軽井沢からの通信ときどき3D

移住して10年目に入りました、ここでの生活と自然を写真と動画で発信しています

タマゴタケ 2022

2022-10-14 00:00:00 | キノコ
 今年はタマゴタケの発生数が多かったと感じている。6年ほど前にタマゴタケが自宅周辺にも発生していることを知り(2016.9.9 公開当ブログ)、その季節になると朝の散歩コースを少し延長して迂回し、タマゴタケを探しながら歩くようになった。どのような場所に発生するかが、次第にわかるようになってきていた。

 そんなことも手伝ってか、今年は例年に比べてタマゴタケを見かけ、撮影する回数も増えている。

 今年の初見日は7月9日で、昨年の6月22日より半月ほど遅かった。その後この原稿を書いている10月上旬にもまだ発生が続いていて、12日に見つけたタマゴタケは、これまで見た中でも一段と赤色の強いもので、次のようであった。長さは約10㎝ほどである。


カサの赤色が濃いタマゴタケ(2022.10.12 撮影)

 以前、妻がツイッターでタマゴタケの写真の1枚を紹介したところ、「ベニテングの会」の関係者の目に留まり、写真利用の問い合わせが来たので、承諾したことがあった。その後、何回かその方に当地で撮影したタマゴタケの写真をお送りしたが、軽井沢のタマゴタケの形状は、寒冷地型ですねとのコメントをいただいた。

 タマゴタケに地域による変異があるとは知らなかった。そこで、ウィキペディアでタマゴタケの項を見ると、

 「タマゴタケ(卵茸、Amanita caesareoides)は、ハラタケ目テングタケ科テングタケ属のテングタケ亜属タマゴタケ節に分類されるキノコの一種。従来の学名はA. hemibapha (Berk.& Br.) Sacc.だったが、近年の遺伝子レベルでの研究により変更された。ただし、遺伝子解析及び胞子の分析から、日本産のタマゴタケには外見上見分けがつかない未記載の隠蔽種が存在することが判明している。狭義のタマゴタケは亜寒帯に生息し、隠蔽種は温帯に生息する。」

とあるので、およそ1000mの高地にある軽井沢に産するものは、この狭義のタマゴタケの方かと思われた。ウィキペディアには外見では見分けがつかないとあるが、慣れた目には違いが判るのだろうか。

 また、ウィキペディアには信州大学で栽培に向けた研究が進められていると紹介されているが、菌糸の培養に成功したのが亜高山帯の集団で、狭義のタマゴタケと書かれているので、軽井沢産のものと同じ種ということになる。

 ただ、今年撮影したタマゴタケの写真を見比べてみると、カサ部分の色や形、柄のまだら模様の強弱などさまざまである。当地のタマゴタケには前記の2種が混在しているのかもしれないなどと思ったりする。

 そうしたことから、以下に今年撮影した写真を多めに紹介する。

 まず、タマゴタケの名の元になっている卵殻状の白い外被膜に包まれて、まだキノコの部分(子実体)が出てくる前のものから。
 この状態では似たキノコもあるので、タマゴタケと断定はできないが、すぐ近くに赤い子実体の見えるものが発生していたので、間違いないと思う。


まだ外被膜に完全に覆われているタマゴタケ(2022.9.14 撮影)

 続いて外被膜を破って赤い子実体が出始めているもの。

赤いタマゴタケの子実体が出てきた(2022.7.25 撮影)

 この子実体は外被膜を地面に残して10センチ前後の長さに成長する。このカサの部分が閉じている時期を幼菌と呼んでいる。

外被膜を破り成長するタマゴタケ(2022.9.17 撮影)

タマゴタケの幼菌 1/5(2022.8.29 撮影)

タマゴタケの幼菌 2/5(2022.8.31 撮影)

タマゴタケの幼菌 3/5(2022.7.25 撮影)

タマゴタケの幼菌 4/5(2022.7.27 撮影)

タマゴタケの幼菌 5/5(2022.9.3 撮影)

 この後、カサが開き、中心部から外に向かう条線が見えるようになる。

カサが開き始めたタマゴタケ 1/4(2022.7.25 撮影)

カサが開き始めたタマゴタケ 2/4(2022.7.27 撮影)

カサが開き始めたタマゴタケ 3/4(2022.7.29撮影)

カサが開き始めたタマゴタケ 4/4(2022.8.31撮影)

カサが開いたタマゴタケ 1/2(2022.9.12撮影)

