2023年2月3日(金)
#443 V.A.「BLUE NOTE PLAYS STING」(東芝EMI/Blue Note TOCJ-66254)
ブルーノート・レーベルに所属するアーティストによる、スティング作品のカバー・アルバム。ボブ・ベルデンによるコンピレーション。2005年リリース。
ブルーノートのジャズ・ミュージシャンたちがロッカーであるスティングを演る、なんて聴くとちょっと意外に思う人が多いだろう。
けど、これが結構イケるのだよ。いやマジで。
オープニングの「フラジャイル」は女性シンガー、カサンドラ・ウィルスンによるカバー。
元曲はスティング87年のアルバム「ナッシング・ライク・ザ・サン」に収められている。
ウィルスンの2003年のアルバム「グラマード」より。ウィルスンとファブリツィオ・ソッテイのプロデュース。
言うまでもなく、スティングはロック・バンド「ポリス」のフロントマンだったベーシスト。ポリスが84年で活動休止となったのちは、ソロ・アーティストとして活動するようになる。
「ナッシング〜」は、英国と日本で1位となったヒット・アルバム。数曲、ヒット・シングルも生まれている。
この中でも、「フラジャイル」はボサノヴァのリズムということもあってか、ジャズ系のミュージシャンに人気が高いという。
男性としてはキーのかなり高いスティングと、女性としてはキーの低いウィルスン。そのせいか、不思議と親和性が高く、ごく自然に聴くことが出来る。
しみじみとした情感が伝わって来る、好カバーだ。
「ロクサーヌ」はポリス時代のデビュー・アルバム「アウトランダス・ダムール」収録のナンバーでシングル・ヒットもしている。
この曲を、このアルバムのコンピレーションも担当している、テナーサックス奏者、バンド・リーダーにしてプロデューサーのボブ・ベルデン、そしてトランペット奏者のティム・ヘイゲンスらがカバーしている。
原曲のロックな雰囲気はほとんどなく、ビッグバンド・ジャズのサウンド。ヘイゲンスのシャープなソロが自在に展開する。
この曲以下の7曲は、すべてボブ・ベルデンのプロデュースによるもので、「ストレート・トゥ・マイ・ハート:ザ・ミュージック・オブ・スティング」という91年のアルバムに収められている。
「アラウンド・ユア・フィンガー」はポリス83年のアルバム「シンクロニシティ」収録のナンバーである。これを女性シンガー、ダイアン・リーヴス、ギタリスト、ジョン・スコフィールドがカバーしている。
ダンサブルなビートに乗って歌われる、アダルト・コンテンポラリーな「アラウンド〜」も、なかなか悪くない。
「ストレート・トゥ・マイ・ハート」は、再びヘイゲンスをフィーチャーしてのインスト・カバー。これも「ナッシング・ライク・ザ・サン」の収録曲である。
ラテン・ビートにアレンジされたビッグバンド・サウンドをバックに、スパニッシュ・ギター、サックスなどが競い合うように登場する。
まさにワールド・ミュージックな「ストレート〜」が楽しめるカバー・バージョンだ。
「見つめていたい」もまた「シンクロニシティ」収録のナンバー。シングルとしても大ヒットしている。
シンガー兼トランペット奏者、マーク・レッドフォードを歌でフィーチャーし、テナーサックス奏者カーク・ウェイラムを絡ませた布陣で送る「見つめていたい」は、オリジナルのロック・スタイルとは相当違って、陽気でダンサブル、ノリがいい。
「シスター・ムーン」はこれまた「ナッシング・ライク・ザ・サン」収録のナンバー。シンガー、フィル・ベリーが歌い、アルトサックスのボビー・ワトスンが絡む。
原曲は寂寥感の漂う曲調であるが、こちらはもっとアッパーなノリで、ボーカルもよりソウルフルである。
「孤独なダンス」は三たび「ナッシング・ライク・ザ・サン」より。テナーサックス奏者のリック・マーギッツァをフィーチャーしたインスト・ナンバー。
静かな流れの中、マーギッツァは淡々とサックスで歌い上げる。いいムードだ。
次の「君に夢中」までがボブ・ベルデンのプロデュースによる曲だ。
