2002年11月10日(日)
憂歌団「リラックス・デラックス」(フォーライフ 28K-54)
(1)GOOD TIME JIVE (2)渚のボード・ウォーク (3)LOVE IN THE JUNGLE (4)嘘は罪 (5)サマータイム・ブルース (6)I AM ON MY WAY (7)恥ずかしい (8)いやな女 (9)If I had you (10)オナカ・イ・タ・イ (11)WHISKEY MOOD
憂歌団、83年リリースのアルバム。フォーライフレコード移籍第一弾でもある。
そのフォーライフレコードは先年ツブれてしまったが、現在ではCDがBMGファンハウスから出ているようだ。
プロデューサーはシンガー/ソングライター、伊藤銀次(元シュガー・ベイブ)。
憂歌団といえばブルース、ブルースといえば憂歌団と、デビュー以来イメージが定着してしまっていたが、このアルバムではスタンダード・ジャズをはじめ、ブギウギ、レゲエ、カリプソ等々、ヴァラエティに富んだ選曲がなされ、当時でも話題になったものだ。
タイトルにちなんで、アナログ盤のA面は「デラックス・サイド」、B面は「リラックス・サイド」ということになっている。
ま、A面のほうが威勢のいいジャンプ系中心、B面はしっとりしたバラード系中心ってことでつけたんかな? あんまり根拠はないかも。
ともあれ「デラックス・サイド」の(1)から聴いていこう。やたら元気のいい、ジャンプ・ナンバー。ホーン・アレンジも加えて、にぎやかに仕上がっている。
ベニー・グッドマンの「茶色の小瓶」みたいな、ジャズィなフレーズもそこかしこに出て来て、面白い。
彼らのオリジナルのようだが、実際には元ネタがあるんだろうな。浅学なワタシにはよくわかりましぇん。スマソ。
(2)はもちろん、ドリフターズの大ヒットのカヴァー(原題は「UNDER THE BOARDWALK」)。そしてもちろん、皆さんにはストーンズのヴァージョンでおなじみの曲だ。
このロマンチックな曲も彼ら(というか木村サン)にかかれば、強烈な個性と味わいをもったメロディに変わってしまう。
歌以外では、内田サンのアコギの響きが、この上なくノスタルジックでよろしゅおま。
続く(3)は、これまたオリジナルのナンバー。トロピカル・ムードがむんむんの、カリプソ風ナンバー。
ちょっとワザありの内田サンのアコギ・プレイとそれにからむシンセ、メンバーによるバック・コーラスなど、色彩感あふれるサウンドに「これがほんまに憂歌団!?」と思わず言ってしまいそう。
(4)は、極めつけのスタンダード。原題は「IT'S A SIN TO TELL A LIE」。
ビリー・メイヒュー作のこの一曲は、36年に出版されて以来、ビリー・ホリデイをはじめ、ファッツ・ウォーラー、チャールズ・ブラウン、トニー・ベネットらさまざまなシンガーによって歌いつがれている。
木村サンの歌は、先達に優るとも劣らぬ、いい感じだ。オーソドックスなスイング・ジャズ・スタイルの演奏にのせ、吐息と紙一重のハスキー・ヴォイスで切々と歌い上げてくれる。名唱なり。
(5)は、ロック・スタンダードといっていいだろう、ロックン・ローラー、エディ・コクランの代表曲。
ハードロック世代のかたにとっては、ザ・フーのヴァージョンが一番なじみがあるだろうが、彼らはあえてダウンホームなアレンジに挑戦。
内田サンのスライド・ギターが、ちょっとルーズながらも味わいがあって実にカッコいい。
そしてもちろん、ユーモラスな日本語歌詞にも注目。「あかん…」のリフレインでしめるあたり、なんとも心憎い。
さて、「リラックス・サイド」へと参ろう。
(6)は、軽快なテンポの、カントリー調のナンバー。同名曲は何種かあるが(マヘリア・ジャクスン、フリートウッド・マックなど)もちろんまったく別物。(1)、(3)同様、一応、オリジナルなんだろうが、絶対元ネタはありそうだ。詳しいひと、教えてちょ。
(7)はオルガン・サウンドをフューチャーした、ムードたっぷりのラヴ・ソング。
「愛してる」とどうしてもいえない、シャイな男心をじっくりと歌う木村サン。やっぱ、彼は上手い!
内田サンのアコギも、一段とせつなく響く。これまた名演じゃ。
(8)は、オーソドックスなフォービートで決める、スイング・ジャズ風ナンバー。どことなく「オール・オブ・ミー」の裏ヴァージョンっぽい。内田サンのオクターヴ奏法もなかなか。
「あたしはいやな女」なんてドキッとするようなフレーズを、さらりと歌う木村サン。あのふたつとない、ユニークなハスキー・ヴォイスだからこそ、こーいうのがサマになるんだよなあ。
彼の「音符化不可能」なフレージングは、何度もいうようで恐縮だが、スゴい!の一言だ。
ジャズ路線が続く。少しおそめのテンポのバラード、(9)は唯一のインスト・ナンバー。ナット・キング・コールをはじめ、多くのジャズ・シンガー/プレイヤーに愛されたスタンダード。
ひたすらマッタリと、美しいソロをつむぎだす内田サン。これぞ憂歌団サウンドの「粋」といえよう。
(10)はまたまた異色のトロピカル・ナンバー。速めのレゲエ/スカ風のビートにのせて、全編ユーモラスな歌詞で笑かす、陽気な一曲。スティール・ドラムの使い方がなかなか効果的。
このあたりのサウンドのヴァラエティは、当時アレンジャーとしても八面六臂の活躍をしていた、プロデュース担当の伊藤銀次氏によるところ大なのだろうな。なにせ彼は、その頃沢田研二や佐野元春ら人気アーティストのアレンジを一手に引き受けていたからねえ。
リゾート気分の一枚のしめくくりは、(11)。激しくファンキーにシャウトした後は、アコギでしっとりしたムードを出したナンバーで口直し。
木村サンのハスキー・ヴォイスが、また別の趣きをかもし出す。これまでの憂歌団とはひと味違った、アンニュイなムードが○。
とにかく、ハズレなしの充実した内容。タイトル通り、サービス精神がてんこ盛り、でもヘンにリキむことなく、いつもの調子でリラックスした演奏を聴かせてくれる。ポップであるが、決してヤワな音ではないのも、いいところ。
98年以降、活動は休止している彼らだが、昔の音盤を聴けばいつでも彼らに会える。未聴のかた、憂歌団を聴くなら、この一枚でっせ!
<独断評価>★★★★