読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

【読了本】『居酒屋の誕生』 居酒屋の歴史と江戸人の呑みっぷりを生き生きと伝える一冊

2014-10-19 23:01:33 | 美味しいお酒と食べもの、そして食文化本のお噂

『居酒屋の誕生 江戸の呑みだおれ文化』
飯野亮一著、筑摩書房(ちくま学芸文庫)、2014年


三代目三遊亭金馬師の十八番であった落語「居酒屋」。戦前にレコード化されて大ヒットし、ラジオなどでも盛んに演じられていたお馴染みの噺です。

三代目三遊亭金馬「居酒屋」(YouTubeより)

居酒屋に入ってきた職人風の男が、酔っぱらって店の小僧さんをからかいながら呑んでいるさまを描いた噺。わかりやすい筋立てと快活な語り口、そして絶妙な声色で演じられる人物の描写(とりわけ小僧さんの「ヘェ~~~~~イ」という声色は絶品!)で何回聴いても楽しめます。わたくしめもよく、家での晩酌のときなどに聴いたりいたします。
江戸時代から明治時代にかけての居酒屋の様子が伝わってくるかのようなこの噺ですが、酔っぱらいの男のセリフに「酒は燗 肴は木取り 酌は髱(たぼ)」というのがございます。程良くつけられた燗で、刺身を肴にしながら、美人のお酌で飲む酒が申し分ない、という•••まあ実にいい気な物言いなのでありますが(笑)。時代劇にも居酒屋はときどき登場してきますが、おおむね縄暖簾が下がっていて、気の利いた女性の給仕で徳利の燗酒を飲む、といった描かれかただったりいたします。
では、実際の江戸時代の居酒屋とはいかなるものだったのか。当時の日記や川柳、滑稽本、御触書などの数多くの文献史料を掘り起こしながら、江戸時代に誕生し発展していった居酒屋の歴史と実態を詳しく伝えてくれるのが、本書『居酒屋の誕生』であります。

居酒屋のトレードマークともいえるような縄暖簾ですが、本書によれば居酒屋は誕生からしばらくのあいだ、縄暖簾を下げることはしていなかったそうです。そのかわり店先に吊るされていたのが、売りものでもある魚や鳥で、それで人目を引いては客寄せにしていたそうな。しかし傷みやすい生の魚鳥類は臭気を放ち、かえって客寄せの妨げとなってしまうため、オールシーズン吊るせてホコリ除けにもなる縄暖簾が選ばれるようになったのだとか。また、燗酒に徳利が用いられるようになったのも明治時代以降の話で、それ以前は「チロリ」という銅製の容器を湯煎で暖めていました。江戸人は燗の温度に敏感で、居酒屋には燗の番専門の「お燗番」もいたとか。
そして、居酒屋で働いていた店員たち。その多くは男性であり、女性はあまりいなかったようです。酔って暴れるような手合いもしばしばいた上、料金の踏み倒しや飲み逃げ、さらにはゴロツキ連中からのゆすりや押し売りも少なくなく、それなりに大変な商売でもあったからです。
このように本書は、これまで知っているようであまりよくわかっていなかった江戸時代の居酒屋の姿を、豊富な文献史料をもとに生き生きと浮かび上がらせてくれます。

本書を読むと、誕生から間もない江戸時代にはすでに、さまざまに多様な形の居酒屋が出現したりもしていて、現代にも通じる居酒屋の祖型は、江戸時代の時点でほぼ完成していたんだなあ、ということがわかります。夜間はもちろんのこと早朝から営業していたようですし、「夜明かし」といわれる終夜営業の店もあったりと、利用客それぞれのライフスタイルに応じた営業形態の店が存在していたとか。また、大衆的な店から料理屋に近いような高級感のある店まで、ランク分けもいくつかあったそうです。
さらには、さまざまな料理を一品30文のワンプライスで提供した店や、店員が揃いの制服を着てサービスにあたった店もあったそうで、現在のチェーン居酒屋でも見られるようなことが、すでに江戸時代の居酒屋においてなされていたというのも、本書を読んで初めて知りました。

