2022年12月8日(木)
#389 KING CRIMSON「クリムゾン・キングの宮殿」(WHD Entertainment IECP-50001)
英国のロック・バンド、キング・クリムゾンのデビュー・アルバム。69年リリース。彼ら自身によるプロデュース。
キング・クリムゾンは68年結成。マイケルとピーターのジャイルズ兄弟、そしてロバート・フリップの3人に、イアン・マクドナルド、ピート・シンフィールド、グレッグ・レイクらが次々に加わるかたちで、出来上がったバンドだ。
パートはフリップがギター、レイクがボーカル、ベース、マクドナルドがキーボード、サックス、フルートほか、マイケル・ジャイルズがドラム、シンフィールドが作詞である。
バンド名は誰もが容易に推測出来るように、デビュー・アルバムのタイトル・チューンから取ったもの。
実は他のメンバーは乗り気でなかったが、作詞したシンフィールドの強い要望、というかゴリ押しでこれに決まったらしい。
その後、現在に至るまで一度も改名しなかったということは、この選択で正解だったということかな(笑)。
アルバムのセールスは全英で5位と、まずまずの成果を出した(全米は28位)。
無名のバンドのデビュー盤としては、なかなかの成功と言え、音楽業界内にも反響が大きかった。
オープニングの「21世紀のスキッツォイド・マン」からして、相当なセンセーションを巻き起こした。
邦訳タイトルは、当初は「21世紀の精神異常者」。
旧タイトル通り、かなりヤバい雰囲気がプンプンとするナンバー。
ディストーションを施した、レイクのガナるようなボーカル、フリップとマクドナルドが超高速のパッセージを弾き、吹きまくる間奏。
狂気と喧騒、ジャズとロックが溶け合ったディストピア・ミュージック。
キング・クリムゾンの動的側面を代表するような一曲だ。
後代に与えた影響も凄まじく、洋の東西を問わず、数十のアーティストによるカバー・バージョンがある。
その超絶技巧ゆえに、完全コピーへの意欲をかき立てるものがあるのだろう。
だが、二曲目からは一転、静謐で神秘的なムードになる。「風に語りて」である。
カオスな曲調から、整然とした世界へ。実に見事な切り替えだ。フルートの響きが効果的に使われている。
シンフィールドの象徴的な詩は、正直言って和訳を読んでも言わんとすることはよく分からないのだが、ファンにとっては、些末なことなのだろう。
「考えるより、感じろ」
そういうことだろうな。
続く「エピタフ(墓碑銘)」もまた、ゆっくりとしたバラッド。
幻想的な歌詞と、メロトロン、アコギを導入したメランコリックな演奏。
レイクの端正で悲しげなボーカルにより紡ぎ出される、独自のクリムゾン・ワールド。
聴くごとに、深みにハマりそうな魅力がそこにはある。
この曲もまた、いくつもの秀逸なカバー・バージョンを生み出したが、中でも「えっ!?」と言いたくなるのは、日本のアイドル・グループ、フォー・リーブスによるバージョンだろうな。ジャニーさんの先物買いのセンス、やっぱスゲーな。
それはともかく、A面はこの3曲のみ。B面はさらに少なく、2曲である。
昨日取り上げたビートルズの「アビイ・ロード」ではないが、組曲構成を取っている曲が大半だからね。
当時盛んになろうとしていたいわゆる「プログレッシブ・ロック」においては、平均3分のシングル曲という伝統を無視して、一曲がどんどん長尺になっていった。
片面まるごと一曲、さらには両面で一曲なんてのもあったほど。
昨今の「タイパ=タイム・パフォーマンス」にうるさい、長ったらしいイントロや楽器のソロなんていらないという若者たちから見れば、信じられない話かもしれないが、当時はポピュラー・ミュージックの世界でも、クラシック同様、一曲の長さをどっぷりと楽しもうという方向に確実に向かっていたのである。
