軽井沢からの通信ときどき3D

移住して10年目に入りました、ここでの生活と自然を写真と動画で発信しています

庭にきた蝶(5) ウラナミシジミ

2017-02-24 00:00:00 | 
 今回はウラナミシジミ。前翅長は15-20mmと小型で、名前の通り翅の裏側に波状紋があるなかなか愛らしい蝶である。小学生のころ大阪でも見た記憶がある。

 いつもの「原色日本蝶類図鑑・増補版」(保育社 昭和39年(1964年)発行)には、このウラナミシジミに関して次のような記述がある。

 「この蝶の越冬態と越冬場所に関しては決定的な研究がなく、昆虫界の宿題となっている。・・・」

 この当時の宿題は、現在では明らかにされていて、沖縄、九州~関東地方南部沿岸の温暖な地域で成虫越冬するとされているが、定まった越冬態は持たないようだ。暖かくなると、年4回程度の発生を繰り返しながら分布を北に拡大し、秋には北海道でも見られるようになるという。そして、冬には上記越冬可能地域以外では死滅する。

 何とも空しいはるかな北方への旅ではあるが、長い年月をかけて棲息域を拡大しようとしているのだろうか。

 東信地方での目撃記録(「信州 浅間山麓と東信の蝶」鳩山邦夫・小川原辰雄 著 2014年4月30日 信州昆虫資料館 初版第一刷発行)によると、8月1日から11月13日に及ぶ。我が家の庭には10月2日から11月24日にかけて吸蜜にきているので、この辺りが寒冷地であることを考慮すると、適応が進んでいるのかもしれない(と期待)。

 類似の種はいないので、種の同定は容易。雌雄の判別は、♂では翅の表が淡紫色で外縁のみ細く暗色、♀では広く暗褐色で前翅中央部は暗紫色になり、また♀では後翅表外縁に沿って白く縁取られた黒点列が目立つといった点で比較的容易に行える。

 食草はエンドウ、ダイズ、インゲンなどのマメ科の栽培種を好む。暖地では、卵、幼虫、蛹、成虫のいずれでも越冬しているとされるが、寒冷地では上記の通り越冬はできないようだ。


日本ハッカの花で吸蜜するウラナミシジミ♀(2016.10.4 撮影)


キャットミントの花で吸蜜するウラナミシジミ♀(2015.11.24 撮影)


日本ハッカの花で吸蜜するウラナミシジミ♀(2016.10.4 撮影)


キャットミントの花で吸蜜するウラナミシジミ♀(2015.11.24 撮影)


キャットミントの花で吸蜜するウラナミシジミ♀(2015.11.24 撮影)


キャットミントの花で吸蜜するウラナミシジミ♀(2016.10.4 撮影)


ソヨゴの葉の上で休息するウラナミシジミ♂(2016.10.4 撮影)


キャットミントの花で吸蜜するウラナミシジミ♂(2016.10.2 撮影)


キャットミントの花で吸蜜するウラナミシジミ♀(2016.10.12 撮影)


ソヨゴの葉の上で休息するウラナミシジミ♀(2016.10.12 撮影)


キャットミントの花で吸蜜するウラナミシジミ♂(2016.10.4 撮影)


キャットミントの花で吸蜜するウラナミシジミ♀(2015.11.24 撮影)

 昨年の秋には一度に8頭ほどのウラナミシジミがキャットミントに吸蜜に来たことがあって、このときには妻の手に止まってしばらく触覚の手入れなどをしていたことがあった。このことは、以前、「越冬蝶」のところで紹介した。


一度に8頭ほどでやってきて、キャットミントの花で吸蜜するウラナミシジミ(2016.10.2 撮影)

 一昨年11月24日に、キャットミントの花に吸蜜に訪れていたのは♀であったが、この個体の翅や胴体・腹部には、今年10月にやってきたものに比べると、長い毛が密生していた。この地方の寒さに適応しようとしているのであろうかとつい思ってしまう。


