読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

別府・オトナの遠足2015 (第3回)別府ぶらぶら好き、そして活気ある海鮮酒場で憩う

2015-02-15 20:53:17 | 旅のお噂
(前回までのあらすじ)
1月10日、久しぶりとなる2泊3日のスケジュールを組んで別府市への旅に出かけた「わたくし」。初日夜の飲み歩きで立ち寄った大衆居酒屋で、愛媛県からやって来たという温泉好きの夫妻と出会って意気投合。そのあとバーで飲みながら耳を傾けた若きバーテンダーの話に、幅広い世代を惹きつける別府の魅力を再認識したのであった。
2日目の午前、「わたくし」は市の北部山側にある明礬温泉を訪れ、高台にある展望露天風呂で極楽気分を味わう。再び市の中心部に戻り、焼肉と生ビールを満喫した「わたくし」は、近所の街ネコと戯れるが、あまりに構い過ぎたため遠ざけられてしまう。「わたくし」は共同浴場の湯に浸かり、街ネコに振られた失意を癒すのであった•••。



2日目の午後。わたくしは別府市街地の街歩きを楽しむことにいたしました。
日本でも有数の温泉観光都市でありながら、別府にはちょっと懐かしさを覚えるような街並みや風景がそこかしこに残っておりまして、それらを目にしながらの街歩きも、別府での大きな楽しみの一つなのです。

街歩きに入る前に、別府駅前から伸びている、なにやら年季を感じさせるアーケード街の一つ「ソルパセオ銀座」にある「ジェノバ」というお店ご自慢のジェラートを頂くことにしました。

このお店のジェラートは昨年訪ねたときにも味わい、ジャージー牛乳を使ったコクのある甘さがすっかりお気に入りとなっていたのであります。今回食した「ストロベリーキュービック」も、凍ったイチゴがバニラアイスの中にたっぷり入っていて、甘酸っぱくて美味しかったですねえ。ご主人が上にちょいと乗っけてくださったキャラメル味のアイスもまた美味で、これはいい散歩支度となりました。
それにしても、温泉でカラダを温めたかと思えば冷たいジェラートで冷やしたりと、なんともチグハグなことではございますが•••。

さて、いよいよ街歩きです。そのままアーケード街を進んでいくと、空き店舗の前の路上に野菜などを並べて商っているお兄さんがいて、通りがかった地元の人たちが足を止めて、並べられた商品を物色したり、お兄さんに話しかけたりしておりました。こういう、その街の皆さんの日常の暮らしぶりが垣間見られるような光景、いいですねえ。

別府に暮らす皆さんの日常の暮らしぶりが垣間見えるような場所、もう一つございました。別府駅のガード下に伸びている「べっぷ駅市場」が、それであります。

野菜果物から鮮魚、精肉、お惣菜、乾物、お薬、日用品などを商う小さなお店が通路の両側に並んでいる光景は、まさしくちょっと前までよく見かけていた、庶民的雰囲気の「市場」そのものでありました。わたくしが訪ねたときにも、お年寄りや母子連れが買い物に来ていたりして、今でもしっかり「市民の台所」としての役割を果たしているように見えましたね。
そんな庶民的な市場の中に、ちょいと異色の雰囲気を醸し出しているお店がございました。

うどん・そば屋さんではあるのですが、お店の中で流している音楽は思いっきり正統派のジャズ。しかも、お店の前にはオーディオ機器がズラッと並べられていて、それら一つ一つに値札が付けられておりました。ということはこれらも売り物ということなのでありましょう。うーむ。一見すると何屋さんなのか、よくわからない感じもして、ちょっとフシギなお店でありました•••。

賑わっている中心街からちょっと離れた静かな路地を歩くと、かつては花街だった頃の名残が感じられる街並みと建物があったりして、なんとも味わい深かったりいたしますね。中には、置屋として使われていたという古い建物を活用した喫茶店もあったりいたします。

そんな往時を偲ばせる街の一角で、「飲み湯」と書かれた看板を見つけました。

観光客の行き交う通りや繁華街の中に設けられた「足湯」や「手湯」は何ヶ所かで見かけていたのですが、「飲み湯」の場もあったとは。さすがは泉都別府でありますなあ。
とはいえ、地面近くに開いているパイプから木桶にお湯が注がれているだけという、無造作といえば無造作なしつらえ。なんだか、飲んでみようという気がおこりにくい感じもいたしましたが、まあ「飲み湯」というからには飲んでも別に支障はなかろうと、少し手ですくって飲んでみました。妙に金気の強い味のする生温い湯でありまして•••うーむ、これは正直、やはり飲まなくてもよかったかなあ、と思ってしまったのでございました。

