長谷部をボランチとリベロで使う可変システム
ロシアには魔物が住んでいるようだ。開幕したロシアW杯。優勝候補のドイツが負け、強豪アルゼンチンやブラジル、スペインも勝てなかった。その魔物が今度は日本に味方した。ただしあのハンドによるPKは偶然の産物ではない。香川を起点にした日本の速いカウンター攻撃が生んだ贈り物だった。
前半2分、コロンビアが左サイドからアーリークロスを上げるが日本がクリアした。このときコロンビアは前がかりになり、全員が日本陣内にいる。自陣はカラっぽ。日本のカウンターのチャンスだ。
で、このクリアボールを受けた香川がダイレクトで山なりの縦パスを出す。これを拾った大迫がシュートしたリバウンドを香川がダイレクトでシュートし、相手のハンドを呼んだ。このPKで日本は先制する。しかもコロンビアはハンドによる一発退場で10人になった。
コロンビアのアーリークロスを日本がクリアした瞬間、敵は前がかりになっていたためコロンビア陣内にはだれもいない広大なスペースが広がっていた。このカウンターの好機を逃さず、機転を利かせた香川の縦へのダイレクトパスがすべてを決めた。
続く日本の決勝点は後半28分。途中出場した本田が左コーナーキックを蹴り、これをゴール前で大迫が力強いヘディングシュート。2-1になり、勝負は決した。
香川をトップ下に据えた4-2-3-1
日本のフォーメーションは、香川をトップ下に据えた4-2-3-1だ。ディフェンスラインは右から酒井(宏)、吉田、昌子、長友。ボランチは長谷部と柴崎。右WGは原口、左WGは乾。ワントップは大迫だ。
この試合、日本には2つの約束事があった。
1つはコロンビアのビルドアップの局面だ。敵CBがボールを持つと、大迫と香川が2人並んでCBにプレスをかけた。ボールを奪うためのプレッシングではない。パスコースを限定し、中へのコースを切って相手ボールをサイドへ誘導するためのプレッシングだ。
これでボールが狙い通りサイドに出たら、同サイドの日本のSBとSH、ボランチが挟み込んでハメるゲームプランだ。
もう1つは日本のビルドアップ時である。ボランチの長谷部が両CBの間に下りて3バックを形成し、両SBを高く張り出させてビルドアップする狙いだ。西野監督が「隠していることもある」とコメントしていたのは、おそらくこのプレーだろう。
ただし前半早々にコロンビアがハンドで1人退場になり、前からプレスをかけてこなくなった。これで必要がなくなったため、日本は3バックによるビルドアップを前半でやめている。
ラクな仕事のはずだったが日本はリスキーだった
相手は1人少なくなり、しかも日本はPKで1点リードしている。ぶっちゃけ、あとはラクな仕事のはずだった。10人になったコロンビアは、日本ボールになればディフェンディング・サードまでリトリートしてブロックを作ったからだ。
ならばリードしている日本は後ろ半分で安全にボールを回してうまく時間を使い、焦れたコロンビアが前に出てきたときに縦パスを入れて敵の崩れた陣形を突けばよかった。
だが日本は非常にリスキーだった。とにかくカンタンにボールを失いすぎる。また相手ボールに飛び込んでかわされ、2~3人が瞬時に置き去りにされたり、局面によっては守備が非常に甘く1人少ないはずのコロンビアの選手をフリーにしてしまっていた。
柴崎はいい縦パスを出していたが、「リードしている」という得点状況と「1人多い」という試合状況を考えれば、その縦パスが必然性もなくリスキーなケースがあった。また意味のない場面で、意味のないタックルをして負傷退場してしまった。今後は絶対に気をつけてほしい。