体全体に長い毛が密生していたウラナミシジミ♀(2015.11.24 撮影)

 このようにして寒冷地にも適応し、この辺りでも何らかの形態で越冬し、春に姿を見せてくれないものだろうかと思う。




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雪のはなし

2017-02-17 00:00:00 | 日記
 新潟県に長く住んでいたので、少々の雪には驚かないし、雪かきにも慣れているが、それでも軽井沢に移住を決めたときには、ここは寒さが厳しいけれど雪はさほど降らないのでやれやれとの思いがあった。

 しかし、ここ数年をみていると軽井沢は少し変だ。雪が多いのである。昨年も今年も何度も家の前の雪かきをしている。昼間の気温がマイナスという真冬日があるせいで、降った雪を放置すると凍結してしまうからだが、お隣の空き地などは昨年からの雪が溶けずに残ったままになっている。

 家の外のウッドデッキの手すりに降ってくる雪を見ていると、2mm程度にまで大きく成長した雪の結晶が見えることがある。安易に写真撮影しようとしたことがあったが、思いのほか難しくて、どこかで見たことのあるようなきれいな写真にはならない。それなりの準備をしなければ難しいようだ。


庭に降った雪に見られる六角形結晶(2015.12.19 撮影)

 そんなことを思っていたところ、思いがけず「中谷宇吉郎 雪の科学館」に行く機会が訪れた。中谷宇吉郎博士といえば、すぐに岩波新書の「雪」を思い浮かべる。雪のさまざまな結晶を撮影したり、「雪は天から送られた手紙である」という名言を残した北海道大学の研究者であることを若い頃に聞き知っていた。


中谷宇吉郎博士著の岩波新書「雪」の表紙

 母を大阪に送りがてら、山代温泉に一泊する計画を立て、このところの大雪警報を気にしながらも車で出かけた。北陸自動車道を片山津ICで降りてしばらく走ったところで、この「中谷宇吉郎 雪の科学館」の案内板を目にした。

 山代温泉に一泊し、翌日の昼過ぎに母を加賀温泉駅に見送った後、早速片山津温泉の柴山潟のほとりに建つ「中谷宇吉郎 雪の科学館」に向かった。この場所は中谷博士の生家にも近い。


「中谷宇吉郎 雪の科学館」1階アプローチ(2017.1.27 撮影)

 駐車場脇の入り口と思しきところには雪のモチーフをあしらった小さな石柱があるだけで、本当の入り口は右の階段を登り、橋を渡った2階にあった。


2階入り口の扉にはさまざまな雪の結晶紋様があしらわれている(2017.1.27 撮影)


扉に描かれている雪の結晶紋様(2017.1.27 撮影)

 受付ではどこから来たのかを聞かれ、長野県からと答えると、壁に貼られた地図の上に2名分の小さな丸いシールが貼られた。来場者の分布を示すものだ。

 これを見ると、やはり地元石川県をはじめとした北陸3県からが圧倒的に多く、長野県からの1月の来訪者数は私たちを含め4名であった。

 この日は比較的来場者も少なく、丁寧な案内と実験を交えた説明を受けることができた。

 先ず案内されたのが、博士の生涯を綴った2階映像ホールでの映画であった。ここでは私がこれまで知らなかった博士のさまざまな姿を知ることができた。

 次いで、1階展示室の実験コーナーではダイヤモンドダストの製作、ペットボトル内の過冷却水が一振りで一瞬にして凍る様子、過冷却石けん水膜が空中に漂っているダイヤモンドダストと接触してたちまち結晶化が始まる様子など、普段目にすることの無いような理科実験をすぐ目の前で見せていただいた。

 面白かったのは、マイナス19度に冷却した冷凍箱の中で、プチプチを破裂させてダイヤモンドダストを作っていたことだ。クッション材のプチプチの中には製作時に取り込まれた塵が入っていて、これを破裂させるとこの塵が核になって、過飽和水蒸気が結晶化するというものであった。

