NHKスペシャル『足元の小宇宙 ~生命を見つめる 植物写真家~』
初回放送=7月6日(土)午後9時00分~9時49分、NHK総合
一見地味に見える植物たちが見せる、意外な動きや生命の輝きを撮り続けている植物写真家、埴沙萠(はにしゃぼう)さん、82歳。
60年前にサボテンの研究に携わったことから植物に魅せられ、40年前に植物写真家として独立。以来撮り続けた植物写真は50万枚にのぼります。10年前からはホームページを立ち上げ、自らが撮った写真を短い詩文とともに公開しています。
現在、埴さんが主なフィールドにしているのは、群馬県みなかみ市にある自宅周辺の里山。そこを、2台のカメラが入った10㎏の荷物を担いで歩き回ります。持病の座骨神経痛で無理がきかない日でも、カメラは欠かさず手にします。そして、足元に目をこらし、これはという植物を見つけては、しゃがみこみ、さらには這いつくばりながらカメラを向けていきます。
春。埴さんがカメラを向けるのは、カランソウ。丈も低く、直径5㎜ほどの花もあまり目立たない感じ。ごくごく地味な、あまり人からも顧みられないような植物です。
そんなカランソウですが、雄しべから花粉を飛ばすとき、意外なまでに派手な動きを見せます。遠くまで花粉を飛ばそうとするかのように、ポン、と勢いよく雄しべが弾けるのです。
その動きをピッチング・マシンに喩える埴さん。「こんな飛ばし方、誰に習ったのか•••よく考えたもんだなあ」と感嘆するのでした。
春になるとあちこちに生えてくるツクシ。その頭からは、緑色をした小粒が湧き出すようにあふれ出てきます。ツクシの胞子です。
それを「かわいい坊や」と呼ぶ埴さん、胞子を持ち帰り顕微鏡にセットします。それに微かに息を吹きかけると•••緑色の小粒から放射状に伸びた白い糸のようなものが、閉じたり開いたりするのです。胞子から伸びる白い糸のような部分は湿り気を帯びると丸まり、乾燥すると開くという性質があるのです。
息を吹きかけるたび、丸まったり開いたりを繰り返す胞子の動きは、まるで踊っているかのようなユーモラスなものでした。その動きに目を細めながら「面白くてどこでやめたらいいかわからない」という埴さんでありました。
夏。この時期には、埴さんが「植物のしっこ(おしっこ)」と呼ぶ現象が見られるようになります。余分な水分を葉の表面から排出するという、植物の生理現象。それにより浮き出た水玉は、日の光を反射して美しい表情を見せます。
中でもワレモコウは、葉の周囲に連なるギザギザの頭から水玉が浮き出て、まるでネックレスのように見えるのです。埴さんは、水玉が浮き出てくるところをカメラに収めたいと、30秒に1回シャッターが切れるようにカメラをセットして、その瞬間を撮ろうと腐心しますが、なかなかうまくはいきません。ようやく撮れた写真も、埴さんには満足のいかないものでした。そして、また次の夏に再挑戦することに。
「ワレモコウの水玉の美しさは文章では表せない。だからこそ写真で撮りたい」埴さんはそう語ります。
秋。埴さんが最も楽しみな姿を見せてくれる植物が生えてくる季節です。それは、きのこ。
きのこに風除けのカバーをかぶせ、背後には照明をセットします。そしてカメラを覗いてみると•••きのこの傘から、細かな粒子状のものがゆらゆらと立ち上っています。きのこの胞子です。その光景はとても幻想的なものでした。埴さんはそれを「胞子の舞い」と表現します。
さらに、食用として店で売られているシイタケやシメジを同じような方法で観察すると、それらも思いがけないほどたくさんの胞子を立ち上らせるのです。
まるで水が流れるかのような動きを見せる、シイタケやシメジの「胞子の舞い」。売られていたきのこであることを忘れるくらい、その姿は生命感にあふれていました•••。
足元で目立たないように生えている植物たちが見せる、意外なまでに生命感あふれた姿の数々に驚きを覚えました。中でも、ツクシの胞子が見せるユーモラスなダンスや、きのこの胞子の舞いには目を奪われました。
ですが、何よりも魅力的だったのは、それらをカメラに収める埴さんのキャラクターでありました。
植物たちに目をこらし、時には這いつくばって夢中でカメラを向け、その動きに目を細める埴さんの姿は、まるで少年がそのまま大きくなったかのようにチャーミングで、かつ好奇心旺盛なものでした。
「楽しいことばかりだよ、世の中は。よく見るといろんなものが見えてきて」
という埴さんのことばも、とてもいいものでした。身近にある楽しいものや面白いことに目を向ける好奇心が、いかに人をいきいきとさせるか、ということを、埴さんから教わったように思います。
そんな埴さんを支え続けている、妻の雅子さん(野菜人形作家でもあります)が語ったことばも印象的でした。
「好きなことがあるってことは、いいことだなあ、と」
そう。これもまた、人生を楽しく豊かなものにする要諦、なのではありますまいか。
埴さんの写真を収めたいくつかの本、ちょっと見たくなってきました。•••というか、きのこの「胞子の舞い」を捉えた写真絵本、すでに注文しているのですが•••。見るのが楽しみです。