「江戸の呑みだおれ京の着だおれ、大阪はくいだおれ」といわれるくらいの「酔っ払い天国」だった当時の江戸。なぜそのような「呑みだおれ文化」が江戸において発展したのか、本書はその背景についても解説しています。
当時の江戸は、男性が女性の2倍近くいたという「男性都市」だったそうで、そうなると当然一人住まいの男も数多くおりました(参勤交代や出稼ぎで流入する人たちもかなりいたことでしょう)。それら単身の男たちにとって手軽に酒を飲め、なおかつ食事もできる居酒屋は重宝な存在であり、それが江戸において居酒屋文化の発展を促した、とか。
当時、江戸で最も飲まれていたのは、伊丹や池田、灘といった上方の名醸地から来ていた「下り酒」でした。それが江戸へと海上輸送される間に味に変化が生じ、まろやかな美味しさになるという付加価値がついたことが、江戸の呑みだおれ文化を形成する上で関係していた•••という話も面白いものでした。そのため上方では、一度江戸に運んだ酒を再び運び戻して「富士見酒」として楽しんでいたそうで、蜀山人こと大田南畝も、大坂にいた頃にそれを味わったのだとか。
本書は居酒屋文化の実相のみならず、それを発展させた背景もしっかり解き明かしていて、それにも大いに興味を惹かれました。

本書で何よりも嬉しかったのは、豊富な文献史料から引用された挿絵が、図版として数多く収められていたことでした。その数なんと116点。
江戸の名所とその歴史的背景を詳述した『江戸名所図会』や、江戸時代の百科事典ともいえる『守貞謾稿』などの著名な書物はもとより、黄表紙・滑稽本の挿絵もかなり引用されていて、それらには初めて目にするものもたくさんありました。江戸に生きる人びとの息吹を生き生きと伝えてくれる黄表紙・滑稽本は、挿絵にも当時の空気感がたっぷり詰まったりしていて、その一つ一つを見ていくだけでもけっこう楽しいものがありました。見ていくうちに、無性に居酒屋で呑みたくなってきて仕方なくなるくらいで(笑)。

本書を「読む肴」にしながら、江戸の息吹を感じながらの一献を楽しんでみるのもいいかもしれませんね。BGMはもちろん金馬師の「居酒屋」で。

【DVD鑑賞】『ガメラ2 レギオン襲来』 前作を超える面白さ!重厚なリアル志向と娯楽性を両立させた大傑作

2014-10-19 11:00:05 | 映画のお噂

『ガメラ2 レギオン襲来』(1996年 日本)
監督=金子修介
特技監督=樋口真嗣
脚本=伊藤和典
音楽=大谷幸
出演=永島敏行、水野美紀、石橋保、吹越満、藤谷文子、辻萬長、川津祐介


多くの人たちからの好評を得てヒットした映画は、その後に続編が製作されシリーズ化されることが少なくありませんが、1作目を上回るような面白く出来の良い続編には、そうそうお目にかかれないものであります。これまでわたくしが「1作目より面白い!」と感じた続編は、今のところ『エイリアン2』(1986年)と『マッドマックス2』(1981年)くらいでしょうか。
いわゆる「平成ガメラ三部作」の2作目である本作『ガメラ2 レギオン襲来』を、先月(9月)からデアゴスティーニ・ジャパンが刊行している『隔週刊 大映特撮映画DVDコレクション』最新号付属のDVDで久しぶりに観て、これもやはり、1作目より面白いと言える続編の一本なのではないか、と感じました。
もちろん、同じスタッフによる前作『ガメラ 大怪獣空中決戦』(1995年)も面白くて完成度が高いお気に入りの映画ですが、わたくしはこの『G2』のほうがより一層、本編ドラマと特撮の双方ともにパワーアップして充実しているように思います。

前作から1年後。世界各地に降り注いだ流星雨の一つが北海道の支笏湖付近に落下した。しかし、落下したはずの隕石は消失してしまっていた。その直後、光ファイバーケーブルやビール工場のガラス瓶が消失するという怪事件が続発。そして、札幌の地下鉄に異生物の集団が、ビルからは巨大な植物が出現する。
流星雨によって宇宙からやってきた両者は共生関係にあった。異生物はガラスに含まれるシリコンを摂食して分解し、生じた酸素で巨大植物(草体)を育て、その種子を打ち上げて拡散させようとしていたのだ。種子が打ち上がれば、それに伴う大爆発で札幌が壊滅しかねない状況となる。
札幌に危機が迫っていたとき、三陸沖から出現したガメラが飛来し、草体を焼き尽くす。しかし、地下から這い出てきた異生物の群体がガメラを覆い、ガメラは為す術もなく退却。その直後、異生物「レギオン」の巨大体が出現し、いずこかへと飛び去っていった。
続いて、今度は仙台市に「草体」が出現。それに呼応してガメラが再び現れ草体を駆除しようとするが、その前に巨大レギオンが立ちはだかり、圧倒的なパワーでガメラを倒す。満身創痍になりながらも草体からの種子の発射を食い止めたガメラだったが、草体は大爆発して仙台は壊滅。ガメラも炭化し、死んだように動きを止めてしまった。
ガメラを倒した巨大レギオンは、新たな種子の発射場として東京を狙って進撃する。それを食い止めるべく防衛出動し、総攻撃を加える自衛隊。果たして自衛隊は、その進撃を阻止できるのか。そして、ガメラは人びとの願いに応えて蘇ることができるのか•••。

