NEST OF BLUESMANIA

ミュージシャンMACが書く音楽ブログ「NEST OF BLUESMANIA」です。

音盤日誌「一日一枚」#214 the brilliant green「the brilliant green」(SONY RECORDS SRCL4368)

2022-06-16 05:00:00 | Weblog

2004年4月11日(日)



#214 the brilliant green「the brilliant green」(SONY RECORDS SRCL4368)

ザ・ブリリアント・グリーンのデビュー・アルバム。98年リリース。彼ら自身のプロデュース(4曲では笹路正徳との共同プロデュース)。

つい先日、メンバー全員の結婚(うちふたりは職場結婚(笑))のニュースが公表された彼らだが、ここ数年、グループとしてはほとんど開店休業に近い。2002年12月のアルバム「THE WINTER ALBUM」以降、新譜は出ていない。

トミーこと川瀬智子のひとりユニット、「Tommy february6」は好評で、リリースも順調なんだけどね。

ブリグリとしては、この何年かは充電時期だったのだろう。結婚して、精神的にも落ち着いたろうから、これからのリリースに期待したいと思う。

ブリグリは97年9月、マキシシングル「BYE BYE MR.MUG」でデビュー。当時のナンバーはすべて英語詞で、知る人ぞ知るカルトなバンドだったのだが、翌年彼らに転機が訪れる。

テレビドラマ「LOVE AGAIN」のテーマ曲「There will be love there -愛のある場所-」で初めて日本語詞に挑戦、これが見事大ヒット、このファーストアルバムもベストセラーとなった。

で、このアルバム、聴いてみると、曲調に明らかに異なるふたつの系統がある。

すなわちフォーキーでポップなナンバーと、ロックなナンバー。

デビュー当時、ブリグリのウリは、英国系のけっこうハードなギターバンド・サウンドと、スウィートなロリータ・ヴォイスの取り合わせの「意外性」にあったと思う。

しかし、その音では、所詮マニア向けのものでしかない。おまけに、歌詞は全部英語ときている。マスに売れるわけがない。

そこで、スピッツ、プリンセス・プリンセス等のプロデュースで知られる名うての音職人、笹路正徳の登場となる。

日本語詞を川瀬に書かせ、サウンドもアコギやストリングス中心にすることで、一般リスナーにもスッと入っていけるポップなものに衣替えした。

狙いは見事的中。テレビのタイアップ効果も加勢したとはいえ、「There will be~」はじわじわとチャートを上り、3作目にしてオリコン一位というスーパー・ヒットになったのだった。

今聴き返してみると、「There will be~」って、彼らより前に登場し、人気を集めたマイラバことMy Little Loverへの対抗意識が相当感じられる音作りだ。

小林武史に負けるものかと、笹路正徳が放った必殺のカウンターパンチってとこか。

現在ではそのマイラバもブリグリも、ほぼ休止状態ってのが、なんとも皮肉なのだが。

(その路線は、実はEvery Little Thingが新曲「ソラアイ」でちゃっかり継承したりする。)

他の曲では「Stand By」「Rock'n Roll」あたりも、「There will be~」に連なる路線といえよう。

笹路プロデュースの曲でいえば、「You & I」も面白い。まるでヘアカット100みたいなラテン風アコギ・サウンドは、聴いていてとても邦楽と思えない。

コーラスやストリングスも、ブリグリの本来の硬質で無機質な音(実際、初期はほとんど宅録だったとか)を、見事に塗りかえている。

彼ら自身のプロデュースによる「Always And Always」もその影響を大いに受けていると思う。

一方、あくまでも「ロック」って感じの曲もある。「I'm In Heaven」しかり、「Baby London Star」しかり。これらの曲からは、「There will be~」のブリグリはまったく想像がつかない。日本語詞の「冷たい花」も、マイナーのメロディがいかにもへヴィーで、この路線。

ポップなブリグリ、ロックなブリグリ、どちらが好きかは、「There will be~」を聴いてファンになったのか、以前からのファンかによって大きく分かれてくるだろう。

でもポップとロック、このふたつはブリグリの音楽性において、クルマの両輪のようなもので、相反するものではない。

トミーの声のポップさと、作曲担当・奥田俊作のロックセンスの邂逅にこそ、ブリグリの真の面目、オリジナリティがあると筆者は思う。

「Tommy february6」はお遊び、息抜き程度にして、今年こそはぜひ、ブリグリに全力投球していただきたいものだ。

英語詞で歌うのがサマになる数少ないバンドのひとつとして、国際的な活動も期待できる彼ら。

「There will be~」や「そのスピードで」「Hello Another Way─それぞれの場所─」といった過去のヒット曲のイメージにしばられることなく、新しいブリグリ・サウンドを生み出していってほしい。

<独断評価>★★★☆


音盤日誌「一日一枚」#213 Mr.Children「Atomic Heart」(トイズファクトリー TFCC-88052)

2022-06-15 05:11:00 | Weblog

2004年4月11日(日)



#213 Mr.Children「Atomic Heart」(トイズファクトリー TFCC-88052)

ミスター・チルドレンの4thアルバム。94年リリース。小林武史によるプロデュース。

それまでは群小バンドのひとつに過ぎなかったミスチルが、このアルバムの大ヒットで一躍トップ・アーティストへの仲間入りをしたといっていい。彼らにとっても記念碑的な一枚。

同年の連続スマッシュ・ヒット「Cross Road」「Innocent World」を主軸に、10曲(+2トラックのSE)を収録している。

ミスチルといえば、典型的な「ワンマン・バンド」のひとつで、ほとんど全ての楽曲をヴォーカルの桜井和寿が作っているが、このアルバムでも「Asia」の作曲をドラムの鈴木英哉が手がけている以外は、桜井が曲作りを一手に引き受けている。(ただし、4曲は小林武史Pとの共同名義による作曲。)

ミスチルは3枚目のアルバムまではなかなかブレイクせず、わりとスロー・スターターだったが、本来トップに躍り出るだけのものを十二分に持っていたバンドだ。

まず、ヴォーカルの桜井の声がいい。しかも歌がうまい。彼の作るメロディに独自のセンスがある。そしてとどめは、彼のルックスがいい。三拍子どころか、四拍子もそろっている。

彼らの兄貴格、サザンの桑田だって、こんなに揃ってないしぃ(笑)、成るべくして成ったスターというべきですな。

筆者的にはやはり、ヒット当時有線とかラジオとかで偶然聴いた「Cross Road」や「Innocent World」に心を奪われ、「このアーティスト(最初はバンド名も知らなんだ)は、絶対天下を取る!」と確信したものだ。そして、もちろん、その通りになった。

実際には、ブレイクしてからの十年の道のりは平坦なものではなかった。それは皆さんもよくご存じのことだろう。

音楽的に煮詰まって活動を休止した時期もあったし、バンドの中枢、桜井のスキャンダルやら闘病もあった。

でも、そういったことをすべて乗り切って、ふたたび意欲的に音作りに取り組んでいるのを見ると、彼らの実力はハンパではなかったのだと感じざるをえない。

おりしもこの7日に発売されたアルバム「シフクノオト」は実に11枚目。

常に前に進み続けるこの姿勢には、素直に敬意を表したいと思う。

さて、本題の当アルバムだが、サウンド的には全面的にプロデューサー、小林武史のセンスとアイデアが横溢している。

ミスチルが本来持っている、清新な曲作りのセンスを極力壊すことなく、バンドとしてのダイナミズムを付与しているのだ。

「Dance Dance Dance」のハードなデジタル・サウンド、「ラヴ コネクション」のあからさまなストーンズ・サウンド、「Innocent World」の、佐野元春のお株をとったかのようなフィル・スペクター風サウンド、「クラスメイト」のメロウなホーン・サウンド。「Cross Road」のフォーク・ロックとボレロを合体させたサウンドも、当時では実に新鮮だった。

まだまだある。「ジェラシー」のデジタルとオルタナの融合、「Asia」のスケールの大きなシンフォニック・サウンド、「雨のち晴れ」のファンク・サウンド、「Round About~孤独の肖像~」のサザンライクなホーン・サウンド。そして「Over」の優しいアコースティック・サウンド。

これらを見ただけでもサウンド職人、小林武史の引き出しの多さがよくわかりますな。

ミスチルと小林、両者の出会いにより、バンド単体だけでは到底出しえなかったサウンド、グルーヴを獲得したこと。これは大きい。バンドに限らずアーティストは、自分たちとは異なる才能を持った人々(ミスチルの場合は、桑田そして小林だな)と邂逅し、たがいに触発してあっていくことで、初めて成長出来るのである。

ここに、ミスチルが10年以上も作品を世に送り出し、しかも今も多くのひとびとに支持されている理由を、見出せるように思うね。

「自分たちが一番、他人にプロデュースなんて頼まん!」なんて思い込みは、得てしてバンドの行き詰まりにつながるもんだ。

キムタクのCFのセリフではないが、「開いている」か「閉じている」かでいえば、ミスチルはまさに「開いている」バンドなのだ。

あるときは深夜放送でホンネを喋り、またあるときは音楽ヴァラエティに登場し、漫才師にツッコミを入れられる。ここまで平気で出来るのは、本当に自分たちの音楽に自信がなくては出来ないことで。

いたずらに自己演出し、自らをカリスマ化することに血道を上げている凡百のバンドにはない、余裕と貫禄を感じるね。

やっぱ、ミスチルは最強!

