2004年12月12日(日)
#251 エリック・クラプトン「461オーシャン・ブールヴァード」(POLYDOR POCP-2275)
エリック・クラプトン、74年のアルバム。トム・ダウドによるプロデュース。
なんだかんだいっても、ロック史をこの一枚抜きで語るわけにはいかない、そういうアルバムだろう。
デレク&ドミノス解散後約3年間、ECは音楽活動をほぼ中断していた。
皆さんもご存じのように、その間ずっと、重度のドラッグ中毒との闘いを続けていたのである。
74年4月、ついに彼は音楽活動へのカムバックを決意する。そして、8月にこのアルバムをリリースし、不死鳥のように甦る。
出来ばえは、本当に見事なものだった。過去の自分をいったん捨て、新しいECのサウンドを打ち立てたのである。
たとえば、EC初の全米ナンバーワンヒットとなった「I SHOT THE SHERIFF」。ボブ・マーリィ&ザ・ウェイラーズをカヴァーしたこのナンバーは、かつてのタイトなECサウンドからは想像もつかない、ゆるやかでメロウなヨコノリの音だ。
そう、ここからECの「レイドバック」な音は本格的に始まったといってよい。
バック・サウンドはデレク&ドミノスを想起させるトップ・チューン「MOTHRLESS CHILDREN」にしても、その歌いぶりは何とも力みがなく、自然体。かつて、自分の力量を越えて無理にシャウトしようとしていたECからは、明らかに一皮剥けたという印象がある。
そう、ECが「ヴォーカリスト」として、初めて己れの力量を客観的に把握し、その長所を生かした歌をうたえるようになったのがこの一枚からではなかろうか。
酒やドラッグに溺れ、親友から奥さんを奪うような「やんちゃ」を繰り返して来た彼も、ようやく「矩(のり)」をこえずに生きられるようになったということか。ときにEC29歳。
ECの新しい世界は、他の曲でも随所に見出すことが出来る。たとえば「GET READY」。
クラプトンのオリジナル曲とはいえ、リズム・アプローチはいかにもボブ・マーリィらレゲェ・アーティスト達の影響を感じさせ、ものすごく新鮮だ。アジア系女性シンガー、イヴォンヌ・エリマンとの歌での絡みも、ねちっこくイカしている。
何曲か収録されている、ブルース・スタンダードのカヴァーは、ECが従来からやって来たことではあるが、こちらも少しテイストというかリズム・アレンジが変化しているように思う。
たとえば「WILLIE AND THE HAND JIVE」。ジョニー・オーティスで知られるこのナンバーも、知らずに聴けば過去の曲とは思えないだろう。
なんだかのどかで、南方の島っぽい音なんである。ギターはおさえめにリズム・カッティングに徹し、キーボードを前面に押し出したアレンジ、ゆるめのビートが、そういう気分にさせるのだろう。
たとえていうなら、以前のクラプトンは寒風吹きすさぶシカゴにいたとすれば、この一枚での彼は、常夏のキングストンまで一気に移動して来たというところ。
当盤を実際にレコーディングしている場所も、フロリダ州マイアミだった。これは彼の気分、そして音に少なからず影響を与えたといえそう。
「I CAN'T HOLD OUT」は、スライド・ギターの神様ことエルモア・ジェイムズのナンバー。これまたルースでダウン・トゥ・アースなノリが印象的。
ECはスライド・ソロも披露。テンポはスローなのに、何ともスピード感に満ちている。さすがこちらもギターの神。
「STEADY ROLLIN' MAN」はECお気に入りのロバート・ジョンスン作のブルース。こちらは、ブルースというよりは、ファンクなアレンジでモダンな味わいに仕上がっている。完全に彼流に消化されているのが、お見事。
一方、フォーキーな曲、アコースティックなバラード系のナンバーにも佳曲多し。「GIVE ME STRENGTH」しかり、「PLEASE BE WITH ME」しかり、「LET IT GROW」しかり。いずれも美しいメロディを、力みのないナイーブな歌声で聴かせてくれる。
これらの作品群が、パティ・ボイドとの恋から生み出されたものであろうことは、想像に難くない。
ラストは「MAINLINE FLORIDA」で締めくくり。ロックっぽい、メリハリある演奏とコーラスが◎。
彼が過去やって来たブルースでもなく、ブルース・ロックでもなく、ハード・ロックでもない、「ECのロック」がここにはある。
迷い多き巨人ECが、試行錯誤の末に、ついに自分の進むべき道を見出した一枚、ということでこの「461~」というアルバムの意味はとてつもなく大きい。
ECにとって、そしてロックという音楽にとって「格別」の一枚。必聴です。
<独断評価>★★★★★