チーム作りに時間がかかる
鎌田大地が移籍したラツィオの試合を、開幕戦から2ゲームとも観た。だがチームの仕上がりがまだまだで、試合になってない。彼らは開幕戦で格下レッチェに1-2と逆転負けすると、第2節の昇格組ジェノアにも0-1と敗れ2連敗した。
異才マウリツィオ・サッリが監督なので期待していたが、まだ彼らはシーズン前の「キャンプ地の状態」にいるかのようだ。
サッリのサッカーは、ナポリやチェルシーを指揮していた時代の試合を観ておもしろいと感じた。だがラツィオの現状は、それらの姿とかけ離れている。
ただしサッリのチームのシーズン始まりはいつもこんなだ。監督の要求が細かいため、チームを完成させるのに時間がかかるのだ。
意味のないバックパスを繰り返したジェノア戦前半
特にジェノア戦は立ち上がりから、前半が悲惨だった。
選手がみなパスコースを作る動きをまったくしない。ただ突っ立っているだけだ。で、後ろを向いた選手が足元にボールをもらっては、ワンタッチで元の場所にいる同じ選手にバックパスするだけ。そんなうんざりするようなバックパスの連鎖がえんえんと続く。レイオフになってないのだ。
レイオフとは、縦パスやクサビのパスを受けた選手が、彼をサポートに来た「3人目の選手」にワンタッチやツータッチでパスを落とすプレーを指す。
本来、サッリのサッカーでは、このレイオフを多用する。まず低い位置にいるボールホルダーに対し前線の選手が後ろを向き、ショートパスを受ける。ここまではいい。だがここから、ワンタッチで「3人目の選手」にバックパスするのだ。これを繰り返す。
この循環構造を作り出し、敵の視野をボールに集中させて前線でフリーな選手を生む。で、新たな攻撃を生み出して行く。こうして味方にボールを預けながら動き直すことでマークを剥がす。そしてポジショナルプレーを展開する。これがサッリのサッカーだ。
だが現状は「仏作って魂入れず」だ。単に同じ場所で同じ相手とバックパスを繰り返すだけで、選手が「動き直し」をまったくしない。「第3の動き」もない。だからマークを剥がせないし、新たなパスコースも生まれない。そんな煮詰まった状況になっている。これはあくまで彼ら本来のサッカーではない。
ではそんなラツィオの「真の姿」とめざす戦術、今後の見通しはどうだろうか? それを見て行こう。
「サッリ・ボール」、またの名を「トータル・ゾーン」
そもそもサッリが考えるサッカーとは、どんなスタイルなのか?
サッリ監督は「サッリ・ボール」と呼ばれる戦術を操る。これはチェルシー時代に付けられたネーミングだ。サッリが志向するフットボール・スタイルの呼称である。彼のサッカーはナポリ時代には、「ヨーロッパでいちばん美しい」とまで言われた。
一方、イタリア在住のサッカージャーナリスト兼スカウト・宮崎隆司氏は、彼の戦術を「トータル・ゾーン」と名づけた。チーム全員が連動して動くスタイルだ。
ト-タル・ゾーンはゾ-ンでもマンツーマンでもない。敵選手の位置はまったく関係なく、守備者は人ではなくボールの位置だけでポジショニングを決める。なぜならボールが味方ゴールに入らない限り失点しないからだ。
機動的なポゼッションスタイルだ
攻撃面でいえば、基本はボール保持をめざす機動的なポゼッションスタイルだ。少ないタッチ数(基本はワンタッチ)でテンポよくグラウンダーのボールを回す。例えていえば、日本ではアルビレックス新潟のスタイルに近い(ただし守備戦術はまったく違う)。
そしていったんボールを失うと、できる限り高い位置での奪還をめざす。そのため4-3-3の陣形を極めてコンパクトにキープする。非常にゾーンが狭い。最終ラインも高い。あえていえば、かつてのゾーンプレスに似ている。
ボールに対し横方向は極端に絞る。またボールに対し縦方向は極端に押し上げる、またはリトリートする。さらに敵を押し込むと多くの場合、最終ラインは敵陣内に設定される。
こんなふうにゾーンが常にコンパクトだと必然的に人が密集する。そのぶんネガティブ・トランジション、ポジティブ・トランジションがともに速い。
つまり攻撃と守備が一連の流れの中で絶え間なく循環する。攻守が常に一体化したサッカーである。実際、負けはしたが第2節・ジェノア戦の後半は、そんな躍動するサッカーを見せていた。
アバンギャルドなスペクタクルが展開される
だが残念ながら、現状のラツィオではこの戦術は完成されていない。決まりごとが複雑で細かいため、サッリのチームのシーズン初めはいつもこんなふうに未完なのだ。実際、鎌田もまだ手探りの状態である。
では戦術「トータル・ゾーン」がラツィオで構築されたとき、いったいどんなスペクタクルが展開されるのか?
