2006年4月9日(日)
#314 ボ・ディドリー「IN THE SPOTLIGHT」(MCA/CHESS CHD-9264)
ボ・ディドリー、1960年リリースのアルバム。59~60年シカゴ録音。
ロックン・ローラー、ボ・ディドリーというと、日本じゃあんまりメジャーではなくて、「あ、あの月亭可朝似のオジさんね」「角型ギターのひと」程度の認識しかされとらんけど、本国アメリカでは、その影響力はものスゴいものがある。下手すると、キング・オブ・ロックンロール、チャック・ベリーをしのぐくらいの。
ミュージシャン、作曲家というと、フツー楽曲、というかその主旋律を作ることで自己表現するのが通例だが、ボの場合、メロディのみならず、その曲の持つリズム、ビートをも自己表現の重要なポイントとしている。
彼のトレードマークは、いうところのジャングル・ビートなわけだが、このリズムに触発されて曲を生み出したアーティストは数限りない。
いちいち挙げていくと際限がないのだが、たとえば、マディ・ウォーターズ、ローリング・ストーンズ、ヤードバーズ、エリック・クラプトン、ニール・セダカ、デイヴィッド・ボウイ、スウィート、リトル・フィート、カルチャー・クラブ。日本では細野晴臣、久保田麻琴、そしていうまでもなく、ボ・ガンボス。
これってホントにすごいことだと思う。リズムは多くの場合、自然発生的に出来たもので、誰それが発明したというものではない。ジャングル・ビートも、もちろんニューオーリンズのセカンド・ラインが源流で、正確にはボ自身のオリジナルとはいえないのだろうが、原初的なセカンド・ラインを彼流にアレンジ、ラテン・リズムも融合させて、他のものとは一線を画した、彼ならではのビートを創出していると思う。
さて、当アルバムは、ボの代表作といっていいだろう。さまざまなアーティスト(その中にはブルースマン、R&Bシンガーもいれば、白人ロックバンド、そしてポップ・シンガーまで含まれる)にカバーされた「ROAD RUNNER」「DEED AND DEED I DO」「WALKIN' AND TALKIN'」を中心とした11曲をフィーチャー。
この中での白眉は、やはりコミカルでポップな「ROAD RUNNER」だろうが、他もバラエティに富んだラインナップで、聴いていて非常に楽しい。
たとえば、N.O.つながりのギター・スリムを意識したようなバラード「LOVE ME」、カリブ風ビートの「LIMBER」、ドゥ・ワップ・コーラスをフィーチャーした「WALKIN' AND TALKIN'」「DEED AND DEED I DO」、いかにもボらしい力強いシャッフル「SCUTTLE BUG」「LIVE MY LIFE」、ジャングル・ビートのショーケースのような「SIGNIFYING BLUES」「CRAW-DAD」、ボ流ロックンロール「LET ME IN」、ピアノをフィーチャーしたインスト・ナンバー「TRAVELIN' WEST」等々、めいっぱい陽気なナンバーが目白押し。
やっぱ、このひとの本領は、アッパー系の曲にありますな。ブルースをやっても、決して湿っぽくならないのがボ・クォリティ。
このアルバムで、重要な役割を果たしているのが、名ピアニスト、オーティス・スパン。「STORY OF BO DIDDELY」「LIMBER」あたりの軽妙なサウンドは、彼のピアノ抜きでは成立しなかっただろう。さりげない名人芸に、脱帽である。
変幻自在のリズムの魔術師、ボ・ディドリーのサウンド・マジック・ショー。とても半世紀近く前のとは思えないくらい、カッコいい音が満載です。ブルースが苦手というひとにも、おすすめであります。
<独断評価>★★★★