閑話休題、「クリムゾン・キングの宮殿」B面の話に戻ろう。
B面は「ムーン・チャイルド」から始まる。
アルバム中最長、12分以上に及ぶ大曲。
パセティックなムードの、フォーク調のナンバー。
レイクの歌唱の後には、オフ・ピートなアンビエント・ミュージックっぽいインストゥルメンタルが延々と続く。
さらには、ほとんどミュージック・コンクレートとも言えそうな、メロディすらない、サウンド・エフェクトのみの部分へと続く。
完全に実験音楽だよな、これは。
だがこれもまた、キング・クリムゾン・ミュージックの一部だということだろう。
ノリとかウケとかいった、従来のロックに不可欠の部分をあえて無視した、「ズラし」の音楽。
このような音が、全英5位を獲得したのも、時代背景あってのことだろう。
長ーい「ムーン・チャイルド」が唐突に終わり、始まるのがラストの「クリムゾン・キングの宮殿」だ。
アコギのバックでレイクが歌い上げる、魔女の登場するもうひとつの世界。
ジャケットに使われたイラストの、鬼面人を驚かすようなビジュアルとの相乗効果で、キング・クリムゾンは聴く者どもを異世界へと引きずり込んでいく。
マクドナルドの流麗なフルートソロ、そして再び、レイクの詠唱、圧倒的なコーラス。
この辺りの展開は、本当にスリリングだ。
いったん、サウンドは静まるが、あやつり人形が登場してヒョコヒョコと踊り出す。
そして、再びカオスな様相が……。
リスナーは、このサウンドを聴いただけで、そういった風景をまざまざと脳裏に浮かべるのである。
さまざまなイメージを喚起させる多彩な音づくりにより、キング・クリムゾンは一躍、新時代の寵児となった。
しかし、この一枚は、ほんの「始まり」に過ぎなかっことは、その後の彼らの変遷、膨大な実績を知ればよく分かる。
まさに、ここに現れた才能は、氷山の一角でしかなかった。
恐るべき才能集団のファースト・ステップ。心して聴いて欲しい。
<独断評価>★★★★★
英国のロック・バンド、キング・クリムゾンのデビュー・アルバム。69年リリース。彼ら自身によるプロデュース。
キング・クリムゾンは68年結成。マイケルとピーターのジャイルズ兄弟、そしてロバート・フリップの3人に、イアン・マクドナルド、ピート・シンフィールド、グレッグ・レイクらが次々に加わるかたちで、出来上がったバンドだ。
パートはフリップがギター、レイクがボーカル、ベース、マクドナルドがキーボード、サックス、フルートほか、マイケル・ジャイルズがドラム、シンフィールドが作詞である。
バンド名は誰もが容易に推測出来るように、デビュー・アルバムのタイトル・チューンから取ったもの。
実は他のメンバーは乗り気でなかったが、作詞したシンフィールドの強い要望、というかゴリ押しでこれに決まったらしい。
その後、現在に至るまで一度も改名しなかったということは、この選択で正解だったということかな(笑)。
アルバムのセールスは全英で5位と、まずまずの成果を出した(全米は28位)。
無名のバンドのデビュー盤としては、なかなかの成功と言え、音楽業界内にも反響が大きかった。
オープニングの「21世紀のスキッツォイド・マン」からして、相当なセンセーションを巻き起こした。
邦訳タイトルは、当初は「21世紀の精神異常者」。
旧タイトル通り、かなりヤバい雰囲気がプンプンとするナンバー。
ディストーションを施した、レイクのガナるようなボーカル、フリップとマクドナルドが超高速のパッセージを弾き、吹きまくる間奏。
狂気と喧騒、ジャズとロックが溶け合ったディストピア・ミュージック。
キング・クリムゾンの動的側面を代表するような一曲だ。
後代に与えた影響も凄まじく、洋の東西を問わず、数十のアーティストによるカバー・バージョンがある。
