読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

【わしだって絵本を読む】『ウルトラマンをつくったひとたち』当時のスタッフが描く創意に満ちた特撮の現場

2015-02-08 20:26:14 | 映画のお噂

『ウルトラマンをつくったひとたち』
いいづかさだお(飯塚定雄)・たばたけい(田端恵)・まくたけいた(幕田けいた)作、偕成社、2015年


宇宙から地球にやって来た巨大なヒーロー、ウルトラマンが、さまざまな怪獣たちの脅威から地球人を守るために闘いを繰り広げる•••という、それまでにはなかった斬新な設定で大ヒットした特撮テレビ番組『ウルトラマン』(1966年~1967年)。その後、現在に至るまで続くシリーズの基本フォーマットを作り上げるとともに、テレビ界に特撮ヒーローものというジャンルを確立させた先駆的な作品でもありました。
当時の子どもたちを熱狂させた『ウルトラマン』の特撮シーンは、どのようにして生み出されたのか。それを描いたのが、この『ウルトラマンをつくったひとたち』という絵本です。

作者の一人であり、本書の語り手でもあるのが「デンさん」こと、いいづかさだお(飯塚定雄)さんです。
円谷英二特技監督の門下で『ゴジラ』(1954年)をはじめとする東宝の特撮映画や、円谷プロダクションのテレビ作品に参加。円谷監督亡きあとは、光学合成効果を手がける会社「デン・フィルム・エフェクト」を設立し、数多くの映画、テレビに関わってきた飯塚さんは、まさに映画とテレビにまたがる日本特撮界の「生き証人」といえる重鎮なのであります。
飯塚さんが手がけていた「合成作画」とは、スタジオで撮影された映像に視覚的な効果を与えるための光線などを作画し、フィルムに合成するという役目。ウルトラマンの必殺技「スペシウム光線」や、ゴジラの好敵手であった怪獣・キングギドラが三つの首から吐き出していた「引力光線」も、飯塚さんの手になる仕事です。

主要なスタッフが集まってのストーリーづくりに始まり、怪獣やメカの造形、ワイヤーなどで怪獣やメカに動きをつける操演技術、大規模なミニチュアセットを組んでのクライマックスシーンの撮影、そしてスペシウム光線の合成•••といった、『ウルトラマン』の制作過程が大判のサイズの中に、思いのほか詳細に描かれていて、現役の子どもではない大きなコドモ(わたくしのことね)も興味深く読むことができました。
海底を模したセットとキャメラの前に水槽を置き、水の揺らめきを作り出す板に照明を当てて撮影することで、水中であるかのような効果を出す。普段は撮影用として使われているクレーンの先に取り付けた巨大な手を操演しながら、役者が怪獣の手に掴まれてしまう場面を撮る•••。そういった撮影風景を見ると、特撮というのはちょっとした創意と工夫の積み重ねで作り上げられるものなんだなあ、ということが、あらためて理解できました。

そして、飯塚さんの仕事である作画合成。腕を十字に組むポーズをとったウルトラマンの映像と、飯塚さんたち作画技師が手描きし、線画台で撮影した光線の映像を、「オプチカルプリンター」というゴツい機械(当時は世界で2台しかなかった大変に高価な機械だったと、別の本で知りました)で一つの映像に合成する過程も、わかりやすく説明されています。
その一方で、怪獣を撮影したフィルムを映し出したスクリーンの前で演技する役者を撮影することで、怪獣と人物を同一の画面に収めるといった手法のことも紹介されています。当時における最新の技術と、映画の草創期から存在していたプリミティブな手法が共存していたというのも、なんだか面白いように思われました。
宇宙忍者バルタン星人、古代怪獣ゴモラ、三面怪人ダダ、などなど、シリーズを盛り上げてくれたおなじみの怪獣、宇宙人キャラがふんだんに散りばめられているのも、ファン的には嬉しいところでした。

本書を読むと、特撮づくりの現場が実に多くの人びとによって支えられていた、ということがよくわかります。
怪獣の着ぐるみを作っていた造形スタッフ。メカや建物のミニチュアを制作していた特殊美術のスタッフ。ワイヤーで怪獣やメカを操作していた操演スタッフ。ビルを壊したり、爆発効果を生み出していた特殊効果スタッフ•••。
監督や脚本家、プロデューサーといった主要スタッフのように名前がクレジットされることもなかった多くのスタッフ。本書の中には、それらの人びとの存在も細かく描き込まれています。特撮の現場を支えてくれていた “名もなき仲間たち” への敬意の念が感じられ、なんだか感銘を覚えました。

『ウルトラマン』の誕生から、来年で50年。特撮をめぐる状況も大きく変わりました。CG技術の進歩と普及により、多くの人手と手間暇をかけずとも、驚きの映像効果を生み出すことができるようになっています。
しかし、そんなCG全盛の時代にあっても、多くの人びとによる創意と工夫、そして職人技とチームワークによって作られていく特撮には、まだまだ魅力と可能性があるように思うのです。
この絵本が、特撮や怪獣をこよなく愛する大きなコドモ(含むわたくし)はもちろん、現役の子どもたちにも広く読まれていって、その中から特撮への道に進んでくれる人がどんどん出てきてくれることを、願ってやまないのであります。