昨年、新聞紙上に“「県の石」認定・地質学会”とのニュースが報じられた。長野県の石は?と調べて見ると、岩石部門に和田峠の黒曜石、鉱物部門に同じく和田峠のざくろ石、そして化石部門には野尻湖のナウマンゾウの化石が指定されていた。
県の石認定を報じる2016年5月11日の読売新聞の記事
詳しく調べてみると今回の発表内容は次のようなものであった。
「「県の石」日本地質学会が認定 141種の岩石、鉱物、化石
日本地質学会は10日(2016年5月10日)、47都道府県で産出する特徴的な岩石、鉱物、化石を1つずつ選び、計141種類を「県の石」(都道府県の石)として認定したと発表した。
各都道府県のシンボルとなる花や木などは既にあるが、石の選定は初めて。新潟は佐渡の金、鳥取は砂丘の砂などが選ばれた。
岩石部門では福岡は筑豊炭田の石炭、鹿児島は姶良カルデラから噴出したシラスと呼ばれる火砕流堆積物を認定。熊本は4月の地震で大きな被害が出た益城町周辺の地層からも見つかる溶結凝灰岩を選んだ。火砕流の重みで火山灰や軽石が固まってできる岩石で、橋の石材などに用いられるという。
鉱物部門では滋賀は宝石のトパーズ、京都は複数の結晶が集まって花びらのような形を作る桜石、山梨と長崎は2つの水晶が結合してハート形になる日本式双晶水晶。化石部門は、北海道ではアンモナイト、福島では首長竜のフタバスズキリュウが選ばれた。
日本地質学会は2014年に一般公募し、専門家の審査を経て認定した。学会の斎藤真常務理事は「学術的に重要で市民の多くが受け入れやすい石を選んだ。大地の歴史と成り立ちを知って郷土の地質を愛してほしい」と話している。〔共同〕」
ということであった。ちなみに、長野県以外で黒曜石が県の石として選定されているのは大分県のみで、瀬戸内海に浮かぶ姫島産のものである。この姫島の黒曜石産地は国指定の天然記念物になっている
(2007年7月26日指定)。
今回長野県の岩石と鉱物に選ばれた黒曜石とざくろ石を産出するこの和田峠は、2年ほど前、軽井沢にまだ転居する前に松本方面にドライブに出かけた帰りに通って、道路脇にあったお店に立ち寄り、そここで黒曜石の塊とざくろ石を買い求めたことがあった。
その写真を次に示す(尚、黒曜石は下の説明書にもあるように黒耀石とも表記されるが、一般的には黒曜石が用いられているので、ここではこの表記を用いる)。
和田峠のみやげ物店で買った黒曜石の塊と説明書
和田峠のみやげ物店で買ったざくろ石と説明書
土産物屋の店主の話では、和田峠の黒曜石の採掘場所はすでに閉じられているとの説明であったが、店にはたくさんの黒曜石やざくろ石が並べられていて、その中からお土産にと思い買い求めたのであった。
ざくろ石はガーネットとして宝石の仲間ではあるが、今回買ったものはもちろんそのような品質ではなく、鉱物標本の類である。
さて、この黒曜石だが、上の説明文にもあるとおり石器時代の人々の生活に欠かすことのできない優れた素材であったことは周知のとおりである。
一昨年秋に妻と三内丸山遺跡を訪問し、その規模の大きいことと保存状態のよさに驚いた。見学用の施設(縄文時遊館)内には多くの石器が展示されていたが、その中にもいくつかの黒曜石製のものが含まれていた。
三内丸山遺跡で発掘された品々が展示されている縄文時遊館(2015.11.9 撮影)
これらの石器は、その形態が美術品かと思えるほど素晴らしく、こうした形状を生み出す技術が並々ならないものであることをうかがわせている。
縄文時遊館展示品、各種の石匙:5,500~4,000年前(2015.11.9 撮影)
縄文時遊館展示品、黒曜石製の石槍(左):5,000~4,000年前と
水晶製の石鏃(右):5,500~4,000年前(2015.11.9 撮影)
