NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#127 サザンオールスターズ「SOUTHERN ALL STARS」(ビクター音楽産業 VITL‐1)

2022-03-21 05:01:00 | Weblog

2002年11月17日(日)



サザンオールスターズ「SOUTHERN ALL STARS」(ビクター音楽産業 VITL‐1)

(1)フリフリ' 65 (2)愛は花のように(Ole!) (3)悪魔の恋 (4)忘れられたBIG WAVE (5)YOU (6)ナチカサヌ恋歌 (7)OH,GIRL(悲しい胸のスクリーン) (8)女神達への情歌(報道されないY型の彼方へ) (9)政治家 (10)MARIKO (11)さよならベイビー (12)GORILLA (13)逢いたくなった時に君はここにいない 

サザン、9枚目のアルバム。90年リリース。

79年8月デビューだから、すでに23年のキャリア。長寿バンドの代表選手のようなサザンではあるが、そのたどってきた道のりは決して平坦なものではなかった。

ことに、このアルバムの前作「KAMAKURA」(85年リリース)との間には、4年4か月ものブランクがあったことから、グループとしての活動が相当煮詰まっていたのは事実。

その間、桑田と松田はKUWATA BANDを作り、さらに桑田はソロ・アルバムを出し、他のメンバーもソロ活動を行うなど、バンドが「空中分解」の状態であった。

そんな彼らがひさしぶりに全員集合、入魂の一作を世に問うたのである。

リスタートの意味もこめて、タイトルはグループ名そのものとなり、サウンド的にもこれまでのサザンの集大成とでもいうべき、ヴァラエティに富んだものとなった。

まずはストーンズの影響が色濃いロックン・ロール、(1)から。タイトルからもわかるように、スパイダーズの和製ロック、和製ポップスのエッセンスもたっぷり含んだ、ノリのいい一曲。

ゴーゴー、モンキーダンス、TV番組「ビート・ポップス」といった60年代のイメージが溢れ出そう。

(2)は小倉博和さんのクラシックギターをフィーチャー、当時人気のフラメンコ・ロック、ジプシー・キングスを想起させるサウンド。

サザンが初めてスペイン語の歌詞に挑戦した、意欲作でもある。

彼らは、同年夏公開の映画「稲村ジェーン」で音楽を担当していたが、その中に登場するラテン・バンドがこういう音を出しておったのう。なんとも懐かしいっす。

(3)はわれわれブルース・ピープルにもおなじみの、八木のぶおさんのハープを全面にフィーチャーした、ブルース感覚あふれるロック・チューン。この曲もまた、ストーンズの「ミス・ユー」あたりの影響が強そう。

日本語・英語チャンポンの歌詞は、毎度のサザン調。でもかなり洋楽っぽく聴こえるメロディ・ラインだ。

(4)は一聴即おわかりだろうが、ビーチボーイズ風アカペラ・コーラスがキマった一編。

サウンドのみならず、タイトルも含めて、ヤマタツを相当意識してるな?と見たが、いかがかな。一説によれば、全部クワタ氏自身の多重録音で構成されているとも。

(5)はロマンティックな歌詞と、メロディアスでメロウなサウンドが、いかにも「恋人とのドライヴ・ミュージック」向きな一曲。

サザンにはいくつもの「顔」があるが、まさに二の線、正統派なラインのサザンだな、こりゃ。押さえるべきところは、実に手堅く押さえてくるわい(笑)。

(6)は原由子がリード・ヴォーカルをとる、沖縄民謡調のナンバー。

ハラ坊の甘ったる~いカマトト・ヴォーカルも、アルバム中一曲は気分転換として欲しいところで、さすがツボをこころえとります。

アナログA面の最後は、手堅いバラード・ナンバー、(7)。こーいう定番失恋ソングは、ホンマ、安心して聴けます。

さて、後半トップは、そのPVのエロい演出がちょっと話題になった一曲、(8)から。

きわどい歌詞、そしてファンキーでパワフルなサウンド。いわば「当世ふう春歌」。これまたサザンのもうひとつの強力なラインだ。

続く(9)はシニカルな内容の歌詞の、(8)もそうであったが、いかにもスティーリー・ダンの影響が濃厚なナンバー。

コード進行やシンセの使い方に、日本のロックバンドばなれしたセンスが感じられる。アレンジャーの手柄といえそう。

(10)は、桑田のジャズ趣味が、かなりはっきりと出た一曲。シンコペーションを強調した、くせのあるメロディ・ライン。

ラヴソングでありながら、どこか奇妙な、アンニュイなムードが漂うアレンジ。サザンのいまひとつの「顔」、アヴァンギャルドな面が結晶したような一曲。味付けの複雑さ、面白さではアルバム随一といえよう。

(8)~(10)と実験的なサウンドが続いたが、(11)はいかにもサザンらしい、「Melody」あたりにも通じるものがある、ラテン・フレーヴァーに富んだラヴ・バラード。

横ノリのゆったりとしたビートに乗せて、切々としたヴォーカルを聴かせる桑田。文句のつけようのない出来だ。

アルバム中、一曲はインストを入れるのが、サザンの[お約束」といった感じがあるが、この作品でも次の(12)でそれをやっている。ジャングル・ビート風のアレンジに、ヘヴィメタルなギターを絡ませた、実験的なナンバー。

獣たちの唸りにも似た、彼らのコーラスがなかなか効果的だ。

ラストはふたたび、サザンとしては「黄金のヒットパターン」のライン上にある一曲。

ミディアム・テンポのラヴ・ソング。なんとも切ない歌詞に思わず涙、涙である。

桑田のメロディ・メーカー、そして歌い手としての実力を痛感せずにはいられない。

このアルバム、プロデュースは彼ら自身とクレジットされてはいるが、サウンド的には、桑田のソロ・アルバム以来アレンジを担当するようになった、小林武史(Ex. My Little Lover)に負うところが大だろう。

彼の、驚異的とまでもいえる引き出しの多さが、いまひとつバンドとしては「器用さ」に欠けるサザンをうまくカヴァーして、きわめて多様なサウンドを生み出すことに成功している。

また、小倉さん、八木さんに代表されるように、ゲスト・プレイヤーにはあくまでも実力派ミュージシャンを多数起用していることも、繊細にして緻密なアレンジの実現を可能にしている。

基本はバンド・サウンドだが、6人の音だけにこだわらず、よりグレードの高い音つくりのためには、ストリングス、ホーン、シンセ等をフルに駆使して、この一枚は完成した。

最近のサザンは、ギターの大森が脱退、そして桑田はソロ活動に精を出すなど、ふたたび「休眠状態」に入っているようだ。

だが、どんなに煮詰まっても何度でもリスタートできるだろう、彼らは。

そこがサザンという空前絶後のバンドのすごいところだと思う。

この一枚、決して最高傑作とはいえないだろうが、そんな彼らの「底力」を示した一作といえそうだ。

たまにプレイヤーにかけると、筆者自身の13、14年前の個人的な出来事もまた、あざやかによみがえる。

いわば、日本人の過半数にとって「青春」そのもののサウンドなのだ。

たとえグループの休止期間が長く続こうが、サザン・サウンドは永久に不滅、そゆこと。

<独断評価>★★★★



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