マリーのアトリエ

札幌時計台近くのハンドメイドショップ、マリヤ手芸店のスタッフブログです。

「押絵と旅する男」

2011-09-18 20:16:15 | 物語の中の手仕事
物語の中の手仕事

江戸川乱歩「押絵と旅する男」



押絵が出てくる文学作品、江戸川乱歩の短編小説
「押絵と旅する男」をご紹介しましょう。

押絵の中の美しい女性に恋焦がれるあまり、
自ら押絵の中に入り込んでしまう男の物語。

望遠鏡で町を眺めていた時に、
一瞬目に映った美しい女性・・
彼女に一目惚れしてしまった青年は
一生懸命彼女を探し回ります。
しかし、やっと見つけたその女性は、
「のぞきからくり」の押絵の人形だったのです。
それでも彼女をあきらめきれず、
青年は、弟に望遠鏡を逆向きにして自分を
見てくれるよう頼み、人形のように小さくなって
押絵の中に入ってしまうのです。
押絵の世界で恋焦がれた女性と恋人同士になり、
幸せな時が流れていくのですが・・




この小説が発表されたのは1929年のこと。
この当時、いかに「押絵」が人々を熱狂させる魅力を
持っていたかがわかります。
青年が一目惚れするほど美しく精巧に作られた押絵細工・・

「押絵の細工の精巧なことは驚くばかりであった。・・・・
娘の髪は、ほんとうの毛髪を一本々々値えつけて、
人間の髪を結うように結ってあり・・・
娘の乳のふくらみといい、腿のあたりのなまめいた曲線といい、
こぼれた緋縮緬、チラと見える肌の色・・・」


まるで生きているかのような押絵細工を
「のぞきからくり」のレンズの穴から覗いてみたら・・
押絵の立体感とあいあまって、3次元の別な世界が
広がっているように見えたことでしょう。
現代なら、バーチャルなゲームの世界の美女に一目惚れして、
自分もゲームの中に入り込んでしまう感じかしら?




押絵の中の二人は・・
やがて何十年もの歳月が流れ、額や背景の紙はすすけ、
鮮やかな着物は色あせてしまっても、押絵細工の女性は
いつまでも若く初々しいままなのに・・・
もともと人間であった青年はやがて皺だらけの老人に
なってしまうのです。

人の手になる細工物が長い年月を経た時の、ある種の怖さ。
いつでもリセットできるデジタルの世界では
表現できない、残酷で幻想的な怪談物語です。

「押絵と旅する男」はこちらから読むことができます。
興味のある方はどうぞ。
今はインターネットで無料で小説が読めちゃうんですね。
デジタルな世の中はやっぱり便利です。

※写真はすべて「野村サークル50周年展」の作品です。


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物語の中の手仕事~2

2009-05-07 04:09:26 | 物語の中の手仕事
~ジェイン・エア~

私は起きて、念を入れて身支度をした。余儀なく質素にしていたものの~
というのも私の服はみな質素なものばかりだったので~本来私はきれいに
なりたいと思うたちだった。外見に無頓着であったり、人に与える印象に無関心
だったりするのは、元来の私ではなかった。そればかりか、できるだけよく見ら
れたい、でるかぎりきれいになりたいとさえ考えていた。これ以上美しくなれない
のを、私はときどき情けなくく思った。ばら色の頬に形のいい鼻、小さなさくらん
ぼのような口であればどんなにいいことか~背が高く、堂々としていて、均整の
取れた見事な格好であればどんなにいいことか。貧弱で、青白い顔をしていて、
どこかまとまりのない、特徴のある顔をしているのを不遇だと私は考えていた。

~しかし、髪をきれいにとき、体にぴったり合うことだけがせめてもの救いである、
クェーカー教徒のもののような黒い服を着て、清潔なレースのえり飾りをつけた
とき、これならフェアファックス夫人の前に出ても恥ずかしくはないだろう、私の
新しい教え子も少なくとも私に反感を持って寄り付かないようなことはないだろう
と思った。私は部屋の窓を開け放し、化粧台の上のものをきちんと整理したの
を見届けてから、勇気を出して外に出た。
                               ブロンテ「ジェイン・エア」






「ジェイン・エア」は、イギリスの女流作家シャーロット・ブロンテの作品です。
私が中学生になって、初めて読んだ大人の小説でした
孤児ジェインが、つつましく誠実に、そして誇りを失わずに愛を貫いて、
最後には幸福を手にする、品行方正な良いお話です
世界文学全集の最初に読む本としては、最適の作品でしょう
(前回のボヴァリー夫人とは違って・・・

上の文章は、ジェインがお金持ちの家に家庭教師として就職した、
最初の日の様子です。質素で地味で控え目で、容姿に自信のない
ジェインですが、レースの襟飾りをつけた清楚な装いの自分の姿に
ちょっぴりはげまされ、勇気を出して、お屋敷の人達のもとへ
降りて行くのでした



「ジェイン・エア」は19世紀のお話ですが、この時代、レースの襟飾りは
宝石のアクセサリー以上に重要なファッションアイテムでした
手の込んだ豪華なレースは、宝石以上に高価で大切にされていたようです。
貧しいジェインにとって、このレースの襟飾りは自分の持っているものの中で、
唯一きれいな、勝負アクセサリーだったのかもしれませんね
写真は「ボビンレース」の襟飾りで、恥ずかしながらマリーの母が作った
ものです



文学少女だったマリーの母もヨーロッパに憧れて、美しいレース
に憧れて、(顔に似合わず)50歳くらいになってからボビンレースを
習いはじめました。とても繊細で手の込んだものです。
母の作ったものなので、あまり目が揃っていませんが目をつぶってくださいね



母も、カーディガンに自分の作った襟飾りをつけて、よそ行きに着ているようです
まあ、母のことなのでレースをつけたからって、即、優雅な奥様になったりは
しないのですが・・・それでも、普段のジーパン姿よりは品良く見えるかな?