カサが開いたタマゴタケ 2/2(2022.7.27撮影)

 カサはさらに開き平らな状態から中心部のくぼんだ皿状になるが、この状態は老菌と呼ばれる。

カサが平らに開いたタマゴタケ 1/3(2022.7.29 撮影)

カサが平らに開いたタマゴタケ 2/3(2022.9.1 撮影)

カサが平らに開いたタマゴタケ3/3(2022.8.31 撮影)

カサの中心部が窪みはじめたタマゴタケ(2022.9.1 撮影)

カサの中央が窪んだタマゴタケ(2022.8.19 撮影)

珍しくたくさんのタマゴタケが発生していた(2022.8.29 撮影)

 
カサが反り返り枯れ始めた老菌のタマゴタケ(2022.8.4 撮影)

 タマゴタケは鮮やかでよく目立つ毒々しいような外観に似合わず、優秀な食用キノコであることが知られているので、採集され食卓に上ることも多いと思われるが、以前にも記したように、軽井沢では山菜・野生きのこ採集の自粛要請が出されており、状況は現在も変わっていない。次のようである。

 「軽井沢町産のコシアブラ・タラノメ・ゼンマイ及びコゴミ(野生)については、食品衛生法の基準値(※1)を超える放射性セシウムが検出されているため(※2)、長野県から採取、出荷及び摂取に係る自粛要請が出ています。
 
 また、軽井沢産のコシアブラ及び野生きのこについては、複数の市町村で食品衛生法の基準値(※1)を超える放射性セシウムが検出されているため(※2)、原子力対策本部長から出荷制限の指示が出ています。
 
(※1)基準値:放射性セシウム100ベクレル/kg
(※2)過去に検出されたものを含む
 
 採取、出荷及び摂取の自粛対象品目、出荷制限の対象となっている品目において、検査結果で基準値を超えないものもありますが、確実な安全性が担保されていないとのことから、自粛要請及び出荷制限は継続となっています。(2022年5月18日 更新 軽井沢町公式ホームページより)」

 残念なことであるが、今のところ屋外で見かけたタマゴタケは観察・撮影だけにとどめるしかない状況である。

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シャグマアミガサタケ

2020-05-08 00:00:00 | キノコ
 タチツボスミレが咲き始めた散歩道を歩いていた時、その道の脇に不思議なキノコらしいものを見つけて写真を撮り、自宅に帰ってから調べてみると「シャグマアミガサタケ」だろうということになった。実物の外観も奇妙だが、名前もまたとても変わった種である。

 漢字で書くと「赭熊網笠茸」となり、学名はGyromitra esculentaである。この和名は、大脳状で赤褐色ないし紫褐色の頭部を「赭熊」(赤褐色のクマの毛皮を思わせる色調に染めたヤクの尾の毛。あるいはそれに似た色調のかもじ)にみたてたものであるとされる(ウィキペディア)。

 また、学名にある種小名esculentaは、ラテン語で「食用になる」の意であるという(同)。

 キノコ類は夏から秋にかけて生えてくるものと思っていたが、春のこの時期にも生える種があるようで、きのこ図鑑には「春は発生しているキノコの種類や数では定番のキノコ狩りシーズンである『秋』には遠く及びませんが、春という季節は気候的にも良好で特有のキノコも発生しており、山に行く事によって季節の訪れなども身近に感じる事ができると思いますので、春のキノコ狩りも面白いかもしれません。」とあって、春に見られるキノコもあるとのこと。

 今回最初に歩道脇の苔の中に見かけたシャグマアミガサタケは次のようなものである。傘部分の大きさは3-4cmくらいで、傘の部分の質感はキクラゲに似ているようにも思う。

苔の中に出てきたシャグマアミガサタケ 1/3(2020.4.23 撮影)

苔の中に出てきたシャグマアミガサタケ 2/3(2020.4.23 撮影)


苔の中に出てきたシャグマアミガサタケ 3/3(2020.4.23 撮影)

 数日後散歩コースを広げて、あたりを探してみると、別荘地の道路沿いや庭の中にも多数見つかった。大きさも様々で、傘部分の径は2cmくらいの出始めのものから大きく育ち10cmくらいまである。下記図鑑の解説からすると、全体的にはまだ出始めで、今後さらに大きく成長するのであろうと思える。

別荘地の道沿いに出ているシャグマアミガサタケ 1/11(2020.4.27 撮影)

