エンマはエレガントな仕草でシャルルを魅惑した。新しいやり方で紙細工の
蝋燭の受け皿をこしらえたかと思えば、スカートのひだ飾りをつけ変えたりし
た。ごくありふれた料理を女中が作りそこねても、それにたいそうな名前を
つけると、シャルルは喜んできれいに食べた。
エンマはルーマンで女たちが懐中時計の鎖の先に飾りをつけているの
を見ると、さっそくそれと同じ飾りを買った。マントルピースの上に青ガラス
の大きな花瓶を二つ欲しがったかと思うと、次には象牙の裁縫箱と金メッキ
した銀の指抜きをほしがった。シャルルは、こういうしゃれた好みがぴんとこない
がゆえに、いっそう魅力を感じるのだった。
それらはシャルルの感覚の喜びや家庭での楽しみに何かをつけ加えた。
それらは彼の生活の狭苦しい小道に敷き詰めた黄金の砂のようなものだった。
フローベル「ボヴァリー夫人」より
「VICTORIAN CRAFTS REVIVED」より
物語の中の手仕事~第1回目はフランスの小説「ボヴァリー夫人」
19世紀半ばの、ヴィクトリア朝時代のお話です
この時代の女性の使命は、「家を守ること」でした。
家を居心地よく、家族が快適に過ごせるよう采配を振るうのが主婦の役目。
家の中は、主婦のセンスの見せ所でした
今のように物が豊富な時代ではなくても、様々な工夫で
ささやかな喜びにあふれた、暖かい家庭を築いていたのでしょう。
でも、この小説の主人公エンマは、ささやかな幸せには満足できませんでした。
若く美しいエンマは、年上の開業医シャルルと結婚します。
上の文章は、シャルルとの新婚生活の様子です
美しく、センスの良いエンマにシャルルはベタ惚れですね
しかし、エンマは平凡な夫が物足りず、さらにセレブな生活に憧れて、
若い男性との情事と、借金のために身を破滅させてしまうのです
まあ、現代にもありがちな話ですね
「THE STORY OF THE THIMBLE」」より
第1回目が不倫の古典小説っていうのもなんですが・・・(^^ゞ
調度「サジューのお裁縫箱」に載っていた、銀の指抜きや裁縫箱のことが
書かれていたので
この時代は、どんな上流階級の女性でも「お針上手」が良き妻の絶対条件。
裁縫道具は女性にとって大切なものでした
エンマが憧れた銀の指抜きは、セレブな女性の証しだったのかもしれませんね。