読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

『とつげき!シーナワールド!!(1)飲んだビールが5万本!』シーナ的「雑誌の逆襲」宣言!

2013-12-23 22:27:23 | 雑誌のお噂

『とつげき!シーナワールド!!(1)飲んだビールが5万本!』
飲んだビールが5万本!編集部=編、椎名誠 旅する文学館=発行、本の雑誌社=発売


作家であり、写真家であり、「あやしい探検隊」隊長であり、さらに映画監督でもあるなど(もっとも映画監督のほうは、残念ながら休業状態でありますが•••)、さまざまな顔を持っている椎名誠さん。
かつては、書評とブックガイドを主体とした『本の雑誌』の編集長を長きにわたって務めるなど、編集者としての顔も持っていましたが、『本の雑誌』の編集から退いたあとは、雑誌編集の仕事からは遠ざかっておられました。
その椎名さんが、企画・プロデュースという形で久々に新たな雑誌を立ち上げました。その名も『とつげき!シーナワールド!!』。
雑誌といっても年2回刊、しかも発行形態は厳密には「雑誌」というより「書籍」なのですが、そこに流れるスピリットは紛れもなく「雑誌」そのものなのでありますね。
椎名さんが巻頭に記した「ソーカンのごあいさつ」が、なんかイイのですよ。ちょっと長くなりますが、ぜひ引用してみたいと思います。

「出版界の退潮が続いている。発行部数は減り、雑誌の廃休刊が続いている。活字離れというコトバはもう見飽きた。変わって電子ブックだと。おーい。電車の中でみんな同じ恰好をしたあのおかしな手鏡みたいなのを持ってどちらさまも並んで読書なんて、そんな気持ちワルイ世の中に住みたくない。
これらはみんな電子業界の陰謀だろう。新しもの好きですぐとびつくが熱しやすく醒めやすい国民なのだからそろそろ人間らしく生きようよ。それにはやっぱり雑誌でしょ。
わしらの隣にある一番親しみやすい分かりやすい文化、知識の源泉は雑誌だった。雑誌の灯を消してはなんねーど。(後略)」


そう。本誌『とつげき!シーナワールド!!』は、雑誌をこよなく愛し、雑誌を作るのも読むのも大好きという椎名さんによる「雑誌の逆襲」宣言のあらわれ、でもあるのです。

創刊号は『飲んだビールが5万本!』と題し、これまた椎名さんがこよなく愛する、ビールをはじめとする酒全般についての特集と記事で、一冊まるまる構成されています。
柱となるのは3本の特集。最初は、椎名さんオススメのうまい生ビールを出す、東京のお店3ヶ所を紹介した「わしらの好きな東京生ビール」。
2つめは、あやしくも惹きつけられるものがある場末の魅力に迫る「場末」。ここでは、沖縄在住のライター、嘉手川学さんによる那覇市の栄町ルポが興味をそそりましたね。市場を中心に、居酒屋やバー、スナックなどの飲食店や、古書店、ブルース専門中古CD店なども立ち並んでいるという栄町は、小さな路地や抜け道もたくさんあって迷路のようなんだそうな。これは路地裏好きにはこたえられんだろうなあ。いつの日か沖縄に行く機会があったら、海やら首里城やらよりもまずは栄町を訪ねなければな。
そして3つめの特集は「つまみ礼賛。」目玉はコンビニで売られている食材のみを使って、安くて「アホみたいに」簡単にできるというおつまみ26品の一挙公開。焼いたり炒めたり煮たりといった料理っぽい作り方をする(といっても制作時間は長くて8分半ほど)メニューから、キャベツ千切りと紅しょうがを混ぜただけ(制作時間13秒)の「それって料理なのか」とツッコミたくなるようなのまで、これはけっこう使えそうでありますよ。いろいろ順次試してみっかな。

椎名さんと親交の深い面々による、酒にまつわるエッセイの数々も読みどころです。和田誠さんは、『がんばれ!ベアーズ』や『リオ・ブラボー』など、映画の中の酒がらみの名場面や名セリフをイラストとともに紹介。あの「お楽しみはこれからだ」番外編のようなオモムキでありますね。
カヌーイストの野田知佑さんは、カナダとアラスカの荒野を流れるユーコン川で断酒できるかと思いきや、行く先々で酒と出会い続けて結局は酒浸りになった、という川旅の顛末記を綴っています。その野田さんとウイスキーの水割りを飲みながらNHKのトーク番組に出演し、酔っぱらってとんでもない話をしてしまったという爆笑失敗談を綴るのは、水中写真家の中村征夫さん。また、おなじみ沢野ひとし画伯は、中国・北京で味わったという、酒が進むうまい鍋料理の数々について語っています。
そして、御大椎名さんが自筆イラストとともに語るのは、世界のあちこちで飲んできたお酒の話。ニューギニアの口噛み酒やモンゴルの馬乳酒、フィリピンのヤシ酒、メキシコのアルコール度数90度(!)のテキーラなど、よくこれだけいろいろとスゴイのを飲む機会に恵まれたよなあ、と感嘆するばかりでした。

他にも、アラスカの最果てにあるたった百人が暮らす島で、人種や国籍は違えど旧知の間柄のように酒を酌み交わす人びとが集うという酒場の話や(これもなかなかいい記事でした)、バーとウイスキーの達人2人による対談、鉄道片道一人旅でどれだけのビールを飲めるかを試したという「突発的アホバカ企画」などなどの記事が、雑誌らしいゴチャゴチャ感で並んでいて楽しいものがありました。
それぞれの記事の分量もほどよい長さで、それこそお酒を飲みながらちょいちょいつまみ読みできる「読む肴」にもうってつけ、なのでありましたよ(実際わたくし、本誌を晩酌でビール飲みつつ読み進めてました)。
ただ、ナマイキにもあえて注文をつければ、創刊号の執筆陣は椎名さんの友人知人に絞られていることもあり、シーナファン以外にはある種の「敷居」を感じさせるのではないか、という部分があったのは否めないところでした。ファン以外の人たちにもアピールできるよう、次号からは幅広い分野からの執筆者を迎えていくようになればいいんだがなあ、ということを思ったりいたしました。

一冊一特集、ということで、次号はまた違うテーマでまるまる構成することになるようです。
次はどんなテーマを、どういう誌面で展開していくのか。シーナ的「雑誌の逆襲」を、これからも刮目して楽しみにしていきたいと思います。