夜の闇を切り裂いて、というとやや大げさではあるが、そんな風に感じるくらい鋭い何かの鳴き声のようなものが毎夜のように聞こえていた。去年、大阪の実家でのことである。
数日後の昼間にも同じ声が聞こえてきたので2階の窓から外を見ると、50mほど先、休耕田の中に鳥の姿が見えた。ハトよりもやや大きめ、やや細めの鳥であった。
すぐに、タゲリという名前が浮かんだが、ここには鳥類図鑑もなく確かめることができないので、軽井沢にいる妻にその鳥の特徴を伝えて調べてもらうことにした。
しばらくして、その鳥は「ケリ」ではないかとの返事が返ってきた。YouTubeでは、鳴き声が聞けるのだという。私もその姿と鳴き声を確認したが、間違いない。あの、けたたましい鳴き声の主は「ケリ」という名の鳥であった。
普段使いにしているコンデジを超望遠にして撮影すると、親子だろうか、3羽のケリの姿が確認できた。
休耕田に姿を見せる「ケリ」(2017.2.17 撮影)
このケリだが、写真で確認すると、気は強そうなもののなかなか美しい鳥である。それに、この写真からは見えないが、飛び立つときには、羽裏の黒と白のコントラストがとてもよく目立つ。
実家周辺はちょうど住宅地が田畑に切り替わる境界にあたる場所であり、近くには水田も見られるが、すぐ前の土地は2年前ほど前から休耕地となり、雑草が生えている。ケリはここで餌を捜しているようであった。
鳥類図鑑でケリについて調べてみると、次のような記述がある。
「留鳥として本州各地にすむが、繁殖地は局地的。東海~近畿地方に比較的多く、積雪地のものは冬は暖地に移動する。水田や川原、畑や草原などの開けた場所に小群で生息。冬や渡り期には湖沼や干潟にも現れる。採食、営巣とも地上で行い、昆虫や両生類などを食べる。警戒心が強く、人やイヌ、猛禽類などの侵入者に対しては、上空を旋回して急降下の集団攻撃をしかける。鳴き声が和名の由来」
そして、鳴き声の欄には「ケッ、キリッ、キリリリ(警戒時)」とある。
まさに、この図鑑の示すとおりの状況である。住宅地の近くにこうした鳥が生息していたことは、意外ではあったが、同時に嬉しくもあった。
それからもしばらくは、このケリの鳴き声が聞こえていたように思うが、次第に聞かれなくなり忘れてしまっていた。ただ、この鳥のことは少し気になっていた。
そして、今年3月に実家に来たときに、また、夜になるとあのけたたましい声が聞こえてきた。毎年決まってこのあたりにやってきているようであった。
翌日の昼間、昨年見かけたあたりを捜してみると、今度は2羽のケリの姿が見えた。いくつかある田や畑地の間を行き来しているようであった。
ケリが飛び立つときの、コントラストの美しい羽の写真が取りたくて、今年はしばらくの間、2階の窓から撮影を試みた。
近くを人が通っても特に警戒する様子もなく、畑地で餌を捜している様子であったが、そのケリが激しく鳴いたのは、カラスが近づいてきたときであった。
夜に鳴く理由はまだわからないが、猫が近くに来たときかもしれない。野良犬はこの辺りにはまったく見られない。
休耕田に来たケリ・1/11(2018.3.22 撮影)
休耕田に来たケリ・2/11(2018.3.22 撮影)
休耕田に来たケリ・3/11(2018.3.22 撮影)
休耕田に来たケリ・4/11(2018.3.22 撮影)
休耕田に来たケリ・5/11(2018.3.22 撮影)
休耕田に来たケリ・6/11(2018.3.22 撮影)
休耕田に来たケリ・7/11(2018.3.22 撮影)
休耕田に来たケリ・8/11(2018.3.22 撮影)
休耕田に来たケリ・9/11(2018.3.22 撮影)
休耕田に来たケリ・10/11(2018.3.22 撮影)
休耕田に来たケリ・11/11(2018.3.22 撮影)
しばらく撮影していると、次第に次の動作が読めるようになる。ようやく羽ばたいている姿を捉えることができた。
飛び立つケリ・1/2(2018.3.22 撮影)
飛び立つケリ・2/2(2018.3.22 撮影)
ケリはいろんなしぐさも見せてくれた。
餌を咥えるケリ(2018.3.22 撮影)
左羽の手入れをするケリ(2018.3.23 撮影)
右羽の手入れをするケリ(2018.3.22 撮影)