この曲でのシンガーは、ジミ・タンネル。ギタリストとして知られているが、ここでは歌とギターを担当。このタンネルのボーカルが、けっこうエモいのである。
ビリー・チャイルズのピアノ・ソロは完全にジャズ・スタイルだが、タンネルのギターはフュージョン系で、そのコントラストが面白い。
元曲は82年の映画のサウンド・トラック「ブリムストーン・アンド・トレクル」より。
「サハラ砂漠でお茶を」は、フランスのトランペッター、フラヴィオ・ポルトロによるインスト・カバー。
彼の99年リリースのアルバム「ロード・ランナー」収録のナンバー。
元曲は「シンクロニシティ」に入っていたので、覚えている人もいるだろうが、完全にホーンのためのジャズとしてリ・アレンジされている。その改変ぶりの鮮やかさには、舌を巻いてしまう。
「オー・マイ・ゴッド」も「シンクロニシティ」中のナンバーだ。歌うのは67年生まれの白人ジャズ・シンガー、カート・エリング。
2000年リリースの「ライヴ・アット・シカゴ」より。自由自在なスキャットを交えた迫力満点の歌唱は、さすがブルーノートで6枚もアルバムを出している実力派ならではのもの。
その奔放な歌いっぷりには、ご本家スティングもビックリだろう。
ラストは再び、「フラジャイル」で締めくくり。
60年代以降、トップ・トランペッターであり続け、2008年に亡くなったフレディ・ハバードによる、インスト・カバー。89年のアルバム「タイムズ・アー・チェンジング」より。
大御所プレイヤーは、特にひねったことはせずに、ストレートにメロディを追う。余裕といいますか、貫禄といいますか。
以上11曲を続けて聴くと、スティングの作り出した音楽が、いかに多様なジャンルをカバーしていたかが、よく分かってくる。
ジャズ、ラテン、ブラジリアン。そういったロックとは別のラインの音楽が、スティングのさまざまなメロディやビートの中に息づいている。
それを感じ取った多くのミュージシャンによって、彼の音楽は今後も愛されていくに違いない。
スティングは、ロック・ファンにとってだけのヒーローじゃないのだ。
<独断評価>★★★☆
ブルーノート・レーベルに所属するアーティストによる、スティング作品のカバー・アルバム。ボブ・ベルデンによるコンピレーション。2005年リリース。
ブルーノートのジャズ・ミュージシャンたちがロッカーであるスティングを演る、なんて聴くとちょっと意外に思う人が多いだろう。
けど、これが結構イケるのだよ。いやマジで。
オープニングの「フラジャイル」は女性シンガー、カサンドラ・ウィルスンによるカバー。
元曲はスティング87年のアルバム「ナッシング・ライク・ザ・サン」に収められている。
ウィルスンの2003年のアルバム「グラマード」より。ウィルスンとファブリツィオ・ソッテイのプロデュース。
言うまでもなく、スティングはロック・バンド「ポリス」のフロントマンだったベーシスト。ポリスが84年で活動休止となったのちは、ソロ・アーティストとして活動するようになる。
「ナッシング〜」は、英国と日本で1位となったヒット・アルバム。数曲、ヒット・シングルも生まれている。
この中でも、「フラジャイル」はボサノヴァのリズムということもあってか、ジャズ系のミュージシャンに人気が高いという。
男性としてはキーのかなり高いスティングと、女性としてはキーの低いウィルスン。そのせいか、不思議と親和性が高く、ごく自然に聴くことが出来る。
しみじみとした情感が伝わって来る、好カバーだ。
「ロクサーヌ」はポリス時代のデビュー・アルバム「アウトランダス・ダムール」収録のナンバーでシングル・ヒットもしている。
この曲を、このアルバムのコンピレーションも担当している、テナーサックス奏者、バンド・リーダーにしてプロデューサーのボブ・ベルデン、そしてトランペット奏者のティム・ヘイゲンスらがカバーしている。
原曲のロックな雰囲気はほとんどなく、ビッグバンド・ジャズのサウンド。ヘイゲンスのシャープなソロが自在に展開する。
