4月にヒメギフチョウの観察・撮影場所に案内していただいたAさんから、「オオルリシジミが発生しています」との電話連絡をいただいたのは、22日(日)の夕方であった。
私のショップの定休日が、火曜・水曜と理解していただいての事で、それではと24日(火)に現地に案内していただく約束をした。
オオルリシジミは、現在長野県の一部地方と、九州の限られた場所にのみ生息していて、これら各地では保全活動が行われ、絶滅危惧1類に指定されている希少種である。今回出かける予定の東御市では、熊本県白水村・阿蘇町と共に、オオルリシジミを天然記念物に指定している。
つい先日、長野県内のもう一つの生息地である、国営アルプスあずみの公園で、オオルリシジミが発生し始めたとの情報を、妻がツイッターで得ていたので、東信地方でも同様に発生時期を迎えているであろうと思っていたところである。尚、安曇野市でも、2022年3月30日にオオルリシジミを天然記念物に指定したと報じられた。
東御市内では、オオルリシジミの生息地の一つであるシチズンファインデバイスの北御牧事業所で、2003年から地域の「オオルリシジミを守る会」の一員として、絶滅を防ぐために食草である豆科の植物「クララ」を構内に植え、食草の保護、害虫駆除などを行い、成虫の発生時期には工場敷地を開放して「オオルリシジミ観察会」を毎年開催してきている。
今年はどうなっているだろうかとネット検索をしてみると、「観察会中止」の記事タイトルが見つかった。理由はコロナのせいだろうかと思ったりしたが、ネットではその理由についての詳しい情報を得ることはできなかった。
連絡をいただいたAさんによると、今回案内していただく場所は、この工場ではなく、その近くにあり、地元有志の「北御牧のオオルリシジミを守る会」が農家の協力を得てクララを守り育て、保全活動を行っている地区だという。
当日、Aさんと待ち合わせて案内していただいた場所には、すでに「守る会」の方が数名来ておられて、観察と写真撮影に適した場所を教えていただいた。
早速その水田脇の斜面に向かうと、数頭のオオルリシジミが飛び交っていた。この斜面にはクララの大株があちらこちらにあり、その葉上に止まるオオルリシジミの姿も見られた。
軽井沢に住み始めて以来、季節が巡ってくるたびにこのオオルリシジミ観察・撮影のことを思い描いていたが、これまで実現していなかった。それが東信地方に生まれ育ったAさんに出会えたことで一気に解決した日であった。
私たちのほかに、もう一人撮影に来ている人がいて、「向こうで、交尾中のオオルリシジミが見られますよ」と教えていただいた。この方は、オオルリシジミの生息地である安曇野から来たとのことであった。
東御市教育委員会が発行した「東御市天然記念物 オオルリシジミ保護活動の記録<2013 改訂版>」によると、オオルリシジミの♂の発生は、例年5月中旬からとされる。また、♀は♂より数日遅れて5月下旬から見られるようになるという。こうした雌雄の発生順序は、多くのチョウやガと同様のものである。
この日はすでに♀が多数発生していて、交尾シーンも撮影することができた。また、交尾後翌日頃から産卵を始めるとされるが、その産卵シーンと思われる様子も撮影できた。思われる・・・と、すこし曖昧な表現になったのは、産卵した卵を確認できなかったからである。
ところで、オオルリシジミの雌雄の同定については、♀の前翅表の中央には黒斑列が現れるが、♂にはこれがないことから容易に判別できる。
クララの葉上に止まっているときは、多くは羽を閉じているので、この黒斑列が見えず、雌雄の判別が難しくなるが、時折開く翅表を見ていると、当然のことかもしれないが、ほとんどが♀であることが判る。
♂はクララの周囲を地上1m位の高さで速く飛び回っては♀を探し、♀の方は発生地からあまり離れず、クララや近くの草に止まり♂を待つとされる。
以下、この日撮影したオオルリシジミの♀から紹介する。
オオルリシジミ ♀ 1/10(2022.5.24 撮影)
オオルリシジミ ♀ 2/10(2022.5.24 撮影)
オオルリシジミ ♀ 3/10(2022.5.24 撮影)
オオルリシジミ ♀ 4/10(2022.5.24 撮影)
オオルリシジミ ♀ 5/10(2022.5.24 撮影)
