2004年2月22日(日)
#206 チープ・トリック「IN COLOR」(EPIC/SONY 25AP 728)
チープ・トリックのセカンド・アルバム。77年リリース。
<筆者の私的ベスト4>
4位「I WANT YOU TO WANT ME」
本盤のプロデュースは、前作のジャック・ダグラスに代わって、トム・ワーマンが担当。
ノイジーで神経症的な雰囲気が強いデビュー盤に比べて、ぐっとポップで聴きやすいサウンドになっている。
とはいえ、そこはやはりチープ・トリック、裏にはちゃんと毒を含んだ「仕掛け」が随所に見られるのだが。
4位のこの曲は、コンサートでもおなじみのナンバー。リック・ニールセンの作品。
チープ・トリックの音は基本的にハードロックで、それにビートルズ的なポップ・センス(メロディやコーラス等)を加味したものだが、実はもうひとつ隠し味があって、それがこの曲などではよく表われている。
それは何かというと、ブルース、R&B、ジャズなどのルーツミュージックのセンスを巧みに取り込んでいるということ。特にピアノの使い方にそれが感じられる。
これは彼らの出身地も、微妙に関係しているという気がするね。
彼らが生まれ育ったイリノイ州ロックフォードは、ブルースの都・シカゴにも近く、オーセンティックな黒人音楽とも無縁ではない場所だ。
ブリティッシュ・ハードロックの強い影響を受けながらも、そこはやはりアメリカ人、他のジャンルの音楽にも常日頃接触しているという「環境」が、彼らのサウンドにヴァラエティをもたらしている、そういうことではないかな。
3位「SOUTHERN GIRLS」
リックとトム・ピータースンの共作。この曲はタイトルや歌詞ですぐにわかるかと思うが、明らかにビーチ・ボーイズの「CALIFORNIA GIRLS」を意識したつくりになっている。
ビーチ・ボーイズといえば、単に人気グループというだけでなく、「PET SOUNDS」以降のアルバムでアメリカン・ロックにサウンド革命をもたらした先駆者でもある。
チープ・トリックも、その影響を(ダイレクトとはいえないにせよ)かなり受けているのは、間違いないだろう。
この曲に限らず、いくつかの曲で聴かれるコーラス・ワークに、その匂いを感じ取ることができるように思う。
ただ、さすがにチープ・トリック、ご本家とは違って、あくまでハードな音、シニカルなひねりを加えた歌詞という「仕掛け」があることも、お忘れなく。
2位「CLOCK STRIKES TEN」
これまたライヴでは超定番のナンバー。チャイムを擬したギター・ハーモニクスのイントロを聴けば、誰もが「ああ、あれね」と思い出すことだろう。リックの作品。
時計は午後十時を打ってる。土曜の夜、きょうこそ、おまえをものにしてやる…てな内容の、単純明快なロックン・ロール。
ロビン・ザンダーの異様なまでの迫力に満ちたヴォーカルが注目の的となり、本国よりむしろ日本から人気の火がつくきっかけとなった一曲だ。
70年代に入ってロックは次第に「複雑化」「難解化」の道をたどり、本来持っていたパワー(それもバカバカしいまでのクソ力)を失っていくようになったが、そんな中でひたすら原初的な雄叫びを上げた彼らが、ロックファンの目に新鮮に映ったのは当然だろう。
ティーンエージャーのシンプルな欲望をストレートに歌い上げる、これこそがロックの本質。
初心に立ち返ったロックンロール、ひたすらカッチョええです。
1位「SO GOOD TO SEE YOU」
アルバムのラスト・チューン。これもまたリックの作品。
ひたすらハードなロックンロールが彼らのセールスポイントのひとつとすれば、もうひとつの魅力は、メロディアスでキャッチーなサウンドだろう。
コアなロックファンからは軟弱、ミーハーとのそしりも受けてはいたが、そんな悪評などものともせず、ポップであることを誇りにしていたのが、彼らだと思う。
そんな彼のポップ路線が開花したのが、この「SO GOOD TO SEE YOU」。
いきなり、派手なコーラスのついたサビで始まるあたりからして、ビートルズっぽいが、これが結構いけてるのだよ。
ロビンの声って、ハードな曲、ポップな曲と、曲のタイプにより変幻自在だ。ふつうのシンガーの場合、どちらかが得意だともう一方が不得意だったりするものだが、そういう弱点が彼にはない。
シンガーのはしくれである筆者から言わせてもらうと、これってかなりスゴいことなのだ。
もちろん、ロビンの歌唱力だけでなく、リックの歌作りのうまさも大いに評価したい。
メロディのマイナーとメジャーの使いわけも、実にうまいし、バックのハードな音との違和感のないアレンジも素晴らしい。
いってみれば、進化したビートルズ・サウンドというところか。いや、それでは彼らに失礼だ。
チープ・トリックは、あくまでも「チープ・トリック・サウンド」をこの一枚で確立させたのだ。
「ロック」であることと、「ポップ」であることが共存可能であること証明してみせた一枚。名盤だと筆者は確信しております。
<独断評価>★★★★★