縄文時遊館展示品、石槍(左):5,500~4,000年前と石鏃(右):5,500~4,000年前(2015.11.9 撮影)
この三内丸山遺跡から出土した黒曜石には、北海道白滝産のものがあるとされている。縄文時代にどのようにして北海道から青森県に黒曜石を運ぶことができたのかは興味深いが、このほかにも日本産の黒曜石がサハリン、朝鮮半島など北東アジアの遺跡から見つかっているとされているから驚きである。
縄文時遊館展示品、北海道白滝産黒曜石(2015.11.9 撮影)
縄文時遊館展示パネル、北海道産黒曜石の解説(2015.11.9 撮影)
これら縄文時代の遺跡から発掘された石器に用いられている黒曜石の産地の推定はどのように行われるのだろうか。
黒曜石はマグマが水中や地上で急速に固化してできたもので、ガラス質である。同様の化学組成のマグマがゆっくりと固化し部分的に結晶化したもの(火山岩)は流紋岩であり、地中の深い場所で固化・結晶化したもの(深成岩)は花崗岩である。
組成を見ると酸化ケイ素が69%以上、酸化アルミニウムが10%程度で、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化鉄、酸化カルシウムなどが合わせて10%から20%含まれていて、その他チタン、ルビジウム、ジルコニウム、ストロンチウムなどの酸化物が僅かに含まれている。
こうした成分比率は黒曜石の産地ごとに微妙に異なっていて、同一産地内ではこの成分比率が安定しているため、蛍光X線分析法などで石器を分析して組成の詳細が判れば石器として使用されている黒曜石の産地を特定することができるという。
具体的な方法としては、鉄とルビジウムの比率を指標とする方法などがあるとされる。
三内丸山遺跡の黒曜石には、このようにして北海道白滝産のものが含まれていることが判明しており、縄文時代の人々の活動範囲の広がりを教えてくれる貴重な情報を提供している。
県の石認定を報じる2016年5月11日の読売新聞の記事
詳しく調べてみると今回の発表内容は次のようなものであった。
「「県の石」日本地質学会が認定 141種の岩石、鉱物、化石
日本地質学会は10日(2016年5月10日)、47都道府県で産出する特徴的な岩石、鉱物、化石を1つずつ選び、計141種類を「県の石」(都道府県の石)として認定したと発表した。
各都道府県のシンボルとなる花や木などは既にあるが、石の選定は初めて。新潟は佐渡の金、鳥取は砂丘の砂などが選ばれた。
岩石部門では福岡は筑豊炭田の石炭、鹿児島は姶良カルデラから噴出したシラスと呼ばれる火砕流堆積物を認定。熊本は4月の地震で大きな被害が出た益城町周辺の地層からも見つかる溶結凝灰岩を選んだ。火砕流の重みで火山灰や軽石が固まってできる岩石で、橋の石材などに用いられるという。
鉱物部門では滋賀は宝石のトパーズ、京都は複数の結晶が集まって花びらのような形を作る桜石、山梨と長崎は2つの水晶が結合してハート形になる日本式双晶水晶。化石部門は、北海道ではアンモナイト、福島では首長竜のフタバスズキリュウが選ばれた。
日本地質学会は2014年に一般公募し、専門家の審査を経て認定した。学会の斎藤真常務理事は「学術的に重要で市民の多くが受け入れやすい石を選んだ。大地の歴史と成り立ちを知って郷土の地質を愛してほしい」と話している。〔共同〕」
ということであった。ちなみに、長野県以外で黒曜石が県の石として選定されているのは大分県のみで、瀬戸内海に浮かぶ姫島産のものである。この姫島の黒曜石産地は国指定の天然記念物になっている
(2007年7月26日指定)。