もし怪獣が現代の日本に現れたら?という状況を、徹底したリアル志向でシミュレートした前作『~大怪獣空中決戦』。それに続く本作ではそのリアル志向はさらに徹底され、特撮怪獣映画の枠もはるかに超えるような、重厚にして娯楽性にも富んでいる大傑作に仕上がっています。
高度通信情報網にダメージを与え、独自の生態系を作り上げようとする宇宙からの脅威を敵として設定、それをしっかりとした科学考証のもと描き出した本作は、紛れもなく本格SF映画でもあります。現に、基本的には小説作品を対象とした日本SF大賞を映画としては初めて受賞しています(第17回にて受賞。詳しくはこちらの受賞作品一覧をどうぞ。→ http://homepage1.nifty.com/naokiaward/kenkyu/furok_NIHONSFaward.htm )。
同時に、宇宙からの脅威を前にして防衛出動し、ガメラと共闘しながら戦う自衛隊の攻防ぶりを、リアルなシミュレーションのように描いた戦争映画でもあります。東京へ進撃しようとするレギオンを阻止しようとする足利市での最終決戦の場面では、画面下に時間と状況説明の字幕が出されたりして、あたかもドキュメントのような緊張感が醸し出されます。
これらの要素が1分の隙もなく組み合わさった本編ドラマ部分の充実ぶりは素晴らしく、なおかつ娯楽映画としても申し分のない高揚感をもたらしてくれます。

特撮部分のパワーアップぶりも質量ともにハンパではなく、前作以上にリアルな作り込みにより生み出された、目を見張る驚きと迫力のある映像がてんこ盛りです。
草体の大爆発により仙台市が壊滅したり、巨大レギオンが圧倒的なパワーを見せつける都市破壊シーンなどといったスペクタクルな見せ場は迫力満点です。また、飛来したガメラが高速着地し、地面の上を横滑りしながら火球を3連発する、というシビれるシーンもあったりして、樋口真嗣監督率いる特撮スタッフのノリにのった勢いがビンビン伝わってきます。
デジタル技術の使い方も前作に比べるとはるかに洗練されたものとなっているのですが、崩れるビルのミニチュアの窓に、逃げ惑う人たちを合成するという、円谷英二監督が腕を振るった往年の東宝特撮を再現したかのようなカットもあるのが嬉しいところでした。本作はまさしく、過去と現在の特撮を繋ぐ作品でもあるんだなあ、と感じました。

キャストのほうもいい役者さんが揃っています。
ひたすら真摯で頼もしい自衛官を演じた永島敏行さんや、物語の科学的背景を説明する役回りでもあるエンジニア役の吹越満さんもまことにいい感じなのですが、なんといっても井上ひさしさんの「こまつ座」などの舞台でも活躍されている辻萬長(かずなが)さんが演じる、戦闘指揮所の師団長の存在感は抜群でした。•••でもやっぱり一番のお気に入りは、利発にして花のあるヒロイン役の水野美紀さんなんですけども♡
ゲスト出演陣にも注目です。群体型レギオンの死体を解剖してみせる北大獣医学部の教授役は、本職の解剖学者である養老孟司さん。自衛隊の防衛出動を記者会見で発表する官房長官役は、当時大映の親会社であった徳間書店の総帥であった徳間康快さん。また、前作に続いて日本テレビが製作に加わっていることもあって、当時『ズームイン!!朝!』のキャスターだった福留功男さんや、日テレとその系列局のアナウンサーが出ていたりもしています。

この先もまた何回でも観直してみたい!とあらためて思わせてくれた大傑作です。特撮怪獣映画への偏見から観ていないというのは実にもったいないことだと思います。未見の方は、前作『~大怪獣空中決戦』と合わせてぜひ一度ご覧くださいませ。前作のほうも、『隔週刊 大映特撮映画DVDコレクション』として出ておりますので。こちらもすごく面白い映画であります。