街歩きを終え、いったん宿泊先のホテルに戻って一休みしていると、やがて街に灯りがともる時間帯となりました。さあ、今度は別府飲み歩きの第2ラウンドでございます。
飲みに行く前に、駅前通りにある大正時代に建てられたレトロな洋館建築の共同浴場「駅前高等温泉」で、この日3回目となる温泉に浸かりました。そのあと、前日にも立ち寄った薬屋さんで肝臓保護のドリンク剤を買って飲みました。薬屋さんのご主人も、もうすっかりわたくしのカオを覚えてくださったようでございます。
ここはやはり、地元の方々にも親しまれていて、なおかつ一人でもゆっくりくつろげるような大衆酒場に入りたい、とあちこち繁華街を歩き回りました。しばらく決めかねておりましたが、飲み屋街のど真ん中あたりに立っている「二十八萬石 総本店」に入ることにいたしました。幾度か前を通りかかってはいて、年季を感じさせる外観の建物にも惹かれるものはあったのですが、看板に書かれている「海鮮ファミレス」なるコトバに引っかかるものがあり、ちょっと入るのを躊躇していたお店でした。
中に入るとカウンターは人でいっぱい。あちゃー、これはもう座れないかなあ、と思われたのですが、ありがたいことに一人分の空席がありましたので、そこに座ることができました。奥の座敷のほうも、家族連れやグループ客で満杯の様子で、店内はなかなか活気がありました。
メニューを拝見すると、海鮮料理をメインにけっこうな品数がありました。しばし迷った末、エビフライとアジの切り身を使った「りゅうきゅう」を注文いたしました。

揚げたてアツアツなエビフライは、上にかかった自家製のタルタルソースとともに頂くと実に美味しくて生ビールが進み、ついついお代わりしてしまいました。そして、魚の切り身をゴマが入ったタレに漬け込んだ大分の郷土料理「りゅうきゅう」は、スッキリした飲み口の麦焼酎がスイスイと進む嬉しい一品でした。
しかし、何より嬉しく思われたのは、居心地のいい店内の雰囲気でありました。地元の常連さんと、わたくしのような他所から来た人間とで活気がありながらも、それぞれが節度と自分の領分を保ちながら酒食を楽しむ•••。
そんな空間の中で、気持ちのいい酔いを覚えつつ、わたくしは居心地のいい酒場に巡り合うことができたヨロコビとともに、3杯目となる麦焼酎お湯割りのコップを傾けたのでありました•••。

「二十八萬石 総本店」を出て繁華街を散策していると、ネオン輝く夜の別府タワーが目に入りました。

そういえば、昼間の別府タワーには上がったことあるけど、まだ夜に上がったことはなかったなあ•••と思い、別府タワーに上がって夜景を眺めることにいたしました。
展望スペースに上がると、昼間ほどではないとはいえそこそこの人数の見物客がおられました。わたくし、展望台をぐるりと回りながら、眼下に広がる別府の夜景を楽しみました。



ことさらギラギラと派手派手しいわけではないけれども、まるで星が瞬いているかのように、民家やホテルの灯りがともっている別府の夜景は、ほろ酔い気分のわたくしの目を喜ばせてくれたのでありました。

別府タワーから降りたわたくし、もうちょっと飲みたい気がして再び繁華街を歩き回った末、前夜に引き続きバー「ミルクホール」に立ち寄りました。もうこのお店は、別府におけるわたくしの「還る場所」となってしまったようであります。
「今夜はどこに行かれたんですか?」とお尋ねになったマスターさんに「二十八萬石」に寄ったことを話すと、「あそこは鶏モモから揚げが美味しいんですけど、それは食べられたんですか?」と言われました。•••しまった、それは食べませんでしたね。お隣で飲み食いされていたご夫妻が注文されていたのを見て、なんだか旨そうだなあとは思ったのですが。それは、今度の機会に頂くといたしましょう。
カクテルやウイスキー水割りを飲んでいたわたくしの隣に座っておられた、どこかのスナックのママさんと思しきお姐さま、「ワタシきょう成人式迎えたんよ!•••3回目の!」などとおっしゃってたりして、なかなか楽しいお方でございました。
そう、この日、1月11日には、ここ別府でも成人式があったようで、カウンターには1回目の成人式をお迎えになったばかりという若いお姉さんが、ピアノを弾きに来ていた方にリクエストをなさったりしておりました。このお店は月に数回、生ピアノの演奏もあるんだそうで、この夜がまさにその日でありました。「ちょうどいい時に来られましたねー」と、バーテンダーさんがおっしゃいました。
耳に心地良いピアノの音色とともに、2日目の別府の夜も楽しく更けていったのでありました•••。



(最終回につづく)