2003年6月13日(金)
#170 ジョニー・ウィンター「THE WINTER SCENE」(PAIR PCD-2-1273)
ジョニー・ウィンター、CBSからメジャー・デビューする以前の、初期の録音を収録したコンピ盤。72年リリース。
これがなかなか面白い。「百万ドルのロックンロール・ギタリスト」と呼ばれる前の彼がどのような音楽をやっていたかが、よくわかるのだ。
ひとつの軸は軽めのロカビリー路線。もうひとつの軸はアコギによるブルース路線。
CBS時代のようなハードなロック・サウンドを期待していると見事に肩すかしをくらうが、ブラック・ミュージックのお好きなかたには、一度は聴いてみて欲しいサウンドが満載だ。
<筆者の私的ベスト4>
4位「ROAD RUNNER」
もちろん、ボ・ディドリー作のあの曲だ。ウィンターにしては、妙に明るく脳天気な曲調で、ロカビリー路線に属するナンバー。
ワーナー・アニメの鳥のキャラクター、「ロードランナー」の鳴きまねなどしたりして、実にユーモラス。
ウィンターはこういうおふざけ路線、本当は好きなのかもね。
ホーンを前面に押し出したツイスト・サウンド、なかなかごキゲンです。
3位「KIND HEARTED WOMAN」
こちらはアコギ・ブルース路線の一曲。
ご存じロバート・ジョンスンのナンバーに、同じく彼の「WHEN YOU GOT A GOOD FRIEND」「ME AND THE DEVIL BLUES」をメドレーでつなげて歌っている。
ロバジョン風の甲高い声を絞り出すようにして歌うさまは、バンドでのライヴにおけるウィンターからは、まったく想像のつかない世界。
全然知らない人が聴いたら、黒人、しかも結構トシのいったひとが歌っていると勘違いしそうなくらい、ディープなカントリー・ブルース。でもこれもまた、ジョニー・ウィンターの世界のひとつなんである。
似た趣向の曲としては、ロバジョンの「WALKIN' BLUES」を本歌取りした「LEAVIN' BLUES」も。こちらのスライド・プレイもいいね。「32-20 BLUES」のカヴァー、「38-32-20」なんてのもある。
2位「GANGSTER OF LOVE」
テキサス出身のブルースマンにしてヒップなファンカー、ジョニー・ギター・ワトスンの代表曲のカヴァー。
これも、ウィンターのパブリック・イメージ(ゴリゴリの硬派ギタリスト)とはだいぶん違う、ナンパな選曲だよね。
ところが、聴いてみればナットク。陽気でいなせな愛のギャングスターを気取るウィンターも、なかなかサマになっとるのだよ。
ちょっと酔っぱらったようなレイジーな歌、そしてテクニックよりもファンキーな雰囲気重視のギター・プレイが、なんともカッコよろしい。ロカビリー路線の中でも、出色の出来ばえである。
1位「GOIN' DOWN SLOW」
「セントルイス・ジミー」ことジェイムズ・オーデンの名曲を、アコースティック・スタイルでカヴァー。
黒人、白人、ブルース系、ロック系を問わず、多くのアーティストが取り上げているが、ウィンターのヴァージョンはとりわけ素晴らしい。
内省的で陰影にとんだヴォーカルといい、無駄のまったくない、カッチリとしたギター・プレイといい、文句なし。
B・Bやマディ、ウルフにも決してひけを取らない、正真正銘のブルースマンであることが、この曲を聴けばよくわかる。
静と動、陰と陽、見事なコントラストをなす、若き日のウィンター・サウンド、ぜひ一度聴いてみよう。
ノスタルジック、でもいつの時代にも通用する、普遍的な魅力を持つブルースをそこに発見出来るはず。
<独断評価>★★★☆