2004年8月2日(月)
#226 モーニング娘。「I WISH」(zetima EPCE-5070)
きのうきょう、一番話題になっている曲といえば、これだろう。モーニング娘。の10thシングル。2000年9月リリース。
昨日夜、東京・代々木にて行われたコンサートで娘。を卒業した辻希美・加護亜依のふたりが、記念すべきラスト・チューンとして自ら選んだのが、このバラードだったのである。
思えば、W(ダブルユー)こと辻加護のふたりが娘。に加入したのが4年と数か月前。
当時はいかにもコドモコドモしていたふたりも、成長して今ではいっぱしのエンタテイナー。月日のたつのは本当に早いものだ。
それはさておき、このバラード、筆者が考えるには、娘。にとっても、アイドル史においても、非常に画期的な一曲だと思う。なぜか。
当時、モーニング娘。は人気絶頂期。CDを出せば即ミリオン、そんな「勢い」に満ちあふれていた。
3曲前の「LOVEマシーン」で初のミリオンを達成(最終売上は約165万枚)、次の「恋のダンスサイト」も軽くミリオンを突破(最終は約123万枚)、そして辻加護を含む4期メンバーがはじめて参加した「ハッピーサマーウェディング」も99万枚と、ほぼミリオン。
ここで、並みのプロデューサーだったら、「ラブマ・恋ダン・ハピサマみたいなノリのいい宴会ソングを出せば、次もミリオン間違いなしだろう」と判断、前の3曲と似たようなにぎやかな曲をリリースしたはずだ。
しかし、プロデューサーつんく♂(当時つんく)は、あえてその線を外した。
ヒップホップのセンスを溶かし込んだ、どちらかといえばスローなテンポのバラード、じっくりと歌い上げるような曲調のこの「I WISH」をぶつけてきたのである。
ファンはここで、さすがに面食らった。モー娘。イコールおちゃらけた宴会ソングという認識の強かった一般リスナーはいうにおよばず、コアなファン(いわゆるモーヲタ)でさえ、この大人っぽい歌に対してとまどった。
セールスは、さすがに下がった。「ハピサマ」の三分の二以下、65万台にまで落ちてしまった。
もっとも、次の「恋愛レボリューション21」ではもう一度盛り返して、98万台の準ミリオンにまで回復している。
逆にいうと、「I WISH」のような、曲想、曲調ともにジミな曲が65万も売れたのは、日本の音楽史上、とてつもなく画期的なことだと思う。
フツーの歌手なら、絶対こんなセールスは不可能だ。娘。にして初めてなしえた快挙だといっていい。
それくらい「I WISH」は、アイドル・ポップスの範疇を大きく超えた、特別な一曲なのだと思う。
多くのアーティストは、ある程度売れてくると、過去に自分の曲で一番よく売れたパターンを「自己模倣」することで、なんとかセールスを維持しようとするものだ。
いい例が、サザンオールスターズだ。最近の一連のシングルを見れば、すべて過去の大ヒットの自己模倣に過ぎない。いわば、毎回平和(ピンフ)で上がろうというセコい麻雀。
彼らくらい人気が安定していれば、詞でもサウンドでも、もっと冒険をしたっていいはずなのに、最近はアイデアが枯渇しているのだろうか。詞もメロディもアレンジも、みなパターン化している。これじゃあ、つまらない。
たとえチョンボになってもいい、でっかく満貫を狙うような「打ち方」を、彼らのようなビッグ・ネームには期待したいんだがなあ。
そういう意味で、娘。全盛期にあえてこのような「冒険」を試みたつんく♂は、もっと評価されてもいいんじゃないかと思うね。
とにかく、アイドル・ポップスらしからぬスケールの大きさをこの「I WISH」には感じる。
特にカッコいいと思うのは、ドラムンべースを基調にしたファンキーなバック・トラック。そして一転、華やかなブラス・サウンドがはじけるサビの展開。アレンジャー河野伸のセンスの良さが、最高に発揮された一曲だと思う。
もちろん、メイン・ヴォーカルを取る後藤真希、加護亜依の歌いぶりも、忘れちゃいけない。抑え目の歌唱が、とても十代前半とは思えぬうまさなんである。
この曲に関しては、もうひとつビッグな話題がある。これまた昨日の話、かの平井堅が自分のライヴ「KEN'S BAR」にてこの「I WISH」をアコースティック・ヴァージョンにてカヴァーしたというのだ。
モーニング娘。の歌曲が、他のシンガー、それも人気ナンバーワンのアーティストによりカヴァーされた。これは、彼女たちが単なるアイドルを超えた、ホンモノのシンガーとして認められた証拠なのではなかろうか。
この曲が、辻加護のメモリアル・ソングとしてファンの心に残り続けるのはいうまでもないが、2000年代を代表する不滅のバラードとして聴きつがれてもおかしくない。筆者はそう思う。
「I WISH」、あなたももう一度聴き直してみてほしい。
<独断評価>★★★☆