別荘地の道沿いに出ているシャグマアミガサタケ 2/11(2020.4.27 撮影)


別荘地の道沿いに出ているシャグマアミガサタケ 3/11(2020.4.27 撮影)

別荘地の道沿いに出ているシャグマアミガサタケ 4/11(2020.4.27 撮影)

別荘地の道沿いに出ているシャグマアミガサタケ 5/11(2020.4.27 撮影)

別荘地の道沿いに出ているシャグマアミガサタケ6/11(2020.4.27 撮影)

別荘地の道沿いに出ているシャグマアミガサタケ 7/11(2020.4.27 撮影)

別荘地の道沿いに出ているシャグマアミガサタケ 8/11(2020.4.27 撮影)

別荘地の道沿いに出ているシャグマアミガサタケ9/11(2020.4.27 撮影)

別荘地の道沿いに出ているシャグマアミガサタケ 10/11(2020.4.27 撮影)

別荘地の道沿いに出ているシャグマアミガサタケ 11/11(2020.4.27 撮影)

 多くはこのように単独で生えているが、時々数個がまとまって生えているところもある。

別荘地の道沿いに並んで出ているシャグマアミガサタケ 1/3(2020.4.27 撮影)

別荘地の道沿いに並んで出ているシャグマアミガサタケ2/3(2020.4.27 撮影)

別荘地の道沿いに並んで出ているシャグマアミガサタケ 3/3(2020.4.27 撮影)


別荘地の庭に並んで出ているシャグマアミガサタケ(2020.4.27 撮影)

 このシャグマアミガサタケを図鑑「きのこ」(小宮山勝司著 2007年永岡書店発行)で調べると、発生は春、有毒との記載があり、さらに次のような解説がある。

 「春、マツやトウヒなどの林内に発生する。傘は茶褐色で大人のゲンコツくらいの大きさをしている。クチャクチャしていて脳ミソを思わせる。高さは15cmくらい。柄は黄土白色で、中は全体が空洞になっている。
 学名のesculentaは『食用』という意味らしいが、実は猛毒のきのこ。中毒して死亡した事故もあったと聞く。しかし、ドイツではおいしいきのことされ、毒抜きをして食べる風習がある。『ロルシェル』の名前で親しまれ、季節にはごく普通に店にも並ぶそうだ。」

 学名に食用という文字が用いられているにもかかわらず、実際には猛毒というのもおかしな話だが、上手に毒抜きさえすれば、美味しく食べることができるからなのだろう。意味合いは異なるが、日本のフグと似たような扱いなのかと思う。

 ドイツ以外ではどうかと思い調べてみると、ウィキペディアに北欧のフィンランドでの事例があった。
 「フィンランドではシャグマアミガサタケをKorvasieni(コルヴァシエニ、『耳キノコ』の意)と呼び、比較的よく知られた食材であり、毒性の明示と調理法とに関する説明書きの添付とを条件に、例外的に販売が許可されている。 
  しかし、多くの外国人は正しい調理方法を知らず、興味本位で購入して中毒する恐れが高いため、フィンランド食品安全局(Evira)では、外国人向けの数ヶ国語のパンフレットを配布し、正しい食べ方の周知を呼びかけている。 」という。
 
 調理法については、「フィンランド料理では、毒抜きしたものをオムレツ・バターソテー・肉料理などに使うベシャメルソースなどの素材として用いる。フィンランドでは缶詰品も市販されているが、煮沸処理が施されたものとそうでないものとがあるので、缶の記載を精読して確認するべきである。 」とされる。

 以前紹介した「ベニテングタケ」(2019.10.18 公開)のわが国での位置にも似ているが、とてもおいしいのであろう。ただ、このシャグマアミガサタケの方が海外ではよほど広く流通しているようである。

 散歩中にこのように普通に見つかる種であるが、日本でのきのこ狩りの季節とはかけ離れた春季に多く発生することや、外観が奇怪であることなどから考えて、食習慣には結びつかなかったのだろうとされる。これを反映してか方言名も少なく、「ぐにゃぐにゃ」(秋田県南部)・「しわあだま」(秋田県北部)・「しわもだし」(東北地方の各地)などの呼称が知られている程度であるという。