しかし、そんなミスチルでも、筆者的にはあまり受け入れられない部分がひとつだけある。

それは、桜井の書く歌詞。理が勝ち過ぎというか、理屈っぽいというか、説教臭いのだ。

ロックの歌詞は、「理詰めですべてを書く」ことに余り意味はないと筆者は思っている。暗喩を交えて聴き手をはぐらかし、ケムに巻くくらいの適当さ加減でいいのに、彼の歌詞は妙に律儀で厳密で、誤った解釈の余地がない。

歌詞の意味を真剣に考えながら聴いていくと、息苦しくなるので、筆者はあまりそれをしないようにしている。

ま、それを差し引いても、十分お釣りが来るくらい、桜井の才能と魅力はスゴい。

大瀧詠一、山下達郎、桑田佳祐といった諸先輩が、自分の陣地を守ることに汲々としている一方で、彼だけは今後、何かドカーンと大きなことをやってくれそうな予感がある。

「後生、畏るべし」ということが当てはまる数少ないアーティストのひとつ、Mr.Childrenに期待age( 2ちゃん風)である。

<独断評価>★★★★


音盤日誌「一日一枚」#212 伊藤銀次「SUGAR BOY BLUES」(POLYSTAR 28P-39)

2022-06-14 05:00:00 | Weblog

2004年4月4日(日)



#212 伊藤銀次「SUGAR BOY BLUES」(POLYSTAR 28P-39)

伊藤銀次のサード・ソロ・アルバム。82年リリース。

誰にでも「青春の一枚」とでも言うべき一枚のアルバムがあると思う。甘酸っぱくて、ときにはほろ苦い。針を下ろしただけで、当時の思い出が瞬時に蘇るような。

この「SUGAR BOY BLUES」は、筆者にとってまさにそんな一枚なんである。

当時、佐野元春のバック・バンド「HEARTLAND」に所属し、ギタリスト兼アレンジャーとして大活躍していた彼の、もうひとつの顔が見られるソロ・アルバム。一曲を除く全曲、彼が作・編曲をし、歌っている。

「恋のリーズン」はそんな中でも一番好きな曲。彼がアコギを弾きながら歌うミディアム・テンポのポップ・チューン。キャッチーで、もう琴線に触れまくりのせつないラヴ・ソング。

「フールズ・パラダイス」は、それにまさるとも劣らぬ名曲。セカンド・ライン風のビートがなんともカッコいい。

そして、知っているひとは知っている往年のアイドル歌手・神田広美が作詞家となって、彼に歌詞を提供している。これがまたいい。恋ってどうしてこう「おバカ」なものなんだろう、でもそれがまた(・∀・)イイ!!と思わせる佳作。

タイトル・チューン「SUGAR BOY BLUES」も好きなんだよなあ。この歌に登場する、「女のコに優しいだけでいつもフラれてばかりいる少年」って、まるで昔の自分のことじゃないか、なんて思ってしまったり。

音楽職人・銀次の紡ぎ出すノスタルジックでスゥイートなメロディ・ライン同様、いいのがこのアルバムのリリック。

その後中森明菜、チェッカーズの作詞でブレイクしたコピーライター・売野雅勇、山下久美子、オメガトライブの作詞でも知られる康珍化、この当時の二大人気作詞家の、ツボをおさえたセンチメンタルな詩はもう涙もの。

盟友・佐野元春も、もちろん協力している。「恋のソルジャー」は元春が作詞・作曲、コーラスでも参加しており、いかにも元春ライクな疾走感のあるナンバーに仕上がっている。ここでは人気サックス奏者、ジェイク・コンセプションのプレイが聴きものだ。

この他、同じく元春調の「Night Pretenders」、バディ・ホリー調の「シンデレラリバティなんて恐くない」、AORなバラード「真冬のコパトーン」、珍しくテクノ調の「Audio-Video」、ロッカ・バラード調の「Hang On To Your Dream」などなど、60~70年代ポップスのエッセンスがぎっしりつまった佳曲が目白押しである。

ビーチボーイズみたいな白人系ポップスも、黒人のR&Bもバランスよく共存しているのが、彼のサウンドの特徴。とくにモータウン系がお好きのようで、ビートやストリングス・アレンジなどに強くそれが感じられる。そのあたりは、筆者にとってもストライク・ゾーンだったりする。

歌唱のほうは、音程・声量ともにちょっと頼りない感じで、お世辞にもうまいとはいえないのだが、優しく素直な感じの歌い方には好感が持てる。

最初聴いたときには印象が稀薄なのだが、何度も何度も聴きこんでいくうちに、次第に銀次ワールドに引き込まれていく、そんな一枚だ。

青山純、青山徹、美久月千晴、ペッカー、浜口茂外也、西本明、松下誠らバックのメンバーもスゴ腕のミュージシャン揃いで、演奏にハズれなし。もちろん、銀次のアレンジもいい。

日本にもこんな上質のポップス・アルバムがあったのだよ。いわば、隠れた名盤。

CDでも再発されているから(現在の発売元はKi/oon Sony)、皆さんもぜひチェックしてみて欲しい。

<独断評価>★★★★


音盤日誌「一日一枚」#211 モーニング娘。「ベスト!モーニング娘。1」(zetima EPCE-5089)

2022-06-13 05:01:00 | Weblog

2004年3月28日(日)



#211 モーニング娘。「ベスト!モーニング娘。1」(zetima EPCE-5089)

モーニング娘。の初ベスト盤。2001年リリース。

この31日には2001年からの3年間のベスト盤「ベスト!モーニング娘。2」をリリースする彼女たちだが、この「1」が打立てた230万枚という大記録に、果たしてどこまで迫れるだろうか。

娘。を国民的人気グループにまでのし上げた初ミリオン・ヒット「LOVEマシーン」に始まり、正式デビュー前、5万枚限定のインディーズ・シングル「愛の種」に至るまでの15曲。おなじみのナンバーが満載である。

ところであなたは、最新のモー娘。のシングル曲のタイトルは何か、言えるだろうか?

おそらく、大半のかたはご存じないのではないだろうか。

かつて、最強のヒットチャート常連であった娘。にしてこのありさま。いったい何故、こんなことになってしまったのだろうか?

この一枚を聴きながら、考えてみよう。

モーニング娘。は97年秋に5人で結成。翌年8人編成に増員し、「サマーナイトタウン」「抱いてHOLD ON ME」の連続ヒット、ことに後者は初めてチャート一位となり、一躍注目された。

この二曲に、成功の鍵があったのは間違いない。

聴いてみて感じるのは、「ギリギリ感」とでもいうべきもの。彼女たちが歌いこなせる限界のキーやテンポに挑戦し、はっきりいって「苦しい」ところさえあるが、そのエッジ感覚が実はミョーに色っぽいのだ。

ことに、当時メンバー中最年少ながら、抜群に歌のうまい福田明日香の存在は大きかった。(「Never Forget」などを聴くと、そのことを痛感する。事実、彼女が卒業した後、娘。の歌のテンションはいっぺんに下がってしまった。)

歌詞にしても、最近のシングル「愛あらばIT'S ALL RIGHT」「Go Girl~恋のヴィクトリー~」に見られるような健全・穏健路線ではなく、男女のドロドロとした恋愛模様を歌っている。これがまた、聴き手にとっては刺激的だった。

のちの彼女たちのセールス文句となった「セクシー」という概念が、笑いをとるためのネタではなく、本当にそこにあったのだ。

新旧の曲を聴き比べてみると、同じ名前でありながら、まったく別のグループになってしまった印象さえある。実際、共通のメンバーはたったの3人(安倍・飯田・矢口)だけだし。

娘。というグループは、ほぼ定期的に旧メンバーを卒業(脱退)させ、新メンバーを採用し、世代交代を行うことで生き延びてきたグループではあるが、現在の平均年齢の異常に低いメンバーでは、おそらく、初期のナンバーを歌いこなすことは事実上不可能だろう。

たえず新陳代謝を繰り返すこと、これは諸刃の剣なのだ。

事実、このアルバムでは一番後期の曲「恋愛レボリューション21」の後、リーダーの中澤裕子が卒業し、4期加入の石川梨華がフロントをつとめた「ザ☆ピース!」から、シングルのセールスは下降の一途をたどっている。

やはり、歌作りそのものをおろそかにして、アイドルとしてのキャラクターを前面に押し出すようになってきたことが、凋落(おおげさに言えば、だが)の主要因ではないかと思うね。