そこではかつてサッリが指揮したナポリやチェルシー同様、刺激的でエキサイティング&アバンギャルドな光景がわれわれの眼前に姿を現すにちがいない。
いまから楽しみでならない。
鎌田大地が移籍したラツィオの試合を、開幕戦から2ゲームとも観た。だがチームの仕上がりがまだまだで、試合になってない。彼らは開幕戦で格下レッチェに1-2と逆転負けすると、第2節の昇格組ジェノアにも0-1と敗れ2連敗した。
異才マウリツィオ・サッリが監督なので期待していたが、まだ彼らはシーズン前の「キャンプ地の状態」にいるかのようだ。
サッリのサッカーは、ナポリやチェルシーを指揮していた時代の試合を観ておもしろいと感じた。だがラツィオの現状は、それらの姿とかけ離れている。
ただしサッリのチームのシーズン始まりはいつもこんなだ。監督の要求が細かいため、チームを完成させるのに時間がかかるのだ。
意味のないバックパスを繰り返したジェノア戦前半
特にジェノア戦は立ち上がりから、前半が悲惨だった。
選手がみなパスコースを作る動きをまったくしない。ただ突っ立っているだけだ。で、後ろを向いた選手が足元にボールをもらっては、ワンタッチで元の場所にいる同じ選手にバックパスするだけ。そんなうんざりするようなバックパスの連鎖がえんえんと続く。レイオフになってないのだ。
レイオフとは、縦パスやクサビのパスを受けた選手が、彼をサポートに来た「3人目の選手」にワンタッチやツータッチでパスを落とすプレーを指す。
本来、サッリのサッカーでは、このレイオフを多用する。まず低い位置にいるボールホルダーに対し前線の選手が後ろを向き、ショートパスを受ける。ここまではいい。だがここから、ワンタッチで「3人目の選手」にバックパスするのだ。これを繰り返す。
この循環構造を作り出し、敵の視野をボールに集中させて前線でフリーな選手を生む。で、新たな攻撃を生み出して行く。こうして味方にボールを預けながら動き直すことでマークを剥がす。そしてポジショナルプレーを展開する。これがサッリのサッカーだ。
だが現状は「仏作って魂入れず」だ。単に同じ場所で同じ相手とバックパスを繰り返すだけで、選手が「動き直し」をまったくしない。「第3の動き」もない。だからマークを剥がせないし、新たなパスコースも生まれない。そんな煮詰まった状況になっている。これはあくまで彼ら本来のサッカーではない。
ではそんなラツィオの「真の姿」とめざす戦術、今後の見通しはどうだろうか? それを見て行こう。
「サッリ・ボール」、またの名を「トータル・ゾーン」
そもそもサッリが考えるサッカーとは、どんなスタイルなのか?
サッリ監督は「サッリ・ボール」と呼ばれる戦術を操る。これはチェルシー時代に付けられたネーミングだ。サッリが志向するフットボール・スタイルの呼称である。彼のサッカーはナポリ時代には、「ヨーロッパでいちばん美しい」とまで言われた。
一方、イタリア在住のサッカージャーナリスト兼スカウト・宮崎隆司氏は、彼の戦術を「トータル・ゾーン」と名づけた。チーム全員が連動して動くスタイルだ。
ト-タル・ゾーンはゾ-ンでもマンツーマンでもない。敵選手の位置はまったく関係なく、守備者は人ではなくボールの位置だけでポジショニングを決める。なぜならボールが味方ゴールに入らない限り失点しないからだ。
機動的なポゼッションスタイルだ
攻撃面でいえば、基本はボール保持をめざす機動的なポゼッションスタイルだ。少ないタッチ数(基本はワンタッチ)でテンポよくグラウンダーのボールを回す。例えていえば、日本ではアルビレックス新潟のスタイルに近い(ただし守備戦術はまったく違う)。
そしていったんボールを失うと、できる限り高い位置での奪還をめざす。そのため4-3-3の陣形を極めてコンパクトにキープする。非常にゾーンが狭い。最終ラインも高い。あえていえば、かつてのゾーンプレスに似ている。
ボールに対し横方向は極端に絞る。またボールに対し縦方向は極端に押し上げる、またはリトリートする。さらに敵を押し込むと多くの場合、最終ラインは敵陣内に設定される。
こんなふうにゾーンが常にコンパクトだと必然的に人が密集する。そのぶんネガティブ・トランジション、ポジティブ・トランジションがともに速い。
つまり攻撃と守備が一連の流れの中で絶え間なく循環する。攻守が常に一体化したサッカーである。実際、負けはしたが第2節・ジェノア戦の後半は、そんな躍動するサッカーを見せていた。
アバンギャルドなスペクタクルが展開される
だが残念ながら、現状のラツィオではこの戦術は完成されていない。決まりごとが複雑で細かいため、サッリのチームのシーズン初めはいつもこんなふうに未完なのだ。実際、鎌田もまだ手探りの状態である。
では戦術「トータル・ゾーン」がラツィオで構築されたとき、いったいどんなスペクタクルが展開されるのか?
そこではかつてサッリが指揮したナポリやチェルシー同様、刺激的でエキサイティング&アバンギャルドな光景がわれわれの眼前に姿を現すにちがいない。
いまから楽しみでならない。