 一方、 栃木県下では、「要注目種」としてレッドデータブックに収録されているという一面もあるから面白い。 

 同じころ、散歩道の脇でもう一種のきのこを見つけた。こちらは「アミガサタケ」という種で、やはり春に発生する。
 
 このアミガサタケも微量ながらシャグマアミガサタケと同種の毒成分を持っていて、注意しなければならないが、海外では高級キノコとされ、乾燥品や缶詰などが市販されているというから、シャグマアミガサタケと同様の扱いである。

道路沿いの樹下に出ているアミガサタケ 1/2 (2020.4.28 撮影)


道路沿いの樹下に出ているアミガサタケ 2/2 (2020.4.28 撮影)

 ところで、このシャグマアミガサタケの毒成分であるが、ヒドラジン類の一種であるギロミトリン、およびその加水分解によって生成するモノメチルヒドラジン(単にメチルヒドラジンとも)であるとされる。ギロミトリンの含有量は、シャグマアミガサタケ 100 g中 120-160 mg程度であるという。 


 ギロミトリンの沸点は143℃で、揮発性はないが、沸騰水中ではすみやかに加水分解されてモノメチルヒドラジンとなる。後者の沸点は87.5℃で蒸気圧も高く(20℃において37.5 mmHg)、煮沸すると気化し、調理中にこれらを吸い込むと中毒を起こすという。

 また、煮沸によって煮汁の中にも溶出する。10分間の煮沸によって、モノメチルヒドラジンの99-100パーセントが分解・失活するという。また、生鮮品を10日間ほど乾燥することによっても、ギロミトリンを90パーセント程度分解できるとされている。

 このモノメチルヒドラジンはヒドラジン(N2H4)の4つある水素の1つをメチル基(CH3)で置き換えたもので、両者ともにロケットやミサイルの燃料物質であるという意外な面もある。 

 我が家でもキノコ類は大の好物である。特に妻などポルチーニには目がない方で、種々料理に利用している。トリュフ入りのチーズも売られているが、スーパーなどでこれを見つけると買い占めに走るといったはしたないこともするくらいである。

 このシャグマアミガサタケやアミガサタケにも興味はあるが、これらの種に限らず多少なりとも毒があるとなると、やはり手は出せない。まだまだ命が惜しいのである。











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ベニテングタケ

2019-10-18 00:00:00 | キノコ
長野県のある地方では、ベニテングタケというキノコを特別な時に食べる風習があると、私たちが軽井沢に転居して間もない頃、妻がご近所の老婦人から聞いて帰ってきた。その特別な時というのはお葬式の後のことで、75歳以上の女性だけが食べることを許されるのだという。

 何とも意味深長な話に、その時はただ驚いたのであったが、後で調べてみると、それまで猛毒のキノコの代表格だと思っていたベニテングタケであるが、意外にも食べられるという話も散見できることが判ってきた。もちろん毒抜きをしてのことではあるが。

 例えば、手元の本「きのこ」(小宮山勝司著 2007年 永岡書店発行)を見てみると、「ベニテングタケ」の項には次のような記述がある。

 「世界中でたった1カ所、このきのこを毒抜きして食用にしているところがあった。長野県の菅平地方だ。今は食用にはしなくなったが、お年寄りに聞くと、あのおいしさは忘れられないという。恐る恐る1mm角ほどをかじってみると、舌にまとわりつくようなうまみがある・・・」。

 ただし、この文章の最後で、著者は「そうはいっても毒きのこ、絶対にまねをすべきではない」とくぎを刺すことを忘れていない。

 いきなり本題に入ってしまったが、この「ベニテングタケ」とはどのようなキノコなのかみておくと、童話などで真っ赤な傘に白い水玉模様(いぼいぼ)が描かれているキノコが登場することがあるが、そのキノコは「ベニテングタケ」を描いたものと考えてよい。この傘にあるいぼいぼは、ツボと呼ばれるものが崩れてできるとされ、強い雨にあたるととれてしまう。

 そして、キノコの毒性を話題にする時に決まって登場するのが、この真っ赤なキノコであった。したがって、我々には真っ赤なキノコは毒キノコというイメージが植えつけられている。
 
 ベニテングタケは日本では主に、夏から秋にかけて、高原の白樺、ダケカンバ、コメツガ、トウヒなどに発生し、針葉樹と広葉樹の双方に外菌根を形成する菌根菌であり、南日本ではほとんど見かけないとされる。

 このベニテングタケが実際に生えているところを見、写真撮影をしたいと思い、軽井沢で自宅周辺を歩いてみたが、よく似たタマゴタケやテングタケは見つかるが、ベニテングタケはなかなか見つからない。そうこうしているうちに日が過ぎていった。