 実験コーナーの背後には博士が実験を行った「常時低温研究室」が再現されていて、その中には人工雪製作装置も展示されていた。この装置はガラス製の簡単な構造をしたものであるが、様々な工夫がなされていて、博士が世界で初めて人工雪の製作に成功しその様子を撮影したものであることを思うと感慨深いものがあった。


中谷宇吉郎博士が作成した人工雪製作装置(右側、雪の科学館パンフレットから許可を得て掲載)

 この科学館の詳細についてはホームページ(http://www.kagashi-ss.co.jp/yuki-mus/)があるので、興味を持たれた方はこちらをご覧いただければと思う。

 展示館外の中庭には博士が極地から運んだという60tの石を敷き詰めたグリーンランド氷河のモレーンの石の原があり、ここからの柴山潟とその背後にある白山の美しい姿が印象的であった。


中谷博士の次女芙二子さん【修景】のグリーンランドモレーンの石の原(2017.1.27 撮影)


中庭から見た柴山潟とその背後に見える白山(2017.1.27 撮影)

 帰りには、2階から続く長い緩やかなスロープをくだり、駐車場に向かった。この科学館は建物が3つの、上部に向かってやや細くなっている六角柱と六角錘の屋根とを組み合わせた形になっており、雪の結晶形へのこだわりを示しているが、このスロープもまた結晶形のひとつを表していることに妻が気付いた。

 中谷宇一郎博士は著書「雪」の中で、雪の六角形結晶の美しい写真撮影の先駆者であるアメリカ人のベントレーのことを評して「ベントレーの写真集は前述のように立派なものではあるが、凡て綺麗で且つ規則正しい平板状の対称形のもののみを選んで撮ったために、一般に雪の結晶というものが、ベントレーの写真のやうなものと思ひ込ませたという点は注意しておく必要がある。・・・」、「・・・事実は後に詳しく述べるやうに、立体的の構造のもの、或は不規則な形のもの、或は無定形に近いやうなもの、即ち見た眼には汚い形のものが非常に多いのである。・・・」と述べている。

 次の写真はこの科学館が発行した「第9回雪のデザイン賞」の募集要項に用いられたものの一部であるが、六角形の雪の結晶の中央に不規則な形状の結晶が示されている。スロープはこの不規則形状の結晶の一部をヒントに設計されたもののように見えると妻は言うのである。

 こうしたところにも中谷博士の思いが形になって表れているように思えるのであった。


六角形の雪の結晶に混じって示された不規則形状の結晶(同科学館の「第9回雪のデザイン賞」募集要項から許可を得て掲載)


仲谷宇吉郎 雪の科学館の全体図、左側がスロープ(同科学館のパンフレットから許可を得て掲載)


長いスロープを下りたところにある案内表示(2017.1.27 撮影)

 軽井沢に帰ったら、きちんと準備をしてさまざまな雪の結晶の写真を撮ろうと心に誓ってこの素晴らしい中谷宇吉郎 雪の科学館を後にした。
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庭にきた蝶(4) アサマイチモンジ

2017-02-10 00:00:00 | 
 今回はアサマイチモンジ。前翅長は27-38mmの中型のタテハチョウ。名前にこの地方の「アサマ」の名がついた蝶は、このアサマイチモンジとアサマシジミである。

 愛用の「原色日本蝶類図鑑・増補版」(保育社 昭和39年(1964年)発行)の索引には、この2種に並んでアサマモンキの名前を見ることができるが、最近の本ではどうかというと、「フィールドガイド 日本のチョウ」(誠文堂新光社 2013年発行)にはアサマモンキの名はどこにも見ることができないので、今はこの名前は使われていないようだ。

 もっとも、原色日本蝶類図鑑でも、このアサマモンキはミヤマモンキチョウの地域別の名称で浅間山に産するものを指し、同種のものでも北アルプスに産するものはアルプスモンキとされている。