また乾は効果的なボールのつなぎとシュート、守備をしたが、ファウルを期待して露骨に何度も転びすぎる。結果、審判にほとんどファウルを取ってもらえず、カンタンに相手ボールになっていた。あれでは敵にボールをプレゼントするだけだ。柴崎同様、今後は絶対に気をつけてほしい。
一方、後半23分に香川と交代で途中出場した本田も、自身のCKから2点目を呼んだプレー以外は、目も当てられないデキだった。なぜか右サイドに開いてプレイし続け、同サイドの原口、酒井(宏)とポジションが被りまくり。おまけに立て続けに2本の致命的なパスミスを犯し、しかもそのうちの1本は敵への見事なパスになっていた。リスキーすぎてとてもトップ下では使えないし、スタメンも無理だ。
大迫はやっぱりハンパなかった
選手別では、大迫は高さと強さで獅子奮迅の活躍をした。特にマーカーを背負った鉄壁のポストプレイは圧巻だった。世界に通用した。大会後、彼の「値段」はおそらくハネ上がるだろう。
強さとフィジカルのある原口は、随所で粘りのディフェンスをした。よくハードワークしていた。また長友も、強さと無尽蔵のスタミナですごいカバーリングをしていた。グッジョブだ。
香川は前半の立ち上がりから持てる技術をフルに発揮し、メンタルの弱い自分に勝った。前線でのパスコースを消すプレッシングも完璧だった。だが惜しむらくは……前半で完全に試合から消えてしまった。
また前半14分、香川はドリブルで敵ペナルティエリア手前まで進んでいながら、自分でシュートせず乾にパスしてしまった。あそこで積極的にシュートを打てないとダメだ。これは彼に限った話ではない。遠目からでも、日本の選手はもっと積極的にシュートを打たなければ点は取れない。
一方、昌子はビルドアップ時の効果的なドリブルによる持ち上がりと、堅実な守備で貢献した。結局、次の試合でも自信をもって「使える」と断言できるのは、ディフェンスラインの4人と大迫、原口くらいだろう(次点は柴崎と乾、長谷部あたり)
問題山積、GK川島と本田の起用はリスキーだ
では次にこの試合で出た課題を振り返ろう。とにかく難問山積だ。日本はリードし、しかも1人多いという絶対的に有利な状況なのだから、もっと「うまい試合の殺し方」をしてほしい。上のほうでも書いたがリスキーなプレーのオンパレードだった。ただし試合が残り15分になって以降の試合運びはよかった。安全に後ろでボールを動かし、うまく時間を使った。これは今後に生かしてほしい。
次は選手個人の問題だ。テストマッチでディフェンスラインとの連係ミスにより失点の原因を何度も作っているGKの川島は、明らかに消極的になっている。過去のテストマッチでは自分が前に出すぎてミスが続いたため、この試合では逆に前に出るべきシーンで出ていなかった。
またFKから左を抜かれた失点のシーンでは、川島がもっと左寄りの適正なポジショニングをしていれば防げたはずだ。あんな当たり損ねの弱いシュートを止められないのでは話にならない。迷いのある彼の継続起用はリスキーだ。次の試合では、若くビッグセーブのあるGK中村航輔をスタメンで使ってほしい。
続いて2人目は本田である。彼の問題点は上の方に書いた通りだが……本田のCKから得点が入るのを見て、西野監督が「次は本田をスタメンで使おうか?」などと考えないか、非常に心配だ。上記の通り、危ないプレーだらけの本田の起用は危険だ。(もしどうしても彼を使うなら)是が非でも点がほしい局面で、トップ下でなくCFとして途中投入するワンポイントでしか使えない。
カウンターに弱い「日本式ティキ・タカ」は通用するか?