まあそれでも、今だって十分人気グループであることに変わりはないが、全盛期、すなわち「LOVEマシーン」「恋のダンスサイト」「ハッピーサマーウェディング」「I WISH」と続く快進撃の時代に比べれば、そのパワー、一般リスナーへのアピール度は何分の一かに低下してしまったといえる。

「ベスト!モーニング娘。2」のセールスはおそらく、50万枚がいいとこかなという気がするね。

やはり、230万枚の実績はダテじゃない。どの曲も、プロデューサー兼作詞・作曲のつんく♂をはじめとして、アレンジャーの桜井鉄太郎、前嶋康明、小西貴雄、河野伸、ダンス☆マンといった人たちが実にクォリティの高い、いい仕事をしている。アイドル・ポップスといえば昔はお粗末なものしかなかったものだが、繰り返し聴くにたるだけのものがこの一枚にはある。

個人的には、フォーク・ロック路線の「愛の種」「モーニングコーヒー」、ラテン・テイストあふれる「サマーナイトタウン」、あの8人以外にはおそらく歌いこなせないであろうハイパーR&Bチューン「抱いてHOLD ON ME」、そしてバラードの名曲「Memory 青春の光」といった初期のナンバーが圧倒的に好みだな。娘。サウンドはこの「メモ青」で完成し、ピークを迎えたと断言していい。

もちろん、その後の「ラブマ」に代表されるお祭り系チューンも楽しい。セリフや合いの手、SEなどスタジオ録音ならではのお遊びもてんこ盛りで、あきさせない。

全盛期メンバーのあいつぐ卒業により、曲がり角を迎えているモーニング娘。このまま、お子ちゃま向きの甘ったるいアイドル・グループ路線を続けていくのか、あるいはもう一度原点に立ち戻って、曲作りを一から見直し、世代を越えたヒットで国民的な人気を取り戻すのか。

娘。そしてつんく♂から、今後も目が離せそうにない。

<独断評価>★★★★


音盤日誌「一日一枚」#210 ディープ・パープル「ディーペスト・パープル」(WARNER BROS. WPCP-4545)

2022-06-12 05:04:00 | Weblog

2004年3月22日(月)



#210 ディープ・パープル「ディーペスト・パープル」(WARNER BROS. WPCP-4545)

現在来日中の老舗ハードロック・バンド、ディープ・パープルのベスト・アルバム。80年リリース。

もう、それ以上の説明など不要だろう。とにかく、黄金期(第2~3期)のパープルのエッセンスがこの一枚に凝縮されている。

日本では最初の本格的ヒットとなった「ブラック・ナイト」に始まり、極めつけの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」に至るまで、彼らの代名詞的ナンバーが12曲。感涙モノである。

最近ではヤンキー・ロックの旗手、氣志團より敬意をこめてサウンドをパクられているパープル。歴史的評価はおいといて、彼ら以上に日本人に愛されたロック・バンドが他にあったろうか?

多分、ないような気がするね。

さて、パープルのベスト・アルバムはこれ以前にも「24 CARAT PURPLE」というのが75年に出ているが、それとの大きな違いは、「ハイウェイ・スター」「スペース・トラッキン」「紫の炎」「嵐の使者」「デイモンズ・アイ」が加わり、「ネヴァー・ビフォア」が外されていること。当アルバムの方が、より多くの人気曲が収録されているといえますな。

また、「スピード・キング」は「イン・ロック」とも「24~」とも違う、第三のテイクを収録している。

<聴きどころその1>

ディープ・パープルの魅力は、たとえばリッチーのトリッキーなプレイとか、ジョンの緻密なキーボード・ワークとか、はたまたリズム・セクションのパワーとか、色々挙げられるだろうが、やはりその「歌声」にとどめを刺すのではないだろうか。

もし、パープルのリード・ヴォーカルがロッド・エヴァンスのままであったら、と想像してみるといい。多分、今日の彼らの栄光はなかったはずだ。

イアン・ギラン、彼こそはパープルを人気バンドたらしめた最大の功労者だと思う。

彼の、耳に突き刺さるような超高音シャウト、これはエヴァンスはもとより、デイヴィッド・カヴァーデイル、グレン・ヒューズ、ジョー・リン・ターナーら、後継ヴォーカリストの誰も真似が出来なかった。

ここはやはり名曲「チャイルド・イン・タイム」を聴くといい。最後までフル・テンションの歌声。彼の凄まじさがよくわかることだろう。

<聴きどころその2>

もちろん、歌だけではない。ハードでパワフルな演奏も彼らの大きな魅力だ。

ただ、当時我々が「スーパー・テクニック」だと思って聴き惚れていた演奏も、いま聴いてみると「なんかフツー」という感じがしないでもない。

これは別に彼らがヘタだったということではなく、それだけロックというものが、短期間に驚異的な進化を遂げたという証拠なんだと思う。

多くのロック少年たちは彼らをお手本にしてロック演奏のABCを学び、そしてある者たちは彼らよりさらに高い境地へと飛躍していった、そういうことだと思う。

当時は過激だと思っていたリッチーのプレイも、今聴くとおそろしく「オーソドックス」なものに聴こえる。たとえば「ブラック・ナイト」しかり、「ストレンジ・ウーマン」しかり。

当時のもうひとつの人気バンド、ZEPは非常にコピーが難しかったが、パープルはそれに比較すれば、基本テクニックさえあれば真似るのもさほど困難ではなかった。これも、大人気の要因だったのだろう。

実際、筆者の周辺でも、中3くらいで「ハイウェイ・スター」とかをほぼ完コピしているバンドがあったくらいだ。

子供にもわかりやすいサウンドなので、玄人ウケは余りしないが、支持層はものすごく広い。これが彼らの強みだったのだと思う。

その代表例が「スモーク・オン・ザ・ウォーター」だと言えよう。コピー嫌いなこの筆者でさえ、一時はリッチーのソロをそらんじていたほど。これぞロック・ギタリストの必修課題曲、ナンバーワン!

日本のバンド・シーンにおいて、かつて自分が最大の影響力を持っていたなんて、もはやエレキを廃業したリッチーにはピンと来ないでしょうけどね。

この一枚を聴き終わる頃には、あなたの手は自然とエレキ・ギターに伸びて、「あの」フレーズを弾き始めているはず。間違いない(笑)。

<独断評価>★★★★☆


音盤日誌「一日一枚」#209 ウィリアム”ブーツィ”コリンズ「ウルトラ・ウェイヴ」(WARNER BROS. WPCP-3682)

2022-06-11 05:00:00 | Weblog

2004年3月21日(日)



#209 ウィリアム”ブーツィ”コリンズ「ウルトラ・ウェイヴ」(WARNER BROS. WPCP-3682)

初めにひとこと。今日からまた、大幅にフォーマットを変えてみたいと思うので、よろしく。気分は「新装開店」である。

さて、きょうの一枚はP-ファンクの立役者のひとり、ブーツィ・コリンズのファースト・ソロ・アルバム。80年リリース。

アルバム発表当時、筆者は大学生だったが、同じバンドのドラマー、M君がこの手のファンク・ミュージックがオキニで、ブーツィも彼の影響で聴き始めたという記憶がある。

筆者の当時の趣味は、ユートピアみたいなプログレッシヴなロックだったが、それとはかなり趣きの異なるP-ファンクも結構好きだった。タツローあたりを好んで聴いていたことも関係あるかもしれない。

ブーツィについて簡単に紹介しとくと、51年オハイオ州シンシナティ生まれ。ベーシストとして18才の若さでジェイムズ・ブラウンのバック・バンド、JBズに参加。P-ファンク軍団の総帥、ジョージ・クリントン率いるファンカデリックに参加して注目を集め、以降パーラメント、ブーツィズ・ラバー・バンドにて70年代のP-ファンクをリードしてきた人なのである。

まあ、そんな瑣末な知識はどうでもいい。とにかく音を聴いてみるのが一番。

メロディより、リズム、リズム、リズム。とにかく全編、猥雑なファンクのグルーヴが渦巻き(まさにウルトラ・ウェイヴだな)、聴き手をとりこにしていく。

音だけではない。歌詞も相当ヤバい。卑猥で、お下品。とても直訳出来ないようなワードの連続なんである。日本では幸か不幸か、ことばの障壁が合って、そのへんのところは全然話題にも上らないんだけど。

でも、ジャケット写真を見ただけでも、彼のいかがわしさ(もち、いい意味だよん)がすぐわかるのでないかな。

ステージでは星型のサングラス、胸を大きく開けたラメのジャンプスーツに厚底ブーツ、白マントに王冠、これまた星型の変態ベースという超「キテいる」スタイル。エクストリームなカッコのプレイヤーの多いP-ファンクの中でも、ひときわ目立つハデさ。

そのベース・プレイも天衣無縫というか、自由闊達というか、変幻自在というか、アドリブ色の強いもの。これまた、マニアにはたまらないものがあるでしょう。また、歌やラップも、七色の声をたくみに使い分けている。なんとも器用なひとである。

本作では、粘っこ~いファンク・ナンバー「MUG PUSH」、ブーツィ流なんちゃってブルース「IS THAT MY SONG?」、EW&Fをちょっとおちょっくたようなサウンドの「IT'S A MUSICAL」、P・ベイリーばりのファルセットを聴かせる「FAT CAT」、コーラスとの絡みがカッコいい「SOUND CRACK」など、聴きどころが多い。

思い切りファンキーでありながら、どこか非常にポップで耳になじみやすい。まさに天才の仕事だと思いますね。

皆さんも、たまにはこういう理屈抜きにカッコいい音で、脳内をリフレッシュしてみてはいかが?