胸の手入れの時にはツルのように首が長く見える(2018.3.22 撮影)
右羽を半開きにするけり(2018.3.22 撮影)
気がゆるんだのか、だらりと羽を下げているケリ(2018.3.22 撮影)
一羽のケリをカメラで追いながら、しばらく撮影していると、もう1羽のケリの方に近づいていったが、そのケリは抱卵のためか、すぐそばの畑地にうずくまった。どうもこの場所で営巣しているらしいことがわかった。
ケリが歩いていった先にはもう一羽が(2018.3.22 撮影)
一羽が畑地にうずくまった(2018.3.22 撮影)
畑地でじっとうずくまるケリ(2018.3.22 撮影)
翌日、同じ場所を見ると、やはり1羽のケリがうずくまっており、もう1羽は少し離れたところで見張りをしているように見えた。
畑地でうずくまるケリ(2018.3.23 撮影)
営巣場所の近くで見張りをするケリ(2018.3.23 撮影)
ムクドリのことは全く警戒していない(2018.3.23 撮影)
その次の日は、軽井沢に帰る予定日であったので、その後の様子を見届けることができないまま、次回来るときには雛が孵っているのだろうかなどと期待しながら帰宅した。
そして、今回半月ぶりに実家にやってきて、ケリが営巣していた場所を見て驚いた。考えてみれば当然のことだが、ケリが営巣していた場所は今年も稲作の準備のためにすべて掘り返されていた。ケリの姿はどこにも見られず、すでに巣立ちが終わったのかどうかも判らない。
水田準備のために掘り返された田(2018.4.15 撮影)
ウィキペディアの「ケリ」の項を見ると、この営巣に関して次のように書かれている。
「巣は水田内や畦などの地面に藁を敷き作る。よって農作業による影響が著しく大きい。繁殖期中は時にテリトリーを変えるなどして最大3回営巣を試みる。」
ケリにとって、営巣場所が農作業の影響を受けることは、折り込み済みのことのようである。たくましく、別の場所で引き続いて繁殖活動をしているのかもしれない。
数日後の夜、またあのけたたましい、「ケッ、キリッ、キリリリ」という鳴き声がどこからか聞こえてきて、私もほっと胸をなでおろしたのであった。
数日後の昼間にも同じ声が聞こえてきたので2階の窓から外を見ると、50mほど先、休耕田の中に鳥の姿が見えた。ハトよりもやや大きめ、やや細めの鳥であった。
すぐに、タゲリという名前が浮かんだが、ここには鳥類図鑑もなく確かめることができないので、軽井沢にいる妻にその鳥の特徴を伝えて調べてもらうことにした。
しばらくして、その鳥は「ケリ」ではないかとの返事が返ってきた。YouTubeでは、鳴き声が聞けるのだという。私もその姿と鳴き声を確認したが、間違いない。あの、けたたましい鳴き声の主は「ケリ」という名の鳥であった。
普段使いにしているコンデジを超望遠にして撮影すると、親子だろうか、3羽のケリの姿が確認できた。
休耕田に姿を見せる「ケリ」(2017.2.17 撮影)
このケリだが、写真で確認すると、気は強そうなもののなかなか美しい鳥である。それに、この写真からは見えないが、飛び立つときには、羽裏の黒と白のコントラストがとてもよく目立つ。
実家周辺はちょうど住宅地が田畑に切り替わる境界にあたる場所であり、近くには水田も見られるが、すぐ前の土地は2年前ほど前から休耕地となり、雑草が生えている。ケリはここで餌を捜しているようであった。
鳥類図鑑でケリについて調べてみると、次のような記述がある。
「留鳥として本州各地にすむが、繁殖地は局地的。東海~近畿地方に比較的多く、積雪地のものは冬は暖地に移動する。水田や川原、畑や草原などの開けた場所に小群で生息。冬や渡り期には湖沼や干潟にも現れる。採食、営巣とも地上で行い、昆虫や両生類などを食べる。警戒心が強く、人やイヌ、猛禽類などの侵入者に対しては、上空を旋回して急降下の集団攻撃をしかける。鳴き声が和名の由来」
そして、鳴き声の欄には「ケッ、キリッ、キリリリ(警戒時)」とある。
まさに、この図鑑の示すとおりの状況である。住宅地の近くにこうした鳥が生息していたことは、意外ではあったが、同時に嬉しくもあった。