最後に、最大の問題点へ行こう。(このブログではすでに何度も指摘しているが)日本人はグラウンダーのパスが弱すぎる。ボールスピードがない。中盤に人が多い現代サッカーでは、もっと強いパスを出さなければ密集地帯を通せない。日本のような弱いパスでは、簡単にカットされてカウンターを食らう。
となれば、あの弱々しいショートパスをつなぐ日本式ティキ・タカが、「11人の」セネガルとポーランドに通用するか? は最大の難問だ。このスタイルはカウンターにめっぽう弱いからだ。
日本人は長いパスを蹴る・止めるのが下手だ。だから狭いエリアに複数の選手が集まり、味方に近寄ってやってショートパスを交換する。しかもそのパスは「どうぞカットしてください」といわんばかりに弱い。
とすればそのパスをカットされてカウンターを食らえば、さっきまでボールに集まっていた3〜4人の日本の選手はまとめて置き去りにされる。日本はもっと強いグラウンダーのパスを身につけなければ世界で戦えない。
これらの教訓は、ぜひ次のセネガル戦に生かしてほしい。
ロシアには魔物が住んでいるようだ。開幕したロシアW杯。優勝候補のドイツが負け、強豪アルゼンチンやブラジル、スペインも勝てなかった。その魔物が今度は日本に味方した。ただしあのハンドによるPKは偶然の産物ではない。香川を起点にした日本の速いカウンター攻撃が生んだ贈り物だった。
前半2分、コロンビアが左サイドからアーリークロスを上げるが日本がクリアした。このときコロンビアは前がかりになり、全員が日本陣内にいる。自陣はカラっぽ。日本のカウンターのチャンスだ。
で、このクリアボールを受けた香川がダイレクトで山なりの縦パスを出す。これを拾った大迫がシュートしたリバウンドを香川がダイレクトでシュートし、相手のハンドを呼んだ。このPKで日本は先制する。しかもコロンビアはハンドによる一発退場で10人になった。
コロンビアのアーリークロスを日本がクリアした瞬間、敵は前がかりになっていたためコロンビア陣内にはだれもいない広大なスペースが広がっていた。このカウンターの好機を逃さず、機転を利かせた香川の縦へのダイレクトパスがすべてを決めた。
続く日本の決勝点は後半28分。途中出場した本田が左コーナーキックを蹴り、これをゴール前で大迫が力強いヘディングシュート。2-1になり、勝負は決した。
香川をトップ下に据えた4-2-3-1
日本のフォーメーションは、香川をトップ下に据えた4-2-3-1だ。ディフェンスラインは右から酒井(宏)、吉田、昌子、長友。ボランチは長谷部と柴崎。右WGは原口、左WGは乾。ワントップは大迫だ。
この試合、日本には2つの約束事があった。
1つはコロンビアのビルドアップの局面だ。敵CBがボールを持つと、大迫と香川が2人並んでCBにプレスをかけた。ボールを奪うためのプレッシングではない。パスコースを限定し、中へのコースを切って相手ボールをサイドへ誘導するためのプレッシングだ。
これでボールが狙い通りサイドに出たら、同サイドの日本のSBとSH、ボランチが挟み込んでハメるゲームプランだ。
もう1つは日本のビルドアップ時である。ボランチの長谷部が両CBの間に下りて3バックを形成し、両SBを高く張り出させてビルドアップする狙いだ。西野監督が「隠していることもある」とコメントしていたのは、おそらくこのプレーだろう。
ただし前半早々にコロンビアがハンドで1人退場になり、前からプレスをかけてこなくなった。これで必要がなくなったため、日本は3バックによるビルドアップを前半でやめている。
ラクな仕事のはずだったが日本はリスキーだった
相手は1人少なくなり、しかも日本はPKで1点リードしている。ぶっちゃけ、あとはラクな仕事のはずだった。10人になったコロンビアは、日本ボールになればディフェンディング・サードまでリトリートしてブロックを作ったからだ。
ならばリードしている日本は後ろ半分で安全にボールを回してうまく時間を使い、焦れたコロンビアが前に出てきたときに縦パスを入れて敵の崩れた陣形を突けばよかった。
だが日本は非常にリスキーだった。とにかくカンタンにボールを失いすぎる。また相手ボールに飛び込んでかわされ、2~3人が瞬時に置き去りにされたり、局面によっては守備が非常に甘く1人少ないはずのコロンビアの選手をフリーにしてしまっていた。
柴崎はいい縦パスを出していたが、「リードしている」という得点状況と「1人多い」という試合状況を考えれば、その縦パスが必然性もなくリスキーなケースがあった。また意味のない場面で、意味のないタックルをして負傷退場してしまった。今後は絶対に気をつけてほしい。