<独断評価>★★★☆


音盤日誌「一日一枚」#208 ヨーヨー・マ「SOLO」(SONY SK 64114)

2022-06-10 05:00:00 | Weblog

2004年3月7日(日)



#208 ヨーヨー・マ「SOLO」(SONY SK 64114)

フランス生まれの中国系チェロ奏者、ヨーヨー・マの無伴奏ソロ・アルバム。99年リリース。

チェロという弦楽器は、アンサンブル用だけでなく独奏にも比較的適していて、それ用に書かれた楽曲も多いのだが、独奏曲だけで、しかも最も著名なバッハの「無伴奏ソナタ」抜きでまるまる一枚作ってしまうというのは、商売的にはかなりの「冒険」である。

当代随一の人気チェリストならではの企画と言えよう。

<筆者の私的ベスト2>

2位「SEVEN TUNES HEARD IN CHINA(中国で聞いた七つの歌)」

本アルバムに収められている曲は、大半が「現代音楽」の範疇に入る。その作曲者の名も大半が、われわれには馴染みのないものであろう。

この組曲風の七章を書いたブライト・シェンもそんなひとり。代表作は「CHINA DREAMS」。そう、ヨーヨー・マと同じく、中国人の音楽家、盛中亮なのである。

55年、上海生まれ。多感な思春期に文革を体験し、バルトーク、ストラヴィンスキーといった民族楽派に影響を受けた彼は、現在の中国を代表する中堅作曲家といえるだろう。

彼の紡ぎ出す音楽は、あくまでも西洋音楽をベースにしながらも、そこはやはりアジア人、非常に瞑想的な雰囲気を持ち、その一方で清新な躍動感も感じさせるものだ。

同胞で、しかもタメ年でもあるヨーヨー・マ(馬友友)は、シェンの音楽の本質をもっとも理解する演奏者といえるだろう。

もっとも望ましい弾き手を得ることで、この作品はベストといえる仕上がりを見せている。

ときには胡弓のように流麗で官能的な響き、ときには筝のようなダイナミックなプレイ(実際にコンサートを観に行ったひとのレポでは、ボウだけでなくバチまで使っていたそうだ)を聴かせてくれる。

技術、響き、そして情感の表現、すべてにおいて、文句なしの出来である。

1位「SONATA FOR SOLO CELLO Op.8(無伴奏チェロ・ソナタ 作品8)」

何を隠そう、筆者がこのCDを買ったのは、この曲を聴くがためであった。

ベラ・バルトークと並んでハンガリーを代表する作曲家、ゾルターン・コダーイ(1882-1967)の作品。

筆者は約20年前、堤剛の演奏で初めてこの曲を知ったのだが、西洋音楽とも東洋音楽とも言い切れぬ、独自の音世界に思わず引きずりこまれてしまったものだ。

ハンガリーの民俗音楽を匂わせる、土臭い旋律。広大な草原の中で、一台のチェロを弾いているさま、そんな風景が思い浮かんでくる一曲なのだ。

曲は三章の構成となっており、通しで弾くと30分近い長尺である。

その中でも、第一章冒頭のフレーズは、何度聴いてもインパクトがある。ベートーベンの「運命」のそれにも匹敵する、そんな感じ。

まさに、「つかみ」の一撃というべきか。

この曲は、西洋のいわゆる教会音階とは異なる、独特の音階を使用しているのだが、楽器の調弦もそれに合わせて、C弦やG弦をチューン・ダウンした変則チューニングを採用している。

そのため、通常のチェロ以上に中低音に異様なまでの迫力が感じられる。

ボウの動きにより発せられる音が、あたかも馬に打つ鞭のようにも聴こえるのだ。

さて、この曲のベスト・テイクは、作者同様ハンガリー出身のヤーノシュ・シュタルケルによる演奏であると多くの評者により言われて来た。

筆者もシュタルケルの演奏は愛聴しており、同じ意見である。それは今でも変わらないのだが、ヨーヨー・マのこのヴァージョンも、なかなか捨てがたいものがある。

シュタルケルの音色の重厚さ、ワイルドさに比べると、こちらのほうがもう少し軽くてジェントルかなという印象はあるが、技術的には互角。

30分近く、聴く者の神経を最後まで一瞬たりとも弛緩させることなく引っ張っていく。この演奏力はやはり、ただものではない。

素顔の温厚なキャラクターとは裏腹に、"紙一重"の狂気をも感じさせるヨーヨー・マの演奏。まぎれもなく、「天才」の業だと思うね。

<独断評価>★★★★


音盤日誌「一日一枚」#207 トーマス・ドルビー「光と物体」(東芝EMI ZR25-894)

2022-06-09 05:11:00 | Weblog

2004年2月29日(日)



#207 トーマス・ドルビー「光と物体」(東芝EMI ZR25-894)

英国のアーティスト、トーマス・ドルビーの、アメリカにおけるデビュー・アルバム。82年リリース。

本国でのデビュー盤に、アメリカでもスマッシュ・ヒットとなった「彼女はサイエンス(SHE BLINDED ME WITH SCIENCE)」や「ワン・オブ・アワ・サブマリン(ONE OF OUR SUBMARINES)」を加えたヴァージョンだ。彼自身のプロデュース。

デビュー盤にして、すべてセルフ・プロデュースというのもスゴいが、とにかく新人らしからぬ完璧なサウンド作り、そして、トリッキーな演出のPVが、当時リスナーの話題をさらったものだ。

80年代といえば、MTVの台頭に象徴されるように、ビデオを使ったプロモーションが一般的となり、ロック/ポップ・ミュージックのヴィジュアル化が進んだ時期。

そんな中で、サウンドのみならず、ヴィジュアル面の演出にも長けていた才人、トーマス・ドルビーが一躍時代の寵児となったのは、大いに納得がいくね。

<筆者の私的ベスト3>

3位「哀愁のユウローパ(EUROPA AND THE PRIVATE TWINS)」

ドルビーは58年、エジプトのカイロ生まれ。両親は英国人だが、父親の考古学者という職業柄、アフリカやヨーロッパの各地に移り住んだという幼少時の経験が、彼の音楽性に大きく影響を与えているようだ。ときおり聴かれる中近東ふうの旋律に、それを特に感じる。

さて、3位はEMIからのデビュー・シングル。

この曲でドルビーは、テクノ・ビートとセカンド・ラインの融合という荒技をやってのけている。

まったく水と油の存在と思われている二者を化合させて生み出されたのは、聴いたこともないような新しいサウンド。まさに、音の錬金術だ。

ひとつの音楽スタイルに凝り固まるひとの多いブリティッシュ・ロックのミュージシャンにも、こんな引き出しの多いひとがいたんだと、当時は驚いたものだが、いまでもその思いは変わらない。

その特異なヴォーカル・スタイルとともに、彼のエレクトリック・サウンドは唯一無二のものだと思う。

小ネタをひとつ。この曲ではブルースハープがちょっとした隠し味になっているが、吹いているのはブリティッシュ・ロックの鬼才、XTCのアンディ・パートリッジだったりする。

2位「電波(AIRWAVES)」

ゆったりとしたビートの、バラード・ナンバー。でも、ドルビーの作品だから、フツーの曲であろうはずがない。

タイトルが示すように「電波系」な歌詞が、いかにもNERD(ヲタク)な雰囲気をぷんぷんとさせるドルビーらしい。

ヌーヴェルバーグのシネマを想起させるような、不可解なイメージのパッチワーク。聴き手の安易な共感などいらないと言わんばかりである。

にもかかわらず、音のほうはあくまでもメロディアスで、ひたすら美しい。

かつてのバンド仲間、ブルース・ウーリーと共に録った、バック・コーラスがこれまたセンシティヴで素晴らしい。

1位「彼女はサイエンス(SHE BLINDED ME WITH SCIENCE)」

マッド・プロフェッサーの異名を取るトーマス・ドルビーの、オタッキーなカッコよさが最大限に発揮されたナンバー。

ポップにしてダンサブルながら、彼の「狂気」と紙一重の才能をも十二分に感じさせる一曲。

最初のワン・フレーズから聴き手を幻惑するような歌声、脳髄を直撃するエレクトリック・ビート、出所不明のエキゾティックな音使い。いずれをとっても、天才の業といえよう。

あまり知られていないと思うが、歌詞の一節に「good heavens Miss Sakamoto-you're beautiful!」というのがある。このサカモトとは、当時YMOで活躍していた坂本龍一から取っている。

