2004年5月30日(日)
#219 トッド・ラングレン「誓いの明日」(ワーナーパイオニア P-10185W)
トッド・ラングレン、8枚目(*)のソロアルバム。76年リリース。(* ユートピアの1stを含む。)
以前書いたように、トッドはユートピアのメンバーとして、76年末に初来日を果たす。
それに先立って発表されたのがこの「誓いの明日(FAITHFUL)」だが、この一枚をきっかけに、従来一部のカルトなファンにしか聴かれていなかったトッドが、一躍メジャーな存在となったのをよく覚えている。
なぜそんなに売れたかといえば、もちろん(アナログにおける)A面の、一連のカヴァー曲集によるところが大である。
トッドが最も影響を受けたアーティスト5組、6曲を、オリジナルとほぼ同じアレンジ、ミキシングにより「再現」してみせたのだが、これが当時ものすごい反響を呼んだ。
たとえばビートルズ。彼にとっては5組の中でも別格の存在らしく、唯一2曲カヴァーしているのだが、「レイン」「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」ともに、歌い方から、コーラス、どこかもったりとした演奏スタイルまで、完全にコピーしている。
特に「ストロベリー~」の原曲は凝ったSEが特徴的なのだが、その細部に至るまで(テープ逆回転部分とか)とことん解析して、再構築している。実に恐るべき「技(わざ)」である。
これはハンパな才能のアーティストには、絶対不可能なことだ。音作りのすべてに精通したリアル・ジニアス、トッド・ラングレンにして初めてなしえたといっていい。
ヤードバーズの「幻の10年」もスゴい。ここではリズム・セクション以外のすべてのパートを彼が担当しているのだが、特にジェフ・ベック、ジミー・ペイジの二役をこなしたツイン・リードギターは壮絶のひとこと。火を吹くようなプレイだ。
ギタリスト、トッドとしての実力を再認識する一曲である。ヴォーカルといい、リズムといい、原曲を上まわる出色のできばえ。
ギターといえば、ジミ・ヘンドリクスの「イフ・シックス・ワズ・ナイン」も、トッドのギター・フリークぶりを強く示す一曲。
映画「イージー・ライダー」の挿入曲としても知られるこのナンバー、半ばからのギター・ソロには見事にジミの霊が降りてきている。ギタリストなら、必聴ですな。
そのスタイルから考えて、ちょっと意外な感じがしたのは、ボブ・ディラン。本盤では「我が道を行く」をカヴァーしているのだが、ザ・バンド風の演奏に乗って、ディランそっくりの歌を聴かせてくれる。
以前にヤードバーズの「BBCライヴ」を聴いたとき、彼らもこの曲をやっていたから、ディランが意外と幅広い層に支持されていたことがわかる。
で、なんといっても圧巻なのはビーチ・ボーイズ、66年の全米ナンバーワン・ヒット「グッド・ヴァイブレイション」。
サウンド・イノヴェーターとしてのビーチ・ボーイズを認識させるきっかけとなったこの名曲を、ほぼ100%再現したのは、ただただ驚き。
カヴァーするだけなら、他のアーティストもやっているが、あのハーモニーを完コピしてみせた(それも何年がかりとかそういうのでなく、短い制作期間で)のは、奇跡としかいいようがない。
トッドは「オレ、最強のサウンド・クリエーター」ということをこの6曲で、高らかに宣言して見せたということだ。
さて、通常はあまり言及されることのないB面についても、少しふれておこう。
こちらはすべてトッドのオリジナルで、ユートピアで演奏されることが多いナンバーも何曲か含んでいる。
ハード・ロック、へヴィー・メタル指向が強いのは「ブラック・アンド・ホワイト」「ブギー」。トレード・マークのフェンダー・ムスタングによるアーミング・プレイがめちゃカッコいい。
一方、メロディアスなバラードの佳曲も多い。「一般人の恋愛」「きまり文句」「愛することの動詞」、いずれもライヴでおなじみのナンバー。
こういうひたすら美しいメロディを書く一方で、クレイジーにロックしまくるんだから、彼の才能は本当にワイド・レンジである。
それはもちろん、前述のアーティストを初めとする、ありとあらゆる音楽の影響により、培われてきたのは間違いあるまい。
「企画もの」というイメージが強い本盤ではあるが、A面・B面を通して聴けば、トッド・ラングレンという類い稀なるミュージシャンの「昨日・今日・明日」が見えてくる。
30年近くの歳月を経て、いまだに色褪せない一枚であります。
<独断評価>★★★☆