 さて、昨年この2種の「アサマ・・・」のうち、我が家の庭のブッドレアの花を訪れたのはアサマイチモンジだけで、アサマシジミの方は見かけることがなかった。

 軽井沢の蝶のことに詳しい故鳩山邦夫氏の著書「チョウを飼う日々」(講談社 1996年発行)にも、アサマシジミを信濃追分駅付近で見かけたとの記述はあるが、氏の別荘のある旧軽井沢周辺での発見記録はみあたらないので、我が家の庭にも来る可能性はなさそうである。

 アサマイチモンジに話を戻す。この名前は浅間山麓で初めて発見されたことにちなんだものとされているがその生息分布域は広く本州全体に広がっている。

 とてもよく似た種類にイチモンジチョウがいて、両者は長く区別されていなかったが、1936年以降になり初めて日本特産の独立種として認められたとある(原色日本蝶類図鑑)。

 ところが、東信地域のチョウを紹介している「信州 浅間山麓と東信の蝶」(鳩山邦夫・小川原辰雄 著 2014年4月30日 信州昆虫資料館 初版第一刷発行 p29)には次のような記述もある。
「・・・1886年に日本で初めて出版されたチョウの図鑑である「日本蝶類図譜」(プライヤー著)にも、生息域を「浅間山」とする記述が多々見られるほか、「アサマイチモンジ」や「アサマシジミ」などアサマの名をいただいた種も見られるほどである。・・・」

 これはどういうことなのだろうか、追って調べて見たいと思う。

 種の同定だが、この2種は、名前どおり中央に1本の白色の帯があるので他種との区別は容易で間違えることは無い。一方、この2種間の識別は確かに難しい。

 前翅表の中室内に大きく目立つ白斑のあるのがアサマイチモンジ、不明瞭なものがイチモンジチョウ。前翅の白色帯のうち中央の白斑がやや大きいのがアサマイチモンジ、小さく外側にずれるのがイチモンジチョウ、さらにこの中央の白斑とすぐ下の白斑の中心線がその下に続く3番目の白斑の外側に来るのがアサマイチモンジで内側に来るとイチモンジチョウとされる。

 アサマイチモンジの食草はスイカズラ、タニウツギなどで、成虫の発生は5月下旬から9月初旬までの年3回、寒冷地では1~2回とされ、幼虫で越冬する。

 昨年の夏、このアサマイチモンジが自宅庭のブッドレアに吸蜜に訪れたのは9月6日であった。下の写真のとおり翅は前後ともに痛々しいほどに傷んでいた。鳥に襲われでもして、かろうじて逃げ延びたのであろうか。残っている前翅表の紋様から何とかアサマイチモンジの特徴が確認できて、判別はできた。ただ、雌雄の判別は難しくできていない。


ブッドレアで吸蜜するアサマイチモンジ1/5(2016.9.6 撮影)


ブッドレアで吸蜜するアサマイチモンジ2/5(2016.9.6 撮影)


ブッドレアで吸蜜するアサマイチモンジ3/5(2016.9.6 撮影)


ブッドレアで吸蜜するアサマイチモンジ4/5(2016.9.6 撮影)


ブッドレアで吸蜜するアサマイチモンジ5/5(2016.9.6 撮影)

 我が家には義父が蒐集した蝶標本が多数あり、日本産の蝶はほぼ揃っていて、その中にイチモンジチョウとアサマイチモンジがそれぞれ複数含まれている。庭に来た個体の翅の状態がかなりひどいので、参考までにもう少し良好な状態の標本写真を追加させていただく。

 添付ラベルに記載の年号は昭和で、採集はどちらも1966年である。アサマイチモンジの採集地にユノコヤとあるのは群馬県の水上温泉郷にある湯の小屋温泉のことである。


イチモンジチョウ(左)とアサマイチモンジ(右)の標本写真(表)(2017.1.30 撮影)