 このベニテングタケは前述の通り、白樺の木と共生関係にあると言われているので、白樺林で有名な八千穂高原に出かけた際にも林の中を歩きながら探したことがあったが、その時は空振りに終わっていた。ここに一軒ある食堂に入り、店のおばさんに「ベニテングタケを見たいのだが・・・」と、話を聞いてみたが、「以前はたくさん生えていたのですが、最近は見かけなくなりましたね・・・」とのことであった。

 ここは白樺で有名なだけに、採集者が来るようになったのだろうかと思い、別な場所を探してみようと考えた。

 そして、今年の春、蓼科方面にドライブに出かけた時に、車の窓から白樺林を見ていたので、時期が来たらここに出かけてみようと計画していた。

 先日その機会が訪れ、妻と出かけ、考え始めて4年目にして首尾よく2株のベニテングタケを見つけて写真に撮ることができた。

 最初、春に目撃していた白樺林が道路から見えるようになった場所で車を停めて、白樺林に入ってみようとしたが、その辺りの林床にはびっしりとクマザサが生い茂っていて、足元が見えない。この調子ではキノコの類は生えていないだろうし、仮に生えていたとしても見つけるのは難しいと感じて、早々にこの場所を諦めて、別の場所に向かった。

道路沿いに広がるシラカバ林(2019.9.25 撮影)

 次に車を停めたのは牧場の駐車場であった。この日は平日であったが、結構観光客の車も停められていて、牧場の柵ごしに、放牧されている牛を眺めている親子連れの姿も見られた。

のんびりと草を食べる牛、後方に浅間山が見える(2019.9.25 撮影)

 売店の人に話を聞くと、周辺にはキノコ類がたくさん生えている場所があるとのことであった。車をその場所に残してしばらく周辺を散策することにした。

 少し歩くと白樺の林が出現する。車はその辺りにまで侵入することができるようで、数台の車が停められていたが、一番奥の方に停めてあった1台に乗ろうとしている中年の女性の手には、レジ袋のようなものがぶら下げられていて、その中に何やらキノコらしきものが入っているのが目に入った。きっとここでキノコ狩りをしてきたのだろうと、期待が膨らんだ。

 その車が立ち去った後、林の中を進むと足元にはたくさんのキノコが生えていた。しかし、目指すベニテングタケは見当たらなかった。林の中を、次々に現われる種々のキノコを撮影しながら、白樺の木が途切れる辺りまで進んでみたが、やはりベニテングタケを見つけることはできなかった。

 あたりがそろそろ暗くなりかけてきたこともあり、元来た方向に戻りながら、それでも諦めきれずにあたりを見回しつつ歩いていると、ツツジの密集している場所があり、その根元近くに赤いキノコを見つけた。小枝を掻き分けて近づくと、これが間違いなくベニテングタケであった。

 カサが開き、横倒しになっている1本と、カサがまだ開いていない1本であった。ベニテングタケといえば、赤いカサの部分に点々と白いツボが見られるところが特徴であるが、ここで見つけたまだカサの開ききっていない1本のツボは大部分、雨のためか剥げ落ちてしまっていた。

 しかし、貴重な2本。横倒しになっている、カサが開き、一部欠け落ちてしまっているベニテングタケも助け起こして撮影した。

傘が開き、一部が欠けているベニテングタケ(2019.9.25 撮影)

傘が開き始めたが、ツボが落ちてしまっているベニテングタケ(2019.9.25 撮影)

ツボが少し残っている側から撮影した同上のベニテングタケ(2019.9.25 撮影)

 八千穂高原といい、蓼科高原といい、ベニテングタケ狩りをする人々がいるのだろうかと思えるほど、見つけることが難しくなっている気がする。

 先に紹介したきのこの本には、菅平地方という地名だけが出ていたが、冒頭記したように、長野県にはほかにもこのベニテングタケを保存し、特別な時にだけ食べるという風習が残っているようである。