初回放送=7月6日(土)午後9時00分~9時49分、NHK総合
一見地味に見える植物たちが見せる、意外な動きや生命の輝きを撮り続けている植物写真家、埴沙萠(はにしゃぼう)さん、82歳。
60年前にサボテンの研究に携わったことから植物に魅せられ、40年前に植物写真家として独立。以来撮り続けた植物写真は50万枚にのぼります。10年前からはホームページを立ち上げ、自らが撮った写真を短い詩文とともに公開しています。
現在、埴さんが主なフィールドにしているのは、群馬県みなかみ市にある自宅周辺の里山。そこを、2台のカメラが入った10㎏の荷物を担いで歩き回ります。持病の座骨神経痛で無理がきかない日でも、カメラは欠かさず手にします。そして、足元に目をこらし、これはという植物を見つけては、しゃがみこみ、さらには這いつくばりながらカメラを向けていきます。
春。埴さんがカメラを向けるのは、カランソウ。丈も低く、直径5㎜ほどの花もあまり目立たない感じ。ごくごく地味な、あまり人からも顧みられないような植物です。
そんなカランソウですが、雄しべから花粉を飛ばすとき、意外なまでに派手な動きを見せます。遠くまで花粉を飛ばそうとするかのように、ポン、と勢いよく雄しべが弾けるのです。
その動きをピッチング・マシンに喩える埴さん。「こんな飛ばし方、誰に習ったのか•••よく考えたもんだなあ」と感嘆するのでした。
春になるとあちこちに生えてくるツクシ。その頭からは、緑色をした小粒が湧き出すようにあふれ出てきます。ツクシの胞子です。
それを「かわいい坊や」と呼ぶ埴さん、胞子を持ち帰り顕微鏡にセットします。それに微かに息を吹きかけると•••緑色の小粒から放射状に伸びた白い糸のようなものが、閉じたり開いたりするのです。胞子から伸びる白い糸のような部分は湿り気を帯びると丸まり、乾燥すると開くという性質があるのです。
息を吹きかけるたび、丸まったり開いたりを繰り返す胞子の動きは、まるで踊っているかのようなユーモラスなものでした。その動きに目を細めながら「面白くてどこでやめたらいいかわからない」という埴さんでありました。
夏。この時期には、埴さんが「植物のしっこ(おしっこ)」と呼ぶ現象が見られるようになります。余分な水分を葉の表面から排出するという、植物の生理現象。それにより浮き出た水玉は、日の光を反射して美しい表情を見せます。
中でもワレモコウは、葉の周囲に連なるギザギザの頭から水玉が浮き出て、まるでネックレスのように見えるのです。埴さんは、水玉が浮き出てくるところをカメラに収めたいと、30秒に1回シャッターが切れるようにカメラをセットして、その瞬間を撮ろうと腐心しますが、なかなかうまくはいきません。ようやく撮れた写真も、埴さんには満足のいかないものでした。そして、また次の夏に再挑戦することに。
「ワレモコウの水玉の美しさは文章では表せない。だからこそ写真で撮りたい」埴さんはそう語ります。
秋。埴さんが最も楽しみな姿を見せてくれる植物が生えてくる季節です。それは、きのこ。
きのこに風除けのカバーをかぶせ、背後には照明をセットします。そしてカメラを覗いてみると•••きのこの傘から、細かな粒子状のものがゆらゆらと立ち上っています。きのこの胞子です。その光景はとても幻想的なものでした。埴さんはそれを「胞子の舞い」と表現します。
さらに、食用として店で売られているシイタケやシメジを同じような方法で観察すると、それらも思いがけないほどたくさんの胞子を立ち上らせるのです。
まるで水が流れるかのような動きを見せる、シイタケやシメジの「胞子の舞い」。売られていたきのこであることを忘れるくらい、その姿は生命感にあふれていました•••。
足元で目立たないように生えている植物たちが見せる、意外なまでに生命感あふれた姿の数々に驚きを覚えました。中でも、ツクシの胞子が見せるユーモラスなダンスや、きのこの胞子の舞いには目を奪われました。
ですが、何よりも魅力的だったのは、それらをカメラに収める埴さんのキャラクターでありました。
植物たちに目をこらし、時には這いつくばって夢中でカメラを向け、その動きに目を細める埴さんの姿は、まるで少年がそのまま大きくなったかのようにチャーミングで、かつ好奇心旺盛なものでした。
「楽しいことばかりだよ、世の中は。よく見るといろんなものが見えてきて」
という埴さんのことばも、とてもいいものでした。身近にある楽しいものや面白いことに目を向ける好奇心が、いかに人をいきいきとさせるか、ということを、埴さんから教わったように思います。
そんな埴さんを支え続けている、妻の雅子さん(野菜人形作家でもあります)が語ったことばも印象的でした。
「好きなことがあるってことは、いいことだなあ、と」
そう。これもまた、人生を楽しく豊かなものにする要諦、なのではありますまいか。
埴さんの写真を収めたいくつかの本、ちょっと見たくなってきました。•••というか、きのこの「胞子の舞い」を捉えた写真絵本、すでに注文しているのですが•••。見るのが楽しみです。
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