今回長野県の岩石と鉱物に選ばれた黒曜石とざくろ石を産出するこの和田峠は、2年ほど前、軽井沢にまだ転居する前に松本方面にドライブに出かけた帰りに通って、道路脇にあったお店に立ち寄り、そここで黒曜石の塊とざくろ石を買い求めたことがあった。
その写真を次に示す(尚、黒曜石は下の説明書にもあるように黒耀石とも表記されるが、一般的には黒曜石が用いられているので、ここではこの表記を用いる)。
和田峠のみやげ物店で買った黒曜石の塊と説明書
和田峠のみやげ物店で買ったざくろ石と説明書
土産物屋の店主の話では、和田峠の黒曜石の採掘場所はすでに閉じられているとの説明であったが、店にはたくさんの黒曜石やざくろ石が並べられていて、その中からお土産にと思い買い求めたのであった。
ざくろ石はガーネットとして宝石の仲間ではあるが、今回買ったものはもちろんそのような品質ではなく、鉱物標本の類である。
さて、この黒曜石だが、上の説明文にもあるとおり石器時代の人々の生活に欠かすことのできない優れた素材であったことは周知のとおりである。
一昨年秋に妻と三内丸山遺跡を訪問し、その規模の大きいことと保存状態のよさに驚いた。見学用の施設(縄文時遊館)内には多くの石器が展示されていたが、その中にもいくつかの黒曜石製のものが含まれていた。
三内丸山遺跡で発掘された品々が展示されている縄文時遊館(2015.11.9 撮影)
これらの石器は、その形態が美術品かと思えるほど素晴らしく、こうした形状を生み出す技術が並々ならないものであることをうかがわせている。
縄文時遊館展示品、各種の石匙:5,500~4,000年前(2015.11.9 撮影)
縄文時遊館展示品、黒曜石製の石槍(左):5,000~4,000年前と
水晶製の石鏃(右):5,500~4,000年前(2015.11.9 撮影)
縄文時遊館展示品、石槍(左):5,500~4,000年前と石鏃(右):5,500~4,000年前(2015.11.9 撮影)
この三内丸山遺跡から出土した黒曜石には、北海道白滝産のものがあるとされている。縄文時代にどのようにして北海道から青森県に黒曜石を運ぶことができたのかは興味深いが、このほかにも日本産の黒曜石がサハリン、朝鮮半島など北東アジアの遺跡から見つかっているとされているから驚きである。
縄文時遊館展示品、北海道白滝産黒曜石(2015.11.9 撮影)
縄文時遊館展示パネル、北海道産黒曜石の解説(2015.11.9 撮影)
これら縄文時代の遺跡から発掘された石器に用いられている黒曜石の産地の推定はどのように行われるのだろうか。
黒曜石はマグマが水中や地上で急速に固化してできたもので、ガラス質である。同様の化学組成のマグマがゆっくりと固化し部分的に結晶化したもの(火山岩)は流紋岩であり、地中の深い場所で固化・結晶化したもの(深成岩)は花崗岩である。
組成を見ると酸化ケイ素が69%以上、酸化アルミニウムが10%程度で、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化鉄、酸化カルシウムなどが合わせて10%から20%含まれていて、その他チタン、ルビジウム、ジルコニウム、ストロンチウムなどの酸化物が僅かに含まれている。
こうした成分比率は黒曜石の産地ごとに微妙に異なっていて、同一産地内ではこの成分比率が安定しているため、蛍光X線分析法などで石器を分析して組成の詳細が判れば石器として使用されている黒曜石の産地を特定することができるという。
具体的な方法としては、鉄とルビジウムの比率を指標とする方法などがあるとされる。
三内丸山遺跡の黒曜石には、このようにして北海道白滝産のものが含まれていることが判明しており、縄文時代の人々の活動範囲の広がりを教えてくれる貴重な情報を提供している。