 改めて、ウィキペディアで「ベニテングタケ」の項を見てみると、「食用例」という記述があって、次のように、意外にも多くの事例が含まれていた。

 「本種の毒成分であるイボテン酸は、強い旨味成分でもあり、少量摂取では重篤な中毒症状に至らないことから、長野県の一部地域では塩漬けにして摂食されている場合がある。長野・小諸地方では、乾燥して蓄え、煮物やうどんのだしとしても利用した。煮こぼし塩漬けで2、3ヵ月保存すれば毒が緩和されるので食べ物の少ない冬に備えた。傘より柄の方が毒が少なく、よく煮こぼして水に晒して大根おろしを添えれば、味も歯切れもよい。・・・あまり広まらなかったが、早くとも19世紀以降のヨーロッパ地域、特にシベリアに入植したロシア人が何度も茹でて無毒化して食した。・・・19世紀後期の北米ではアフリカ系アメリカ人のキノコ販売者が、湯がいて酢につけてステーキソースとしていた。」

 小諸地方と言えば御代田町をはさんで軽井沢のすぐ近くである。ご近所の老婦人の話していたベニテングタケをお葬式の後に食べる風習がある町とは、小諸地方周辺のことであったのかと気付かされた。
 
 ベニテングタケの持つ毒について更にウィキペディアで見ていくと、毒性はさほど強くなく、主な毒成分はイボテン酸、ムッシモールであり、長い間毒成分と信じられてきたムスカリンは、その含まれる量がごくわずかであるとされる。

 イボテン酸、ムッシモールの毒性はさほど強くないとは言うものの、微量ながらドクツルタケのような猛毒テングタケ類の主な毒成分であるアマトキシン類も含むため、長期間食べ続けると肝臓などが冒されるといわれているし、やはり食べすぎると起きるという腹痛、嘔吐、下痢は気になる。そして、うまみ成分が毒成分と一致しているので、毒抜きをすると、同時にうまみ成分も取り除かれてしまい、せっかくのうまみも台無しと言うことになるようである。

 さて、やはり食用のキノコは専門家が勧めるものだけにすることにして、これまでのベニテングタケ探しの途中で出会った、その他のキノコの写真を一部紹介させていただこうと思う。

 最初は軽井沢で撮影した、食用の代表でもあるタマゴタケ。この種については、すでに本ブログで紹介しているが(2016.9.9 公開)、ベニテングタケのツボが雨などで流されてしまうと、外観はこのタマゴタケと、とてもよく似てくるので、注意が必要である。
 
地面から顔を出したばかりのタマゴタケ(2017.8.28 撮影)

少し成長したタマゴタケ(2017.8.28 撮影)

成長し、傘が開いたたタマゴタケ(2017.8.28 撮影)

 次も、やはり軽井沢で撮影したもので、ツボがあり、形はベニテングタケとそっくりであるが、傘の色が焦げ茶色のテングタケ。軽井沢では普通に見かける種である。

地面から出て来たばかりで、全体がツボに覆われているテングタケ(2017.8.24 撮影)

傘が開く前と後のテングタケが並んでいた。ツボの破片がよく残っている(2017.8.24 撮影)

同上を真上から撮影した(2017.8.24 撮影)

 以下は、今回ベニテングタケの撮影を行った場所の周辺に生えていたキノコの写真である。これらを紹介して本稿を終る。キノコの種類はとても多く、間違った名前を記載してしまうことを恐れるので、ここでは写真の掲載にとどめさせていただく。

遠目にはベニテングタケかと期待した赤い傘のキノコ(2019.9.25 撮影)

上のキノコの傘が開いた状態と思われる(2019.9.25 撮影)

傘の色が赤茶色のキノコ(2019.9.25 撮影)

柄に黒い小さな斑点のあるキノコ(2019.9.25 撮影)

マツタケに少し似ているキノコ(2019.9.25 撮影)

傘に放射状のスジが見えるキノコ(2019.9.25 撮影)

傘が肉厚のキノコ(2019.9.25 撮影)

傘の中央が窪んでラッパ状になるキノコ(2019.9.25 撮影)

シメジのように集合しているキノコ(2019.9.25 撮影)

今回見た中でいちばん背の高いキノコで20cm近い(2019.9.25 撮影)

独特の形状のホウキタケの仲間(2019.9.25 撮影)

 追記:上の文章を書き終えた後、10月9日に再度蓼科にベニテングタケの撮影に出かけてみた。前回と同じ場所に行ってみたところ、たくさん生えていたキノコ類はほとんど姿を消してしまっており、見ることができなかったが、ベニテングタケは3本見つかった。1本は、傘が開いた状態で、一旦採集されたのか破れて打ち捨てられていた。もう1本は、前回同様傘部分のツボは落ちてしまっていた。3本目はツボがしっかり残り、絵に描いたような姿で期待したものであったが、これは横倒しになっていた。この3本目を、すぐそばの柔らかい土の上に立てて撮影した。

