読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

【わしだって絵本を読む】本の持つ魅力と存在意義を伝えてくれる新旧2冊の絵本『あるかしら書店』と『ほんはまっています のぞんでいます』

2017-09-04 07:13:00 | 「本」についての本

『あるかしら書店』
ヨシタケシンスケ著、ポプラ社、2017年


独特のユーモア感覚で、子どもはもちろん多くの大人からも絶大な人気を博し、出す絵本がことごとく大ヒットしている、いまもっともイキのいい絵本作家、ヨシタケシンスケさん。「MOE絵本屋さん大賞」第1位を3回も受賞するなど、作品自体も高い評価を受けております。
わたしがヨシタケさんの作品に接したのは、わりとつい最近のこと。ふとしたことで目にした『もう ぬげない』(ブロンズ新社、2015年)の、服が脱げなくて足をバタつかせている男の子の絵を一目見て、
「うははは、これは面白そうだのお」
と即買い。中身を読むとこれが期待どおりの面白さで大いに楽しめました。以来、ヨシタケさんはすっかり、わたしの気になる絵本作家の一人となっておりました。
そんなヨシタケさんが、本とその周辺の世界をテーマにした最新作『あるかしら書店』をお出しになったとくれば、これはもう買って読まないという選択肢などあり得ないではございませんか。

いわゆる児童書ではなく、一般向けの単行本として刊行された『あるかしら書店』は、「本についての本」の専門店である「あるかしら書店」店主のおじさんを狂言回しにしながら、本にまつわる奇想天外な「妄想」の数々をユーモアいっぱいに描き出していて、もう期待以上の楽しさでした。あまりの楽しさに、読了後もう一度はじめっから読み直したぐらいで。
書棚にある、人に見られるとちょっと恥ずかしい本のタイトルを、なんだか頭がよさそうなものに変えてくれる「カバー変更器」、タイトルにふさわしい本の並べ方を列挙した「本のタイトルと、その正しい並べ方」などといった愉快な発想が並ぶなか、一番ツボにハマったのは書店を会場にした結婚式を描いた「書店婚」でした。新郎新婦が書店員の押す台車に乗っかって入場し、2人の読書遍歴が紹介され、ケーキ入刀ならぬ “しおり入本” が披露されたり・・・コレ、実際の書店でお得意さま向けサービスとしてやってもいいんじゃないかなあ。
さまざまな本好きの類型を描いた「本が好きな人々」。読むのが好き、かぐのが好き、「本が好き」って言うのが好き・・・などと並ぶ中に “とにかく集めるのが好き” というのがあって思わず苦笑い。ソレ、まるっきりオレのことじゃん(笑)。

本書は愉快なだけではなく、ステキな空想もたっぷり詰まっております。月明かりだけに反応して発光する特殊なインクで、月にまつわる伝説や小話、詩を集めた「月光本」や、少しずつ水の中に沈んでいく図書館のお話「水中図書館」・・・。1年に1度だけパカっと開くと、葬られた人が生前好きだった本などがたくさん入っている「お墓の中の本棚」なんて、オレもこういうので葬ってもらいたいなあ、なんて思っちゃいました。さっそくわがエンディングノートに記しておこうかのう。・・・って、まだ作ってないけど(笑)。
なにより本書には、本とそれに関わる人たちへの愛着があふれています。「ラブリーラブリーライブラリー」では図書館の、「本屋さんってどういうところ?」では本屋さんの存在意義がストレートに描かれていて胸熱な思いがいたしました。そして、謙遜や自虐的な言葉を口にしつつも、心の中では自分が手がける本が大ヒットすることを願う出版関係者たちを描いた「大ヒットしてほしかった本」からは、いろいろな本がヒットして多くの人に読まれるようになるといいなあという思いが伝わってきて、なんだかジーンとしてしまいました。
本と、本に関わる人たちへの愛着がユーモアとともにあふれ出る『あるかしら書店』。これからもちょくちょく読み直してみたくなる、わたしにとって大切な一冊になりそうであります。




『ほんはまっています のぞんでいます』(かこさとし しゃかいの本)
かこたかし作・絵、復刊ドットコム
(元本は1985年、童心社より刊行)


こちらの作者は、「だるまちゃん」シリーズや科学絵本などを数多く手がけ、長きにわたり創作活動を続けておられる重鎮、かこさとし(加古里子)さんです。「かこさとし しゃかいの本」の一冊として1985年に刊行され、その後長らく品切れとなっておりましたが、今年の5月にめでたく復刊され、再び日の目を見ることになりました。
本を読むのはいいことだとわかってはいるけれど、本を買うとなるとお金がいるし、本屋さんでいつまでも立ち読みしてると怒られる・・・。そんな思いを持つ子どもたちに向けて、作者・かこたかしさんが図書館の活用法をていねいに教えます。図書館ではいくら長いこと本を読もうと怒られないし、読みたい本がわからなければ係の人が教えてくれる・・・といったように。
それでも本を読むことに消極的な思いを抱く子どもに、かこさんは「読みたくない時には無理に読むことはありません」と言った上で「本はあなたがそばに来て読んでくれるのを、いつまでも待っています」と語りかけます。
そう。本って、いつまでも待つことができるんです。読みたいと思った時に開いてくれさえすれば、中に書かれている楽しいことや役に立つ知恵を惜しみなく与えてくれる、ふところの深い存在なのだと、この絵本であらためて認識したわたしでした。
本書では、子どもには本を読めといいながら、いわゆる「文明国」の中では図書館の数が極めて少ない日本の状況を改めようとしない「親や大人」への問題提起もなされております。初版が刊行されてから30数年が経ったいま、あらためてその問題提起を受け止めて考える上でも、本書が復刊された意味は小さくないように思います。

本の持つ魅力とふところの深さ、そしてその存在意義を、それぞれのアプローチで伝えてくれる新旧2冊の絵本。子どもはもちろん、最近本から遠ざかっているなあ、という大人の皆さまにも大いにオススメであります。
かく申すわたしもここしばらくは、厳しい暑さの中で読書欲が落ち気味でありましたので、ようやく秋の気配を感じるようになったこれからは、積ん読のままだったたくさんの読みたい本、読むべき本を読んでいきたいと思っております。

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