕プロデューサー、テディ・ライリーがこのアルバムのメイン・コンダクターなわけだが、仕上がりは当然ながら、非常にいい。また、シェリル自身の単独プロデュースによるナンバーも5曲あって、こちらも上々の出来。歌だけでなく、コンポージングにも格別の才能を持っていることがよくわかる。

それらの中でも一番目を引くのは、「ガット・トゥ・ビー・リアル」の再演、「~'95」だろう。

これを聴くに、シェリルの歌声がまったく衰えていないことがよくわかる。オリジナル・ヴァージョンにまさるとも劣らぬ、気合い十分な快唱ぶりである。グレッグ・フィリンゲインズ、ジェリー・ヘイによる新アレンジも、ぴたりとはまっている。

この一曲が、リリース後四半世紀以上にわたって及ぼした影響には、はかり知れないものがある。シェリル・リン自身の音を聴いたことがない人々でも、たとえばドリカム(「決戦は金曜日」とか、かなり露骨にパクっている)あたりのアーティストを通じて、その影響下にあるわけだから。

「ガット・トゥ~」以外の曲も、もちろん悪くない。個人的に好きなのは、バラード系の「イフ・ユー・フィール」や「テイク・ミー・フォー・ア・ライド」「ソー・スウィート」あたりかな。「おきゃん」というイメージの強いシェリルであるが、非常にしっとりした曲調でも、抜群のうまさを発揮してます。

彼女お得意のテンポのある曲でいえば、「ドント・ウォリー・ビー・ミストリーテッド」、「グッド・タイム」などが好み。こちらでは、カンロク十分、姐御肌の歌声が楽しめます。「アイ・フォーガット」の「ど」が付くくらいソウルな歌いぶりもいい。

この一枚が出たのが呼び水になったのか、翌年には本国でもベスト盤が相次いでリリースされ、その後もリミックス盤、ベスト盤の類が何回も出ているのを見ると、彼女の音楽の「ディスコ/クラブ・クラシック」としての人気は完全復活したといえそうだ。

あとは、再び、オリジナル・アルバムを期待したいところだ。

先々週取り上げたアニタ・ベイカーのときにも言ったことだが、歌の世界は奥が深く、40代、50代にして初めて表現出来ることもある。シンガーとしての真骨頂は、まさにこれからなのだ。

大先輩アレサにも負けぬ本格派を目指して、大人の歌を聴かせ続けて欲しい。

<独断評価>★★★★


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