ドルビーもYMOには大きな影響を受けており、坂本とは個人的な交流もあったようだ。で、その関係で「ラジオ・サイレンス(Radio Silence)」には元坂本夫人、矢野顕子がバック・ヴォーカルで参加していたりする。

それだけ、YMOも日本国内だけでなく、インターナショナルに支持されていたという証拠ですな。

余談はさておき、ドルビーの生み出すサウンドには、彼が惑溺してきたありとあらゆるジャンルの音楽―クラシック、現代音楽、ジャズ、R&B、ソウル、レゲエ、そしてテクノ、等々が、彼ならではのアイデアにより再構成されている。

一応、ニューウェーブ、エレトリック・ポップあたりにカテゴライズされるのだろうが、それらとはどこか一線を画した、スケールの大きさを彼の音楽には感じる。

聴きやすさ、わかりやすさを保ちながらも、パターン化に陥らず、つねに自己変革、進化を繰り返していく究極の「前衛」。これがトーマス・ドルビーの音楽の本質だと思う。

天才プロフェッサーによる、テクノロジーと感性の融合。圧巻のひとことです。

<独断評価>★★★★


音盤日誌「一日一枚」#206 チープ・トリック「IN COLOR」(EPIC/SONY 25AP 728)

2022-06-08 05:00:00 | Weblog

2004年2月22日(日)



#206 チープ・トリック「IN COLOR」(EPIC/SONY 25AP 728)

チープ・トリックのセカンド・アルバム。77年リリース。

<筆者の私的ベスト4>

4位「I WANT YOU TO WANT ME」

本盤のプロデュースは、前作のジャック・ダグラスに代わって、トム・ワーマンが担当。

ノイジーで神経症的な雰囲気が強いデビュー盤に比べて、ぐっとポップで聴きやすいサウンドになっている。

とはいえ、そこはやはりチープ・トリック、裏にはちゃんと毒を含んだ「仕掛け」が随所に見られるのだが。

4位のこの曲は、コンサートでもおなじみのナンバー。リック・ニールセンの作品。

チープ・トリックの音は基本的にハードロックで、それにビートルズ的なポップ・センス(メロディやコーラス等)を加味したものだが、実はもうひとつ隠し味があって、それがこの曲などではよく表われている。

それは何かというと、ブルース、R&B、ジャズなどのルーツミュージックのセンスを巧みに取り込んでいるということ。特にピアノの使い方にそれが感じられる。

これは彼らの出身地も、微妙に関係しているという気がするね。

彼らが生まれ育ったイリノイ州ロックフォードは、ブルースの都・シカゴにも近く、オーセンティックな黒人音楽とも無縁ではない場所だ。

ブリティッシュ・ハードロックの強い影響を受けながらも、そこはやはりアメリカ人、他のジャンルの音楽にも常日頃接触しているという「環境」が、彼らのサウンドにヴァラエティをもたらしている、そういうことではないかな。

3位「SOUTHERN GIRLS」

リックとトム・ピータースンの共作。この曲はタイトルや歌詞ですぐにわかるかと思うが、明らかにビーチ・ボーイズの「CALIFORNIA GIRLS」を意識したつくりになっている。

ビーチ・ボーイズといえば、単に人気グループというだけでなく、「PET SOUNDS」以降のアルバムでアメリカン・ロックにサウンド革命をもたらした先駆者でもある。

チープ・トリックも、その影響を(ダイレクトとはいえないにせよ)かなり受けているのは、間違いないだろう。

この曲に限らず、いくつかの曲で聴かれるコーラス・ワークに、その匂いを感じ取ることができるように思う。

ただ、さすがにチープ・トリック、ご本家とは違って、あくまでハードな音、シニカルなひねりを加えた歌詞という「仕掛け」があることも、お忘れなく。

2位「CLOCK STRIKES TEN」

これまたライヴでは超定番のナンバー。チャイムを擬したギター・ハーモニクスのイントロを聴けば、誰もが「ああ、あれね」と思い出すことだろう。リックの作品。

時計は午後十時を打ってる。土曜の夜、きょうこそ、おまえをものにしてやる…てな内容の、単純明快なロックン・ロール。

ロビン・ザンダーの異様なまでの迫力に満ちたヴォーカルが注目の的となり、本国よりむしろ日本から人気の火がつくきっかけとなった一曲だ。

70年代に入ってロックは次第に「複雑化」「難解化」の道をたどり、本来持っていたパワー(それもバカバカしいまでのクソ力)を失っていくようになったが、そんな中でひたすら原初的な雄叫びを上げた彼らが、ロックファンの目に新鮮に映ったのは当然だろう。

ティーンエージャーのシンプルな欲望をストレートに歌い上げる、これこそがロックの本質。

初心に立ち返ったロックンロール、ひたすらカッチョええです。

1位「SO GOOD TO SEE YOU」

アルバムのラスト・チューン。これもまたリックの作品。

ひたすらハードなロックンロールが彼らのセールスポイントのひとつとすれば、もうひとつの魅力は、メロディアスでキャッチーなサウンドだろう。

コアなロックファンからは軟弱、ミーハーとのそしりも受けてはいたが、そんな悪評などものともせず、ポップであることを誇りにしていたのが、彼らだと思う。

そんな彼のポップ路線が開花したのが、この「SO GOOD TO SEE YOU」。

いきなり、派手なコーラスのついたサビで始まるあたりからして、ビートルズっぽいが、これが結構いけてるのだよ。

ロビンの声って、ハードな曲、ポップな曲と、曲のタイプにより変幻自在だ。ふつうのシンガーの場合、どちらかが得意だともう一方が不得意だったりするものだが、そういう弱点が彼にはない。

シンガーのはしくれである筆者から言わせてもらうと、これってかなりスゴいことなのだ。

もちろん、ロビンの歌唱力だけでなく、リックの歌作りのうまさも大いに評価したい。

メロディのマイナーとメジャーの使いわけも、実にうまいし、バックのハードな音との違和感のないアレンジも素晴らしい。

いってみれば、進化したビートルズ・サウンドというところか。いや、それでは彼らに失礼だ。

チープ・トリックは、あくまでも「チープ・トリック・サウンド」をこの一枚で確立させたのだ。

「ロック」であることと、「ポップ」であることが共存可能であること証明してみせた一枚。名盤だと筆者は確信しております。

<独断評価>★★★★★


音盤日誌「一日一枚」#205 子供ばんど「YES! WE ARE KODOMO BAND」(EPIC/SONY 19・3H-98)

2022-06-07 05:00:00 | Weblog

2004年2月15日(日)




#205 子供ばんど「YES! WE ARE KODOMO BAND」(EPIC/SONY 19・3H-98)

80年代日本を代表するハードロック・バンド、子供ばんど、83年のミニ・アルバム。

最近、マスメディア関連のニュースをチェックしていたら、「俳優のうじきつよし氏、『サンデープロジェクト』(テレビ朝日系)島田紳助氏の後任キャスターに決定」というのが目に飛び込んで来た。

「ふむ、俳優ねえ~」と思わず溜息をもらしてしまった。ここ十年以上のうじきつよしは、たしかに「俳優」であり「サッカー・レポーター」であり「司会者」なんだよなあ。

しかし、彼は筆者の中では、やはり「子供ばんどのヴォーカル&ギター、Jick」なのだよ。いまだに。

もう二度とミュージシャンとしての活動をすることはないのかもしれんが、彼がかつて、とてつもなくいかしたロッカーだったことを忘れちゃいかんよ、そう思う。

<筆者の私的ベスト3>

3位「FIRST AID KIDS」

この一枚は、子供ばんどが本格的な海外進出(そのメインターゲットはもちろん、アメリカだ)を狙って制作された、全曲英語詞のアルバム。うじきと、マネージャー兼作詞家の野尻はっち、プラスチックスの島武実が歌詞を書き下ろしている。

曲は同年発表の5thアルバム「Heart Break Kids」から4曲、残り2曲は新作である。

プロデューサーは、「Haert~」からの4曲はなんと、リック・デリンジャー。新曲は彼ら自身だ。

子供ばんどと、リック・デリンジャーとの出会いは、本盤制作の約2年前。

来日していたリックが、子供ばんどのギグを聴きに現れ、彼らをいたく気に入り演奏に飛び入り参加、以後彼らのバックアップを申し出るようになったということだ。

で、この3位はリックがプロデュースした中の一曲。湯川トーベンに代わって参加したベーシスト、Katsuこと勝せいじがリード・ヴォーカルをつとめているナンバー。島武実作詞、うじきつよし作曲。

Jickとはまたひと味違った、シャープで高い声が、アップテンポの曲調によくマッチしている。

そしてもちろん、Jickの気合い十分、ハイ・テンションなギター・ソロも聴きもの。そのプレイには、リック・デリンジャーも感服したというのがよくわかる。

2位「DON'T WASTE YOUR TIME」

これは、子供ばんど自身のプロデュースによる一曲。

「全編、アップテンポのロックン・ロール」みたいなイメージの強い彼らとしては、珍しいタイプの、ミディアムテンポ、コーラスをフィーチャーしたナンバー。ハードロックにデジタル・ビートを融合、どことなく、ヴァン・ヘイレンを意識したようなところもある。

