2002年8月17日(土)
V.A.「BLUE GUITAR」(東芝EMI/BLUENOTE TOCJ-5725)
(1)JAMMIN' IN FOUR(CHARLIE CHRISTIAN) (2)JIMMY'S BLUES(JIMMY SHIRLEY) (3)TINY'S BOOGIE WOOGIE(TINY GRIMES) (4)STROLLIN' WITH BONES(T-BONE WALKER) (5)LOVER(TAL FARLOW) (6)BOO BOO BE DOOP(SAL SALVADOR) (7)SEVEN COMES ELEVEN(JIM HALL) (8)CHEETAH(KENNY BURRELL) (9)WES' TUNE(WES MONTGOMERY) (10)NIGHT AND DAY(JOE PASS) (11)COME SUNRISE(GRANT GREEN) (12)THE SHADOW OF YOUR SMILE(EARL CLUGH) (13)JACK RABBIT(BIRELI LAGRENE) (14)CORAL(AL DI MEOLA) (15)FLOWER POWER(JOHN SCOFIELD) (16)90 MINUTE CIGARETTE(JOHN HART) (17)JUMPIN' JACK(STANLEY JORDAN)
まずはタイトルに注目。「ブルース・ギター」かと思いきや、一字違いの「ブルー・ギター」なんである。なんでこんなタイトルがついたかというと、「ブルーノート・レーベル」のギタリストの演奏をコンパイルしたから、ということである。(ただし、一部、T-ボーンなど他のレーベルの音源を買い取っているものもある。)
時代的には1941年のチャーリー・クリスチャンから、85年のスタンリー・ジョーダンまでをカバーしている。
(1)はモダン・ジャズ・ギターの開祖とよばれるチャーリー・クリスチャンの演奏。曲はチェレスタを弾いているミード・ルクス・ルイスの作品。エドモンド・ホールのクラリネットをフィーチャーした、典型的なスイング・ジャズ・コンボだが、彼のギターだけはモダンな香りがぷんぷんとしている。
(2)は、日本ではほとんど注目されることのない、ジミー・シャーリーの演奏。彼自身のオリジナル。45年の録音。
これがなかなかの拾いもの。ベース一本をバックに弾かれる彼のソロ・フレーズはジャズというよりはブルースのフィーリングが強く、ブルース畑のひとにも結構「使えそう」なリックが満載である。音色にも艶があって、筆者好みだ。
(3)はアップテンポのブギウギのリズムに乗って弾かれる、タイニー・グライムスのギター演奏。46年の録音。スイング・ジャズでありながら、ブルース色も結構強い。アタックの強い、ベルを鳴らすような高音中心のプレイ。これまたブルース・ファンにもおススメ。
かの「モダン・ブルース・ギターの父」、T-ボーン・ウォーカーも収録。50年、インペリアルにて録音の(4)がそれだ。彼のオリジナル。
彼はクリスチャンの影響を強く受けているだけあって、ブルース、R&Bのカテゴリーながら、かなりジャズっぽいフレーズを繰り出す。かと思うと、後に「ロックン・ロール」とよばれる音楽を思わせるフレーズも出てきて、一筋縄ではいかない。
とにかく、彼のプレイはメリハリがバッチリきいていて、カッコいいの一言。
50年代に入ると、クリスチャンの影響を受けたモダンジャズ・ギタリストたちが続々とデビューする。54年に録音された、ロジャーズ&ハート作のスタンダード(5)を演奏する、タル・ファーロウもそのひとりだ。
白人の彼は、洗練されたフレーズ、たくみなコードワーク、独特の低音弦の使い方などで、一躍時代の寵児となった。そのスピーディなプレイは今聴いても舌を巻いてしまう。
(6)はファーロウ同様、クリスチャン派の白人ギタリスト、サル・サルヴァドールの演奏。ビル・ホールマンの作品、54年の録音。
スインギーなリズムに乗せて、エディ・コスタのヴァイブとともに、速いパッセージを弾きまくる彼のギターは、「陽性」そのもの。
もうひとり、クリスチャン派の白人ギタリストが登場。日本でも人気の高い、ジム・ホールである。彼はクリスチャン&ベニー・グッドマンのナンバー(7)を、モダンな和声感覚で料理して演奏。57年の録音。。
50年代は、黒人ギタリストにもすぐれたプレイヤーが多数登場する。ケニー・バレルもそのひとりだ。
彼は自身のオリジナル、(8)を演奏。56年の録音。一聴してわかる、彼の落ち着いたギターの音色は、筆者もオキニである。
