最近、新聞やネットのニュースで「核融合」という語を目にする機会が増えてきたように感じていて、関心を持つようになった。きっかけとなったのは2022年12月18日の購読紙の「サイエンス」ページであったが、ここには核融合に関する技術的な解説記事と共に、核融合炉の建設・稼働における国際競争力を強化するため、日本政府が、初の国家戦略作りに乗り出したことが紹介された。
「核融合」について解説する読売新聞の「サイエンス Report」記事
また、その後2023年2月28日には、次のようにこの国家戦略案が了承されたと報じられた。
「内閣府の有識者会議は2月28日、二酸化炭素を出さない次世代のクリーンエネルギーとして期待される核融合の国家戦略案を大筋で了承した。来年度にも産官学が連携する協議会を設立するほか、2050年頃の発電実証時期の目標の前倒しを念頭に研究開発を加速させる。政府は今春、戦略案を正式に決定する。・・・」
核融合と言えば、すでに学生時代からその言葉を耳にしていて、通っていた大学でもレーザー核融合の実験が進められていたので、原理的なことはある程度知っていたが、実用的な発電プラントとなると、その具体的な中身については知らなかったし、まだまだ随分先の夢のような話だと思っていた。
一方、核兵器としては核分裂反応を用いる原子爆弾と共に、核融合反応を用いる水素爆弾が数か国で開発され、すでに実験が繰り返し行われているので、この地球上でも核融合反応は確かに起きていた。
また、一時期「常温核融合」が電気化学的反応として起きたとの報告がなされ、大きな話題になったが、その後の追試験では確かな証拠が見いだせず、将来的なエネルギー源としての研究はほとんど聞くことがなくなった。
こうした中、本格的な核融合の研究開発は着実に進められていて、日米欧露などが国際熱核融合実験炉「ITER」をフランスで建設していたことを上記の新聞記事で知った。同時に、こうした「国際協調」路線とは別に、近年の実現可能性の高まりを受けて、米・英・中などの各国では独自に核融合の開発を進めるといった「国際競争」も始まっていることから、日本政府もクリーンエネルギーの柱として、核分裂を利用する高速炉や高温ガス炉などの様々な革新炉の開発と共に核融合炉に関する戦略策定に乗り出したことになる。
ITERが計画している巨大な超電導コイルを用いる方式とは別に、レーザー式にも進展があった。米エネルギー省は昨年12月、小指の先ほどの燃料に強力なレーザーを照射して核融合を起こし、燃料に投入したエネルギーの1.5倍の出力を生むことに成功したと発表している。
日本でも、核融合炉の設計や開発を手掛ける「京都フュージョニアリング」、磁場の改良を進める「Helical Fusion」、レーザー核融合の実用化を目指す「EX-Fusion」といったベンチャー企業が登場し、核融合発電実現への期待は高まっていると感じさせる。
半世紀以上前の1970年、「日本万国博覧会・EXPO'70」が大阪で開催された。この時、アメリカ館ではアポロ12号が持ち帰った「月の石」が話題となったが、このほかにも21世紀の現在では当たり前のように普及している、動く歩道、モノレール、リニアモーターカー、電気自転車、電気自動車、テレビ電話、携帯電話、缶コーヒー、ファミリーレストラン、ケンタッキーフライドチキンなどの製品やサービスが初めて登場した。
そして、この万博会期中の1970年8月8日に、関西電力の最初の原子力発電所である「美浜原発1号機」からの送電が開始され、会場に電気が届けられた。
私の部活動の先輩にも原子力工学科を専攻する方が数名いたが、その中のAさんは関西電力に就職が決まり、次々と建設されていく原子力発電所計画に参画していくことに、大きな夢と希望を語っていたことを思い出す。
「日本万国博覧会・EXPO'70」のスタンプ帳から、会場全景
「日本万国博覧会・EXPO'70」のスタンプ帳から、会場案内図
「人類の進歩と調和」をテーマとして開催された「日本万国博覧会・EXPO'70」と機を一にして日本でも始まった原子力発電は、その後の日本の経済成長を支える役割を果たしてきた。しかし他方で、よく知られているところでは1979年3月28日の米国スリーマイル島原子力発電所事故や、1986年4月26日のソ連チェルノブイリ原子力発電所での大事故に見舞われて、ついには2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震の津波により、福島第一原子力発電所炉心溶融・水素爆発事故が起こり、福島県を中心に日本に大災害をもたらす結果となった。
東京電力福島第一原発事故の後、日本国内の57基の原発はいったんすべて運転を停止した。事故後に発足した原子力規制委員会が新しい規制基準を策定し、九州電力川内原発1号機がその新基準の下で2015年8月に再稼働した。資源エネルギー庁によると、2023年1月現在、日本国内で再稼働している原発は、関西電力大飯原発3号機や高浜原発4号機など10基(定期検査で停止中も含む)である。
今後、「核融合炉」の開発と運転を進める際には、原子力発電所のこうした事故や高レベル放射性廃棄物に対する不安、またアメリカのビキニ環礁における水爆実験による放射能被害などに対する懸念を解消する取り組みも求められる。今春発表されるという政府の戦略案にどのように盛り込まれるのか、期待したいと思う。
核分裂と核融合、異なる原理によるもので、その安全性もまた異なるはずであるが、どうしても我々日本人には核兵器というところでのつながりにも連想が働いてしまう。
私自身も「核融合」反応の実際や「核融合発電」の具体的な仕組みと、核融合発電のメリットとデメリットについてもう少し理解を深めたいと思うのである。