『いいね!』
筒井ともみ文、ヨシタケシンスケ絵、あすなろ書房、2018年
一見イヤなことやダメなこと、そして普段はあまり気にも留めないようなモノゴトも、ちょっと見方を変え、価値観をひっくり返すことでなんだか「いいね」と思えてくる・・・そんな、楽しくて前向きな生き方のヒントを、子どもたちのつぶやきの形で語っていく20編を収めた、児童向けの連作短編集です。
たとえば、学校の帰りに転んでしまった男の子が語り手の「『転ぶ』って、いいね」というエピソード。アスファルトで掌やひざ小僧をヒリヒリさせながらも、男の子はいつもよりずっと大きく見える電信柱や歩いている人、さらに道ばたの草や小さな虫といった、それまで見たことのない面白い世界があることに気づきます。
転んでしまったことで痛い思いもしたけれど、そのことで自分が今まで気づかなかった、新しい世界や視野が開けていく・・・子どもはもちろん、われわれ「オトナ」にとっても、まことに示唆深いお話のように感じられました。
また、ベッドに入ってもなかなか眠れない女の子が主人公の「『眠れない』って、いいね」。ヒツジを数えてもやっぱり眠れない女の子は、美味しそうなお菓子やリップクリームなどの好きなものや、ママも知らないお気に入りの「アレ」などを想像しては、ヒミツめいたドキドキを味わうのです。
そんな女の子の気持ちを知ってか知らずか、ママは「不眠症は大人がなるもので子どもはならないの」などということを言ったりします。わたしたち「オトナ」はそうやって、自分は相手のことやモノゴトをわかっていると思いこんでは、なんでもかんでも決めつけてしまうような物言いをしてはいないだろうか・・・そういう、自省の念が湧いてきたりもしたのであります。
ほかにも、読むと大笑いするようなお話もあれば、ちょっとジンとくるお話もあったり、はたまた日常のささやかな楽しみにほっこりさせられるお話があったりと、バラエティに富んだエピソードが楽しめます。
一つ一つのエピソードは独立していながらもゆるやかに繋がっているのですが、その繋ぎ役となっているのが三毛ネコというのが、ネコ好きとしては嬉しい趣向でありました。
作者の筒井ともみさんは、日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した『阿修羅のごとく』(向田邦子原作、森田芳光監督、2003年)をはじめとする映画やテレビドラマ、アニメなど幅広い作品を手がけている脚本家(あの『ヤッターマン』を含む “タイムボカンシリーズ” にも関わっておられます)。児童書を手がけるのはこれが初めてのようですが、短いエピソードの中で、それぞれの子どもたちのキャラをしっかりと浮かび上がらせる語り口はまことにお見事です。
そしてイラストは、いま快進撃中の人気絵本作家・ヨシタケシンスケさん。本作でのイラストの扱いは控えめなのですが、文章から浮かび上がる子どもたちのキャラを、おなじみの愛嬌たっぷりのタッチで具現化していて、気持ちをほっこりさせてくれます。
イヤなことがいろいろとあったり、なんの面白みもないような平凡な毎日。それを、愉快で楽しいものに変えてくれる、愛おしい一冊であります。
【関連オススメ本】
『それしか ないわけ ないでしょう』
ヨシタケシンスケ作、白泉社(MOEのえほん)、2018年
『いいね!』でイラストを手がけたヨシタケシンスケさんの単著である絵本。未来の世界は大変なことになる、という話にショックを受ける女の子に、おばあちゃんは「だーいじょうぶよ!みらいがどうなるかなんて、だれにもわかんないんだから!」と語って励まします。すっかり元気を取り戻した女の子は、いろいろな楽しい未来を夢想することに・・・。
一つの考え方や価値観に縛られることなく、別の角度から物事を見ることで、新しく楽しい世界が見えてくる・・・というテーマを、おおらかなユーモアと柔軟な発想で描いていく本作の内容は、『いいね!』とも大いに通じるものがあります。ぜひとも一緒に楽しんでいただきたい絵本であります。拙ブログのレビューはこちらです。→ 【わしだって絵本を読む】悲観論と二元論を吹っ飛ばして、未来を楽しく考えさせてくれる快作『それしか ないわけ ないでしょう』