2013年5月某日
一人の男がいた。
男は、毎年この時期になると、あることのために、動き始める。
これは、男がたどった数ヶ月の物語である。
2013年5月中旬
ある一室に、数人の男女が集まり話し合われている。
その者たちは、病院の各部署から選出された実行委員だ。
毎年、多くの人が集まり、賑わい、笑顔が溢れだす
〝病院秋祭り〟
多くの者が、仕事の量・煩雑さなどを想定することで、敬遠しがちなこの仕事を、男は、毎年黙々とその役割を引き受け、己の役割を果たす。
明確な辞令はないが、“暗黙の了解”この言葉の元、男は、実行委員として動く。
デデンデデンツッターンデンデンデンデ―ン
風の中のす~ばる~
今年も始まった~
砂の中の銀河~
テーマは何にすりゃ~
みんなどこへ行った~
何も決まら~ない
見守~られる事も~なく~
必死に考える
地上にある星を
残業がかさむ~
プロジェクトマッツリマッツリマッツリマッツリ……………
2013年6月中旬
息詰まる会議室の中、話し合いは難航していた。
テーマが決まらない。
皆の顔に疲労の色が浮かび、諦めかけていたその時だった。
誰かがこう呟いた
「食人芸(しょくにんげい)というのはどうだろうか」
衝撃の一言だった。
踊り、歌、お笑いあり、
模擬店の食とステージの芸術を 何か させていく狙いだ。
その発言を聞いた男の頭の中には、イメージが浮かび上がっていた。
男は、心の中で確信していた。
「イケる」
と。
結果は、男の予測通りだった。
皆、その意見に賛同し、今年の祭のテーマが決まった。
〝食人芸〟
男は、頭の中でこれからのことを思案していた。
「まだ始まったばかりだが、今年は例年以上の何かを感じる」と。
ここから、模擬店、演芸など、色々と決めて行くための話し合いが重ねられていく。
2013年6月中旬
おおまかなスケジュールができあがり、本格的に実行委員会が動き出す。
2013年6月下旬
予算とかも決まった。
2013年7月上旬
梅雨が明け、夏が到来した。
夏の日差しのように、男の魂も燃え上がっていた。
模擬店の内容も決まりはじめ、模擬店にかかわるスタッフへ向けての会議が開かれた。
食数・予算も決まり、順調に進んでいた。
2013年7月中旬
準備の順調さとは裏腹に、男の心中は、穏やかではなかった。
「胸騒ぎがする」
晴れ渡った夏の日に起こる積乱雲のように、男の心の中には不安が渦巻き始めていた。
「演芸の一枠が決まりません」
落雷だ………男の不安が的中してしまった。
「どうすれば?」
皆、意見を出し合うもなかなか決まらない。
男は、皆の顔を見渡す。
先程までの晴天が嘘のようだ。
土砂降りにあったがごとく、皆の生気が失せている。
その時、
奇跡が
起
こ
っ
た。
「気楽にみる事が出来るお笑い系はどうか」
皆顔を見合せる。
「それで行こう」
2013年7月下旬
順調な話し合いの中、次の議題はこれだ。
今年の福引はどうするか?