イチモンジチョウ(左)とアサマイチモンジ(右)の標本写真(裏)(2017.1.30 撮影)

 先の「信州 浅間山麓と東信の蝶」の目撃記録を見ると、このあたりでは5月23日から8月20日とされている。また、写真集「軽井沢の蝶」( 栗岩竜雄著 2015年8月8日 ほおずき書籍 第1刷発行)にも初見6月2日、終見10月15日とあるので、我が家に来た個体の翅が傷んでいるのも頷けた。

 昨年アサマイチモンジが庭に吸蜜に訪れたのを見かけたのはこの1回だけで、それ以降見ることはなかった。庭の一角に植えたスイカズラも根付いてだいぶ成長してきているので、今年また来てくれることを願っている。
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構造色

2017-02-03 00:00:00 | 
 蝶の美しさの一つは、その色彩の豊富さにあるが、中でも金属光沢のように輝く色には特に惹かれるものがあるようだ。この美しい金属光沢を示す蝶の代表格は南アメリカなどに棲息しているモルフォ蝶であろう。

 私の部屋にも10年ほど前に、上信越自動車道の小布施サービスエリアのすぐそばにある施設が夏休みの時期に開催していた昆虫展で、子供たちに混じりやや恥ずかしい思いで買い求めたモルフォ蝶の仲間「メネラウスモルフォ」の額入り標本がある。


南米ギアナ高地産のメネラウスモルフォ蝶の標本(2017.1.23 撮影)

 このモルフォ蝶の青く輝く色の正体については過去には色素によるものか、構造によるものかの議論が行われたこともあったようだが、今日では走査型電子顕微鏡によりその鱗粉が持っている非常に複雑な微細構造まで明らかにされ、構造色であることが確認されていて、集束イオンビームで人工的に再現をする試みまでなされている。

 構造色とはもともと無色の物質が、その構造により色を示すようになるもので、光の持つ散乱、屈折、干渉、回折などのさまざまな性質によりこのような現象が生じている。空の虹、プリズム、シャボン玉などが示す色も構造色の仲間であるし、宝石のオパールや身近なところではコンパクト・ディスク(CD)がさまざまな色に反射して見えるのも構造色である。

 生物の仲間でも、モルフォ蝶だけではなく多くの蝶もこの構造色を持っているし、玉虫などの甲虫類、孔雀やハチドリなどの鳥の羽根、貝殻や真珠などの美しい色も構造色によるものである。

 CDを見る角度を変えるとこの色はさまざまに変化するが、このように構造色は光源の位置や見る角度により色が変化したり、色が消えてしまうことがあるという特徴がある。

 ところが、モルフォ蝶の持つ青色の構造色はその点、見る方向にもよるのだが、角度を変えて眺めても色の変化が少なく、これには驚くような仕組みがあるという。それは、モルフォ蝶の鱗粉表面の構造が光の干渉と回折(散乱?)の2つを巧みに利用する構造になっているためとされている。

 自宅にあるメネラウスモルフォ蝶でこれを試してみた。蝶の翅に垂直方向から照明光をあて、垂直から斜め30度の方向から撮影した時の構造色の変化は次のようなものであった。





メネラウスモルフォ蝶の構造色の変化を、翅に垂直から斜め30度方向から見た(2017.1.31 撮影)

 また、角度をさらに大きくして、垂直から斜め60度の方向から撮影した時の構造色の変化は次のようになった。





メネラウスモルフォ蝶の構造色の変化を、翅に垂直から斜め60度方向から見た(2017.1.31 撮影)

 蝶を後から見たときに比べて、前すなわち頭の方向から見たときのほうがやや構造色の変化が少ないようだ。また、左右方向には構造色の見え方に偏りがあるように見える。これは、鱗粉の配列方向とも関係があると思われる。

