2003年6月16日(月)
#171 ザ・バンド「ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク」(東芝EMI/Capitol CP21-6027)
ザ・バンドのデビュー・アルバム。68年リリース。ジョン・サイモンほかによるプロデュース。
前年にデビュー、76年に解散するまでの短い活動期間であったが、いまだに多くのバンドに影響を与え続けているザ・バンド。
もともとは「ホークス」という名でロニー・ホーキンスのバックをつとめていたが、ボブ・ディランに見出され、彼のバックで演奏したことで俄然脚光を浴びた彼ら。レコーディングに約一年もかけた、満を持してのバンド・デビュー盤である。
そのディランが自ら絵を書いたという淡彩のジャケットが、なんとも印象的だ。
<筆者の私的ベスト3>
3位「CHEST FEVER」
正直言って筆者は、十代の前半ではじめてザ・バンドを聴いたとき(リアルタイムでは「カフーツ」あたりだったかな)、まるでピンと来なかった。
当時筆者はバリバリのブリティッシュ派だったということもあるのだが、いかにもアメリカ的な(彼らは本当はカナダ出身だけど)まったりとした音にのめり込むことが出来なかった。(それは彼らを育てたディランについても同様なんだが。)
でも、今聴いてみると、意外と耳にしっくり来るんだな、これが。
やはり彼らの音楽は、何十年もかけてさまざまなスタイルの音楽を聴きこんで初めて、ようやくその「よさ」がわかるタイプのものなのかもしれない。
さて、筆者が3位に選んだのは、ギターのロビー・ロバートスンの作品。
この一枚の中では、一番ロックっぽい感じのナンバーだ。
どことなく、スティーヴ・ウィンウッドのいたスペンサー・デイヴィス・グループ、トラフィックを思い起こさせるグルーヴがあって、全体にカントリー系のシブめの曲が多い本盤では、ちょっと異色。
ロバートスン、リーヴォン・ヘルムらのコーラスもなかなかソウルフルだし、ガース・ハドスンとおぼしきオルガンのプレイがなんともイカしとります。
2位「I SHALL BE RELEASED」
もちろん、ディランの作品。グループの門出にあたって、兄貴格のディランが彼らに捧げた、最高の贈り物といえよう。
ヘルム、ロバートスンを中心にしたファルセット・コーラスで、この清冽なる名曲を歌い上げるザ・バンド。
アメリカ中、いや世界中のありとあらゆる「理不尽」なこと、「非人間的」なことに対するプロテスト。これがまた、心に沁みわたります。
他にもジョーン・バエズ、ディラン御本人も歌っていてそれぞれに秀逸なんですが、やはり決定版はこれかと。
1位「THE WEIGHT」
ここでアルバム・タイトルの由来について説明しておくと、「ビッグ・ピンク」とは、67年ころからすでに音楽コミュニティだった町、ウッドストックの北東、ウェスト・ソーガティーズにあった家のニックネーム(壁がピンク色だったようだ)。
彼らはそこを借りて住み、その地下室でレコーディングやセッションを重ねていたことから、このタイトルが付いたのである。
かのエリック・クラプトンも、67年ころ彼らとそこではじめてのジャム・セッションを行い、彼らの音楽性にいたく衝撃を受けたという。
それまでのギター中心のラウドな音から、キーボード、ホーンなどを多用した色彩感あふれるサウンドへと、クラプトンの嗜好が変わっていったのも、彼らとの出会いがきっかけだったのだ。
そんな強烈な個性、魅力を持った彼らの「マスターピース」ともいえるのが、この曲。
ロバートスンの作品。でも、リードで歌うのはヘルム。3コーラス目でようやく作者本人が歌わせてもらってます。
アコギのイントロからして、実に土臭くて、いなたい。続いてドラム、ヴォーカルが入っていく。
ピアノの響きがいかにも優雅で、シンプルにして端正な演奏。刺激的なギター・ソロも、挑発的なシャウトも何もなし。
その昔筆者は、「こんな『大人』なロックってあり?」とつい思ってしまったわけだが、今では「そーいうのも十分あり」と思えるから、面白い。
ハメをはずして騒ぐだけがロックじゃない。そういうことさ。
歌詞にしても、二十代なかばから三十そこそこの若さで、人生の「重荷」とか「苦渋」とか「悔恨」とかを歌っていたりして、ちょっと老成しすぎじゃない?って感じもあるけど、四十代なかばの筆者がいま聴けば、非常に共感できたりする。
そういう音楽を、その年齢ですでに生み出せたこと、これも考えればスゴい才能だと思う。
デビュー作にして、最高傑作。その高い完成度には、ホント、舌を巻きまっせ。
<独断評価>★★★★★