その超絶技巧ゆえに、完全コピーへの意欲をかき立てるものがあるのだろう。
だが、二曲目からは一転、静謐で神秘的なムードになる。「風に語りて」である。
カオスな曲調から、整然とした世界へ。実に見事な切り替えだ。フルートの響きが効果的に使われている。
シンフィールドの象徴的な詩は、正直言って和訳を読んでも言わんとすることはよく分からないのだが、ファンにとっては、些末なことなのだろう。
「考えるより、感じろ」
そういうことだろうな。
続く「エピタフ(墓碑銘)」もまた、ゆっくりとしたバラッド。
幻想的な歌詞と、メロトロン、アコギを導入したメランコリックな演奏。
レイクの端正で悲しげなボーカルにより紡ぎ出される、独自のクリムゾン・ワールド。
聴くごとに、深みにハマりそうな魅力がそこにはある。
この曲もまた、いくつもの秀逸なカバー・バージョンを生み出したが、中でも「えっ!?」と言いたくなるのは、日本のアイドル・グループ、フォー・リーブスによるバージョンだろうな。ジャニーさんの先物買いのセンス、やっぱスゲーな。
それはともかく、A面はこの3曲のみ。B面はさらに少なく、2曲である。
昨日取り上げたビートルズの「アビイ・ロード」ではないが、組曲構成を取っている曲が大半だからね。
当時盛んになろうとしていたいわゆる「プログレッシブ・ロック」においては、平均3分のシングル曲という伝統を無視して、一曲がどんどん長尺になっていった。
片面まるごと一曲、さらには両面で一曲なんてのもあったほど。
昨今の「タイパ=タイム・パフォーマンス」にうるさい、長ったらしいイントロや楽器のソロなんていらないという若者たちから見れば、信じられない話かもしれないが、当時はポピュラー・ミュージックの世界でも、クラシック同様、一曲の長さをどっぷりと楽しもうという方向に確実に向かっていたのである。
閑話休題、「クリムゾン・キングの宮殿」B面の話に戻ろう。
B面は「ムーン・チャイルド」から始まる。
アルバム中最長、12分以上に及ぶ大曲。
パセティックなムードの、フォーク調のナンバー。
レイクの歌唱の後には、オフ・ピートなアンビエント・ミュージックっぽいインストゥルメンタルが延々と続く。
さらには、ほとんどミュージック・コンクレートとも言えそうな、メロディすらない、サウンド・エフェクトのみの部分へと続く。
完全に実験音楽だよな、これは。
だがこれもまた、キング・クリムゾン・ミュージックの一部だということだろう。
ノリとかウケとかいった、従来のロックに不可欠の部分をあえて無視した、「ズラし」の音楽。
このような音が、全英5位を獲得したのも、時代背景あってのことだろう。
長ーい「ムーン・チャイルド」が唐突に終わり、始まるのがラストの「クリムゾン・キングの宮殿」だ。
アコギのバックでレイクが歌い上げる、魔女の登場するもうひとつの世界。
ジャケットに使われたイラストの、鬼面人を驚かすようなビジュアルとの相乗効果で、キング・クリムゾンは聴く者どもを異世界へと引きずり込んでいく。
マクドナルドの流麗なフルートソロ、そして再び、レイクの詠唱、圧倒的なコーラス。
この辺りの展開は、本当にスリリングだ。
いったん、サウンドは静まるが、あやつり人形が登場してヒョコヒョコと踊り出す。
そして、再びカオスな様相が……。
リスナーは、このサウンドを聴いただけで、そういった風景をまざまざと脳裏に浮かべるのである。
さまざまなイメージを喚起させる多彩な音づくりにより、キング・クリムゾンは一躍、新時代の寵児となった。
しかし、この一枚は、ほんの「始まり」に過ぎなかっことは、その後の彼らの変遷、膨大な実績を知ればよく分かる。
まさに、ここに現れた才能は、氷山の一角でしかなかった。
恐るべき才能集団のファースト・ステップ。心して聴いて欲しい。
<独断評価>★★★★★