子供ばんどは、演奏能力的にはノー・プロブレムなバンドだったが、当時の日本のロックバンドの大半がそうであったように、やはり「ヴォーカル」がネックであった。

ヘタというのではないのだが、線が細く、声に特徴が乏しく、要するに歌に魅力が感じられないのである。

この曲でも、Jickのリード・ヴォーカルはあいかわらずの調子なのだが、バックのアルフィー・チック(笑)なコーラスがなかなか新機軸で面白い。

単純なハードロック・バンドとしてひたすらプッシュしていくには、彼らはヴォーカルがあまりにも弱すぎた。

今考えれば、この「DON'T WASTE YOUR TIME」の路線をもっと押し進めていけば、それこそアルフィーみたいに長寿バンドとして生き残って行く道があったような気がする。ま、「たら・れば」的なことを言っても、しょうがないのだが。

1位「JUKE BOX ROCK'N' ROLLER」

1位はやはり、これだろう。アルバムのトップ、リック・デリンジャー・プロデュースによるナンバー。詞・曲ともに、うじきつよし。

Yuuこと山戸ゆうの派手なドラミングから始まる、いかにも子供バンドらしい、ノリノリのロックン・ロール。

威勢のよさでは、どんな本場のバンドにも絶対負けていない。さすが、年間200本以上のライヴをこなしたという叩き上げ派の、本領発揮である。

が、逆に言うと「勢い」しか取りえがないなあという気もする。

プロデューサーのリック同様の「火事場のクソ力」的なものは十分感じられるのだが、レコードはやはりライヴとは別物。

ライヴとは違った、キメ細かさで勝負すべきものではないのか。

そういう意味でこの威勢のよさには、「空回り」の印象がどうしてもつきまとう。

自らの手作りの英詞も、果たしてどれだけネイティヴの人々に届いたかどうか、疑問はある。

和文英訳的な歌詞にせず、詞はもっぱらネイティヴな人にまかせて、いかに「音韻的」に耳にすっと入っていくかで勝負すべきではなかったのか。

以前、嘉門雄三(桑田佳祐)のときにも書いたことだが、日本人がロックのつもりで歌っていても、かの国の人々にロックとして聴いてもらえるには、「言語的」な問題が非常に大きく横たわっているのである。

子供ばんどのチャレンジ・スピリットには大いに敬意を払いたいと思うが、アメリカ進出のもくろみは、見事空振りに終わったといわざるをえない。

非英米人が英語でロックを歌い、それが英語ネイティヴの人々にロックとして認知されることは、想像以上に困難なことなのだ。

それでも、最近は日本のロックも、英米との障壁を(それこそベルリンの壁のように)打ち壊しつつあるように感じる。

ダメかも知れないと思って挑戦を躊躇していては、いつまでたっても始まらない。とにかくやってみるしかない。そうすれば、いつかは活路も見出せるはずだ。

そういう意味で、約20年前の子供ばんどの「挑戦」も、決してムダな試みではなかったと思うのだが、いかがであろうか。

<独断評価>★★★


音盤日誌「一日一枚」#204 ピエール・バルー「シエラ」(ALFA ALC-28053)

2022-06-06 05:03:00 | Weblog

2004年2月1日(日)



¥204 ピエール・バルー「シエラ」(ALFA ALC-28053)

フランスのシンガー=ソングライター、ピエール・バルー、84年のアルバム。

ピエール・バルーといえば、何と言っても「男と女」の主題歌で有名だろうが、日本にもYMOやムーンライダーズら、彼に影響を受けたミュージシャンがけっこう多かったりする。

このアルバムは、82年に立川直樹氏のプロデュースにより制作された「ル・ポレン-花粉-」(日本コロムビア)の後をうけて、同じく立川氏のプロデュースにより作られたもの。

彼の人脈により、呼び集められたミュージシャンの顔ぶれが、なかなかスゴい。

YMOの坂本龍一と高橋幸宏、加藤和彦、ムーンライダーズの鈴木慶一、かしぶち哲郎、白井良明ら、YEN系列から立花ハジメ、清水靖晃、バルーとゆかりの深いフランシス・レイ、ローラン・ロマネリ、ルイス・ヒューレイといった人々が演奏や作・編曲で参加しているのだ。

日仏の代表的なミュージシャンのコラボレーションにより生まれたアルバム。まさにコスモポリタンな一枚といえよう。

<筆者の私的ベスト3>

3位「ワン・ニャン・ワン」

「CHATS CHIENS CHATS」という仏題をつけられたこの曲は、聴けばすぐわかるが、小学校の音楽の教科書には必ず載っている「おもちゃのチャチャチャ」(越部信義作曲)。

ただの童謡と思われがちなこの曲だが、バルーがユーモアあふれる詞をつけ、かしぶち哲郎が小粋なアレンジを施すことで、見事なポップス・チューンへと変身している。

バルーの素朴でちょっとおトボケな歌い方が、曲調にうまくマッチしていてナイス。バックの生き生きとした演奏もいい。

なんとも愛すべき一曲であります。

2位「ケ・ビバ・ヴィラス」

無国籍ポップス、日本製童謡の次は、アルゼンチン・タンゴである。

詞はバルー、曲はフランシス・レイが担当、これにローラン・ロマネリ、ヤニック・トップが格調高いタンゴ・アレンジを加えている。

ここでのバルーでの歌唱が本当に素晴らしい。彼は大声量で朗々と歌い上げるような技巧派ではないのだが、一語一語、かみしめるように歌うのが実にいい。

日常生活を離れた旅での驚き、とまどい、歓び、そういった情感が、ダイレクトに伝わって来る。こういうのを、説得力がある歌というのだろうね。

いい歌はやはり、テクニックではない。「こころ」なのだよ。

1位「愛の苦悩」

唯一、ピエール・バルー自身の作曲によるナンバー。ローラン・ロマネリの編曲。

当然ながら、彼自身の思い入れが一番色濃く投影された曲で、文句なしにベスト・トラックだ。

ピアノとギター、ストリングスによるオーセンティックな演奏にのせて、語るように、ささやくように歌われる、悲しき恋心。

ことばと旋律、そしてサウンド。すべてが相まって、ひとつの「詩」を作り上げている。

わずか数分の曲が、こんなにも人を揺り動かす。そんなこと、他の芸術に出来る芸当だろうか?

これこそが、ピエール・バルーの魅力なのだなと再認識した。

自ら歌を作り、うたう全ての人々に聴いていただきたい。クリエイトするとは、こういうことなのだよ。

<独断評価>★★★☆


音盤日誌「一日一枚」#203 ザ・ダークネス「PERMISSION TO LAND」(ATLANTIC 5050466-7452-2-4)

2022-06-05 05:00:00 | Weblog

2004年1月25日(日)



#203 ザ・ダークネス「PERMISSION TO LAND」(ATLANTIC 5050466-7452-2-4)

英国のハードロック・バンド、ザ・ダークネスのデビュー盤。2003年リリース。

「ひさびさにイキのいいバンドが出てきた!!」と評判の、一枚なのだよ。

<筆者の私的ベスト4>

4位「BLACK SHUCK」

ザ・ダークネスは、ジャスティンとダン(ダニエル)のホーキンス兄弟を中心とするバンド。

フロントマン、ジャスティンはヴォーカル、ギター、キーボード、ダンはリード・ギターを担当。泥鰌ヒゲのベーシスト、フランキー・プーレイン、ドラムのエド・グレアムの四人でザ・ダークネスというわけだ。

「I BELIEVE IN A THING CALLED LOVE」のヒットで、すでに日本でも人気に火がつき始め、昨年11月には初来日公演まで果たしている。

彼らを形容する言葉で一番多いのが「クイーンの再来」というもの。

確かに、ジャスティンのべらんめえ調の歌いぶり、ファルセットを多用、幅広い声域を生かしたオペラチックで派手な歌唱法は、フレディ・マーキュリーに酷似しているし、要所要所で聴かれるヴォーカル・ハーモニーもクリソツ。

ダンのギター・プレイも明らかにブライアン・メイに強い影響を受けており、音色、フレーズ、ツイン・リードによるハーモニー、いずれもクイーンを彷彿とさせるものだ。

その顕著な例のひとつとして、この「BLACK SHUCK」を上げておこう。

とにかく全編、コテコテのハードロック・サウンドなんだわ。ヘヴィーなリズム、炎の如きギター、そしてひたすら情熱的なシャウト。

もう、「待ってました!」と掛け声をかけたくなる。

他には「GET YOUR HANDS OFF MY WOMAN」「GROWING ON ME」あたりも、同様のウルトラ・へヴィ・チューンだ。

このスパー・へヴィなグルーヴは、ザ・ダークネスの大きな魅力のひとつといえよう。

3位「HOLDING MY OWN」

とはいえザ・ダークネスは、ただのクイーンの猿真似バンドではない。

クイーン以外にも、シン・リジィ(ダンがロゴ入りTシャツでライヴに登場するくらいだから、相当なマニアなのだろう)、エアロスミス、ヴァン・ヘイレン、ミスター・ビッグ、さらにはバドカン、10CC等の影響まで受けていると思われる。

それらのバンドの、一番美味しいところを持って来て、絶妙にブレンドしたという感じ。

言ってみれば、メロディアス、かつゴリゴリ系の70年代風ロック・サウンドを集大成したのが、このザ・ダークネスなのだ。

日本でいえば…、実はB'Zあたりに近かったりする。(あ、こーゆーこと言っちゃマズかったかな?)