それからもしばらくは、このケリの鳴き声が聞こえていたように思うが、次第に聞かれなくなり忘れてしまっていた。ただ、この鳥のことは少し気になっていた。
そして、今年3月に実家に来たときに、また、夜になるとあのけたたましい声が聞こえてきた。毎年決まってこのあたりにやってきているようであった。
翌日の昼間、昨年見かけたあたりを捜してみると、今度は2羽のケリの姿が見えた。いくつかある田や畑地の間を行き来しているようであった。
ケリが飛び立つときの、コントラストの美しい羽の写真が取りたくて、今年はしばらくの間、2階の窓から撮影を試みた。
近くを人が通っても特に警戒する様子もなく、畑地で餌を捜している様子であったが、そのケリが激しく鳴いたのは、カラスが近づいてきたときであった。
夜に鳴く理由はまだわからないが、猫が近くに来たときかもしれない。野良犬はこの辺りにはまったく見られない。
休耕田に来たケリ・1/11(2018.3.22 撮影)
休耕田に来たケリ・2/11(2018.3.22 撮影)
休耕田に来たケリ・3/11(2018.3.22 撮影)
休耕田に来たケリ・4/11(2018.3.22 撮影)
休耕田に来たケリ・5/11(2018.3.22 撮影)
休耕田に来たケリ・6/11(2018.3.22 撮影)
休耕田に来たケリ・7/11(2018.3.22 撮影)
休耕田に来たケリ・8/11(2018.3.22 撮影)
休耕田に来たケリ・9/11(2018.3.22 撮影)
休耕田に来たケリ・10/11(2018.3.22 撮影)
休耕田に来たケリ・11/11(2018.3.22 撮影)
しばらく撮影していると、次第に次の動作が読めるようになる。ようやく羽ばたいている姿を捉えることができた。
飛び立つケリ・1/2(2018.3.22 撮影)
飛び立つケリ・2/2(2018.3.22 撮影)
ケリはいろんなしぐさも見せてくれた。
餌を咥えるケリ(2018.3.22 撮影)
左羽の手入れをするケリ(2018.3.23 撮影)
右羽の手入れをするケリ(2018.3.22 撮影)
胸の手入れの時にはツルのように首が長く見える(2018.3.22 撮影)
右羽を半開きにするけり(2018.3.22 撮影)
気がゆるんだのか、だらりと羽を下げているケリ(2018.3.22 撮影)
一羽のケリをカメラで追いながら、しばらく撮影していると、もう1羽のケリの方に近づいていったが、そのケリは抱卵のためか、すぐそばの畑地にうずくまった。どうもこの場所で営巣しているらしいことがわかった。
ケリが歩いていった先にはもう一羽が(2018.3.22 撮影)
一羽が畑地にうずくまった(2018.3.22 撮影)
畑地でじっとうずくまるケリ(2018.3.22 撮影)
翌日、同じ場所を見ると、やはり1羽のケリがうずくまっており、もう1羽は少し離れたところで見張りをしているように見えた。
畑地でうずくまるケリ(2018.3.23 撮影)
営巣場所の近くで見張りをするケリ(2018.3.23 撮影)
ムクドリのことは全く警戒していない(2018.3.23 撮影)
その次の日は、軽井沢に帰る予定日であったので、その後の様子を見届けることができないまま、次回来るときには雛が孵っているのだろうかなどと期待しながら帰宅した。
そして、今回半月ぶりに実家にやってきて、ケリが営巣していた場所を見て驚いた。考えてみれば当然のことだが、ケリが営巣していた場所は今年も稲作の準備のためにすべて掘り返されていた。ケリの姿はどこにも見られず、すでに巣立ちが終わったのかどうかも判らない。
水田準備のために掘り返された田(2018.4.15 撮影)
ウィキペディアの「ケリ」の項を見ると、この営巣に関して次のように書かれている。
「巣は水田内や畦などの地面に藁を敷き作る。よって農作業による影響が著しく大きい。繁殖期中は時にテリトリーを変えるなどして最大3回営巣を試みる。」
ケリにとって、営巣場所が農作業の影響を受けることは、折り込み済みのことのようである。たくましく、別の場所で引き続いて繁殖活動をしているのかもしれない。
数日後の夜、またあのけたたましい、「ケッ、キリッ、キリリリ」という鳴き声がどこからか聞こえてきて、私もほっと胸をなでおろしたのであった。