2008年11月3日(月)
#56 ゲイリー・ムーア「Walkin' By Myself」(Still Got The Blues/Virgin)
ゲイリー・ムーア、90年リリースのヒット・アルバム「Still Got The Blues」より。ジミー・ロジャーズの代表曲のカバーである。
80年代までの彼は、ヒット曲を出さねばならないというプレッシャーに追われて、やりたい音楽をのびのびと出来ない状態だった。
が、90年代に入り、ふっきれたように自分が本来求めていた音楽をやりだすようになった。
その、「再スタート点」がこの「Still Got The Blues」だといえるだろう。
オリジナル5曲、カバー7曲という全12曲。この「Walkin' By Myself」のような年代もののブルースも、結構取り上げている。フェントン・ロビンスンやアルバート・キングの「As The Years Go Passing By」とか、ジョニー・ギター・ワトスンの「Too Tired」とか、オーティス・ラッシュの「All Your Love」とか。ゲイリーが個人的に一番リスペクトしている、ピーター・グリーンの作品「Stop Messing Around(モタモタするな)」も、しっかりと入っている。
ま、曲はブルースなんだが、歌いかたにせよ、ギター・プレイにせよ、おなじみのゲイリー・ムーア・スタイルには変わりなく、やたらハイ・テンションでタイト。
この「Walkin' By Myself」もえらく歯切れがよく、オリジナルのジミー・ロジャーズ版の、あの力の抜けた、いい意味でルースな感じとはまったく対極にある。
いわゆるブルース・ファンは、まったく受け付けなさそうな音だが、これはこれでブルースのひとつのありかたとして、アリなんじゃないかと筆者は思うとります。
ブルースということばは、楽曲の形式・構成のひとつの種類であって、そのサウンド、アレンジの詳細までは定義するものではないと、筆者的には考えているので、HR/HMなブルースがあっても、ヒップホップなブルースがあっても、いっこうに構わない。果たして、その音が自分の好みにあうかどうかは別問題だが。
というわけでコクニー流にいえば「ガリー・モー」の歌うブルースも、クラプトンあたりとはまた違った意味で、ブルースというものを世に広く知らしめているといえそう。
個人的にはタイトル・チューン「Still Got The Blues」、「As The Years Go Passing By」「Midnight Blues」あたりのまったり系、メロウ系よりも、この「Walkin' By Myself」、「Too Tired」のような、べらんめえ調のアップ・テンポのブルースの方が好きだ。
黒人ブルースとはまったくテイストは違うが、白人なりのブルース唱法&奏法を打ち立てたガリー・モーの、会心の一撃。そんな感じだ。