2004年8月3日(火)
#227 山本領平「Set Free」(ワーナーミュージック・ジャパン WPCL-10070)
シンガー、山本領平の3rdシングル。2004年2月リリース。SIZK、山本領平ほかによるプロデュース。
彼は、筆者がいま一番注目している男性シンガーのひとりだ。「山本領平? 誰、それ?」と言われるかたでも、昨年、m-flo、女性シンガーmelody.とのコラボレーションで「miss you」をリリースしたイケメン系シンガーといえば、ピンと来るのではないだろうか。
「miss you」のPVではm-floのふたりを狂言回しに、美人シンガーmelody.との思わせぶりな絡みを見せていた彼。しかし、この山本、ただ顔がいいだけのデルモ男ではない。
いわゆる帰国子女で、英語を母国語と同じくらい、自然に身につけている山本。もともとは、アーティストとか、シンガー志向はあまりなく、選手としてアメフトに熱中する、どちらかといえば体育会系の若者だった。そして、その一方で、ヒップホップ、ラップ等を熱烈に愛好していたのである。
そんな彼が日本の商社に就職し、サラリーマン生活を送るうちに、どうしても音楽への想いを断つことが出来ず、会社をやめてプロの世界に入って来た。見た目は若いが、実はもう30近い。なんともユニークな経歴のひとなのである。
「Set Free」は、ジャンル的には、いわゆる「ハウス」、「2ステップ」とよばれるフロア・ミュージックなのだが、その手のコアな音楽にありがちな「間口の狭さ」は感じられない。
これはやはり、彼の声の魅力によるところが大きいように思う。線はあまり太くはないが、とても暖かく、ソフトで、癒しに満ちた歌声。これは、彼の非常に強力な武器だと思う。
「声」の研究家によれば、宇多田ヒカルとか、平井堅とか、人気のあるシンガーの声は、声に寄り添う微妙な別の周波数の声、つまり「もうひとつの声」を含んでいる場合が多いらしい。山本もまた、そういう微妙な含みを持った声といえそうだ。
ささやくような小さな音量でも、相手のハートにしっかりと届く、そういうマジックが彼の声にはある。
タイトル・トラックは、まさにそのショーケース。パーカッシヴなサウンドに乗せ、軽やかに韻をふむヴォーカルが耳に心地よい。
音楽のため会社をやめた、自身の体験が大きく投影されているらしい、自作詞にも注目。バイリンガルの山本ならでは、英語と日本語がシームレスに溶け合い、独自のリョウヘイ・ワールドを紡ぎ出している。
続く「Game We Played」は、いかにもダンサブルなナンバー。そのヴォーカルのノリはとても日本製とは思えない。
もう一曲は、エリック・カルメン作(というよりは、ほとんどセルゲイ・ラフマニノフのメロディなのだが)の畢生のバラード「All By Myself」。
アコースティックなアレンジをバックに、感情をこめて歌う山本。これがなんともハートにジーンと来るのだよ。
ハウス系のイメージの強い彼としては、異色のナンバーだが、意外とイケている。ライヴでも、ぜひ聴いてみたいものだ。
イケメンに似合わず、素顔の彼は気取ったところなどみじんもなく、いかにも気のいいアンチャン風。そういう意外性も、彼の大きな魅力だろう。ホント、同性の目から見ても、ナイスガイなのだ。
「福●ましゃがいい~」とか、「いや私はやっぱり●クト」とか言ってる、そこの美男好きなおねえさんがた、山本領平、いま絶対の「買い」でっせ。
次回作は、いよいよ本格的なセルフ・プロデュースに取り組むという山本。そのコスモポリタンな音楽性をフルに発揮してくれることだろう。リリースがホントに、楽しみである。
<独断評価>★★★