また乾は効果的なボールのつなぎとシュート、守備をしたが、ファウルを期待して露骨に何度も転びすぎる。結果、審判にほとんどファウルを取ってもらえず、カンタンに相手ボールになっていた。あれでは敵にボールをプレゼントするだけだ。柴崎同様、今後は絶対に気をつけてほしい。
一方、後半23分に香川と交代で途中出場した本田も、自身のCKから2点目を呼んだプレー以外は、目も当てられないデキだった。なぜか右サイドに開いてプレイし続け、同サイドの原口、酒井(宏)とポジションが被りまくり。おまけに立て続けに2本の致命的なパスミスを犯し、しかもそのうちの1本は敵への見事なパスになっていた。リスキーすぎてとてもトップ下では使えないし、スタメンも無理だ。
大迫はやっぱりハンパなかった
選手別では、大迫は高さと強さで獅子奮迅の活躍をした。特にマーカーを背負った鉄壁のポストプレイは圧巻だった。世界に通用した。大会後、彼の「値段」はおそらくハネ上がるだろう。
強さとフィジカルのある原口は、随所で粘りのディフェンスをした。よくハードワークしていた。また長友も、強さと無尽蔵のスタミナですごいカバーリングをしていた。グッジョブだ。
香川は前半の立ち上がりから持てる技術をフルに発揮し、メンタルの弱い自分に勝った。前線でのパスコースを消すプレッシングも完璧だった。だが惜しむらくは……前半で完全に試合から消えてしまった。
また前半14分、香川はドリブルで敵ペナルティエリア手前まで進んでいながら、自分でシュートせず乾にパスしてしまった。あそこで積極的にシュートを打てないとダメだ。これは彼に限った話ではない。遠目からでも、日本の選手はもっと積極的にシュートを打たなければ点は取れない。
一方、昌子はビルドアップ時の効果的なドリブルによる持ち上がりと、堅実な守備で貢献した。結局、次の試合でも自信をもって「使える」と断言できるのは、ディフェンスラインの4人と大迫、原口くらいだろう(次点は柴崎と乾、長谷部あたり)
問題山積、GK川島と本田の起用はリスキーだ
では次にこの試合で出た課題を振り返ろう。とにかく難問山積だ。日本はリードし、しかも1人多いという絶対的に有利な状況なのだから、もっと「うまい試合の殺し方」をしてほしい。上のほうでも書いたがリスキーなプレーのオンパレードだった。ただし試合が残り15分になって以降の試合運びはよかった。安全に後ろでボールを動かし、うまく時間を使った。これは今後に生かしてほしい。
次は選手個人の問題だ。テストマッチでディフェンスラインとの連係ミスにより失点の原因を何度も作っているGKの川島は、明らかに消極的になっている。過去のテストマッチでは自分が前に出すぎてミスが続いたため、この試合では逆に前に出るべきシーンで出ていなかった。
またFKから左を抜かれた失点のシーンでは、川島がもっと左寄りの適正なポジショニングをしていれば防げたはずだ。あんな当たり損ねの弱いシュートを止められないのでは話にならない。迷いのある彼の継続起用はリスキーだ。次の試合では、若くビッグセーブのあるGK中村航輔をスタメンで使ってほしい。
続いて2人目は本田である。彼の問題点は上の方に書いた通りだが……本田のCKから得点が入るのを見て、西野監督が「次は本田をスタメンで使おうか?」などと考えないか、非常に心配だ。上記の通り、危ないプレーだらけの本田の起用は危険だ。(もしどうしても彼を使うなら)是が非でも点がほしい局面で、トップ下でなくCFとして途中投入するワンポイントでしか使えない。
カウンターに弱い「日本式ティキ・タカ」は通用するか?
最後に、最大の問題点へ行こう。(このブログではすでに何度も指摘しているが)日本人はグラウンダーのパスが弱すぎる。ボールスピードがない。中盤に人が多い現代サッカーでは、もっと強いパスを出さなければ密集地帯を通せない。日本のような弱いパスでは、簡単にカットされてカウンターを食らう。
となれば、あの弱々しいショートパスをつなぐ日本式ティキ・タカが、「11人の」セネガルとポーランドに通用するか? は最大の難問だ。このスタイルはカウンターにめっぽう弱いからだ。
日本人は長いパスを蹴る・止めるのが下手だ。だから狭いエリアに複数の選手が集まり、味方に近寄ってやってショートパスを交換する。しかもそのパスは「どうぞカットしてください」といわんばかりに弱い。
とすればそのパスをカットされてカウンターを食らえば、さっきまでボールに集まっていた3〜4人の日本の選手はまとめて置き去りにされる。日本はもっと強いグラウンダーのパスを身につけなければ世界で戦えない。
これらの教訓は、ぜひ次のセネガル戦に生かしてほしい。