オオルリシジミ ♀ 6/10(2022.5.24 撮影)
オオルリシジミ ♀ 7/10(2022.5.24 撮影)
オオルリシジミ ♀ 8/10(2022.5.24 撮影)
オオルリシジミ ♀ 9/10(2022.5.24 撮影)
オオルリシジミ ♀ 10/10(2022.5.24 撮影)
次はクララの上や周囲を飛翔するオオルリシジミ、翅表が見えない写真の方は、♂かと思うが、判定は難しい。
クララの上を飛翔するオオルリシジミ 1/2 (2022.5.24 撮影)
クララの上を飛翔するオオルリシジミ 2/2 (2022.5.24 撮影)
クララの周囲を飛び回るオオルリシジミ♀ (2022.5.24 撮影)
次はアカツメクサやハルジオンに止まり吸蜜する様子。ツバメシジミもやってきてハルジオンに止まり吸蜜を始めたが、両者を比較することで、オオルリシジミの大きさを確認することができる。
アカツメクサで吸蜜するオオルリシジミ ♂(2022.5.24 撮影)
ハルジオンで吸蜜するオオルリシジミ ♀(2022.5.24 撮影)
ハルジオンで吸蜜するツバメシジミ♂ (2022.5.24 撮影)
続いてクララの葉上の♀に求愛行動をとる♂の連続写真を見ていただく。残念ながら♀に拒否されたようで、♂は去って行った。
クララ葉上の♀に求愛行動をとる♂ (2022.5.24 撮影)
次は交尾中の写真。翅を閉じているが、この2頭については、前翅裏の黒斑は♀の方が大きい事、後翅裏、亜外縁の橙色の赤味が♀で強い事、腹部は♀で太く、♂で細いことなどから雌雄を判別した。
クララの葉上で交尾するペア 1/4(左♀、右♂ 2022.5.24 撮影)
クララの葉上で交尾するペア 2/4(左♂、右♀ 2022.5.24 撮影)
クララの葉上で交尾するペア 3/4(手前♂、奥♀ 2022.5.24 撮影)
クララの葉上で交尾するペア 4/4(手前♀、奥♂ 2022.5.24 撮影)
交尾シーンを撮影していると、突然他の♂が乱入してきた。これには驚いたが、帰宅後先の資料を見ると、こうしたことは比較的よく見られるようである。
交尾中に他の♂が絡む 1/3(2022.5.24 撮影)
交尾中に他の♂が絡む 2/3(2022.5.24 撮影)
交尾中に他の♂が絡む 3/3(2022.5.24 撮影)
乱入してきた♂は執拗に交尾中の♀に働きかけているようである。
交尾中の♀にアプローチする他の♂ 1/3(左♀ 2022.5.24 撮影)
交尾中の♀にアプローチする他の♂ 2/3(中央♀ 2022.5.24 撮影)
交尾中の♀にアプローチする他の♂ 3/3(中央♀ 2022.5.24 撮影)
さらに別の♂も加わり、4頭が入り乱れ、訳が分からなくなる。しかし、やがて狼藉者の2頭の♂は去って行った。
交尾中に2頭の♂が絡む (2022.5.24 撮影)
♀がクララの花穂の先に腹部を曲げて止まっているところをよく見かけたが、卵を目視確認することができなかった。卵は花穂の隙間に1卵ずつ産み付けられるということなので、発見が難しいのかもしれないし、実際にはまだ産卵していないのかもしれない。
飼育下では、1頭の♀が200卵を産卵した例があるとされる。♀の腹部が太いわけである。
腹部を曲げて産卵行動をとる♀ 1/2(2022.5.24 撮影)
腹部を曲げて産卵行動をとる♀ 2/2(2022.5.24 撮影)
オオルリシジミの幼虫と各種のアリには共生関係があるとされる。アリは幼虫の出す分泌物など誘引物質に惹かれて付きまとうようであるが、♀が産卵行動をとっていると、早速様子を伺いにやってきたのか、アリが近づいて来た。
クララの花穂近くに止まる♀にアリが近づいて来た (2022.5.24 撮影)
産み付けられた卵は、直径が0.6mm程とかなり小さく、まんじゅう型で表面に細かい突起がある。1週間程度で孵化するとされているので、いずれまた現地に来て幼虫の観察もしてみたいと思っている。
最後に種名は定かではないがオオルリシジミに似たシジミチョウの描かれたフランス製のC&Sと中皿を紹介する。C&Sの方の絵の作者は Marjolein Bastinとある。
尚、オオルリシジミの生息地は国内の他、朝鮮半島・中国・ロシア南東部とされている。
シジミチョウの図柄のC&S
シジミチョウの図柄の中皿(直径16cm)