「テーマに合わせ、食に関するものでどうだろうか?」
反対する者など居なかった。
順調だ。
男は、順調に8月を迎えることができそうだと、安堵した。
2013年8月上旬
季節は、夏真っ盛り。
気温とともに、実行委員たちの何かもあがる。
順調に進んでいた、会議の中
衝撃の一言が舞い込んでくる。
「演芸がキャンセルになり、枠が空きました」
一気に、気分が沈みこむ。
しかし、男はこう思った。
「この程度のトラブル、毎年のことだ。まだ、焦る時じゃぁない」と。
新たに、演芸を頼める団体を探しつつ、現状でできる会場設備などを決め始めていく。
2013年8月中旬
演芸は、まだ決まらない。
夏の日差しに焦がされるように、気持も焦らされる。
以前、他所から紹介された銭太鼓・和太鼓の団体をあたってみよう。
2013年8月下旬
ここで、
ふたたび……
奇跡が
起
こ
っ
た。
銭太鼓・和太鼓の参加が可能となった。
これで、打ち合わせなどを進めることができる。
実行委員たちの気持ちに余裕が生まれた瞬間だった。
「そうだ、去年好評だった花火をやろう」
「模擬店などの打ち合わせもガンガン進めていきましょう」
「会計の見積もり進んでいます」
「ポスターも作り始めていきましょう」
「くじ引きの景品内容を豪華にしちゃおう」
活発に意見が交わされ、ますます話し合いが盛り上がる。
こうして、夏が終わっていく…………
2013年9月上旬
9月だ。しかし、残暑が厳しい。
秋の到来は、まだ先のようだ。
2013年9月中旬
「順調だ」
男は、これまでともに話を重ねてきた仲間たちをみつめ、こう思った。
「素晴らしいTeamだ」
2013年9月下旬
変更がいくつかあるも、想定内だ。
男の心の中にも、余裕が生まれていた。
2013年10月上旬
祭り当日まで、一ヶ月を切った。
これから、いよいよ準備の大詰めとなり、ますます忙しくなるだろう。
男は、秋の気配を感じつつ、そんなことを頭の中で考えていた。
2013年10月中旬
その日、男は危惧していた。
毎年、祭りが近付くと天気が不安定となる。
「今年はどうなるだろうか」
一抹の不安を抱え、準備を進めていく。
2013年10月24日
男の不安は、悪い意味で的中してしまった。
あれが、近づいてきた。
それも、猛烈な脅威となって…。
そう、台風だ。それも、大型。
「ヤバイ」
ポツリと男は呟いた。
2013年10月25日
予報では、大分関東からそれた。だが、時すでに遅し、演芸は全てキャンセルだ。
現状で何が出来る?
男は考えた。
楽しみにしている人がいる。ここまで、共に汗水流した仲間がいる。
台風如きに負けるわけにはいかない。
(買った食材はどうする?)
(なんとかして、はけさせなければ)
「そうだ。模擬店だけでもやろう」
ここで、
みたび………
奇跡が
起
こ
っ
た。
2013年10月26日
雨だ。台風の影響はあまりみられない。
多くの人が訪れ、にぎわっていた。
男は、俊敏に動き回る。
疾風だ。
「ワイは、皆の笑顔を運ぶ南風になるんや」
男の背中からは、そんな台詞が発せられているかのようだ。
「異常な~し」
会場の様子を眺め、男は、部屋の隅で静かに微笑んだ。
ジャンジャンジャンジャッジャンジャジャン
ジャーンジャーンかたーりつぐー人~もなく~
吹き~さけぶ~風の中へ~
紛~れちら~ばる星の名はわ~す~れられ~て~も~
ヘーッドラーイ テールラーイ
旅は~まだ~終わら~ない~
ヘーッドラーイ テールラーイ
そらを見上げる。ようやく太陽が顔をのぞかせている。
旅は~まだ~終わら~ない~
しかし、すでに男の顔は晴れ渡っていた。
なぜなら、男の瞳には、‘笑顔という名の太陽がすでに映っていたからだ’
2013 秋祭り 漢の闘い
~自然の太陽もいいけど、人の笑顔も太陽みたいで素敵だね~
みんなが楽しんでくれている。
みんなが力を合わせた結果だ。
色々苦労もあるけれど、終わってみると毎年思う。
「祭りは、良いものだ」
終
《追記》
今回は、先日行われた2013南埼玉病院秋祭りの舞台裏について、記してみました。
お祭りは、病院をあげての一大イベントとなるため、お祭り実行委員が中心となり、病院職員が一丸となってこのイベントへ向け準備をしてきました。
お祭り当日は、普段あまり接したり、会あったりする機会の少ない、事務、薬局、栄養課の方などに会うことができたでしょうか?
このブログでは、主にリハビテーション部を中心にいろいろなことを書き記していますが、今回は違う部署にも普段あまり接する機会はないけど、素晴らしく、情熱のある職員がいることを知ってもらいたくて、この記事を書いてみました。そのなかでも、毎年お祭り実行委員として、その支柱になっていると言って過言ではない、一人の男性スタッフにスポットを当てています。
いろんな人、事柄などが集まり、練り上げられて、今回のお祭りは成功しました。
もしかしたら、ヒトの幸福もそうだったりするのかなぁ~って思ったりして。
ちょっと、青臭いこと書いちゃいましたが、今回のお祭りで、皆がちょっとでも楽しんだり、嬉しくなったりしていると、嬉しいな~。
そんなわけで、お祭り実行委員のみなさんお疲れ様でした~。
そして、
ありがとう