この曲以下の7曲は、すべてボブ・ベルデンのプロデュースによるもので、「ストレート・トゥ・マイ・ハート:ザ・ミュージック・オブ・スティング」という91年のアルバムに収められている。
「アラウンド・ユア・フィンガー」はポリス83年のアルバム「シンクロニシティ」収録のナンバーである。これを女性シンガー、ダイアン・リーヴス、ギタリスト、ジョン・スコフィールドがカバーしている。
ダンサブルなビートに乗って歌われる、アダルト・コンテンポラリーな「アラウンド〜」も、なかなか悪くない。
「ストレート・トゥ・マイ・ハート」は、再びヘイゲンスをフィーチャーしてのインスト・カバー。これも「ナッシング・ライク・ザ・サン」の収録曲である。
ラテン・ビートにアレンジされたビッグバンド・サウンドをバックに、スパニッシュ・ギター、サックスなどが競い合うように登場する。
まさにワールド・ミュージックな「ストレート〜」が楽しめるカバー・バージョンだ。
「見つめていたい」もまた「シンクロニシティ」収録のナンバー。シングルとしても大ヒットしている。
シンガー兼トランペット奏者、マーク・レッドフォードを歌でフィーチャーし、テナーサックス奏者カーク・ウェイラムを絡ませた布陣で送る「見つめていたい」は、オリジナルのロック・スタイルとは相当違って、陽気でダンサブル、ノリがいい。
「シスター・ムーン」はこれまた「ナッシング・ライク・ザ・サン」収録のナンバー。シンガー、フィル・ベリーが歌い、アルトサックスのボビー・ワトスンが絡む。
原曲は寂寥感の漂う曲調であるが、こちらはもっとアッパーなノリで、ボーカルもよりソウルフルである。
「孤独なダンス」は三たび「ナッシング・ライク・ザ・サン」より。テナーサックス奏者のリック・マーギッツァをフィーチャーしたインスト・ナンバー。
静かな流れの中、マーギッツァは淡々とサックスで歌い上げる。いいムードだ。
次の「君に夢中」までがボブ・ベルデンのプロデュースによる曲だ。
この曲でのシンガーは、ジミ・タンネル。ギタリストとして知られているが、ここでは歌とギターを担当。このタンネルのボーカルが、けっこうエモいのである。
ビリー・チャイルズのピアノ・ソロは完全にジャズ・スタイルだが、タンネルのギターはフュージョン系で、そのコントラストが面白い。
元曲は82年の映画のサウンド・トラック「ブリムストーン・アンド・トレクル」より。
「サハラ砂漠でお茶を」は、フランスのトランペッター、フラヴィオ・ポルトロによるインスト・カバー。
彼の99年リリースのアルバム「ロード・ランナー」収録のナンバー。
元曲は「シンクロニシティ」に入っていたので、覚えている人もいるだろうが、完全にホーンのためのジャズとしてリ・アレンジされている。その改変ぶりの鮮やかさには、舌を巻いてしまう。
「オー・マイ・ゴッド」も「シンクロニシティ」中のナンバーだ。歌うのは67年生まれの白人ジャズ・シンガー、カート・エリング。
2000年リリースの「ライヴ・アット・シカゴ」より。自由自在なスキャットを交えた迫力満点の歌唱は、さすがブルーノートで6枚もアルバムを出している実力派ならではのもの。
その奔放な歌いっぷりには、ご本家スティングもビックリだろう。
ラストは再び、「フラジャイル」で締めくくり。
60年代以降、トップ・トランペッターであり続け、2008年に亡くなったフレディ・ハバードによる、インスト・カバー。89年のアルバム「タイムズ・アー・チェンジング」より。
大御所プレイヤーは、特にひねったことはせずに、ストレートにメロディを追う。余裕といいますか、貫禄といいますか。
以上11曲を続けて聴くと、スティングの作り出した音楽が、いかに多様なジャンルをカバーしていたかが、よく分かってくる。
ジャズ、ラテン、ブラジリアン。そういったロックとは別のラインの音楽が、スティングのさまざまなメロディやビートの中に息づいている。
それを感じ取った多くのミュージシャンによって、彼の音楽は今後も愛されていくに違いない。
スティングは、ロック・ファンにとってだけのヒーローじゃないのだ。
<独断評価>★★★☆