2002年5月5日(日)
ハンブル・パイ「パフォーマンス~ロッキン・ザ・フィルモア」(ポニーキャニオン/A&M D32Y3577)
1.FOUR DAY CREEP
2.I'M READY
3.STONE COLD FEVER
4.I WALK ON GILDED SPLINTERS
5.ROLLIN' STONE
6.HALLELUJAH (I LOVE HER SO)
7.I DON'T NEED NO DOCTOR
ロックバンドを続けていくこと、これは本当にむずかしい。
メンバー4人なり、5人なりの音楽的な指向性が完全に一致することは稀であるし、その才能・技量のレベルもまちまちである場合が多い。
全員が一丸となって、あるひとつの目標をめざすということは、容易ではない。
これがプロのバンドとなると、さらにもうひとつの難題、「売れなければいけない」が覆いかぶさってくる。
ロックバンドが歩むのは、まさにイバラの道であることよ。
…てなことをつらつらと思いつつ、このアルバムを聴いてみた。
パイ71年の作品。彼らの初めてのライヴ・アルバム。彼ら自身によるプロデュース。
69年にデビューした彼ら、途中所属レーベルの倒産というアクシデントを経ながらも、コンスタントに4枚のスタジオ録音のアルバムをリリース、人気も上昇気流にのっていた。
そこで初めてのライヴ盤、しかも初めての2枚組(LP)でリリースとなったわけだが、これが前4作を上回る実に素晴らしい出来となった。
(1)は女性R&Bシンガー、アイダ・コックスの自作ナンバー。
ヴォーカルの第一声は、ベースのグレッグ。これがなかなかドスがきいていてカッコよい。
歌い手としてほとんど注目されることのないグレッグだが、「へ~結構やるじゃん!」という感じ。
そして2コーラス目は、ピーターも負けじと声を張り上げて歌う。もちろんスティーヴも。
第一期パイは、ドラムスのジェリーを除く3人いずれもが歌うスタイルが特徴であったといえそう。
(第二期では、ほぼスティーヴのワンマンショーと化して、コーラスも黒人女性グループが受け持つようになるわけだが。)
サウンドはとにかく、へヴィーでハード。ステージであるフィルモア・イースト狭しと響き渡る、大轟音である。
オープニング・ナンバーに引き続き始まるのは、(2)。
タイトルでお察しいただけるように、ウィリー・ディクスン作、マディ・ウォーターズの代表的ナンバーなのだが、パイはこれを自分たち流のメロディとアレンジに完全に置き換え、まったく違ったイメージに再構成している。
あくまでもヘヴィー&ハードなロックとして。
リズムの重心の低さがなんとも快感なサウンド。もう、2R(曲)目にして、聴く者をノックアウトしてしまうようなへヴィー級パンチだ。
スティーヴの強靭無比なシャウト、ピーターの変幻自在なギターソロも、もちろん聴きモノ。8分を超える熱演。
(3)は、同年発表の4枚目のアルバム「ロック・オン」に収録されていたナンバー。メンバー全員の共作。
4人合わせて○○レンジャー!ではないが、4人のパワーが合体してフルに発揮された曲で、とにかく演奏も歌も熱い!のひとこと。
タイトルや歌詞に、いかにも黒人ブルースのモロな影響を感じる。もちろん、スティーヴの手によるものなのだろう。
途中のピーターのソロに、どこか非ブルース的な(ジャズに近い)スケールが出てくるのだが、確かにこのライヴでのピーターの立ち位置は「微妙」なところにある。
ハードでヘヴィーなサウンドにいまひとつ乗り切れてないというか。他の3人ほどはブルースにのめり込めてないというか。
歌のほうも究極のシャウター、スティーヴの陰に完全に隠れてしまっているし、「シャイン・オン」のような、どちらかといえばポップな自らの作品は演奏曲から外されてしまっている。
結局、黙々とギターを弾くしかないわけで、どこか「居心地が悪い」ことが見て取れる。
その印象通り、実際、ピーターは本作をもってパイを脱退してしまう。
ステージを重ねるうちに、パイのウケどころがブルージーでソウルフルなサウンドにあるということが見えてきた時点で、もうこれ以上自分がいても仕方がないと判断したのであろう。
やはり、バンドは難しい。
(4)はアルバム中最長の力編。なにせ23分以上、LP盤片面まるまるが一曲である。
興味深いのが、古いブルースやオリジナルではなく、同時代のアメリカ人アーティスト、ドクター・ジョンことマック・レベナックの作品のカバーであること。
この長尺だと普通、演奏する側もテンションが落ちたり、聴いている側もあきてきたりしそうなものだが、緩急自在、見事な構成力、歌唱力、演奏力により乗り切っている。
ピーターとスティーヴのツイン・リードも、カッコよいし、スティーヴの達者なハープ・プレイもまたよい。
まあ、当時はこういう長い曲が流行っていたこともあるのだが。
(5)では再び、マディ・ウォーターズの名曲、ストーズの名の由来ともなったナンバーをカバー。
とはいえ、彼らのこと、当然ほとんど原型をとどめないまでに、別モノのナンバーに消化している。
メロディはいうにおよばず、歌詞もかなりの部分がアドリブのようだ。
「ROLLIN' STONE」のフレーズを借りた、まったく新しいナンバーというべきか。
こちらも16分以上の熱ーい演奏が延々と続く。もちろんハイライトは、スティーヴと観客との「コール&レスポンス」。
さて、ステージもいよいよクライマックスへと突入。最後の(6)と(7)はいずれも、かのレイ・チャールズの作品。
ピーターもご愛嬌のヴォーカルを聴かせる(6)は、レイ56年の大ヒット。
サウンドはもちろん、パイ流のヘヴィーな味付けになっておりますです、ハイ。
(7)はレイ66年のヒットのカバー。これがまた、ホンマにレイの曲かいな?というくらい、究極のハード・ロックに仕上がっております。
当アルバム発表に先行してアメリカでシングル・カット、かの国での初ヒットともなった曲である。
やはり、このむせるようなブルース・フィーリングがアメちゃん達にはウケたんでしょうな。
以降の、彼らの快進撃の突破口となった一曲、一度チェックしてみる価値はあり。
以上、彼らのサウンドの魅力がギュッと凝縮された一枚。CD化により購入しやすくなったのもグー。
私見では、クリームやオールマンズのそれに匹敵する名ライヴ盤だと思う。
第一期パイの打立てた金字塔、ここにあり!です。
<独断評価>★★★★☆