 このことからすると、メネラウスモルフォ蝶の場合、飛んでくる蝶を前方から見たときに構造色がよく見えるようにできているようだが、いずれにしても、前後方向にはかなりの広い範囲で青く見えることがわかる。

 日本の国蝶である「オオムラサキ」の♂の持つきれいな青紫色もまた構造色であり、この蝶の場合も見る角度で色が青紫から暗い紫色に変化する。オオムラサキの構造色を作り出している鱗粉の詳しい構造を私はまだ知らないのだが、どのようなものになっているのだろうか。知りたいものだ。


名前通り翅の青紫色の構造色が美しい「オオムラサキ」の♂(2015.7.27 撮影)


左右の翅の構造色が僅かな角度の違いで異なって見える(2015.7.27 撮影)

 甲虫の仲間にも美しい構造色を持つものが多いが、中にはとても不思議な性質を示すものが知られている。

 次の写真は、ギフチョウを見るために岐阜市にある名和昆虫博物館を訪問した際に偶然見つけて購入したテイオウニジダイコクコガネのペア標本だが、このペアを3Dテレビ用の円偏光メガネを通して見ると左右で見え方が異なることがわかる。


アルゼンチン産テイオウニジダイコクコガネのペア(2107.1.23 撮影)

 この標本に3Dメガネを乗せると、円偏光板の分だけ暗くはなって見えるが、左目側の円偏光板を通した方は構造色に変化が無く、他方右目側の円偏光板を通した方は構造色が消えて暗くなっている。


テイオウニジダイコクコガネの上に3Dメガネを乗せて撮影すると、右目側が暗くなる(2017.1.23 撮影)

 また、メガネを反転させて左右を入れ替えてもやはり右目用の円偏光板側のオスが暗く見えるので、見え方の差は雌雄の違いによるものではない。


テイオウニジダイコクコガネの上に3Dメガネを反転させて乗せて撮影しても、右目側が暗くなる
(2017.1.23 撮影)

 このことは、東京工業大学の石川謙准教授が詳しく報告されているが、コガネムシの仲間が持つ構造色が捩れ構造に由来することに起因している。

 肉眼では判らないが、この一部のコガネムシの持つ捩れ構造は、左円偏光だけを反射し、右円偏光は吸収している。3Dメガネの左目用には左円偏光板が、右目用には右円偏光板が入っていて、左円偏光板は左円偏光を通過させ、右円偏光板は左円偏光を吸収するので、メガネをかけて左目で見るとテイオウニジダイコクコガネは明るく構造色を示し、右目で見ると暗く見えることになる。こうした性質は、円偏光2色性として知られているものである。

 事前にこの事を知っていたので、私は昆虫館などを訪れる場合には、必ず円偏光板を持参している。名和昆虫博物館に行った時も円偏光板で確認してこのテイオウニジダイコクコガネの標本をお土産に購入した次第。

 一部のコガネムシが進化の過程でなぜこうした捩れ構造を獲得してきたのかについては仮説が提示されているものの、まだ確たることはわからず謎のようだ。

 植物の世界ではどうかというと、ポリア・コンデンサータ(Pollia condensata)という植物の種子がやはり円偏光2色性を示す構造色を持つことがわかったので入手してみた。大きさは直径が3mm程度ととても小さいのだが、拡大して見ると表面は美しい輝きを持っていることがわかる。


ポリア・コンデンサータの種子が持つ構造色(2017.1.23 撮影)

 この構造色自体は目視できるものだが、円偏光2色性の方はコガネムシのように肉眼でもはっきりと観察できるものではなく、顕微鏡下で確認できるような微小領域でおきているものなので、円偏光メガネを通して普通に写真撮影をしてもその差は確認できなかった。

 ここでもまた、何故この植物がこうした構造を獲得していったのかという疑問に突き当たるが、まだ比較的最近になり見出されたことであり、その解答は得られていないようである。

 この種子を発芽させて育ててみたいと思っているが、果たして軽井沢の気候に馴染んでくれるものかどうか気になっている。










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