ともあれ、ひたすらハードで、しかも泣かせるメロディ・ラインをきっちり持っており、歌唱力もバッチリというのは強いやね。売れないわけがない。

本国イギリスはもとより、アメリカでも火が付き始めているのは当然という気がするね。

さて、3位はアルバムのラスト、エアロスミスあたりが演ってもおかしくないバラード調のナンバー。

ノリノリのドライヴィング・ナンバーもいいが、しっとりとした曲調にも、ジャスティンのヴォーカルはピタリとハマる。

ひさびさに、大物ヴォーカリスト登場!という印象がある。

こういう「ポップスの王道」的ナンバーもソツなくこなすあたり、実に「商売」がうまいねえ。

ZEPは「天国への階段」、クイーンは「ボヘミアン・ラプソディ」のヒットによってアメリカでの地位を不動のものにしたくらいだから、彼らも、メロディアスなバラード路線で一発当てそうな予感がする。

2位「GIVIN' UP」~「STUCK IN A RUT」

重たいサウンドばかりが、ザ・ダークネスやおまへん、という好例。彼らの引き出しは多いのだ。

この2曲はシームレスに演奏されるのだが、一曲目の「GIVIN' UP」は軽快なギター・リフで始まる、ロックンロール・ナンバー。

ブリティッシュ・ハードロックの本流とはまた違った、アメリカ人にも受けそうな明るさが新鮮だ。

先日取り上げた、リック・デリンジャーあたりにも通じるものが多いサウンドだ。

それはアコースティックな味わいの「LOVE IS ONLY A FEELING」、ポップな「FRIDAY NIGHT」や「LOVE ON THE ROCKS WITH NO ICE」あたりの曲についても、言えそう。明らかにアメリカ・オリエンテッドな音なんである。

一方、後半の「STUCK IN A RUT」では、見事に雰囲気を変え、よりへヴィに、ハードに迫る。

デビューしたばかりなのに、大物の貫禄さえ感じさせる、重量感あふれるサウンド。文句なしです。

1位「I BELIEVE IN A THING CALLED LOVE」

1位はやはりこれだな。彼らのデビュー・シングルにしてスマッシュ・ヒット。

彼らの曲はすべて四人の共作。歌詞はたぶん大半がジャスティンによるものだろう。

この歌詞がかなりエロティックだということで、CDのケースには「PARENTAL ADVISORY EXPLICIT LYRICS」なるシールが貼られているのが、なんとも笑わせる。

ロックなんて、存在そのものが「R指定」みたいなものじゃん。もう、アフォかと(笑)。

まあ、英国では最近、かつてのBCRみたいな人畜無害のアイドル・バンドがいないから、年端もいかない子供達もザ・ダークネスを聴いちゃう。そういうことに対する配慮なんだろうね。

英国では、ジャケ写のフライト・アテンダント(平たくいえばスッチー)のお姐ちゃんのお尻丸出しヌードが問題となって、コンビニエンス・ストアでは売っちゃダメとかいうことになっているみたいだけど、それに対してフランキーが「じゃあ、前を見せた写真に変えてやろうじゃん」とタンカを切っているそーな。いいぞ、やれやれ!って感じだ。

そういう、威勢のいい発言をするところもザ・ダークネスの魅力のひとつで、他にも彼らが渡米した際、インタヴューにこたえて「オアシスはアメリカでのプロモーションを怠っている」という主旨の、刺激的な発言をしたというのが記憶に新しい。

当然、「あいつら(オアシス)はやれなかったが、オレたちはやれる」という確たる自信があってのことだろうから、まことに頼もしい。

さて、この「I BELIEVE IN A THING CALLED LOVE」はデビュー・シングルに選んだだけあって、彼らの魅力がギュッと凝縮された、ショーケース的ナンバー。

ジャスティンのフリーキーな歌声をあくまでも前面に押し出し、ひたすらタイトでヘヴィなバンド・サウンドがそれを支える。

隠し味的なコーラス、そしてギター・ハーモニーが、他のハードロック・バンドの曲とは「ひと味違うな」と感じさせる。

後半ではいよいよダンのソロが炸裂、このグループのもうひとつの魅力をファンにアピールするという仕掛けだ。

うん、実によく出来てます。

この曲のヒット後、たたみかけるように「CHRISTMAS TIME(DON'T LE THE BELLS END)」をヒットさせている彼ら、いま一番波に乗っているバンドのひとつであることは間違いないだろう。

デビュー盤としては、手ごたえ十分な出来。いや、出来過ぎかも知れない。

が、たぶん、こんなレベルで終わるくらい、彼らの才能はハンパなものではないハズ。

今後は、何かといえば比較対象にされるクイーンとはまた違った、彼ら独自の音世界を築いていってくれるに違いない。

ひさびさの大型新人。絶対要チェキ!です。

<独断評価>★★★★


音盤日誌「一日一枚」#202 エラ・フィッツジェラルド&ジョー・パス「スピーク・ラヴ」(Polydor/PABLO 3112-47)

2022-06-04 05:02:00 | Weblog

2004年1月18日(日)



#202 エラ・フィッツジェラルド&ジョー・パス「スピーク・ラヴ」(Polydor/PABLO 3112-47)

1973年の「TAKE LOVE EASY」以来、86年の「EASY LIVING」まで4枚の作品をものしている人気デュオの、3枚目。83年リリース。

ジャズ・ヴォーカル界のファースト・レディと、ジャズ・ギターのヴァーチュオーゾ(巨匠)の、意外に和気あいあいなコラボレーションがいい感じだ。

<筆者の私的ベスト4>

4位「THE THRILL IS GONE(MEDLEY)」

これはなんとも面白いメドレー。前半は1930年代のミュージカル・ナンバー。ブラウン=ヘンダースン・コンビの作品。

で、後半はなんと、あのBBの大ヒット・ナンバー(69年)。ベンスン=ペティット・コンビの作品だ。

アンニュイな雰囲気のバラードと、哀感あふれるマイナー・ブルース。このメドレーが、結構イケてるのだ。

かなり趣きの異なる同名異曲を見事に融合、ひとつの組曲のごとく仕上げたふたりの手腕に脱帽である。ブルース・ファンにも一聴をおすすめしたい。

エラという人は、スタンダードだけでなく、ビートルズ・ナンバーやクリームの「サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ」など、カレントなヒットもうまく取り入れ、自分のものに消化して来たシンガーだが、これもまたその一例といえよう。

3位「SPEAK LOW」

アルバム・タイトルの元ネタでもあるこの曲は、かの「マック・ザ・ナイフ」でおなじみのクルト・ワイルが作曲したナンバー。歌詞はオグデン・ナッシュ。

これまた40年代のミュージカル・ナンバーなのだが、歌とギターだけのミニマムな編成により歌われるそれは、非常に内省的で奥深い味わいを持っている。

エラというと、陽性、にぎやかで華やかなイメージが強いシンガーだが、こういう最大限に"抑えた"歌唱もまた絶品であるね。

2位「GEORGIA ON MY MIND」

20世紀を代表するスタンダードである「スターダスト」の作者、ホーギー・カーマイケルの作品。歌詞はスチュアート・グーレル。といっても、レイ・チャールズのヒットのイメージが余りに強いので、レイの作品だと思っている人が多いのだが。

このご当地ソングナンバー1を、エラはエモーショナルに歌い上げる。パスも秀逸なバッキングでその熱唱を盛り上げ、また自身も歌心溢れるソロを決めている。

一巻のしめくくりにふさわしい、「王者の貫禄」な一曲。

1位「GIRL TALK」

「ジョージア~」に比べると、あまりおなじみとは言えないが、なかなか小粋で洒落た味わいがある曲なんで、筆者的には一番のオキニ。

カウント・ベイシーとのコラボでも知られる作編曲家、ニール・へフティが作曲、「ルート66」で知られる自作自演シンガー、ボビー・トゥループが作詞したナンバー。

ちょっとユーモラスな歌詞、洗練されたメロディ・ライン。エラは猫の鳴き真似まで交えて、チャーミングな歌唱を聴かせてくれる。

とにかく、エラとジョーの息がぴったりと合っており、聴き手の体も自然とスウィングしてくる。たったふたりでも、こんなに豊かなサウンドが生み出せるのかという驚きを禁じえない。

最小にして最高のユニット、それがこのふたりだ。

<独断評価>★★★☆


音盤日誌「一日一枚」#201 デリンジャー「LIVE」(BLUE SKY 34848)