ツボが残りベニテングタケらしい姿1/2(2019.10.9 撮影)

ツボが残りベニテングタケらしい姿2/2(2019.10.9 撮影)

 ご近所の人の話では、今年はどこもキノコ類が大不作とのこと。そういえば、7月からこちらいつもとは違った天候が続き、週末にはよく雨が降っていた。10月の3連休も台風19号の襲来で長野県では千曲川の決壊、これによる新幹線車両の水没、また佐久地方では千曲川沿いの住宅が川に流されるなど、予想以上の大災害で混乱した。
 軽井沢でも多くの地域で停電し、今も一部続いているのであるが、ショップのある旧軽井沢銀座地区は停電を免れ幸いであった。



















 
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タマゴタケ

2016-09-09 17:20:38 | キノコ
先日妻の友人のMさんから借りている群馬県の畑に行ったところ、Mさんの弟さんのYさんが山採りのタマゴタケを持ってきてくださった。

 名前を聞いたことはあったが、実際に見るのは初めてで、その色と姿にはちょっと驚いた。食用のキノコということだが、山でこれを見かけても、毒キノコと思ってしまうに違いないような派手な色をしている。

Yさんが持参してくださったタマゴタケ(2016.9.3 撮影)

 上の写真は、土の中から頭を出したばかりのもので、根元のほうはタマゴタケの名前の由来と思われる白い卵の殻に似たもの(外被膜というらしい)に覆われている。

 もう少し成長したものもあったが、こちらは次の写真のように、柄が伸びてかさが開き、色がオレンジ色に変化したかさの周縁部には放射状に条線が出ている。

成長して柄が伸び、かさが開いたタマゴタケ(2016.9.3 撮影)

 このYさんは群馬県の職員で、山林関係の仕事をされているということで、山野の植物にはとても詳しく、今年の春には山菜の代表格であるタラの芽とコシアブラをやはり持ってきていただいたことがある。このときはてんぷらにしておいしくいただいた。

 今回もありがたく頂戴して、自宅に持ち帰りさっそくホットプレートで焼いていただくことにした。縦に割いてみると柄の部分は空洞になっている。

縦に割いたタマゴタケ、長さは15センチくらいで、柄の部分は空洞になっている(2016.9.3 撮影)

 さくさくとした食感で、おいしく頂くことができた。

 これを機にと、自宅周辺に生えているキノコを見て回ることにした。これまで散歩中にたくさんのキノコを見かけていたが、特に興味を持ってみていたわけではないので、どんなキノコが生えているのかまったく知らなかった。

 歩き始めてすぐに、妻が「タマゴタケ!」と叫んだ。まさかと思いつつ近くに行ってみると本当にあの見覚えのあるタマゴタケに違いなかった。こんなに近くに生えていたなんてまったくの驚きであった。

自宅近くで見つけたタマゴタケ(2016.9.5 撮影)

 途中さまざまなキノコの姿を確認しながら、さらに歩いていくと、今度は別荘地の敷地内にタマゴタケがまとまって出てきているところを見つけた。名前がわかってみると見方がこんなにも変わるのかと思えるくらいであった。

別荘の敷地内に出ているタマゴタケ(2016.9.5 撮影)

 こうしてみると、近くの山に出かけるとこのタマゴタケは簡単に見つけることもできそうなのだが、しかし現在軽井沢ではキノコを採集して食べることは規制されている。3.11の事故以来の放射能汚染に伴う措置がまだ継続しているためだ。

 林野庁のホームページ(http://www.rinya.maff.go.jp/j/tokuyou/kinoko/qa/seigennagano.html)によると、2016.5.30付けで長野県下では軽井沢町と隣の御代田町に、基準値(100Bq/kg)を越える数値が確認されているとして、キノコや山菜の出荷制限をしている。

 また、軽井沢町のホームページ(http://www.town.karuizawa.lg.jp/www/contents/1001000000847/index.html)にも、「山菜は取らない、食べない、販売しないでください」とのPRが現在も継続してなされている(2015.10.30登録の情報)。

 自然の恵み豊かなこの地方で、住民が自由に山菜を楽しむことができないのは残念なことだ。早く安心してキノコ狩りができる日が来ることを望みたいものである。














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