いわゆる「派手さ」はないのだが、一音一音丁寧に弾いていく感じが実にいい。またそのフレージングには、黒人ならではのブルース感覚が濃厚に感じられる。白人ギタリストたちと、ひと味違うゆえんである。
同じく黒人のギタリスト、ウェス・モンゴメリーは、オリジナルのブルース調のナンバー、(9)で登場。58年の録音。
のちにはジャズというカテゴリーを踏み越えて、イージー・リスニングの世界でもヒットを飛ばした彼だが、当時はピュア・ジャズなプレイヤーだったことがこれを聴くとよくわかる。
トレードマークのオクターヴ奏法も、この頃ではほとんど用いていない。だが、そのしっかりとしたリズム感覚、アドリブのセンスは、すでにトップ・プレイヤーのそれであった。
コール・ポーターの名曲、(10)を演奏するのはジョー・パス。64年の録音。
もっとも歌心のあるギタリストのひとりといえる彼は、クリスチャンからの影響はもちろん強く受けているものの、それにとどまらず、ジャンゴ・ラインハルトに代表されるヨーロッパのジャズも消化して、ユニークな音世界を作り上げている。
その縦横無尽の演奏力は、のちにギター一本だけで作り上げた傑作、「ヴァーチュオーゾ」シリーズへと結実することになる。
(11)はもっともファンキーなジャズ・ギタリスト、グラント・グリーンのオリジナル。61年の録音。
彼はブルースや二グロ・スピリチュアルの感覚あふれる、独自の音世界を持つギタリストである。名手ケニー・ドリューがピアノで参加、見事なバッキングをつけている。
(12)は、もっぱらアコースティック・ギターを弾く、アール・クルー77年の録音。おなじみボサノヴァのスタンダードである。
クルーの場合、いったんジャズ的なイディオムを離れて、非ジャズファンにもわかりやすく、聴きやすいサウンドを再構築している。スゥイートでロマンチック、メロディアスなソロは、女性にもうけがよかった。
88年録音、ハービー・ハンコックの作品(13)で、超絶的な技を聞かせる若手ギタリスト、ビレリー・ラグレーンが登場。
といっても、われわれには余りおなじみの名前でないかも知れない。
彼はジャンゴ・ラインハルトのようにジプシーの血を引いており、そのサウンドも、ジプシーの血を十分感じさせるような、情熱的でアグレッシヴなものだ。
燃えさかる炎のようなギター・ソロを聴いてみてほしい。
おだやかなアコースティック・サウンドの(14)は、技巧バリバリのフュージョン・ギタリストとして有名なアル・ディメオラの演奏。キース・ジャレットの作品、84年の録音。
ここではあえてテクニックの押し売りは控えて、リリカルなナンバーをソフトに弾きあげている。
続く(15)は、ジョン・スコフィールドのオリジナル。彼もディ・メオラ同様、70年代に登場したフュージョン系ギタリストのひとりだ。89年の録音。
ブルース的な音とは対極にある、およそ「力み」のない、そよ風のようなギター。いかにも時代の流れを反映したようなサウンド、そしてタイトルである。
筆者個人としては、こういうメリハリに欠けた、「タレ流し」的なプレイはあまり好みではないんだが。
80年代に登場した新鋭ジャズ・ギタリストのひとりにジョン・ハートがいるが、彼はオリジナル(16)で登場。88年の録音。
ハートは、クリスチャン→ホールといった、伝統的モダンジャズ・ギターの流れの上にあるタイプのプレイヤー。そのトーンも、フレージングも、ホールの正統的後継者といった感じだ。
ラストに登場するのは、同じく80年代デビューのスタンリー・ジョーダン。(17)は自身の作品。85年のライヴ録音。
彼はジャズ・ギターにタッピング奏法(両手で弦を弾く、ひとり二重奏)を始めて持ち込んだ、超絶技巧派。
ただ、その奏法のスゴさばかりがクローズアップされて、彼のサウンド自体については余り語られなかったのも事実。
現在ではいささか影が薄いジョーダンだが、この音が発表された85年当時は、相当な衝撃をもって迎えられたものだ。
音楽としての成熟度は?印だが、そのテクニック&パワーをじっくりチェックしてみるべし。
一枚を通して聴くと、ギターって本~当に奥が深いと思う。
これまでさまざまなスタイルが生み出されてきたものの、古いものが必ずしもダサくないし、新しいスタイルが必ずしもイカしているとは限らない。そういうことがよくわかる。
ジャズ・ファンのみならず、ブルース・ファンのかた、ブルース・ギタリストを目指されるあなたにも、ぜひ聴いていただきたいコンピ盤である。
<独断評価>★★★★