2022-06-03 05:03:00 | Weblog

2004年1月11日(日)



#201 デリンジャー「LIVE」(BLUE SKY 34848)

リック・デリンジャー率いるハードロック・バンド、デリンジャーのライヴ・アルバム。77年リリース。

デリンジャーは76年1月に結成、77年8月には解散とごく短命のグループだったが、3枚のスタジオ盤とこのライヴ盤をリリース、いずれも非常に質の高いサウンドを残している。

中でもこの一枚はいい。ロック史上に残るライヴ・アルバムといってもいいんじゃないかな。

筆者は、大学生だったころこのLPを輸入盤で買い、何十回も聴き込んだものだが、今聴き直してみてもその感動は色あせていない。

<筆者の私的ベスト4>

4位「TEENAGE LOVE AFFAIR」

現在では廃盤ということもあって、AMGには曲名すら載っていないので補足しておこう。

全8曲を収録。「LET ME IN」「TEENAGE LOVE AFFAIR」「SAILOR」「BEYOND THE UNIVERSE」「SITTIN' BY THE POOL」「UNCOMPLICATED」「STILL ALIVE AND WELL」「ROCK AND ROLL HOOCHIE KOO」と、新旧とりまぜおなじみのナンバーばかり演奏している。

で、4位はこのロックンロール・ナンバー。以前にも当コーナーで取り上げた「ALL AMERICAN BOY」(74)でのスタジオ録音で知られている。

ライヴもスタジオ・テイク同様、猛烈なアップテンポで飛ばしまくるリック。他のメンバーも、確かなテクニックで完璧にフォロー。

中でもカーマイン・アピスの実弟、ヴィニーのドラムスがゴキゲンだ。これぞハードロック!という感じの、タイトでヘヴィーなビートを叩き出してくれる。

さすが、リックのおめがねに適っただけのことはあるね。

3位「SITTIN' BY THE POOL」

これはデリンジャーを結成してからの作品。セカンド・アルバム「SWEET EVIL」(77)に収録されている。

リックのサンバースト・ストラトから弾き出される、ソリッドなリフが実に印象的なハードロック・ナンバー。

こういうキャッチーなリフ作りに関しては、ロック界広しといえど、リック・デリンジャーをしのぐ人材はそういないような気がするね。

中間部でリック、ラストでもうひとりのギタリスト、ダニー・ジョンスンが、それぞれ短いながらもキラリとセンスの光るソロを聴かせてくれる。

ギターソロがただただ冗長なだけの、どっかのハードロック・バンドに聴かせてやりたいもんだ。メインディッシュはあくまでも歌、それをうまく引き立てるようにバランスよくソロを挿む、これがバンド演奏のキモってもんだぜ。

2位「STILL ALIVE AND WELL」

ジョニー&エドガー・ウィンターでおなじみのナンバー。でも、もともとはリックの作品なのだ。リック自身は75年のソロ・アルバム「SPRING FEVER」で初演。

この変拍子ふうハードロック・ナンバーが、なんともカッコいいんだわ。

スピード、スリル、パワー。ハードロックに要求されるすべての条件を、パーフェクトにクリアした演奏。

リックの喉も、絶好調のシャウトを聴かせてくれる。

リック、ダニーのツートップ・ギターも、絶妙の切れ味を見せてくれるし、ケニー・アーロンスンのバリバリにドライヴするベース・プレイも文句なし。

いわば、すべてのロック・バンドのお手本となる、最高のグルーヴなんであります。

1位「ROCK AND ROLL HOOCHIE KOO」

そして1位は、やっぱりこれ。不滅のロックンロール・チューンを選ばないわけにはいかない。

当然、ライヴではラスト、ハイライト曲になっております。

アルバムにはクレジットされていないのだが、実は中間部、ギターソロに続いて歌われるのが、なんとキンクスの「YOU REALLY GOT ME」。

これがまたハードな演奏で、超カッコいい!

「YOU REALLY GOT ME」といえばすぐに思い出されるのが、ヴァン・ヘイレンによるカヴァー・ヒットだが、それは78年のリリースなので、実はこのデリンジャー版のほうが先なのだ。

もしかしたら、ヴァン・ヘイレンもこのライヴに、大いにインスパイアされたのかも知れないね。

この「YOU REALLY GOT ME」を挿んで、アルバム中では最長の7分52秒、たっぷりロックンロール・ショーを楽しませてくれます。

デリンジャー、商業的にはあまり成功を収めたとはいえないバンドだったけど、こういう最高のパフォーマンスを残してくれたことに、一ロックファンとして最大限に感謝したいですな。

今や太ってすっかりオジサン化してしまったリック・デリンジャーですが、ジャケ写などを見るに、当時の美青年ぶりはもう特筆ものでありました。

ロックンロール・ヒーロー、リック・デリンジャーの全盛期を知ることが出来る一枚。

現在では入手は相当困難でしょうが、苦心してゲットする価値は絶対ありまっせ!

<独断評価>★★★★★


音盤日誌「一日一枚」#200 ルー・ロウルズ「STORMY MONDAY」(BLUE NOTE CDP 7 91441 2)

2022-06-02 06:04:00 | Weblog

2004年1月4日(日)



#200 ルー・ロウルズ「STORMY MONDAY」(BLUE NOTE CDP 7 91441 2)

ルー・ロウルズのデビュー・アルバム。62年リリース。

ルー・ロウルズといえば、「別れたくないのに」「レディ・ラヴ」など数多くのヒットを持つ、ポピュラーなシンガーだが、そのスタートはブルーノートというジャズ専門のレーベルからだった。ちょっと意外だね。

ジャズ・ピアニスト、レス・マッキャン率いるトリオをバックに、当時26才のロウルズが歌う一枚。これがなかなかの出来。

いわゆるブルースのジャンルには入らないレコードなのだが、その歌心はまさしく「ブルース」なのだよ。

<筆者の私的ベスト4>

4位「'TAIN'T NOBODY'S BUSINESS IF I DO」

ベッシー・スミス以来、多くのアーティストにより歌い継がれて来た、スタンダード。

当然、時代や歌い手によってアレンジはさまざまに変化していくが、その根本にある歌心、ブルース・スピリットだけは見事に変わることなく継承されている。

ルー・ロウルズもまた、ピアノ・トリオの快調な演奏にのって、切れ味のいい歌声、エモーショナルなフレージングをきかせてくれる。

白人ジャズ・シンガーとは明らかに一線を画した、黒人ならではのソウルフルな歌唱スタイル。

ロウルズ、もともとはゴスペル・シンガーだっただけに、その熱き歌心は隠しようもないのである。

3位「SEE SEE RIDER」

この曲もまた、スタンダードと呼んでさしつかえないだろう。

一般的にはレイ・チャールズやエルヴィス・プレスリーの歌で知られているが、もとをたどれば、黒人女性シンガー、マ・レイニーが20年代あたりから歌い始めたトラディショナル・ブルース。

ブルースの年・2003年にちなんで、マーティン・スコセッシ監督総指揮のもと作られた映画のひとつ「WARMING BY THE DEVIL'S FIRE」(チャールズ・バーネット監督作品)でも、この曲が使われているそうだ。

そんな超ヴィンテージなナンバーを、ロウルズはスウィンギーなアレンジにのせて、なめらかに歌う。

ゆったりとしたテンポながら、はずむような歌。剛にして柔な歌い口。やはり、その上手さはハンパではない。

2位「I'D RATHER DRINK MUDDY WATER」

20~30年代に活躍したピアニスト、エディ・ミラーの作品。永井ホトケ氏もよくライヴで取り上げている、ピアノ・ブルースの代表的ナンバーだ。

心地よくスウィングするマッキャンのピアノ、リロイ・ヴィネガーのベース、ロン・ジェファースンのドラム。

この特級品の演奏をバックに、水を得た魚のごとく、自由自在に歌いまくるロウルズ。

聴いているこちらまでが、最高にグルーヴィーな気分になれるのだよ。

1位「(THEY CALL IT) STORMY MONDAY」

1位はやはり、これ。説明など不要だろう。T・ボーン・ウォーカー作、不滅のブルース・ナンバーだ。

この曲も数え切れないほどのシンガー達にカヴァーされているが、もちろんこのヴァージョンもベストなテイクのひとつに間違いない。

オリジナルのメロディに忠実に歌うだけでなく、彼なりの解釈を交え、その幅広い声域を生かして、自由闊達なフレージングをほどこしているのが聴きもの。

このアルバムではふたつのテイクが収録されているが、いずれも彼の達者なフェイクを堪能することが出来る。

バックのトリオも、ゴキゲンなノリで、彼の歌声をさらに引き立てている。

このアルバム、しっとりとしたバラード(「GOD BLESS THE CHILD」など)も悪くはないのだが、彼の本領はやはり、シャウトも交えたソウルフルな歌にあると思う。

凡百のブルース・シンガーよりもブルーズィなヴォーカル、一聴の価値はあると思います。

<独断評価>★★★★☆