昔は王侯貴族のものだった、優雅で繊細なレース飾り
飾っておくだけでも素敵です
でも、母は最近旅行やスポーツに遊び歩いて、ボビンレースはお休み中
なんですよね~冬になったら始めるわよって言ってるけど、
やるんでしょうか?


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物語の中の手仕事~1

2009-04-30 09:34:39 | 物語の中の手仕事


エンマはエレガントな仕草でシャルルを魅惑した。新しいやり方で紙細工の
蝋燭の受け皿をこしらえたかと思えば、スカートのひだ飾りをつけ変えたりし
た。ごくありふれた料理を女中が作りそこねても、それにたいそうな名前を
つけると、シャルルは喜んできれいに食べた。
エンマはルーマンで女たちが懐中時計の鎖の先に飾りをつけているの
を見ると、さっそくそれと同じ飾りを買った。マントルピースの上に青ガラス
の大きな花瓶を二つ欲しがったかと思うと、次には象牙の裁縫箱と金メッキ
した銀の指抜きをほしがった。シャルルは、こういうしゃれた好みがぴんとこない
がゆえに、いっそう魅力を感じるのだった。
それらはシャルルの感覚の喜びや家庭での楽しみに何かをつけ加えた。
それらは彼の生活の狭苦しい小道に敷き詰めた黄金の砂のようなものだった。

                       フローベル「ボヴァリー夫人」より




            「VICTORIAN CRAFTS REVIVED」より

物語の中の手仕事~第1回目はフランスの小説「ボヴァリー夫人」
19世紀半ばの、ヴィクトリア朝時代のお話です

この時代の女性の使命は、「家を守ること」でした。
家を居心地よく、家族が快適に過ごせるよう采配を振るうのが主婦の役目。
家の中は、主婦のセンスの見せ所でした
今のように物が豊富な時代ではなくても、様々な工夫で
ささやかな喜びにあふれた、暖かい家庭を築いていたのでしょう。
でも、この小説の主人公エンマは、ささやかな幸せには満足できませんでした。


若く美しいエンマは、年上の開業医シャルルと結婚します。
上の文章は、シャルルとの新婚生活の様子です
美しく、センスの良いエンマにシャルルはベタ惚れですね
しかし、エンマは平凡な夫が物足りず、さらにセレブな生活に憧れて、
若い男性との情事と、借金のために身を破滅させてしまうのです
まあ、現代にもありがちな話ですね



               「THE STORY OF THE THIMBLE」」より

第1回目が不倫の古典小説っていうのもなんですが・・・(^^ゞ

調度「サジューのお裁縫箱」に載っていた、銀の指抜きや裁縫箱のことが
書かれていたので
この時代は、どんな上流階級の女性でも「お針上手」が良き妻の絶対条件。
裁縫道具は女性にとって大切なものでした
エンマが憧れた銀の指抜きは、セレブな女性の証しだったのかもしれませんね。



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物語の中の手仕事

2009-04-28 07:50:20 | 物語の中の手仕事
世の中、ゴールデンウィーク真っ只中ですね~
でも、マリーは毎年何も予定がないのよね
どこへ行っても混んでるし、長いお休みも取れないし
今年は新型インフルエンザも心配だから、
お家でのんびりしているのもいいんじゃないかしら
お休みの時こそ、普段は忙しくてできない読書や手仕事を
じっくりやってみてはいかが?

って訳で、前からやってみたかった企画なんだけど、
「物語の中に出てくる手仕事」といテーマをやってみます
マリーが読んだことのある本の中から、手芸や手仕事が出てくる場面を
紹介しますねでも、マリーの趣味ってちょっとマニアックなのよね

手芸が出てくる本で、日本でもとっても人気があるのって、
やっぱり「赤毛のアン」シリーズでしょう。パッチワークや編み物、
手作りのお菓子など、女の子の憧れがいっぱい出てきますものね
マリーも第一巻目の「赤毛のアン」は読みました。
でもちょっとマセた子供だったので、中学生になったら
「赤毛のアン」2巻目以降はフッ飛ばして、もう、世界文学全集を読んでたの
母が文学少女だったので、買ってくれたのよね。



緑の箱に入ったこれです。
主に19世紀~20世紀初頭の、欧米の文学作品を集めたシリーズです。
今もお持ちの方、いらっしゃるでしょうか?
ビニールのかかった箱に入って、本もハードカバーで立派なものでした
これで980円、時代を感じるな~今はもう売っていませんね

古典の文学作品だけど、けっこうメロドラマっぽい話も多くて、
今思うと中学生じゃ、よくわかっていなかった内容もあったかも・・・

でも、多くの作品の時代背景が、マリーの大好きな
19世紀後半のヴィクトリア朝時代なんです
スカートが広がった美しいドレスやボンネット、豪華な銀の食器や舞踏会
などが出てきて、マリーの憧れの世界だったの。

そう、まさに「サジューのお裁縫箱」の時代ですよ~
手の込んだレースや、貴婦人が午後のお茶と共に刺す刺しゅう、
暮らしを彩る美しいインテリアなどが物語の中に出てきて、
こういう部分を読むだけでも楽しかったように思います

今の若い女の子は、こんな古典文学なんて読まないのかな~
(マリーの時代も読んでる子は少なかったけど・・)
今は若い人向けの文学作品も、おもしろいのがたくさんあるしね
でも、写真の「ジェイン・エア」や「風と共に去りぬ」など、映画になった作品は
見たことあるかもしれませんね


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